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バイクへの搭載に適したハイテクデバイス
2021年のバイクに投入された新技術のエポックは、ACC(アダプティブ・クルーズ・コントロール)を搭載する市販車が登場したことだろう。実用化という意味では4輪車から10年近く遅れている2輪業界にもようやくADAS採用の流れが始まった。補足しておくとADAS(Advanced Driver Assistance Systems)は先進運転支援装置の総称。タイトルにあるARASは、Advanced Rider Assistance Systemsの略称で、ライダー向けのシステムである事が謳われているわけだ。
写真はイスラエルのバイアー社が開発したmmWaveを搭載する4Dイメージングレーダープラットフォームである。四角い同チップは一辺が20mmに満たないと言う。2021年2月に公表されるや、コンパクト軽量なデザインを初め、革新的な高機能と堅牢性及びコストの安さが注目されている。
この手のハイテクデバイス投入が4輪に遅れを取る主な理由は、車両価格の中に占めるコスト割合と、風雨や熱と振動等に耐えるタフネスの確保。そして小型軽量化が問題となるからである。
また従来はかなり高度(高価)なセンサーを組み合わせる必要があった多くの機能をひとつで賄うことができると言い、軽量コンパクトなシステムに仕上げられ、コスト面や堅牢性も確保された模様。
詳細なメカニズムは不明ながら、このPFFモジュールの搭載だけで、死角に居る車輌の検出機能を活かした車線変更アシスト(下図参照)。前方衝突警報等が可能。ちなみに4D画像レーダー技術とは、縦横奥行きの3次元情報に加えて動作時間を検出する事ができ、他車との相対速度もわかると言う。
今回のリリースでは言及されていないが、より高度なバイアー製「XRR」チップでは、最大検出範囲は300m、視野角は180度、外付けプロセッサ無しで動作可能と言う物も開発されており、歩行者や自転車も含めた障害物検出精度はさらにレベルアップできそう。
従来は、高価なライダー(LiDAR)センサーが必要といわれていた高度なイメージ解析技術も賄えるレベルになる事への期待値は大きい。PFFがこのセンサー技術を実用化すれば、2輪も4輪車並の運転支援が受けられるようになることは間違いないだろう。しかもその始まりは2022年と公表されたのだから、今後の展開に注目したい。
2015年に設立されたPFF(Piaggio Fast Forward)社とは
写真は2017年2月に発表されたアシストロボ「Gita」。イタリアのピアジオグループが、アメリカのボストンに社内ベンチャーとして設置した技術研究機関のPFF社が投入する最初のプロジェクトとして披露されたものだ。
Gitaは荷物の運搬をアシストするユニークな自走式ロボット。オーナー(人)の後を追従する他、プリセットしたルートを自動走行することも可能。
ソナー(音波)センサーを搭載。周囲の障害物との位置関係を把握し、自動的に避けながら進める機能を持ち、その最高速度は35km/hにも達するそう。しかしこの発表で最も興味深かったのは、PFFで取り組むプロジェクトを通して得られる研究成果は、「ピアジオグループすべての2輪ブランドに展開されていく」予定であることが謳われていた事。
同グループのブランドと言えば、ピアジオ、ベスパ、モト・グッツィ、アプリリア。つまり、PFFで培われるセンサーや同制御技術は、バイクやスクーターに乗るライダーのための運転支援技術にも応用されていく事が、既に表明されていたわけである。
新デバイスの初投入は、MP3 500の次期モデルか!?
写真は現在イタリヤ本国で市販されているMP3 Sport Advanced 500 Euro 5。車体を傾けてコーナリングできる前2輪後1輪の3輪ビークルで、ヤマハ・トリシティと同種の乗り物。このカテゴリーのパイオニアである。500はリバースギヤも装備された同社のフラッグシップモデルである。
ちなみに価格は、11,590ユーロ(約150万円)。コスト負担を考慮しても革新的デバイスを投入するに相応しい上級グレードである事は間違いなく、ピアジオグループが考える安全戦略ハイテク導入に積極的なメーカー姿勢をアピールするに相応しい存在と言えるだろう。
もともとMP3は、石畳や舗装の荒れた場所も多い欧州の道路事情下でも、より安全に走れるミニマムコミューターを目指して開発された。強力な制動性能の高さも含めて、誰にでも簡単にかつ滑りやすい雨でも安心して扱える乗り物として定評があり、人気も高い。
メーカーの意図としては、4輪車の代替需要を賄う事まで視野に入れており、エコな乗り物であると共に、安全性の向上は今後の必須課題とされているだけに、ARASの搭載へ向けられる業界と市場の注目度は侮れない。もちろん、その期待値は高いのである。