フランス人が日本で2週間ツーリング。日本はどんな国だった?

コロナ禍があけて以後、円安の影響もあって海外から日本を訪れる観光客が増加しました。2024年に入ってからの訪日外国人は毎月約300万人にも達しています。こうしたインバウンド需要で観光地がにぎわう一方で、オーバーツーリズムも問題になっています。このあたりの兼ね合いは難しいですね。そんな訪日外国人の中には、割合は少ないですが、ツーリングで観光を楽しむ人たちもいます。5月9日から22日の2週間、フランスから訪れた16名のツーリストたちが東京から西日本各地をツーリングしました。果たして日本の風土や文化をどのように感じたのでしょう?

エアモトツアー:https://airmototours.com/

日本のツーリングスタイルとはひと味ちがう名所めぐり

フランスで日本のバイクツーリングをアテンドしている『エア・モト・ツアー』を主宰するドミニクさんは、すでに何度も日本各地のツアーを行っていて、多くのフランス人ライダーに日本の魅力を体現させています。今年もすでに3月に九州ツーリングを敢行していて、5月はおもに西日本各地を回るツーリングを実現しました。
今回のツアーは、5月8日に来日し24日に帰国する日程で、そのうちの14日間がバイクでのツーリングとなっています。日本では長くてもせいぜい10日間の休みが取れればいい状況ですが、ご存じのようにフランスでは1ヶ月のバカンス休暇は当たり前です。趣味や好きなことにお金をかけるというスタンスも日本人とはちがうようです。今回参加した16名のうち14名がご夫婦。つまりタンデムツーリングとなるわけです。年代も50~70歳代と、いわゆるシニア世代でした。

今回のツアールートは、東京~箱根~豊橋~伊賀~高野山~高松~宮島~出雲~美作~京都~美濃~蓼科~昭島~東京となっています。宿泊はホテルが中心になりますが、温泉旅館や宿坊など日本の歴史、文化に触れられるようにしてあるのが特色です。
ツアーは毎年異なるルートが設定されているのですが、第1回目のツアーが行われた2015年には、僕も浜松で合流しました。一緒に走ったわけじゃないのですが、22名の参加者と楽しく交流しました。今回はツアー初日と2日目を同行してみることにしました。

地図上に赤いラインで記されたルートを時計回りに2週間かけてめぐった

使用するバイクは750㏄以上の大型のみで、お台場のレンタル819でピックアップし、2週間のツーリングに出発しました。僕は最初の立ち寄り場所である二宮の川勾神社で待ち合わせしました。なんでもこの神社でまずは交通安全祈願をすることになっているのだとか。実は僕も川勾神社を訪れたのは初めてでした。相模国の二の宮とのことですが、一の宮である寒川神社へは何度か行ったことがあるのですが、川勾神社はおそらく、神社巡りマニアか地元の人じゃないと行かないんじゃないかと思います。しかし、二宮町の名の由来にもなっている由緒ある神社なんだそうです。ここでしっかり御祈祷を受け、絵馬はお土産に持ち帰りとなりました。
時折小雨が降る中、国道1号線からターンパイクを通り、芦ノ湖畔、強羅、そして宿泊場所である仙石原へと休憩をはさみながら走行。1日目のツーリングが無事に終了しました。豪華な夕飯の席では、フレンチのコースと同様に食べる順番があるのか聞かれましたが、自由に食べていいと答えておきました。口に合うものそうでないものがあったようですが、和食は全体的に好評でした。

神奈川県二宮町にある川勾神社で交通安全を祈願

快晴に恵まれた2日目、芦ノ湖畔から箱根峠、芦ノ湖スカイラインと走りつなぎ、三国峠から眺める富士山の絶景にフランス人一行は大はしゃぎ。やはり日本の象徴は『フジヤマ』なのです。
その後、箱根スカイラインを経て御殿場へ向かうのかな?と思っていたら、湖尻峠から県道337号線で裾野へと抜けたのでした。箱根には1500回は来ている僕ですら、この道を通るのは10回にも満たないのですから、おそらく一般の日本人ライダーは走らない道です。ドミニクさんのルーティングはいったいどうなってるんだ?とちょっと呆れました。
裾野のコンビニで休憩後、南富士エバーグリーンライン、富士山スカイラインを通り、それぞれがワインディングを楽しみながら富士宮口五合目まで行きました。富士山の雄姿を眺めるには適切じゃない場所ですが、駿河湾を見晴らす景観にフランス人一行は感激していました。 「これから茶畑に行きます」とドミニクさんはいっていたが、茶どころである菊川や掛川にでも行くのかな、と僕は思っていた。ところが、向かった先は富士市郊外の山麓。しかも県道を離れて舗装林道をたどっていったのです。こんな道、地元の人じゃなきゃ通らない。僕も初めて走る林道だったし、ましてや大型バイクで入り込むのは躊躇してしまう。しかしドミニクさんはどんどん先導してしまうし、後に続くフランス人一行も意に介さずといった感じで走っていくのだからビックリ。どうやらこのツアーは単なる物見遊山じゃなく、アドベンチャー要素も取り入れてるようです。そして実際、林道を抜けた先には見事に茶畑が広がっていました。  僕の同行はこの茶畑まで。フランス人一行は新東名で豊橋へ向かい、さらに12日間のツーリングを満喫することになりました。

芦ノ湖スカイラインの三国峠から富士山を眺めてはしゃぐフランス人一行
富士山スカイラインのワインディングを駆け上がり、富士宮口の五合目まで行った
富士市郊外に広がる茶畑。林道を走ってたどり着ける場所で、地元の人以外あまり通らない

歴史、文化、風景のどれもがすばらしいと感じた日本ツーリング

パンクというアクシデントはあったものの、全員が無事故で無事に東京に戻ってきたところで、ツーリングを通して見た日本の印象を尋ねてみました。 「すでに日本を旅行している友人から聞いていた通り、日本の素晴らしさを実際に確認できました」 「風景はどこもきれいで、とくにこの時期は緑が美しいと思いました」 「道路の整備状態が良くて走りやすかった。ただしロータリー(ラウンドアバウト)がないことにちょっと驚きました。市街地では信号に止められることが多いのが気になりました」 「全体にドライバーのマナーが良くて、歩行者もきちんとルールを守っていると思いました。ただし、高速道路では大型トラックのマナーの悪さが目立ちます。あまりにも車間距離がなさすぎです」 「歴史や文化を大切に守っていて、風光明媚な風土がある日本は、とても素敵な国だと思いました」 といった具合に、みなさん一様に日本ツーリングに満足したようです。ちなみにこのツアーの料金は、渡航費を含めて5340€。日本円にすると約90万円となります。しかし今は円安なので高いと感じるかもしれませんが、物価が高いフランスの感覚では50万円程度だと思います。いずれにしても、夫婦タンデムで外国をツーリングするなど、フランス人は歳を重ねても人生を楽しんでいるなぁというのが、僕の正直な印象でした。

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著者プロフィール

栗栖国安 近影

栗栖国安

TV局や新聞社のプレスライダー、メーカー広告のモデルライダー経験を持つバイクジャーナリスト。およそ40…