EM1 e:|50ccクラスのホンダの電動スクーターで、街乗りしたりちょい峠を登ってみたり。坂路はやや厳しいが、抜きん出た静粛性に感動。

昨年8月、ホンダとしては国内初となるパーソナル向け電動バイクとしてリリースされたのが、原付一種枠のEM1 e:(イーエムワンイー)だ。開発コンセプトは「ちょうどe:(いい)Scooter」で、ベンリィe:やジャイロe:シリーズらと共通の交換式バッテリーを採用。発売から間もなく1年が経とうとしている今、あらためて実力を検証してみた。

REPORT●大屋雄一(OYA Yuichi)
PHOTO●山田俊輔(YAMADA Shunsuke)

ホンダ・EM1 e:……32万100円(2023年8月24日発売)

ホンダが2021年から中国市場で販売している「U-GO」をベースに、バッテリーの搭載位置をフロア下からシート下へ移設し、さらに交換式としたのがEM1 e:の概略だ。2024年4月に交換式バッテリー「ホンダモバイルパワーパックe:」が8万8000円から10万8900円へと値上がりしたため、これを含むメーカー希望小売価格は発表時の29万9200円から32万100円へアップしている。
車体色はデジタルシルバーメタリックとパールサンビームホワイトの2種類。なお、バッテリーを除く車両単体価格は15万6200円で、バッテリーのシェアリングサービス「Gachaco」を利用すれば個人でバッテリーを買う必要はない。付け加えると、Gachacoの提携店で車両を購入すれば、納車時にバッテリーが装着されるというサービスも。
これが中国市場で販売されているU-GOで、EM1 e:と同様に五羊-本田摩托(広州)有限公司が生産している。現地では二人乗りが可能なためタンデムステップが装備されている。

無音、無振動、スムーズな加減速。余裕こそないが不足はなし

EM1 e:が発売されたのは昨年8月のこと。その2か月前の2023年6月には、法人向けに販売されていたベンリィe:/ジャイロe:/ジャイロキャノピーe:シリーズの一般販売がスタートしている。いずれも「ホンダモバイルパワーパックe:」という共通の交換式リチウムイオンバッテリーを採用しており、これは2022年10月からスタートしたバッテリーシェアリングサービス「Gachaco(ガチャコ)」を利用することができる。Gachacoステーションの設置場所は今のところ東京都と大阪府に限られるものの(それ以外では埼玉県和光市に1か所あるのみ)、これを執筆している6月下旬現在、23区内には37か所もあり、都心であればそれなりに利便性が上がっているのだ。

なぜこんな話を最初にしたかというと、実はこのEM1 e:、動力用バッテリーを除く本体価格は15万6200円で、ホンダで最も安い原付一種スクーターのタクト(17万9300円~)を下回るのだ。ちなみにGachacoで最も安いライトプランは月会費が980円なので、初期費用を抑えたい、出先での電欠が心配という人は、これを利用しない手はないだろう。

それでは試乗に移ろう。まず、メインスタンドを立てた状態で左レバーのブレーキロックをかけ、メインスイッチをオンにし、モータースタートスイッチを押す。これでモーターが起動し、メーター内の「READY」のインジケーターが点灯する。実際にはメインスタンドを立てていなくても、またブレーキレバーのロックをかけずともモーターは起動するが、取扱説明書による正しい手順はこうなのだ。おそらく純粋なビギナーが乗ることを想定しているのだろう。

走行モードはSTDとECON(エコノミー)モードの2種類で、今回の試乗では前者をメインに使用した。発進加速のスムーズさは、ベンリィe:シリーズやPCXエレクトリックで経験済みだが、このEM1 e:を含めホンダのモーター制御は感心するほど緻密だ。90Nmというリッタークラス並みのトルクをわずか25rpm(!)で発生するモーターを搭載しているだけに、これを完璧に制御できなければ滑らかなスタートなど不可能だからだ。

そして、さらに気に入ったのは静粛性の高さだ。吸排気音もメカノイズもないモーターなのだから当然だと思われそうだが、実は動力源が静かになると、スクーターのようなボックス構造は共振音が発生しやすく、場合によってはそちらの方がうるさく感じることも。EM1 e:はそうした部分にも気を使っているようで、まさに電動スクーター=静かというイメージに合致する。加えて、動力源からの振動もほぼゼロであり、原付一種枠でありながら高級な乗り物を運転しているようにすら感じられるのだ。

加速性能については、法定速度の30km/h付近までは原付一種スクーターと同等か、やや速いかなと感じるレベルだ。ちなみにクローズドエリアで試したところ、最高速はメーター読み49km/hで、このあたりでパワーがスッと抜けるような感触がある。おそらく50km/hを超えないように制限しているのだろう。登坂路ではスロットを全開にしていても徐々に速度が落ちていき、勾配が10%を超えたところで18km/hまでダウンした。電動アシスト自転車に乗る高校生に追い付かれたのは事実だが、とはいえ平坦路がメインの使い方であれば、動力性能的に過不足はないと言えるだろう。

それでは、皆さんが最も気になるであろう航続距離について。今回は表示100%の満充電の状態からスタートし、3.8km走行して90%、12.7kmで61%までダウンしたことを確認した。ルートにアップダウンが多かったこともあるが、1%につき350mぐらい走れる計算であり、公称53kmには及ばないものの、STDモードでも1回の充電で35kmぐらいは走れそうだ。

乗り心地はそれなりだが、ハンドリングは非常に扱いやすい

このEM1 e:は前後でホイール径が異なり、フロントに12インチ、リヤに10インチを採用している。同じ電動スクーターのベンリィe:シリーズや原付二種のリード125も12/10インチという組み合わせなので、この方がシート下のスペースを稼ぎやすいなど、何らかのメリットがあるのだろう。

ハンドリングは、リヤ10インチホイールによる低重心が効いているのか、発進~微速域でフラつきにくく、極めてニュートラルで扱いやすい。加えて、遠心クラッチのような加速時のタイムラグが発生しないので、ビギナーほど内燃機関より乗りやすいと感じるだろう。サスペンションの動きは車両価格なりで、荒れた路面や大きなGが加わった際にはやや心許ないが、これも動力性能と同様に日常の足として使うなら特に問題はないはずだ。

ブレーキはフロントがディスク、リヤがドラムで、左レバーで前後が連動するコンビブレーキを採用している。車重はタクトより10kg以上重いが、それでも制動力に不足はなく、コントロール性も良好だった。

Gachacoステーションが集中しているエリアに住んでいる人なら、EM1 e:の購入に対するハードルはグッと下がるだろう。加えて、国や地方自治体の補助金制度を利用すれば、例えば都民なら約6万円も安く買えることになる。短距離特化型ではあるが、居住地や使用用途によっては、かなり魅力的かつ実用的なパーソナルモビリティと言えるだろう。

ライディングポジション&足着き性(175cm/68kg)

フロアボードが前後に長く、28.0cmのシューズでも足の置き場所の自由度が高い。シートはウレタンが薄いので、体重が多い人ほど底付き感が出る可能性あり。
シート高は740mm。同じ原付一種のタクトが720mm(タクト・ベーシックは705mm)なので、それと比べるとやや高めだが、ご覧のとおり足着き性は優秀な部類だ。

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著者プロフィール

大屋雄一 近影

大屋雄一

短大卒業と同時に二輪雑誌業界へ飛び込んで早30年以上。1996年にフリーランス宣言をしたモーターサイクル…