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各分野のエキスパートも興味津々
250ccでは十数年ぶりとなる、並列4気筒エンジンは特筆すべきだけれど、何かこう、いまひとつ盛り上がりに乗れない……。2019年秋の初公開以来、さまざまなメディアが掲載したZX-25Rの記事を見た僕は、しばらく悶々とした気分を味わうことになった。と言うのも、並列2気筒と単気筒が主役になった近年の軽二輪クラスに、僕は好感を抱いていたのだ。逆に言うなら、250cc並列4気筒がごく普通だった1980年代中盤~1990年代は、今になってみると異常な時代で、入門用という役目もある軽二輪クラスで、販売価格とメカいじりのハードルを上げた250cc並列4気筒の普及は、後のバイク人口減少の一因になった気がしないでもない。だからこそ、2度目の250cc並列4気筒ブームの先駆けになりそうなZX-25Rの登場は、僕にとっては大歓迎ではなかったのである。
でも発売日が迫る頃には、心境は大きく変化していた。そのきっかけは、常日頃から仕事でお世話になっている多種多様なショップの店主の姿勢で、日本のドラッグレースの第一人者として知られるレッドモーターの中村さんや、空冷Z系を中心に多種多様な車両を取り扱うリアライズの道岡さん、カタナ専門店のユニコーンジャパンの池田さん、全国の2ストユーザーから絶大な支持を集めるクオリティーワークスの山下さんなど、各分野のエキスパートがこのバイクに興味津々だったのである。ここまで幅広い層の達人が、“乗ってみたい”、“いじってみたい”と言う車両は、僕が知る限りでは過去に例がなく、その事実を認識してからは、ZX-25Rが多くのライダーから待ち望まれていることをしみじみ実感。安易な4気筒否定論は言うべきではない、と考えを改めたのだった。
カワサキならではの新しい提案
さて、前置きが長くなったけれど、実際にZX-25Rを体感した僕の第一印象は、単純に面白いだけではなく、他車とカブる要素が見当たらない、上手いところ、いいところを突いているなあ……だった。僕がそういう心境になったカワサキ車はZX-25Rが初めでではなく、2011年型ニンジャ1000、2015年型H2、ニンジャ250SL、2017年型ニンジャ650、2018年型Z900RS、2019年型KLX230などでも、同様の印象を抱いた覚えがある。言ってみれば近年のカワサキは、ライダーの購買欲をそそる“新しい提案”に長けたメーカーで、だからこそ、絶好調と言うべき状況を維持しているのだろう。
では僕がZX-25Rのどんな部分に面白さを感じ、いいところを突いていると思ったかと言うと、一番はもちろん、超高回転指向のエンジンフィーリングだ。絞り出すと言うのか張り裂けんばかりと言うのか、カン高い排気音と共にレッドゾーンが始まる17000rpmに向かってイッキに回って行く感触を知ると、これぞ並列4気筒!という感慨に浸れる。と言っても、オーソドックなフラットプレーンクランクの並列4気筒は、もともとそういう特性を備えているのだが、昨今のミドル以上の並列4気筒の大半が、あまりにも高性能になりすぎた結果、気軽にオイシイ領域を味わえなくなったのに対して、ZX-25Rの場合はわずかでも直線があれば、このエンジン形式ならではの咆哮が堪能できてしまう。ちょっと妙な表現になるものの、現代の高性能スポーツバイクの基準で考えると、ZX-25Rのエンジンにはお得感があるのだ。
ちなみに、すでに数多くのメディアが報じているように、日本仕様のZX-25Rのエンジンは、高回転域のパワーが少々控え目になっていて(インドネシア仕様より5ps少ない45ps)、世の中にはその事実に異論を述べる人がいるらしい。でもかつての250cc並列4気筒だって、最高出力は自主規制値上限の45/40psに抑えられていたし、控え目な数値がパーツメーカー&カスタムショップのヤル気に火を付けたのだろうか、発売から約3ヶ月が経過した現在は、さまざまな吸排気系パーツやECUチューニングの手法が登場しているのだから、異論を述べるのは野暮だと思う。と言うより、僕自身は日本仕様のノーマルを遅いとは感じなかったし、東南アジア地域と比べると、格段に厳しい排出ガス・騒音規制をクリアして日本仕様を販売してくれたカワサキには、むしろ感謝するべきではないか……と思っている。
いいところを突いている
エンジンに続いて感心したのは、シリーズの長兄となるZX-10Rに通じる運動性能だ。僕が最初にそう感じたのは、オートブリッパー機能付きのクイックシフターと、介入レベルが3段階に調整できるトラクションコントロールの秀逸な作動感だが、ブレーキング時に感じるフロントまわりの剛性の高さや、低めのクランク軸が原因と思われるコーナリング初期の程よい安定感、上半身の使い方に応じて車体の向き替え度合いが変わる2次旋回なども、ZX-10Rを思わせる要素。おそらくカワサキの中には、既存のニンジャ250の発展版という意識はまったくなく、250ccクラスでZX-10Rの走りを再現することを念頭に置いて、このマシンを開発したに違いない。
なお試乗前の僕は、クラス初の標準装備となるクイックシフターとトラコンに関して、250ccにそんなものが要るのだろうか、と思わないでもなかった。でもワインディングでスポーツライディングをしてみると、クイックシフターはコーナー進入時の安心感と自由度(クラッチ&アクセル操作が不要なので、ブレーキングとライン取りに集中できる)、トラコンはコーナーの立ち上がりにおけるアクセルの開けやすさに、大いに貢献することを理解。そんな僕は、2015年にニンジャ250がアシスト&スリッパークラッチを導入した際も(やはりクラス初の装備だった)、同様の体験をしたのだが、今回の試乗では、大排気量車で培った技術を250ccクラスに積極的に転用するカワサキの姿勢に、改めて感心することとなった。
そしてそういう姿勢で開発しながらも、ZX-10Rほどサーキット、と言うか、速さに特化していないキャラクターを、僕は“いいところを突いている”と感じたのだ。まずライディングポジションは、既存のニンジャ250と比べれば、ハンドルが低く、ステップが後退しているものの、ZX-10Rほどスパルタンではないから、市街地走行やツーリングがソツなくこなせる(ライバルのCBR250RRよりフレンドリーな印象)。また、シャシーは適度に柔軟だから、思い通りのアクションが出来ない、荷重がかけられない状況でも、それなりのスポーツライディングが楽しめる。おそらくこの乗り味なら、免許を取ったばかりのエントリーユーザーや、久しぶりの2輪となるリターンライダーでも、早い段階からバイクの楽しさに没頭できるんじゃないだろうか。
というわけで、久しぶりの250cc並列4気筒車に感銘を受けた僕だが、実はZX-25Rで約1000kmを走った現在は、このバイクを250ccクラスのベスト!とは感じていない。超高回転指向のエンジン特性を考えれば当然のような気はするけれど、普段の移動やロングツーリングに使うなら、車重が軽く、低中回転域から十分なトルクを発揮する、並列2気筒の既存のニンジャ250に分があるのかも……?という気がしているのだった。