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BMW・R nineT Urban G/S・・・2,054,000円〜(2021モデル)
過去の名車のイメージを投入
新ジャンルとなるヘリテイジの方向性と可能性を示すモデルとして、BMWは2013年春に、アメリカのローランドサンズデザインと共同開発した“コンセプト90”を公開している。そのモデルは、1973~1976年型R90Sへのオマージュを多分に感じるデザインだったものの、2014年から市販が始まったRナインティシリーズに、当初は特定のモデルを再現した仕様は存在しなかった。
ただし、2017年に初代G/Sを思わせるルックスのアーバンG/Sを世に送り出した同社は、2019年にピュアをベースとする限定車の/5(1969~1970年代前半の/5シリーズの雰囲気を再現)を発売。この2台で好感触を得たから……かどうかは定かではないが、新世代クルーザーとなる2021年型R18で、同社は1930年代のR5がモチーフであることを公表。近年は革新のイメージが強かったBMWが、こういった過去の名車の引用に積極的な姿勢を示すのは、個人的にはちょっと意外である。
アドベンチャーツアラーではない?
現代のBMWのラインアップは、スポーツ、ツアー、ロードスター、ヘリテイジ、アドベンチャー、アーバンモビリティの6種に分類できる。そしてアドベンチャーカテゴリーには6台の「GS」が並んでいるが、アーバンG/Sはその中には入っておらず、所属はヘリテイジ。
誤解を恐れずに言うならその事実は、Rナインティ アーバンG/Sがアドベンチャーツアラーではないこと、快適性や利便性を徹底追及したモデルではないことの証明なのだろう。
もっとも、シリーズの原点となったRナインティに対して、前輪の17→19インチ化や後輪幅の縮小を行い(180/55ZR17→170/60R17)、サスストロークを前後120mm→F:125/R:140mmに延長し、ワイドなアップハンドルやオフロードタイプのフロントフェンダーを採用したアーバンG/Sは、アドベンチャーツアラーではなくても、十分にGSらしい資質を備えているのだ。
公式見解はゲレンデ・シュトラッセ
かつての日本におけるGSは、ゲレンデ・シュポルトの略と言われることが多かったものの、BMWの公式見解はゲレンデ・シュトラッセで、GとSの間から「/(スラッシュ)」が消えたのは1980年代中盤のこと。とはいえ、クラシックなイメージを強調するためか、RナインティがベースのアーバンG/Sでは、往年の表記を採用している。
当記事で取り上げるのは2020年型だが、2021年型Rナインティシリーズはユーロ5規制を念頭に置いて、電子制御スロットルや新作シリンダーヘッドを採用。さらにはライディングモードやABSプロなどを導入し、リアショックは油圧式プリロードアジャスター付きに変更している。また、GSシリーズの40周年を記念する特別仕様車として、アーバンG/SにはR100GS前期型のグラフィックを再現した、アニバーサリーモデルが設定された。
フロント19インチならではの感触
アーバンG/Sは僕にとって、いろいろなことを考えさせてくれるモデルだ。まずフロントに現代的な17インチを履くRナインティやピュアと比較すると、フロント19インチのアーバンG/S(とスクランブラー)は、旧車感が強くなっている。
具体的な話をするなら、誰が乗ってもスッと曲がれそうなフロント17インチに対して、フロント19インチはセルフステアの引き出し方によって、旋回の印象が異なる。この件については、安易にどちらがいい悪いと言えるものではないけれど、ムキになって飛ばさなくてもコーナリングのプロセスが楽しめるのは、フロント19インチではないかと僕は思う。もちろん良路での速さは、フロント17インチのほうが有利なのだが。
速さや快適性ではR1250GSの圧勝
続いては近年のBMWにとっての看板モデル、同系エンジンと同一タイヤサイズを採用するR1250GSと比較しての話で、絶対的な速さや快適性、悪路走破性などでは言わずもがな、R1250GSの圧勝である。例えば、アーバンG/SのオーナーとR1250GSオーナーが一緒にツーリングに出かけたら、帰宅時の心身の疲労には大差が生まれるだろう。とはいえ……。
僕自身はアーバンG/Sも大いにアリ!と思っているのだ。その理由は、電子制御によるサポートがかなり控え目で、すべての感触がダイレクトで、バイクの原点的な魅力が味わえるから。もちろん、この件に関する見解も人それぞれだけれど、フラットツイン特有のトルクリアクション(スロットルを開けると車体が右に傾こうとする)が明確で、エンジンの吹け上がりがワイルドで、路面状況の変化に乗り手が柔軟に対応しなくてはならないアーバンG/Sに乗っていると、これこそがバイク本来の姿じゃないか?という気がして来る。
昔ながらの特性はマイナス要素ではない
もっともだからと言って僕は、エンジン+シャシーが洗練され、多種多様な電子制御による至れり尽くせりのサポートを導入したR1250GSを、否定するつもりはまったくない。あのモデルはあのモデルで、と言うより、あのモデルこそが、現代のアドベンチャーツアラーの正解なのだから。
ただし今回の試乗でアレコレ考えた僕は、昔ながらの特性が、必ずしもマイナス要素ではないことを実感。同時に、絶対的な速さや快適性や悪路走破性ではなく、バイクの原点的な楽しさを求めるライダーにとっては、アーバンG/Sと同様の車体構成を採用するスクランブラーこそが、正解になるんじゃないかと思えた。
ディテール解説
コンパクトなビキニカウルは、1980年代初頭のR80G/Sを彷彿とさせるデザイン。撮影車のヘッドライトはオーソドックスなハロゲンバルブだが、2021年型からはLEDを採用。
標準装備の計器はスピードメーターのみで、タコメーターはオプション設定。液晶画面には、オド、トリップ×2、時計、油温に加えて、グリップヒーターのレベルを表示。
数多くのボタンとレバーがズラリと並ぶ近年のR1250シリーズとは異なり、Rナインティのスイッチボックスはシンプル。なおABSのオンオフボタンを装備するのは、RナインティシリーズではアーバンG/Sとスクランブラーのみ。
カーボン製インテークダクトやアルミ製シリンダーヘッドカバーなど、試乗車は数多くの純正アクセサリーパーツを装着。ちなみに他機種と比較すると、Rナインティシリーズ用の純正アクセサリーパーツはドレスアップ系が多い。
シートレザーは車体色によりけり。ボディカラーがライトホワイトの場合は、1980年に登場した初代R80G/Sに準じる形で、オレンジ寄りのレッドとなる。シート下にはETCを装備。近年のBMWでは、ETC2.0ユニットを搭載する車両が増えている。Rナインティシリーズは2017年型から標準化。
楕円型のゼッケンプレートも純正アクセサリーパーツ。装着状態に違和感はなかったものの、かつてのR80G/SやR100GSがこの種のパーツを採用していたわけではない。
GSシリーズの慣例に従い、ステップはオフロード走行を視野に入れた構成。ラバーは簡単に脱着することが可能だ。
Rナインティシリーズ全車に共通のパワーユニットは、BMWにとっては二世代前となる空油冷フラットツイン。ちなみに、王道モデルは2013年から全面新設計の空水冷ユニットに移行し、2019年型からは排気量を1169→1254ccに拡大。混合気と排気ガスの流れは、昔ながらの後方→前方。スロットルボディ下部には、大昔からBMWの気化器を手がけて来たドイツの老舗ブランド、BINGの社名ロゴが刻まれている。
スクランブラーは2本出しのアップマフラーを採用していたのだが、なぜかアーバンG/Sは1本出しのダウンタイプ。ただし40周年記念車は、広報写真では2本出しのアップマフラーを装着している。
ホイールサイズは3.00×19/4.50×17で、日本仕様はチューブレスタイヤに対応するクロススポークが標準。試乗車のタイヤは、世界中のツーリングライダーから定評を得ているメッツラー・ツアランス。ブレーキは、F:φ320mmディスク+対向式4ピストン、R:φ265mmディスク+片押し式2ピストン。リアまわりにはシャフトドライブのクセを打ち消す、EVOパラレバーを採用している。
原点モデルのRナインティやピュアよりは多いけれど、現代のアドベンチャーツアラーの基準で考えると、F:125/R:140mmのサスストロークはやっぱり少な目。ちなみにR1250GSはフロント190mm/リヤ200mm。
主要諸元
R NINE T Urban G/S(2021モデル) エンジン:空油冷4ストロークDOHCボクサーエンジン2気筒、8バルブ ボア x ストローク:101 mm x 73 mm 排気量:1,169 cc 最高出力:80 kW(109PS)/ 7,250 rpm 最大トルク:116 Nm / 6,000 rpm 圧縮比:12.0 : 1 点火 / 噴射制御:電子制御エンジンマネージメントシステム(DME)、燃料カットオフ機能付 エミッション制御:三元触媒コンバータ、排ガス基準EU5をクリア 燃料種類 :鉛プレミアムガソリン WMTCに基づく100km当たり燃料消費:5.1 L オルタネーター:720 W バッテリー:12V / 12Ah、メンテナンスフリー クラッチ :油圧式クラッチ ミッション:常時嚙合式 6段リターン 駆動方式 :ドライブシャフト式 フレーム :スチールパイプ製4ピースフレーム フロントサスペンション:テレスコピック式43㎜フロントフォーク リアサスペンション:BMW Motorrad パラレバー、センタースプリングストラット、片持ち式スイングアーム、可変リバウンドダンピング調整、プリロード油圧調整式 サスペンションストローク:フロント125 mm / リア140 mm 軸距(空車時):1,530 ステアリングヘッド角度:61.5° ホイール :スポークホイール リム・フロント:3.00 x 19" リム・リア: 4.50 x 17" タイヤサイズ:フロント120/70 R 19・リヤ170/60 R 17 フロントブレーキ:デュアルディスクブレーキ、直径320 mm、4ピストンキャリパー リアブレーキ:シングルディスクブレーキ、直径265 mm、2ピストンフローティングキャリパー ABS:BMW Motorrad ABS Pro シート高、空荷時:850mm/ローシートは820mm インナーレッグ曲線、空車時:1,890mm/ローシートは1,830mm 燃料タンク容量:17 L リザーブ容量:約3.5 L 全長:2,175 mm 全高(ミラーを除く):1,175mm 全幅(ミラーを除く):870 mm 車両重量 :230kg 許容車両総重量:430 kg 最大積載荷重(標準装備時):207 kg