60年代のレースシーンを席巻した英国車が大挙出場
国際モーターサイクリズム連盟(FIM)の下部組織である日本モーターサイクルスポーツ協会(MFJ)が、ワークスチームやプロライダーが参戦する全日本選手権などを主催する団体なのに対し、あくまでもアマチュアレースに徹しているのが全日本モーターサイクルクラブ連盟(MCFAJ)です。現在はロードレースとモトクロスを開催していて、ロードレースについては筑波サーキット、富士スピードウエイで年間に3~4戦が行われています。
MCFAJクラブマンロードレースにはほかの団体が主催するレースもいくつか併催されます。そのひとつがLOC(レジェンド・オブ・クラシック)です。排気量や年代別にクラス分けされているのですが、半世紀以上も前のバイクが現役で、しかもサーキットでレースをするのですから驚いてしまいます。
パドックやピットを見て印象的だったのは、LOCに参戦するバイクの大半が英国車だということです。ノートンやトライアンフといった往年の名車は60年代、レースシーンにおいて圧倒的な強さを誇っていました。そして一般の市場においても高く評価され販売も好調でした。レースを戦うにも十分な性能を有しているわけです。これら英国車に加えてイタリア車や日本製バイクが混走するのですが、腹に響く野太いエキゾーストノートを放ちサーキットを疾走する様は、日本のバイクシーンの成熟を感じさせました。
40数年前、僕はレース取材のためオーストラリアとニュージーランドに行きました。世界GPライダーが参戦する両国の最高峰のレースの取材がメインだったのですが、レースウイークにはほかにもさまざまなレースが行われていました。その中で目を引いたのが50~60年代の英国車が多く参戦するレースでした。当時としては新しい70年代後期のバイクと混走するレースだったのですが、一歩も引けを取らない速さを見せつけていました。イギリスとの関係が深い両国だけに、レースシーンにおいてもイギリスの影響を強く受けているのだろうと思いました。
ビンテージバイクが走るニュージーランドでのレースで1台のバイクが目につきました。おそらく1930年から40年代のHRDヴィンセントのモデルだと記憶しているのですが、コーナーワークが非常にスムーズでストレートスピードもかなりのものでした。見たこともなかった古い英国のバイクがしっかりレースを戦っている姿に感動し、ライダーにインタビューしました。しかしライダーの名前を聞いてすぐに速さを納得しました。1960年から66年にかけて、ノートン、AJS、スズキなどのマシンで世界GPを走り、50㏄、125㏄クラスでスズキのマシンで4度タイトルを獲得。マン島TTレースでも2勝を挙げたヒュー・アンダーソン選手だったのです。ライダーのウデはもちろんですが、やはり昔のバイクでもレースを戦えるという事実、そしてそうした状況が当たり前となっていることに、バイク市場の成熟度の高さを実感したのでした。LOCレースを目の当たりにすると、高齢となったライダーたちが昔のバイクでレースを楽しむという、成熟したバイクの世界を垣間見る思いでした。