「脱・アジバイ!|ヤマハMT-15試乗記 |国内に来るべくして来たリトルMT

先のモーターサイクルショーにてMTの125が国内投入されることが話題になったばかり。あれ? ちょっと待って? 既にそんなのがアジバイとして入ってきてなかったっけ? というあなたはなかなかマニア。そう、コレがありました。150cc版ではあるけれど、リトルMTは125の国内正規販売の前に150cc版として既に存在したのです。

国内で正規販売されるMT125だが、こちら150ccバージョンは既にアジバイとして国内で多くのファンを集めている存在。それもそのはず、このリトルMTは全然「アジバイ感」がなくて、至れり尽くせり&ハイクオリティの国内モデルに慣れている人でも全く違和感なく乗れるのが魅力なのだ。だからこそ、ヤマハも(125cc版ではあるが)最小限の国内市場への合わせ込みだけで国内販売を決定したのだろう。
とにかく見た目が完全にMT。特徴的なライト周りやシャープなMTのライン。短いタンクとモタードライクなハンドルなど、すっかりなじみとなったMTスタイルが上手にデフォルメされている。もちろんこちらはアジア仕様ということで、タイヤが違ったりキャリパーにBYBREの文字があったり、サリーガードがついていたり立派なタンデムグリップがついていたりと細部は違うものの、そのアピール度合いは完全に「アジバイ」の枠を超越したもの。これをヤマハのリトルMT国内販売に先んじて展開していたバイク館は先見の明があったと言えるだろう。

ヤマハ MT-15 Ver.2……349,000 円(消費税込み)

少し前までは知る人ぞ知るモデルだっただろうMT15だが、125cc版が国内正規販売されるニュースが出回ってからはこの150cc版も注目度が上がっているだろう。タイヤ銘柄の違いやホイールデザインの違い、サリーガードの有無など仕向け地によっての差異はあれど、基本的には同じ骨格とデザインをしており、確かなMTイズムを感じさせてくれる。新生MTシリーズのコンパクトなライト周りや、短いタンクなど排気量やサイズは小さいもののこれは確かにMTである。

跨っても完全にMT

MTシリーズはMT03やMT25と普通二輪枠で乗れる車種もあるが、このMT15は決してMT25の車体に150ccエンジンを載せただけ、といったモノではなく独自の構成をもっている。フレームはMT25や03のようなパイプ形状ではなく、デルタボックスを彷彿させる直線的なものを採用し、またエンジンはVVAを採用した水冷ユニットを搭載するなど本気度は高い。
跨るとタンクが極端に短くてネック位置とライダーの腰の位置が近いのはまさにMTポジション。この着座位置によってステップがやたらとバックステップに感じるのは、より汎用性の高いMT25/03よりもむしろMT09を思わせるもので、「他とは違う」という感覚があり走り出す前から期待させてくれる。

元気なエンジンは意外やトルクフル

150ccの水冷エンジン……国内ではなじみのない排気量帯のため、一体どんなフィーリングなのだろうと思うだろう。速い、のかな? というのが乗る前のイメージだったが、走り出すと意外やトルクフルなのに驚いた。VVAが効いて高回転カムへと切り替わるのがおおよそ7500rpmほどなのだが、そこから高回転域は元気にギャーン!!と回していくことができてそれはそれで楽しいものの、逆にそこまでは低回転側のカムが良い働きをしていてとてもトルクフルなのだ。
特に街中を走っている時は知らずうちにVVAが作動する直前ぐらいでシフトアップしていることに気付いて、いかにこの領域のトルク感が気持ち良いかというのを実感。VVAはエキサイティングな高回転域を実現するだけでなく、むしろ実用的で150ccという排気量枠を超える潤沢なトルクを生むにも大きく貢献しているんだと実感できた。
なお高回転域はフリクション感少なく回り切り、レッドゾーンにだって飛び込んでいくほど活発。パワーバンドを維持したアクティブな走りはもちろん楽しいが、一方で高回転域ではソコソコ振動もあって、また排気音も勇ましくなるため、この領域を使うのはライダー側のスイッチが入った時だけかもしれない。それほど7000rpm周辺のトルク感が好印象だったのだ。

優った車体が生み出す余裕

高回転域を使った活発な走りでは、細身のフロントタイヤがとても素直に内側を向いてくれるおかげで、思った以上にコーナー内側にグイグイと曲がっていくと感じた。これならばもっとスピードを載せていけるな、とますますスポーツマインドが掻き立てられる。また自由度が高いため、リーンアウトなど様々なライディングスタイルにも対応してくれそうに感じた。ただ、低回転側のカムの回転域にいる時のトルク感もとても良いため、必ずしもスポーティな走りをしなくても十分楽しい。7000rpm以下でストリートを流すのがとても気持ち良かった。

タンクに股間を押し付けるように座り、肘を開いてワイドハンドルを掴むようなMTマインドで走り出すと、自ずとクルージングモードというよりはファイターな気分になる。通常走行では車体の軽さを感じて流す走りも決して苦手ではないが、撮影用にワインディングへと繰り出すとそのMTらしいスポーツ性もたまらなく楽しい。
特にVVAが高回転側カムに切り替わった領域ではアドレナリンが出て、ハイペースを楽しみたくなる。ハンドリングはなかなかシャープで、自然とフロントタイヤに荷重しやすいポジションということもあってかなり積極的に曲げていける特性だ。むしろ軽い気持ちでスッと寝かしていくと、思った以上に曲がっていって内側の縁石に向かっていってしまうような感覚すらあり、兄貴分のMT09どころか、どこかスーパースポーツを思わせるほどの切れ味もあるように思う。これならもっともっとペースを上げることもできるだろうな、と感じ、サーキット走行だって楽しめそうに思った。
またこの時に嬉しかったのは車体に常に余裕があること。125ccクラス(実際は150ccだが)としてはそれなりに車格も大きいため、筆者のように長身でもスポーティな走行をするときに繊細な入力をしなければいけないようなハードルはなく、気軽にホイホイと扱えるし、ブレーキ性能も強力で安心感が高い。倒立フォークの作動性も良好だし、プリロード調性を持たないベーシックなものではあるもののリアサスもいい仕事をしている。エンジンも元気だが常に車体側がまさっている印象があり、それが安心感や自信を生んでくれると感じられた。

軽二輪枠という魅力

もう少し待てば国内正規のMT125が手に入るではないか、とお思いの方もいるだろう。しかし150cc、軽二輪の枠、というのは実は魅力も多い。このMTのように車体構成が共通ならば消耗品関係の維持費は同じ。毎年の税金はやや高いが、自賠責はむしろ安く、任意保険も補償内容や現在の等級などを考えるとむしろ原付枠よりも安上がりのこともある。
そして何よりも高速道路に乗れるのだ。MT15のパワーや車格を考えると高速道路での長距離ツーリングは得意分野ではないかもしれないが、しかしちょっとした時に首都高に乗れるかどうかや、原付不可の有料道路に乗れるかどうかなどは大きな違い。そしてやはりプラス25ccのパワーというのは無視できない違いなのだ。筆者はMT125が国内導入されると聞いた時「125も良いけど、150も入れて欲しいなあ!」と思ったほど、この150cc枠は性能的にも車両区分的にも魅力的で、日本市場にも受け入れられるのではないかと思う。いや、既にPCXやNMAXといったスクーターや、そしてジクサー150などで浸透し始めているのだから、このMT15も大いに受け入れられるはず。
MT125登場で沸いている日本市場だが、こんな魅力的な兄貴がアジバイとして既に存在していることも、ぜひ知っておいて欲しい!

足つき性チェック

中央には平坦な部分があって座りが良いシートだが、サイド部は適度にそぎ落とされスポーティな走りもサポートしてくれると同時に足つきも良好。特に着座位置がかなり前方なおかげで、ステップが相対的に後方にあり、足を降ろした時にステップと干渉しないため足がつきやすいと感じる。タンクが短くさらにアップハンのため、ポジションは良く言えばコンパクトでアグレッシブ、しかし筆者のように長身だとクルージング時はもはや上体がやや後傾しているほどコンパクトで、長距離ではちょっと窮屈に感じる場面もあるかもしれない。(身長185cm 体重72kg)

ディテール解説

倒立フォークに、よく効くBYBREキャリパーのブレーキでフロント周りの安心感は絶大。コーナリングはフロントタイヤに荷重を集めてグイグイと曲がっていける印象だ。タイヤはインド製のMRFというブランドだったが、特に不安に感じる場面も無く楽しめた。もちろんABSも装備する。

リアにはラジアルタイヤを奢り、スポーティな走りにも応える。スイングアーム形状やチェーン引きのクオリティなど「アジバイ」でくくれないほど高品質で、国内正規モデルにまるで見劣りしない。ナンバーはテールカウル側につくが、それとは別にサブの泥除け的な部品が装着され、さらに車体左側はこれと一体となったサリーガードも付く。国内の使用では外しても良いだろうが、サドルバッグなどをつけるのに活用しても良いかもしれない。

150ccのエンジンは低回転側バルブと高回転側バルブを自動で切り替えるVVA機構を採用。高回転域の元気さももちろん魅力だが、むしろ高回転側カムに切り替わる直前のトルク感が秀逸。やや大柄な車体に対してコンパクトなエンジンとなるが、デザイン上スカスカにならないよう各部をプラスチックのカバーで覆ったり、それをデザインに採り込んだりすることで上手にまとめていると感じる。

プリロード含めて特に調整機構は持たないリアサスだったが、リンク比が絶妙だったのか特に不安も不満もなくあらゆる走りに対応してくれた。意外や好印象だった部分だ。

近未来の映画に出てきそうな目つきのポジションランプに、おちょぼ口のヘッドライトはMTシリーズ共通の意匠。フロントにナンバーステーがつくのがアジバイならでは。MT125の国内正規販売が決まっているだけに、スクリーンなど、流用できる正規のアフターパーツが増えることも期待したい。

特徴的なフロントマスクと連動するようにテールはスマートなLEDでコンパクトにまとめてある。ウインカー類は電球式。完全に余談だが、こういった立派なナンバーステーには原付のピンクナンバーよりも軽二輪ナンバーが似合う気がする。

幅もあり快適性が確保されているシートだが、尻をずらすようなスポーティな走りにも対応するのも兄貴たち同様。タンデムシートもある程度の面積があり荷物の積載もタンデムも現実的だ。むしろこの点では前後シートが分割式のMT25/03よりも優しいかもしれない。シート左右には大きなグリップがついていて取り回し時に重宝する。フックの類はないが工夫次第で荷物の固定などにも活躍するだろう。

小指側が上がっているように感じるファイターポジションを生んでいるハンドルは、MTらしいモタードライクな乗車姿勢を提供。MTシリーズでも07や09となるとポジションはモタード「っぽい」ものの、実際は速すぎてモタード的に振り回すのは困難だが、このMT15なら(ステップの位置さえもう少し前に持ってくれば)本当にモタード的に振り回す楽しみ方ができるはずだ。

極シンプルでわかりやすい左右スイッチボックスだったが、左は近年のホンダ車のようにウインカーが下でホーンが上の設定。ヤマハは国内モデルでもここら辺の統一ができていないが、混乱するので何とかしてほしいと思う。

反転液晶もモダンなメーターはギアポジションやツイントリップなど便利な機能が満載。特に時計表示があるのは嬉しかった。なおハンドルクランプを留めるボルトにカバーがつかずに水が溜まるなど、細部にアジバイ感が無くはないが、それでもフィニッシュは上質だ。

主要諸元

モデル年:2022年
排気量:150cc
タンク容量:10L
車体サイズ(全長/全幅/全高):2,015mm /800mm /1,070mm
シート高:810mm
タイヤサイズ:フロント100 / 80 - 17・リヤ140 / 70 - 17
馬力:13.5kW (18.39PS)/ 10000 rpm
重量:139kg
製造国:インド
保証内容:バイク館保証24か月

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著者プロフィール

ノア セレン 近影

ノア セレン

実家のある北関東にUターンしたにもかかわらず、身軽に常磐道を行き来するバイクジャーナリスト。バイクな…