906cc 6気筒のベネリ「900sei」、1979年に発売したモデルを展示|ライバルは日本のCBX1000やZ1300|モーターサイクルショー2024

空冷4ストローク並列4気筒SOHC 2バルブ906ccエンジンを搭載した「べネリ900sai」。エンジン幅を抑えるため、ジェネレーター(発電機)はシリンダー後方に設置。当時これはベネリならではの機構だった。
イタリア生まれの名門バイクメーカー「べネリ」。1973年に発売された同社の「750sei」は、空冷4ストローク並列6気筒SOHC 2バルブエンジンを搭載して世界に衝撃を与えた。並列6気筒エンジンの市販化は世界初! 写真は750seiの排気量を906ccに拡大し、1979年にデビューした伝説の「900sei」。750seiと900seiの歴史に加え、ライバル車だった並列6気筒DOHCエンジン搭載のホンダCBXやカワサキZ1300を振り返ってみよう。
PHOTO&REPORT●北 秀昭(KITA Hideaki)
べネリ(プロト) https://www.plotonline.com/benellimotorcycle/

べネリ・900sei……1979年発売

1979年にデビューした写真の『900sei』は、世界初となった市販6気筒モデル『750sei』の排気量を906ccに拡大。最高出力は750seiの71馬力から80馬力に向上させた。

イタリアの名門バイクメーター「べネリ」は1911年、イタリアのペーザロにて設立された歴史あるバイクメーカー。べネリは1939年にスーパーチャージャー付きの空冷4サイクル4気筒DOHC250ccレーサーを開発するなど、古くから多気筒エンジンの開発に熱心だったメーカー。1977年には250ccクラスの市販モデルとしては世界初となる、並列4気筒エンジン搭載の『べネリ 254 Quattro』をリリースするなど、多気筒エンジンのパイオニアとして世界中のバイクファンに認知されている。

1973年、当時四輪でも有名だった「デ・トマソ」グループの一員であったべネリは、世界初となる6気筒エンジン搭載の市販モデル『750sei』をリリース。750sei用エンジンのボア径×ストローク長を拡大し、750seiの後継モデルとして1979年にデビューしたのが写真の『900sei』だ。

べネリが多気筒エンジンにこだわったのは、日本車(特にホンダ)のエンジンへのリスペクトと同時に、日本車に対抗するためだったともいわれる。ちなみに750seiの6気筒エンジンの外観と中身の構成は、1971年に発売されたホンダ ドリームCB500FOURに搭載の空冷4ストロークSOHC 2バルブエンジンにそっくり。

ドリームCB500FOURと750seiのボア径×ストローク長は、56mm×50.6mmと同サイズ。またプレーンメタル支持のコンロッドとクランクシャフト。1次減速にチェーンを用いる4軸の配置。オイルフィルターの位置。バックボーンパイプが1本のスチール製ダブルクレードルフレームは、ドリームCB500FOURと酷似している。

以上のことから750seiのエンジンは、ドリームCB500FOUR用を元に設計。つまりドリームCB500FOUR用の4気筒エンジンの構造を元に、6気筒化したものだと噂された。

1971年に発売されたホンダ ドリームCB500FOUR。空冷4ストローク並列4気筒SOHC 2バルブ498ccエンジン搭載。
900seiは空冷4ストローク並列4気筒SOHC 2バルブ906ccエンジン搭載。
エンジン幅を抑えるため、ジェネレーター(発電機)はシリンダー後方に設置。当時これはベネリならではの機構だった。
900seiのエンジンは外観・構造ともホンダ ドリームCB500FOURに近しかった。同車のキャブレターは6気筒エンジン向けの3連装型。
狭められたエンジン幅に合わせ、1気筒=1個のキャブレターではなく、Y字型のマニホールドを使い、2気筒=1個、合計3個のキャブレター(2バレル構造)を採用。
写真はカワサキZ1300用キャブレター(初期型)。900seiと同様、6気筒エンジン向けの3連装型。2気筒で1個のキャブレターを使用する、コンパクトな2ボア1ボディの“ツインボア仕様(2バレル構造)”に設計されている。
並列6気筒ながら900seiのエンジンは比較的コンパクトなイメージ。

1979年にデビューした写真の『900sei』は、750seiのボア径×ストローク長(56mm×50.6mm)を60mm×53.4mmに拡大して排気量を906ccに拡大。最高出力は750seiの71馬力から80馬力に向上。

なお750seiのマフラーは左3本・右3本の6本出し仕様だったが、900seiは下記のマシンと同様、左1本・右1本の2本出しに変更。6気筒ながら254kgという軽量さを実現した。

ホンダ・CBX……1979年発売

1979年に発売されたホンダCBX。エンジンは空冷4ストローク並列6気筒DOHC 4バルブを搭載。排気量は1047cc。最高出力は105ps/9000rpm、最高トルクは8.6kg-m/8000rpm。ミッションは5速リターン。車体重量はDOHCながら、SOHCの900seiを凌ぐ247kg。
Honda Collection Hall 収蔵車両走行ビデオ CBX(1979年)

ホンダCBX1000(正式なモデル名はCBX)は、1979年(昭和54年)に登場。空冷4ストローク車としての“究極の姿”を追求した、GPレーサーと同様の空冷4ストローク並列6気筒DOHC 4バルブエンジンを搭載。排気量は1047cc。最高出力は105ps/9000rpm、最高トルクは8.6kg-m/8000rpm。ミッションは5速リターン。CBX1000の6気筒エンジンの存在感があまりにも大きく、発売当時は一部で「車体にエンジンを搭載」ではなく、「エンジンに車体を搭載」とも言われた。

CBX1000の原点は、1964年から投入されたGP250ccクラスのホンダワークスマシン、「3RC164」「RC165」「RC166」。2RC164は4気筒だったが、ヤマハの2スト勢に対抗すべく、6気筒の3RC164を投入。その後、6気筒ワークスマシンはRC165やRC166へと進化した。

1966年、RC166は世界GPで10戦全勝、マン島TTで優勝という圧倒的な強さを誇り、1967年も世界GPでタイトルを獲得。その後、強すぎる6気筒はレギュレーションで禁止となった。

GP250ccクラスのホンダワークスマシン、RC166。空冷4ストローク並列6気筒DOHC 4バルブ249.42ccエンジン搭載。最高出力:オーバー60ps / 18,000rpm 最高速度:オーバー240km/h 車両重量:112kg 変速機:7段変速

圧倒的な強さを誇ったワークスマシン「RC166」の血統を受け継ぐ、“隠れたレーサーレプリカ”とも呼ぶべきCBX1000は、1978年(昭和53年)にリリースされた、水冷4ストローク並列6気筒DOHC 2バルブ1286ccエンジン搭載のカワサキZ1300と同様、“市販車では珍しい、ド迫力の6気筒エンジン車”として現在でもリスペクト。程度の良い車両は、超お宝モデルとして非常に高額な値段で取引されている。

CBX1000は欧米で販売。アメリカ仕様は大型ハンドルを装備したアップライトなポジション。ヨーロッパ仕様はハンドル位置が低く、ステップ位置を後退させた“ヨーロピアンスタイル”に設定。1981年(昭和56年)はカウルを装備するなど、ツアラーモデルとして発売された。

ホンダはCBX1000をツアラーモデルに変更して以来、CB900Fをスポーツモデルの最高峰と位置づけ。並列6気筒エンジン搭載車はCBX1000を最後に、市販されることはない(2024年3月現在)。

カワサキ・Z1300……1978年発売

カワサキZ1300

カワサキZ1300は1978年~1989年に生産発売された、水冷4ストローク直列6気筒DOHC 2バルブ1286ccエンジン搭載モデル。6気筒ユニットはエンジン幅が広がることを避けるため、62mm×71mmの超ロングストローク仕様に設定。日本メーカーの車両では、当時最大の排気量を誇った。最高出力は当時の市販国産車最強の120馬力(後期型は10psアップの130馬力)。初期型の車両重量は297kg。

同車に採用されたキャブレター「BSW32」は、6気筒エンジン向けの3連装型で、コンパクトな2ボア1ボディの“ツインボア仕様(2バレル構造)”に設計。このキャブレターは四輪向けのBSWがベースとなっている。なお1984年式以降のZ1300は、キャブレターからフューエルインジェクションに変更された。

ホンダと同様、カワサキも6気筒はツアラー、スポーツモデルは4気筒と位置づけ。並列6気筒エンジン搭載車はZ1300を最後に、市販されることはない(2024年3月現在)。

狭小化したエンジン幅に合わせ、1気筒=1個のキャブレターではなく、Y字型のマニホールドを使い、2気筒に1個・合計3個のキャブレターを採用。

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