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BMW・R-18 First Edition…….2,976,500円
BMW Motorradと言えばボクサーエンジンを搭載するバイクとして古くから有名。クランクを縦置きにし、シリンダーが左右に突き出る水平対向の2気筒エンジンが、長年同社のブランドを象徴するパワーユニットとして、歴史に刻まれてきた。
これまでの製品を振り返ると、常に先進性のある技術力を披露するメーカーとしても知られ、例えばフルフェアリングの装備。触媒マフラーやABSの標準装備化、ユニークなサスペンション機構の投入。そしてEVの開発等でも業界をリードしてきた。
1980年代のエンジンでは、縦置き直列マルチを90°横に寝かせて搭載したKシリーズへの移行にトライした経緯もあった。近年ではそれまで定着したツアラーに強い同社のキャラクターに変革をもたらしたスーパースポーツ・カテゴリーに新参入。
今では6カテゴリーに及ぶ31機種もの豊富なバリエーションを展開。モータースポーツシーンへの販路拡大と共に新規ユーザーの獲得と顧客層の若返りを図る事にも積極的である。
元来得意としたツアラーのカテゴリーでは直列6気筒を搭載するK1600が主力。しかしアドベンチャーのGSを筆頭に、Rシリーズは今も根強い人気をキープしているのである。
同社のボクサーツインはなんと1923年のR-32から始まっており、時代と共に排気量は徐々に拡大され、これまでのRシリーズでは1250ccが最大排気量であった。
今回R-18の登場は、同社史上最大のビッグボクサーを新規開発。まさに巨大なツインエンジンを搭載する最新の量産型クルーザーなのである。
クルーザーと言えば1997年にR-1200Cが投入された事も思い出される。北米市場を意識したクルーザーながらも、ある程度スポーツ性の高さを踏まえたグッドハンドリングも兼ね備え、それがBMWらしい提案としてアピールしたが、残念ながら大ヒットするには至らなかった。
今回のR-18は、これまで培ってきた、それもかつてのR-5やR-50を彷彿とさせる、クラシカルなスタイリングが印象的。黒い塗装に白のペンシルストライプ等、往年のRシリーズへのオマージュが込められているようだ。
しかしそのスケール感はまさに別格。スポークホイールのフロントは19、リヤは16インチサイズ。全長はホンダのゴールドウイングに肉薄し、ホイールベースはそれを凌ぐ、堂々たるビッグサイズを誇る。車両重量も345kg に及ぶ巨漢なのである。
新規開発された搭載エンジンは、ボア・ストロークが107.1×100mmというショートストロークタイプの水平対向2気筒。排気量は1,802cc 。気筒当たり901cc という排気量はボクサー史上最大。ハーレーダビッドソンのCVO に搭載されるミルウォーキーエイト117エンジンの気筒当たり961ccに次ぐビッグボリュームを誇っている。
最大トルクは158Nmだが、その最大値を僅か3,000rpmで発揮している点が見逃せない大きな特長。しかも2,000rpmも回せば常に150Nm以上をキープする出力特性に仕上げられていると言うから驚かされてしまう。
ボクサーツインで発揮されるそのハイパフォーマンスの高さと、そこからもたらされるであろう乗り味は、まさに独壇場の物である事は間違いないのである。
トルクの豊かさに酔いしれてしまう。
試乗車を目の当たりにすると、漆黒の中にクロームメッキパーツの輝きがとても綺麗。燃料タンクやリヤフェンダーに描かれたホワイトのダブルピンストライプが、なんとも懐かしくかつ上質な印象を放っている。
エッジをダブルステッチできちんと縫い上げられたセパレートタイプのダブルシートも高級な雰囲気を醸しだしている。そしてクロームメッキで鏡のような輝きを魅せるハンドルまわりも素敵。
とかくバイクのハンドル回りは、色々なケーブル類がまとわりつき、雑然としているのに見慣れてしまっていたせいか、R-18の様にクラッチとブレーキの油圧パイプ以外は目に入らないデザインは改めて新鮮であり、なおかつ作り手のこだわりが伝わって来る。
手法としては古くからあったが、ハンドルスイッチ等に関わるワイヤーハーネス(電気配線)がパイプバーハンドルの内側を通してあるため、見た目の雰囲気が整然と、実に“スッキリ”と見えるからである。
全体のフォルムはロー&ロング。そしてこれまで見た事のない巨大なボクサーツインが鎮座している。およそバイク用とは思えない程そのエンジン・ボリュームは立派。
全長は2,465mm、ホイールベースは1,725mmあり、参考のため同クラスのモデルを探るとハーレーダビッドソン・FXDR114や前述のホンダ・ゴールドウィングに匹敵。BMWラインナップの中でもひときはスケールの大きなバイクに仕上げられているのである。
シート高は690mmと低く、腰を落とし込む感じで跨がると、足つき性が抜群に良く、足を広げてバイクから遠方の地面を捉えることも楽にできる。そのせいなのか、ズッシリと重たい巨体を支えるのにも特に不安は感じられなかった。
視界の中に入ってくる左右両シリンダーがまるで“やじろべえ”のごとく、落ちつきのある安定性に寄与している感じで、車体を引き起こす等、ロール方向への挙動も緩慢。平坦な場所で扱う限り、それほど手強い印象は無い。
ただし傾斜地で登坂路の上方向へ押し歩くとなると、非力な筆者の体力ではちょっと気合を入れた程度では不十分。345kgの巨体を扱う大変さを思い知ることになる。
そんな時嬉しいのは、リバース機能が装備されている事。ギヤがニュートラルの時にリバースレバーを入れるとメーターのギヤポジションがRを示す。そこでセルボタンを押すとセルモーター駆動により楽々と後退してくれる。出だしもスムーズだし、少々の段差もクリア。
実際、筆者の自宅車庫前には傾斜があり、バックで入る時には大助かりだった。ただしこの機能を使うには、エンジン始動時であることが条件。バッテリーを消耗させ過ぎてしまうトラブルを避ける仕組みだが、電動バックしている最中は野太い排気音を近所に轟かせていなければならず、バック操作を遠慮したい気分になったのも正直なところである。
さて、シートに跨がり車体を起こしてエンジンを始動すると、グラッと一瞬左に傾こうとする。ボクサーエンジンや、モトグッチの縦置きVツイン等では当たり前の挙動だが、流石に1.8Lに合わせたクランクマスの重さもあって、最初は驚く程強い動きに感じられるだろう。
もちろんそれは直ぐに慣れてしまえるレベルではあるが、走行中でもスロットルを開けると左へ、閉じると右へロールする傾向は常につきまとうのである。
もっともそれは操縦性に悪さをするとかの類では無く、ほとんどは気にならないレベルで、個性的な乗り味を残した巧みな調教具合と言えるだろう。
一番驚かされるのは、何といってもトルクの図太さにある。悠長なエンジン回転の中にしたためられたパフォーマンスはハンパじゃない。しかしその荒々しさを前面に主張する気配は感じられず、性格的な穏やかさが表現されており、常にジェントルな雰囲気に包まれている。
シーソー式シフトレバー(前)を踏み込んでギヤをローに入れると、ほぼ900rpmだったアイドリングが1,000rpmになってクラッチミートに備えてくれる。乾式単板クラッチの切れ味は抜群。
車重が重いのと高めのギヤリングのため、少し長めの半クラッチコントロールが必要だが、強かな底力を秘めながら、スーッと難なく発進する。
ともかく発進以降は、エンジンの回転域などまるで気にすることなく、どんな状況下でも右手をひとひねりすれば雄大なトルクがいつでも発揮できる。その有り余るトルク感と、そこからもたらされる豊かな乗り味には心底脱帽である。
ちなみにローギヤで5,000rpm回した時(表示は無いがレッドゾーン付近)のスピードは72km/h。6 速トップギヤで100km/hクルージング時のエンジン回転数は2250rpm。120km/hでも2,700rpmに過ぎない。
トップのままアクセル全閉で走ると50km/h強。郊外を60km/hで流す時もエンジン回転は1,200rpm。そんな走りに、バイクのイメージは微塵もないのである。
ビッグトルクと重いクランクマス、そして水平対向とのコンビネーションからもたらされる穏やかで優しい雰囲気を伴う力持ち感覚は、他には無い独壇場の豊かな乗り味を楽しませてくれると言うわけ。
走行モードは左手スイッチ操作で3段階が選択できる。通常はROLL。滑りやすい路面等優しくパワーセーブしたいならRAIN、そしてROCKにすると迫力の排気音と、よりパンチの効いたフルパワーが発揮できるが、パフォーマンス的にはもはやROLLで十分。
操縦性はワイドなハンドル幅も相まって、走り始めてしまえば、至って軽い操舵力で軽快に扱える。Uターン等で大きく舵を切る時には、両肩をハンドルと並行にするよう、位置が遠くなるハンドルグリップに合わせてライダーは大きなアクションが必要となるが、操作感は至って素直。
重量級クルーザーなので、峠道をスポーティに走ろうとは思わないが、実用上のバンク角に不足を感じさせない設計は流石である。ブレーキも、全体の雰囲気とのバランスが考慮された十分な制動力を発揮。右手のレバー操作では前後連動が働くパーシャリーインテグラルABSが採用されていて、安心感の伴う楽な操作性も好印象。
両足のステップはボードタイプで、左足のシフトアップ操作は、踵で後方へ伸びたシフトレバーを踏み込む方式。スーパーカブやスクーターの様に、フォーマルシューズで乗ることも可能である。
実際R-18で走り出すと、これまでのバイクの常識とは異なり、どこかクルマに乗るような安心感に包まれる。直進安定性、柔軟性に富むエンジンフィール等、とてもリラックスできる落ちついた乗り味り心地が満喫できる。
本来、ピリピリとセンシティブな感性に磨きを掛けて巧みな操縦センスを駆使してエキサイティングな走りを楽しむ傾向が色濃いバイクとは別次元の乗り味がそこに溢れていた。
R-18は、ライダーの気持ちを大きく朗らかなものにしてくれる贅沢この上ないバイクである。高価なモデルではあるが、そんな魅力を存分に楽しませてくれる価値ある逸材と思えたのである。
なお今回、試乗車の走行距離は355km。試乗撮影時の燃費率は15.0km/L。箱根往復ツーリング時は23.3.km/L。トータル平均燃費率は19.0km/Lだった。