バイク死亡事故と「胸部プロテクター」の関連性| 自工会のテストデータで重要性を検証

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自工会のテストデータで胸部プロテクターの重要性を検証(写真はイメージ)
バイク乗車中の交通事故死者数が、2023年に前年比+16.8%の508名となり、3年ぶりに増加した。これを受け、自工会(一般社団法人 日本自動車工業会)では、バイクの運転中には、ヘルメットだけでなく、保護具の着用、特に「胸部プロテクター」の着用が重要だと提言。現状で9%台という低い装着率を上げることで、死者数削減を目指す方針を明らかにした。
だが、自工会は、なぜ胸部プロテクターの装着率を上げることが、死者数を減らすことにつながると主張しているのだろうか? また、実際に、どういった効果が望めるのだろう? ここでは、自工会の二輪車委員会が発表したデータなどを元に、胸部プロテクターの重要性などを検証してみる。

REPORT●平塚直樹
PHOTO●平塚直樹、写真AC
*写真は全てイメージです

2023年のバイク事故死者数と事故の傾向

近年、二輪車の業界団体や警察当局などが、ライダーたちに着用を推奨するのが胸部プロテクター。だが、法規上では、運転中に装着するか否かは任意。被らないと道交法違反で捕まるヘルメットと違うため、なかなか装着しない人も多いだろう。

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胸部プロテクターにもさまざまなタイプがある(一般社団法人 日本自動車工業会 二輪車委員会の資料より)

だが、任意でも、装着した方が断然いい。その根拠となるのが、自工会 二輪車委員会が2024年3月28日に実施したメディアミーティングで公表したデータだ。

それによれば、まず、2023年の交通事故死者数は、全体的に増加しており、前年比+2.6%の2678名。なかでも、二輪車乗車中の死者数は増加率が著しく、前年比+16.8%の508名。内訳では、

・自動二輪車は前年比+14%の391名
・原付は前年比+27.2%の117名

となったという。

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2023年の事故状況と状態別死者数(一般社団法人 日本自動車工業会 二輪車委員会の資料より)

また、二輪車乗車中の死亡事故を「通行目的別」に見た場合、

・自動二輪車では「ドライブ」、「観光・娯楽」などが増加
・原付自転車では「通勤」、「業務」などによる事故が増加

という傾向が出ている。特に、自動二輪車の場合は、ツーリングなどレジャー時の事故、原付の場合は、会社などの行き帰りや、仕事中の事故による死者が多いようだ。

加えて、自動二輪車に乗車中の「年齢層別」死者数で、20〜24歳が最も多い63名(前年比+26名、増減率+70.3%)だったいう。近年、若い世代のライダーが増加傾向であることはよく話題となるが、交通事故による死者数も増加したことは非常に残念だ。

なぜ胸部プロテクターが死者数削減につながるのか?

さらに、二輪車乗車中の死者で、死亡原因となった損傷部位別のデータによれば、2023年だけでなく、過去10年間で

・1位:頭部
・2位:胸部

となっており、ほかの部位は相対的に死亡事故数は少ないという。

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死亡原因となった損傷部位は頭部と胸部が多い(一般社団法人 日本自動車工業会 二輪車委員会の資料より)

こうしたデータから、自工会では、死亡事故を削減するには、まず「頭部」を守るヘルメットと、「胸部」を守る胸部プロテクターが重要だという。

一方、自工会の調査では、近年、バイクの運転中にヘルメットを装着するライダーは、ほぼ100%。これは、前述の通り、法規制の影響も大きいといえるだろう。

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ヘルメット着用率(一般社団法人 日本自動車工業会 二輪車委員会の資料より)

だが、同じく、自工会の調査では、胸部ヘルメットについては装着率が依然として低い。大排気量クラスのバイクに乗るライダーの装着率は上がってきているものの、排気量が小さくなるほど付ける人は少ない傾向で、全排気量の平均では「9.26%」しかないという。

つまり、元々の装着率がほぼ100%であるヘルメットよりも、付けて走る人が少ない胸部ヘルメットの着用推進を図ることで、死者数削減を図りたいのだ。

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胸部プロテクター直用率(一般社団法人 日本自動車工業会 二輪車委員会の資料より)

もちろん、ヘルメットも、あご紐をしっかり締めないと効果は少ないことはご存じの通り。締めていないのは言語道断、ゆるい場合も事故の衝撃などで脱げてしまうこともあるから、注意したい。

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ヘルメットもあご紐をしっかり締めないと、まさかの時に危険(一般社団法人 日本自動車工業会 二輪車委員会の資料より)

ちなみに、現在、バイクのパーツや用品を手掛けるメーカー団体「JMCA(全国二輪車用品連合会)」では、胸部プロテクターの推奨制度を実施。「欧州規格 EN1621-3」と呼ばれる厳しい基準をクリアした製品のパッケージなどに、「JMCA推奨ステッカー」を貼り付けている。

そして、自工会では、こうしたJMCA推奨の胸部プロテクターは、十分な保護性能を期待できるとし、製品の着用率向上を推進する方針だという。

自工会のテスト内容とは?

では、なぜ、自工会は、欧州規格 EN1621-3に準拠したJMCA推奨の胸部プロテクターについて、高い保護性能を持つと断言するのか? それは、実際に、試験装置を使って欧州規格 EN1621-3と同様のテストを行い、それら製品の実力を確認したからだ。

テストの主な内容は、平面インパクタと突起インパクタという2タイプの器具でダミー人形の胸部を打撃し、胸部プロテクターなしの場合と装着した場合の衝撃値を比較するというもの。ちなみに、平面インパクタはライダーが事故で平らな部分に衝突したことを想定。突起インパクタは尖った部分に衝突したことを想定するもので、より重篤な障害か死亡に繋がりやすいことがうかがえる。

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ダミー人形を使った実験の様子(一般社団法人 日本自動車工業会 二輪車委員会の資料より)

テストでは、JMACA加盟メーカー製の胸部プロテクターをいくつか試したという。その結果、最も保護性能が高い製品では、重傷以上(AIS3+)となりうる傷害発生の確率が、プロテクターなしの半分以下。傷害低減効果のあることが確認できたという。

なお、自工会では、独自に行ったテスト結果をJMCAに公開したほか、JMCAにもテストに参加してもらったそうだ。そして、特に、テスト結果の思わしくない製品については、改善を依頼。メーカー各社がそれを反映することで、国産胸部プロテクターの性能向上にも貢献したという。

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胸部プロテクターのテスト結果(一般社団法人 日本自動車工業会 二輪車委員会の資料より)

さまざまなタイプが選べる胸部プロテクター

以上のような背景から、自工会では胸部プロテクターの重要性を主張し、特にJMCA推奨の製品を推進する方針を打ち出したのだ。

ちなみに、最近は、ライダーが着用するエアバッグなども出てきている。事故時に内部に空気を入れて衝撃を吸収するといったもので、こちらも注目を集めている。だが、安ければ4000円台、高くても3万円などで買える胸部プロテクターと比べると、まだまだ高い。10万円以上する製品もざらで、安くても4万〜5万円台だ。

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エアバッグの内部に空気が入り展開した様子。写真はアルパインスターズのテックエア5(税込み価格10万3840円)

もちろん、エアバッグは、レースなどで効果が実証済みの製品も多い。だが、あまり予算がない人などなら、まずは比較的リーズナブルな胸部プロテクターの方がいいだろう。

なお、ライディングジャケットなどにも、近年、プロテクター内蔵タイプなどもある。単体の胸部プロテクターだと、ちょっと着るのに違和感を持つ人などなら、そうした製品であれば、自然な感じで着用できるのでおすすめだ。

ともあれ、自分の命を守るためにも、胸部プロテクターを持っていないライダーは、ぜひ購入することを検討してみてはいかがだろうか。

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著者プロフィール

平塚直樹 近影

平塚直樹

1965年、福岡県生まれ。福岡大学法学部卒業。自動車系出版社3社を渡り歩き、バイク、自動車、バス釣りなど…