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GASGAS TXT GP250&300……1,062,000円/1,095,000円
感嘆の装備と実力。老舗ガスガスの最新モデルに乗る!
トライアルに詳しい読者なら、ガスガスというブランドは良く知られているだろう。
80年代から現在に至るまで、トライアル世界タイトルを15回も獲得しているトップメーカーである。初期モデルから軽量コンパクトを売りとしており、乗りやすさや扱いやすさ(持てる性能を発揮しやすい)は抜群だ。
また現在多くのトライアルマシンで採用されている、ダイヤフラムスプリング式クラッチを最初に採用したのはガスガスである。通常のクラッチでは、フリクションプレートは5枚から6枚が標準だが、このダイヤフラム式では3枚となる。押し付ける力が強いのでこれで十分な性能となり、しかも軽量化出来るというわけだ。
またガスガスは一貫してスチールフレームを採用しているのも特徴。シンプルなパイプのダイヤモンドフレームで、十分な強度と適度なしなりを有し自然な操縦性を持っている。
以前はサブフレーム(エアクリーナーボックスやリヤフェンダー、サイレンサーを固定するため)があったが、現在はサブフレームは無く、エアクリーナーボックス自体がそれを兼ねる構成となっている。つまり軽量化のためである。
実際見てもらえば理解出来るが、トライアルマシンは必要最低限でまとめられた究極のコンペティションションモデルなのだ。エンジンはクランケースリードバルブ形式の2サイクル単気筒で水冷、キャブレター仕様となる。ミッションのギアチェンジ形式はガスガスだけ特殊な構造で、ここでも軽量化を果たしている。
エンジン自体はガスガス自社製であるが、S3(パーツメーカー)製のシリンダーヘッドを採用している。ヨーロッパでは良くあることなのだが、パーツメーカーの良い物は積極的に採用するのである。またチタン製のエキゾーストパイプも採用しており、軽量化と出力特性の最適化も果たしている。
フロントフォークはTECH製のゴールドフォーク(インナーチューブはアルミ)、リヤサスペンションユニットにはREIGER製3ウェイを採用している。TECHのフォークやREIGER製のユニットは、トライアルの世界では今や一級品の標準となっているが、知らない方も多いかもしれない。言ってみればホワイトパワーやオーリンズと同じくらい有名メーカーである。
以前のモデルではエアクリーナーボックスは樹脂であったが、このモデルではカーボンファイバー製となり強度と軽量化が向上している。その他CNC加工されたフォークブラケット、S3製フットレスト、アルミ製フロントアクスルなども採用されている。
まずは250の戦闘力を吟味!
それでは試乗してみる。ポジションは今時のトライアル車なので突っ立ちとなる。トライアル車はかなり特殊なマシンであり、スタンディングポジションとなるので経験の無いライダーには違和感があるだろう。そもそも座る事は無いマシンなのでそこからして慣れないといけない。
しかし、このポジションが困難な地形を走破するためには必要であり、マシンをコントロールするアクションに貢献するのだ。 まずは250に試乗した。エンジン特性を晴れと雨に切り替えるスイッチがある(ECUの特性を変化させる)が、これは晴れのポジションのまま。車重は装備で70kgくらいなので、超軽量だ。レスポンスはかなり軽快。トルクも十分でアクセル操作に忠実に反応する。
昔のトライアルマシンエンジンの様にドロドロと回る感じ(最もこれを知ってるライダーはかなり少ないが)は全く無く、低回転でも粘るけどあっさりエンストすることもある。わずかでもアクセルが開いていれば止まる事は無く、ゆっくり走ることは可能。
そして一気に高回転まで伸びて行くのだが、例えば2サイクルモトクロッサーのような急激に上がるのとは違う。あくまでもフラットだけどもシャープなのだ。この感じ、乗れば理解出来ると思うが、なかなか文章だけでは分かってもらえないかもしれない。
グリップを失うほどのシャープさではなく、しっかりグリップしたまま伸びて行くと言えば分かるだろうか。そして250でも十分なパワーは持っており、このままで全日本は勿論、世界戦のT2クラスで勝てる実力があるのだ。
操縦性は素直で、ターンするにもフローティングターンするにも思いのまま。と言うと初心者にもお薦めかと思われるだろうが、そこは特殊なマシンなので、やっぱり慣れないと難しいし乗り手次第となる。250とは言えトルクフル、パワフルなのでアクセルワークとボディアクションが合わないと振り回される。
トライアルマシンを知らないで乗ると、サスペンションはフワフワで頼りなく感じるかもしれない。柔らかくてダンパーは弱い。ハイスピードでギャップなどを超えるのとは違うからだ。しかし、段差や岩越、助走が無い場所からの登りへのスタートなどで加重をかけやすくグリップするということ。
サスペンションを沈めたままにしたり、ワザと飛ばしたり、フロントやリヤを振ったりする時にしっかり反応してくれる特性となっている。とにかくマシンその物が持つ走破性が高いわけだが、それを引き出すにはある程度ライダーのテクニックが必要。でも、マシン任せで乗っても十分な走破性は持っている。こんな感じなのだ。
ダイヤフラムスプリングを使用したクラッチシステム、ガスガスが最初に採用したと書いたが、初期の物はどこで切れるのか、どこで繋がるのが分かりずらくて扱いにくかった。とにかくトライアル走行ではクラッチを多用するので尚更だったのだ。しかし、熟成されたこのシステムは全く問題は無く、スパッと切れるし繋がりも分かりやすくてバツんと来る。クラッチカバーは19年モデルからウォーターポンプと別体、クラッチだけの単体カバーとなったことで、メンテ性は向上している。実はダイヤフラムクラッチは、それなりにメンテが必要になるのでこれは有難い。
ただし、アウタークラッチハウジングまではカバーを開けただけでは外れない。クラッチ板の交換や清掃などのメンテは簡単ということ。
フロントブレーキはモノポッドキャリパーを採用している。左右のパーツをボルトで固定しているのではなく、一体型のキャリパーとなっていて剛性はピカイチ。つまり、キャリパーが広がってタッチが柔くなる事が無いのでダイレクト感満載だ。トライアル車のブレーキは元々カックンブレーキ(一気に効く)に近いのが、さらにはっきりしたタッチとなっている。
効きは強力でビギナーが知らずにかけると、ロックするかタイヤが切れ込んでしまうほど。少々慣れは必要となるが、ここらもトライアルマシンは特殊と言う所以である。それでもフロントもリヤも力加減に応じてコントローラブルである。
さてまとめてみよう。250はとにかく乗りやすく、それでいて勝てる実力を持つマシン。と言えるし、ガスガスのマシンは長年のノウハウが詰め込まれて信頼性も高いと言える。
本当のビギナーには250でもパワフル過ぎるが、オフロードをそこそこ走っているライダーなら慣れるのも早いだろうし、バイクのテクニックをちゃんと身に付けたいならお薦めだろう。
一方の300は……
さて構成が全く同じで、エンジンが300ccのTXT GP300。インプレはほぼ250と同じなのだが、エンジンはさらにトルクフルでパワフルとなる。これは世界選手権のワールドクラスで勝てる性能を持っているので当然だ。
大きめにアクセルを開けた時のダッシュは250より断然強い。ちょっとでも体が遅れていたらすぐにまくれるか暴走するだろう。それほどパワフルなのだ。
ところがである、低回転での粘りは250よりもあると言え、アクセルを大きく開けない範囲で乗る分には返って落ち着いて走れるのだ。
2サイクルの300cc単気筒となれば、低回転ではスムーズに回らずタンタンタンとギクシャクするイメージがある(もうこのイメージを持っているライダーは少ないかもしれないが)ものだが、非常に調教されていてスムーズに回るのだ。
常にアクセルに忠実で、4サイクルに近い感じがある。なので、クラッチを使わずともゆっくりターンが可能となっている。そこからアクセルを開ければ強烈な加速をするものの、ある程度トライアル車に乗っているビギナーならばより乗りやすく感じるかもしれない。
それこそが長年のノウハウが詰め込まれたガスガスマシンと言える。何も考えずに開けたら飛んで行ってしまうが。
こちらはコンペティション専用なのでナンバー取得は不可となる。
さてこの両車、とにかく完成度が高くてトライアル遊びからトップの競技まで素晴らしい性能を持つ。正直誰にでもお薦めとはならないかもしれないけど、真面目にトライアルをしてみたい、バイクの扱いを上手くなりたいというライダーにはぜひ乗ってもらいたいと思う。
ディテール解説
TXT GP 250諸元
<主要諸元> エンジン :水冷2ストローク単気筒 総排気量 :247.7 cc 変速機 :6速 Fフォーク :TECH製 フォーク、Φ39 mm Rショック :REIGER製 油圧式モノショック(3ウェイ) タイヤF/R :2.75 x 21 / 4.00 x 18 TL 車輌重量 :67.9 kg(燃料除く)
TXT GP 300諸元
<主要諸元> エンジン :水冷2ストローク単気 総排気量 :294.1 cc 変速機 :6速 Fフォーク :TECH製 フォーク、Φ39 mm Rショック :REIGER製 油圧式モノショック(3ウェイ) タイヤF/R :2.75 x 21 / 4.00 x 18 TL 車輌重量 :67.9 kg(燃料除く)
ライダー紹介
村岡 力
1956年生。
70年代スタントマンから雑誌業界へ入り、ずっとフリーランスのライター&カメラマン。2輪メインですが4輪もし時々航空関係も。モータースポーツは長年トライアル1本で元国際B級。現在は172cm85kgの重量級。業界ではジッタのアダ名で通ってます。