中免で乗れる唯一のハーレー、X350。都市型コミューターとしての実力は抜群でした。

大型クルーザー中心にラインナップを展開しているハーレー・ダビッドソンが、ついに中小型バイク市場に参入してきました。それがXシリーズです。500と350の2モデルがあるのですが、日本国内ではなんといっても350の登場に注目が集まります。日本の免許制度では普通二輪MT免許、いわゆる中免で乗れるハーレーなのですから。さっそく市街地から郊外へとプチツーリングしてみました。
写真:徳永茂
協力:ハーレー・ダビッドソン・ジャパン https://www.harley-davidson.com/jp/ja/index.html

フラットトラックレーサーを彷彿とさせるスポーティなスタイル

北米で高い人気を誇るフラットトラックレースにおいて、1970年代から40年以上も活躍し、大半のタイトルを獲得したハーレー・ダビッドソンのレーサーがXR750です。市販車では大型ツアラーやクルーザーのイメージが強いH-Dですが、速さを競うレースの世界でも高い戦闘力を発揮するマシンを数多く送り出しているのです。そんなH-DレーサーXR750をオマージュしたトラッカースタイルで登場したのがXシリーズです。中でもX350はよりスポーティなフォルムが与えられていて、多くのライダーに新鮮な印象を与えたはずです。
X350のデザインや設計は本拠地のミルウォーキーで行われ、生産は中国のQJモーターです。QJモーターはイタリアのベネリの親会社でもあるので、ベネリブランドのバイクも生産しています。そのため、排気量こそちがいますが、ベネリTNT249SとH-D X350都は共通する部分が数多くあります。

350ということでボディは親しみやすいサイズにまとめられています。車重は195kgと400ccクラス並みでちょっと重たいですが、実際に跨った印象では必要以上に重さは感じません。上体の姿勢も自然で違和感がないし、ミッドコントロールと呼ばれるステップ位置は下半身にゆとりをもたらします。街乗りからツーリングまで比較的疲労の少ない走りが可能なのではないかと思いました。
シート高は777mmとかなり細かな数値となっています。四捨五入して780mmとしても高さは感じません。乗車した状態でサスペンションが適度沈むことも手伝って実際に足つき性も良いですし、ポジション的に腰高な感覚もありません。いずれにしても、一般的なネイキッドモデルと変わらないポジション、足つき性となっているので、初めて乗車してもすぐになじんでしまうはずです。これはひとつのセールスポイントだと思いました。

アップタイプのテーパードハンドルが装着されているので、直立した上体となる。ハンドルもワイドなので体が開くポジションだ。一方ステップ位置はやや後方にあり、さらに左右に張り出しているので下半身の収まりはイマイチ
シートは硬めで厚みも少ない。足つきには貢献するがお尻が痛くなりやすいのでツーリングにはちょっとつらいかも。シートのエッジが内股に当たるのも気になる
シート高は777㎜となっていて、さらに乗車時にはサスペンションが沈むので足つき性は良好だ

心臓部のパラレルツインは市街地走行で使いやすいパワーフィール

H-Dモデルは独自のスイッチ配列をしていて、慣れるまではちょっと使いづらいところがありますが、このX350は日本製モデルと同様の配列になっています。細かい部分ですが、こんなところでも親しみやすさを実感できるんじゃないかと思います。
セル一発で目覚めたパラレルツインは、かなり元気の良いエキゾーストノートをショートマフラーから放ちます。早朝の暖機には少しばかり気が引けてしまいます。
市街地走行で多用する低中速でのエンジン特性は、ひと言でいうなら必要十分なトルクを発生し、レスポンスはスムーズ。鼓動を強く感じるタイプじゃないですが、アクセルに過敏に反応することがないのでとても使いやすく感じました。そして低回転特性に優れているので、たとえば高めのギアで交差点を曲がっても、ギクシャクすることなく、そのままアクセルを開けていけばスーッと加速してくれます。これはワインディングでも生きてくる特性だと思います。頻繁なギアチェンジをしなくても走ることができるので、ツーリングでストレスが溜まりません。
このエンジンのもうひとつの特徴が高回転の伸びの良さです。それこそ3000回転あたりからアクセルを開け続ければ、エンジンは抵抗なく吹け上がっていき、10000回転オーバーまで上昇します。低中速トルクをしっかり発生しながら優れた高回転特性を両立しているのです。爆発的なパワーを発生するわけじゃないのですが、ストリートで有効なエンジン特性を実現していると感じました。

350ccモデルとしてはやや車重が重たいが、ハンドリングは軽快性をうまく引き出していて、住宅街の狭い道でも操縦性に重さを感じることはありません。前後サスペンションの作動性も良く、快適な乗り心地と安定性の高い走行を提供してくれます。フレーム剛性も高く、サスペンションの吸収性も良いので、ワインディングをスポーティに走るのも苦手じゃありません。ただし、スーパースポーツバイクのようにスパっと向きが変わるタイプじゃないので、自制心を保って走ることがX350を楽しむポイントだと思います。
前後ブレーキに関しても気になる点はありませんでしたし、効き味も十分。街中からツーリングといったストリートモデルの一般的な使用範囲で、問題となる部分は見当たりませんでした。あえていうなら、シートのエッジが内腿に当たることと、広めのステップ位置に違和感を覚えたことでしょうか。
ハーレーらしくないとの意見も多いX350ですが、中免ライダーが乗れるという点はやはり魅力です。ステップアップの足掛かりにも最適なモデルじゃないでしょうか。

ディテール解説

353㏄水冷DOHC4バルブ並列2気筒エンジンは、7000回転で最大トルクを発生する低中速トルクを重視した特性ながら高回転域までスムーズにレスポンスする。最高出力は8500回転で35psを発揮
マフラーはショートタイプを採用していて、マスの集中化にも貢献している。迫力あるサウンドも特徴だ
Φ41㎜倒立フロントフォークは伸び側減衰調整機構を持つ。ホイールは17インチで120/70-ZR17タイヤを装着する
リアサスはモノショック式で、減衰調整機構、プリロード調整機構を持つ
フローティングローターに4ピストンキャリパーを採用したフロントダブルディスクブレーキ。ABSは標準装備だ
固定式ローターにフローティング1ピストンキャリパーを採用したリアディスクブレーキ。ABS装備。リアタイヤは160/60-ZR17だ
太めのテーパードハンドルが採用。セミアップタイプでワイドなハンドルがアップライトな上体を生む
アナログ式のシンプルな丸型スピードメーター。内蔵の液晶パネルは、時計、オド/トリップ、エンジン回転などを切り替え表示できる
右手スイッチには上からキル、ハザード、セルスイッチが並ぶ
左スイッチには、奥にパッシング、手前上からヘッドライトロー/ハイビーム切り替え、ウインカー、ホーンスイッチが並ぶ
LEDの丸型ヘッドライト。下部の半周にポジションランプが点灯。中央にはHARLEY-DAVIDSONの文字が照らし出される
テールカウルナインに収められたLEDテールランプ。ホワイトレンズのウインカーランプもLEDだ
ハーレーらしいグラフィックデザインがあしらわれた燃料タンクは13.5L容量
フロントとリアの間に大きな段差を設けたダブルシート。厚みがなくエッジが立った形状のため座り心地はあまり良くない
独特な形状のステップは後ろ寄りに位置している。さらに左右に張り出しているので足元は落ち着かない

主要諸元

全長(mm):2,110
全幅(mm):785
全高(mm):1,110
ホイールベース(mm):1,410
車両重量(kg):195
最低地上高(mm):143
シート高(mm):777
レイク(度):24.8°
トレール(mm):100

エンジン型式:LWZX350
エンジン形式:水冷直列2気筒
バルブ駆動方式:DOHC
燃料供給方式:電子シーケンシャルポートフュエルインジェクション(ESPFI)
排気量(cc):353
ボア/ストローク(mm):70.5 / 45.2
圧縮比:11.9:1
最高出力(kW):27(36HP)/8,500rpm
最大トルク(Nm):31/7,000rpm
点火方式:ECU電子式
潤滑方式:圧送式セミドライサンプ
潤滑油容量(L):3.2
始動方式:セルフ式
クラッチ:湿式多板
バッテリー:12V 8AH

トランスミッション:6速
減速比
 1速:3.167
 2速:2.056
 3速:1.556
 4速:1.333
 5速:1.19
 6速:1.0
減速比(1次 / 2次):2.645 / 3.142

フューエルタンク容量(L):13.5
燃費(km/L):20.4
リーンアングル(度・右/ 左):46.4° / 43.7°
タイヤ(前/後):120/70-ZR-17 58W/ 160/60ZR-17 69W
ホイール(前/後):アルミキャスト / アルミキャスト
ブレーキ(前/後):固定4ピストン(デュアルフローティングローター) / フローティング1ピストン(ソリッドローター)
乗車定員(名):2

製造国:中国

キーワードで検索する

著者プロフィール

栗栖国安 近影

栗栖国安

TV局や新聞社のプレスライダー、メーカー広告のモデルライダー経験を持つバイクジャーナリスト。およそ40…