レーシングSの進化版「RCSモト125」、外観のインパクトとは裏腹に、扱いやすい1台です。

キムコきってのスポーティスクーター、レーシングSがモデルチェンジして「RCSモト」に。本国の台湾では150ccモデルと125ccモデルが存在し、今回は原付二種の125に試乗することができた。日本での発売時期や価格などは決まっておらず、まだ参考出品の域を出ないが、これだけ存在感のあるスクーターなので熱望する人も少なくないだろう。

REPORT●大屋雄一(OYA Yuichi)
PHOTO●山田俊輔(YAMADA Shunsuke)
取材協力●キムコジャパン(https://kymcojp.com/)

キムコ RCSモト125 ABS……希望小売価格未定(発売予定日未定)

レーシングS(RACING S)を短縮したような車名であるRCSモト。150ccモデルは昨秋に台湾でメディア向けの試乗会が行われ、本国サイトにも詳しい内容が掲載されているが、兄弟モデルの125に関する正確な情報は非常に少なく、また国内販売までに諸元などが変更になる可能性があることをあらかじめお断りしておく。
シートレールにT.H.F.(チューブ・ハイドロ・フォーミング)技術を採用し、その一部を車体のデザインに採り入れたフレームや、シートおよびグラブバーの形状、サイレンサーのカバーなどはレーシングS 125から変更されていない模様。主にフロント周りのスタイリング変更がRCSモトの主眼のようだ。

メカノイズは大きめながら、力強いエンジンフィール

実に個性的なスタイリングだ。レーシングSの流れを汲むニューモデルということで、確かに車体の後ろ半分はほぼ変わっていないが、フロントマスクやハンドル周りは完全に別物。フィッシュアイと呼ばれるデュアルプロジェクターLEDヘッドライトや、研いだ牙のように点灯するポジションランプなど、写真で見る以上に実車の存在感は強烈だ。ちなみに台湾においてこのクラスは激戦区であり、直接のライバルとなるSYM・JET SRや、PGO・アルファマックスなども、スタイリングの方向性はまさにこの路線上にある。日本人に受け入れられるかどうかはさておき、国内メーカーのスクーターに飽きていた人にとっては刺さる可能性大だ。

まずはエンジンから。ボア×ストロークがほぼスクエアの125cc空冷4バルブ単気筒は、レーシングSからの変更はない模様。最高出力は10.9psを公称する。こうした大胆なモデルチェンジでは、排ガス規制のタイミングに絡むケースが多々あるが、台湾国内の規制も含めてそうしたソースは発見できなかった。なお、ボアを5mm拡大した150ccモデルは、可変バルタイ機構VVCSを採用しているが、125ccモデルはレーシングS時代と同様に導入されていないようだ。

エンジンを始動する。空冷ゆえにメカノイズはやや大きめだが、レーシングSもこれぐらいだったと記憶する。スロットルを徐々に開けると4,000rpm付近で遠心クラッチがミートし、スルスルと発進。その後、6,000~7,000rpmをキープしながらグングンと加速していく。日本でのライバルとなりそうなのがヤマハ・シグナス グリファスで、この水冷エンジン(最高出力は12ps)ほどの力強さはないが、街中ではキビキビとした走りを披露してくれ、ストレスを全く感じなかった。

裏路地からバイパスまで扱いやすさが光るハンドリング

続いてはハンドリングだ。スペックを調べてみると、車重はレーシングS 125から2kg増えており、空冷エンジンながらシグナス グリファスよりも4kg重いことに。だが、実際に走らせてみると、むしろ軽く感じたのは意外だった。

ホイール径は前後とも12インチで、裏路地のような細い道で扱いやすく、それでいてバイパスのような流れの速い道路ではしっかりと安定している。この安定成分は、レーシングSからホイールベースが25mm伸びたことも効いているようだ。

ハンドリングが軽快に感じた理由の一つが、シグナス グリファスに対してタイヤが前後とも1サイズずつ細いことが挙げられる。タイトなワインディングロードでも倒し込みや切り返しが軽快で、ラインに乗せてしまえば気持ち良く向きを変えてくれる。それに加えてレーシングS譲りのバンク角の深さもあり、これならサーキットでも楽しめそうだ。

ブレーキは、前後ともディスクを採用。まだパッドが馴染んでいなかったのか、フロントは制動力がやや甘く、峠道の下りでもう少し利いてほしいと感じた。一方、リヤはなかなかに強力なことに加え、ABSが介入する寸前までコントロールしやすく、特に街中でコントロールしやすかった。

さて、スクーターなのでユーティリティ面についても触れておきたい。まずシート下のトランクは前後方向にに長く作られており、中サイズのデイパックやレインスーツなどが余裕で収納できた。ただし底が浅い設計なので、ヘルメットはフルフェイス全般が厳しく、ジェットヘルでも種類やサイズによっては入るかも、というのが現状だ。

フロントパネルの右側にはペットボトルを入れるのに便利なポケットがあり、その上に標準装備されている電源ソケットは、レーシングSのUSBからUSB-Cへと進化した。そして、通勤通学ユーザーにとっての朗報は、燃料タンク容量が微増したことだろう。わずかとはいえ給油回数が減る可能性があるのは喜ばしいことだ。

気になったとすればヘッドライトだろう。今回の試乗中、信号待ちで前のクルマのドライバーに「それ、ハイビームじゃないのか」と指摘された。実際にはロービームだったのだが、確かに上向きっぽいというか、前走車や対向車を眩惑させるかもというスポット的な明るさだった。光軸が簡単に調整できるかどうかまでは確認できなかったが、このプロジェクターLEDはかなり強力なのでしっかり合わせておきたい。

スタイリングこそ強烈な個性を放っているが、走りやユーティリティについては原付二種スクーターとしてオールマイティ系であり、この見た目が刺さる人にお勧めしたいと思う。なお、日本での販売は為替に左右されるとのことで、現地価格と現在のレートで計算すると、およそ47万円になってしまう。ちなみにレーシングS 125は36万3000円だったので、いつごろにいくらで販売されるのか、続報を待ちたい。

ライディングポジション&足着き性(175cm/68kg)

乗り降りがしやすいフラットなフロアボードを採用。足の置き場の自由度が高く、スポーティーな走りからクルージングまで幅広く対応する。ハンドルは容易に角度調整が可能だ。
シート高はレーシングSと変わらず790mmのまま。座面が前方に向かって絞られているので、足着き性は良好だ。後方は座面が広く、タンデムエリアとの段差が腰のサポートとして活躍する。

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著者プロフィール

大屋雄一 近影

大屋雄一

短大卒業と同時に二輪雑誌業界へ飛び込んで早30年以上。1996年にフリーランス宣言をしたモーターサイクル…