この見た目、1990~2000年代青春ライダーは恋に落ちるかも!?【トライアンフ・スクランブラー1200X試乗記】

「スクランブラー」という車種/車名は昨今のトレンドでもあるだろう。そのトライアンフ版、しかも1200cc版がリニューアル。車名こそスクランブラーだが、これはTWやFTRといったトラッカーで育った世代にこそ猛アピールする一台だ!?

TEXT●ノア セレン
PHOTO●山田俊輔
トライアンフ・1200X

トライアンフ流「スクランブラー」

トライアンフのスクランブラーと言えば、今は出たばかりの400Xが大人気だ。日本の普通二輪免許枠で乗れ、ストリートではもちろんカッコ良くておしゃれで、しかもオンはもちろん、ある程度のオフでもマルチに楽しめる車体構成。何よりもまずは元気なエンジンが魅力的だ。

しかしトライアンフは話題の400Xの他にも900と、この1200のスクランブラーをラインナップするという充実ぶり。トライアンフの歴史を見ても、スクランブラー的な多角的な魅力をもったラインナップが多かったからこそ、今もこういった車種を大切にしているのだろう。

興味深いのは400Xが元気な新作シングルなのに対して、900と1200は伝統のパラ(バーチカル)ツインをベースにしつつモダンな270°クランクを採用していること、そして400Xと900がフロントにスクランブラーモデル定番の19インチホイールを採用しているのに対し、1200だけがよりオフ色の強い21インチを選んでいること。果たしてその中身は?

XCがXへ統合。シートと価格はなるべく低く。

スクランブラー1200シリーズは去年まではスタンダードグレードのXCと、上級版かつよりオフロードテイストの強いXEがあったのだが、そのXCが去年このXへとモデルチェンジ。パワフルなエンジンなど基本的な部分は上級版のXEと同様ながら、とにかく低いシート高なのがアピールである。

スクランブラー400Xのシート高が835mmなのに対し、1200Xは820mm、しかもオプションのローシートを装着すれば795mmとなるのは大変魅力的。400Xを見に、あるいは試乗などをしに来店したお客さんが「1200の方が足がつくじゃん!」となることも多いらしい。

価格はXEの方が208万8000円~なのに対し、Xは186万2000円~。プレミアムな価格帯であることに変わりはないものの、先代のXCが200万円超だったことを思えばずいぶんと思い切ったプライスダウンである。しかも先代XCにはなかった切り替え可能なコーナリングトラクションコントロールを備え、コーナリングABSもアップデート。プレミアムスクランブラーの間口を広げてくれているのだ。

スクランブラーというよりはトラッカー的付き合いやすさ

現車を横から見ると存在感抜群のタンクと21インチフロントホイールのサイズ感に最初は身構えるが、いざ跨ろうとすると低くなったシート高のおかげでハードルも下がっていると感じる。またがってしまえばコンパクトとも言えるほどのサイズ感であり、あんなに堂々と見えたバイクに乗っている印象はなく、自然と自信を持たせてくれる。

足つきバッチリ、ポジションも楽チン。しかも1200ccもあるからと言って「過ぎる」ような感覚はない付き合いやすい低回転域~常用回転域を持つエンジンのおかげで、走り出してスグに一体感を楽しめてしまった。アップマフラーはその迫力のルックスに反して良く消音されており、おかげで上品なフィーリングが味わえるし良い意味で「ドヤ!」感が少なくカジュアルだ。

こういったプレミアムなモデルに乗るとどこか遠くに出かけて、その性能を思いっきり味わわなくては……といった気持ちになることもあるが、スクランブラー1200Xにそんな感覚は全然ない。むしろ日常に取り入れて、気軽に乗り回したいとさえ思わせてくれるのはやはり低いシート高と無理のないポジション、そして実際に購入する人にとっては価格設定も関係することだろう。

都市部を中心にチョコマカと走っていてムクムクと懐かしい感覚に包まれ始めたのは、筆者が青春を過ごした00年代初頭のトラッカーブームを連想したからだろう。オフ車とも違う、オンロードとも違う。シートが低くて付き合いやすく、誰にでもフレンドリーな性格。何よりもオシャレ。プレミアムなバイクではあるものの、どこか等身大な性格に00年代前半の青春時代を思い出させてくれる懐かしさと親近感を覚えたのだった。

実力は1級。オンオフOK

今回の試乗はストリートが中心だったため、スクランブラー1200Xの付き合いやすさが強く印象に残ったが、信号からの発進などでちょっと大きめにアクセルを開ければ、それはそれは元気な加速を見せてくれるのも確認できた。さすが1200cc! と唸る実力であり、しかも比較的低い回転数でトルクフルに加速するため「労せず」加速している感覚が強い。これを助けているのが繋がりのスムーズなクラッチと、そして前述した静かなサイレンサーに思う。大げさなことは一切なく、軽やかに猛進するのだ。

コーナリングも極素直だ。最初は21インチのフロントホイールがオンロードのコーナリングには向かないのではないか?と懸念もしたが、そんなことはない。XEの方に比べれば左右幅が短めのハンドルバーのおかげか、大径フロントホイールが素直に切れていく感覚をライダーが阻害することなく、極めてスムーズに旋回してくれる。しかもバンク中の安定感も抜群。カルーストリートという、21インチの中ではオンロード向けのプレミアムなタイヤも効いているのだろう。曲がり込んでくる長いコーナーなど、車体が長い時間バンクしている状況は特に得意であり、どこまでも気持ちがよかった。

スクランブラーなのだからオフロードも走れるの?とも思うことだろう。今回ではないが、別日の試乗でオフロード走行もしてみたのだが、いわゆる一般的な未舗装路(フラットな未舗装林道など)を走る分には大変に気持ちが良い。上級版であるXEと比べたとしても、車体の重心が低いことや足がつきやすいことがそのままハードルの低さになっており、むしろ積極的に振り回してやろうという気にさえさせてくれたのだ。そんなところも「トラッカーっぽい」と感じてしまったわけだが、1200Xが未舗装路を含め公道で出くわしえるあらゆるシチュエーションを積極的に楽しめるフトコロを持ち合わせているのは間違いなく、決してオフ車っぽい見た目をしているだけのモデルではない。

オトナのアラフィフに捧ぐ

気兼ねなく付き合える優しい肌触りを持っているのに、労せずに高い実力も楽しませてくれたスクランブラー1200X。筆者としてはとても楽しい試乗体験だった。肩ひじ張らずにカジュアルに乗れるのに、それでいてちゃんと奥行きがある。XEに比べれば装備がワンランク落ちるとも言えるものの、公道環境でその違いが影響することはまずなく、むしろその質素さこそがカッコイイ……なんていう風に思えるライダーは同世代ではないだろうか。

久しぶりにバイクにでも乗ってみたいな。カッコ良いのが良いけど、無理せずに乗れると良いな。頂点のプレミアムモデルである必要はないよ。といったライダーに是非とも薦めたい1200X。これなら日常的に無理なく楽しませてくれることだろう。

トライアンフ・スクランブラー1200X……1,862,000円

トライアンフ・1200X
トライアンフ・1200X
トライアンフ・1200X
トライアンフ・1200X
トライアンフ・1200X
トライアンフ・1200X
トライアンフ・1200X
トライアンフ・1200X

丸いタンクとフラットなシート、クラシカルなルックスは本文中に記したようにかつてのストリートトラッカーを連想させてくれた。オフロードテイストを感じさせながらどこまでもオシャレ。唯一カラーリングされているタンクと個性的な21インチフロントホイールが存在感抜群だ。

足つきチェック(ライダー身長185cm)

トライアンフ・1200X
トライアンフ・1200X
トライアンフ・1200X
トライアンフ・1200X

400Xよりも低いシート高はオプションのローシートにより795mmまで下げることも可能であり、1200ccの排気量を持つスクランブラーと考えると足つきは非常に良好だ。ただ右側はアップタイプのサイレンサーに繋がるエキパイが膝の内側を通っているためいくらかガニ股になる傾向。右側よりも左側の方が足はつきやすい。ポジションは極ナチュラル。ストリートを流すにもストレスはなく、またスタンディングをしても膝がどこかに当たって車体をホールドしにくいといったことはなかった。

ディテール解説

上級版かつよりオフロードを意識しているXEに対して、このXはストリート色が強いのだから19インチでも良かった気がしないでもないが、しかし敢えて21インチとしている所が存在感を示しているのだろう。ブレーキは先代のXC及び上級版のXEがブレンボなのに対してXはニッシンのピンスライド式。ルックス的にはダウングレードではあるが、機能的には何も問題はなかった。なおブレーキディスクもXEのφ320mmに対してφ310mmとわずかに小径だ。
アップタイプの2本出しサイレンサーを持つのがスクランブラーらしいアイコン。ヒートガードがしっかりしているため内腿を火傷するようなことはないが、しかし右足を地面につくような場面ではいくらかその存在感は気にならないでもない。
チューブレスタイヤ対応のスポークホイールなのはフロント同様。リアは17インチ径を採用し、低シート高にも貢献している。タイヤはメッツラーのカルーストリートが標準装備。
ヘアライン仕上げされた美しいサイレンサーこそがスクランブラーの証。その存在感には迫力があるが、排気音はとてもジェントルかつ上品で、責任ある大人のエギゾーストノートである。
リア同様にフロントにもマルゾッキ製のサスペンション(倒立フォーク)を採用。調整機能は持たないが、出荷時設定のままで幅広いシチュエーションに対応してくれるセットアップが為されている。逆に調整機能を持たないシンプルさが魅力でもあろう。ホイールトラベルはリア同様の170mmとしている。
シリンダーがほぼ直立するバーチカルであるのはトライアンフの伝統であり、こういった「モダンクラシックス」ラインナップではとても大切なフィーチャーだろう。しかし中身は最新。深い空冷フィンも備えつつも水冷エンジンであり、270°クランクのSOHCパラツインは7000RPMで90PSを発揮する。最大トルクは4250RPMで発揮するため日常領域で非常にパワフルに感じられる。なお回転の上下もまろやかで常に安定感があるため、ビッグツインでありながらも神経質さは皆無。加えてこの真夏の環境でもエンジンがあまり熱いと感じなかったのもプラスポイントだ。
特徴的な2本ショック。マルゾッキ製でプリロード調整のみ可能というシンプルな構成ではあるものの、ピギーバックタイプとするなど性能に妥協は無し。程よくレイダウンされているおかげか作動性はストリートでも未舗装路でも良好だった。ホイールトラベルは170mm。
XEと共通となるリアブレーキはφ255mmのシングルディスクにニッシンのキャリパー。リア荷重が多く感じられる車体構成のためリアブレーキは積極的に使っていたが、制動力/コントロール性共に良好だった。

トライアンフ・1200X/シート&シート下


フラットなシートは着座位置を限定しないため、体格に関わらず良い位置を見つけやすい。またフラットゆえにタンデムライダーとの一体感も高いだろう。テール周りが跳ね上がっておらず最後まで水平基調のため、乗り降りもしやすかった。シート色がブラウンなのもステキだ。

シート下のスペースは限定的。書類を入れられる程度の蓋つきケースがあり、その中にはUSBアウトレットが。スマホの充電ができそうだが、その小さなケースにスマホを入れたいかどうかは微妙なトコロ。

右側は電子制御スロットルとシンプルなキル&セルスイッチ。下のボタンはハザードだ。左側はXEや他のトライアンフモデルに多く採用されるジョイスティック的なボタンは使われず、KTMでよく見られるような十字のボタン。5つのライディングモードの切り替えなどはわかりやすく操作できたし、逆にシンプルな構成が押し間違いを減らしてくれているとも感じる。写真に写っているETCはオプション。


ハンドル幅はハンドルガードがついているXEの895mmに対してスリムな835mmでストリートでは重宝する。ただハンドル切れ角は少なめで、長めの車体と合わせてUターンは得意ではない。
タンク容量は15L。排気量から燃費を考えるとロングツーリングには向かないかもしれないが、なにせそのタンクの造形がカッコイイ。キャップは上質なアルミのカバーをパカッと開き、その下に四輪車のようなキャップを備えている。
シンプルな薄型テールライトと新作のウインカーはもちろんLED。スクランブラーイメージ的にはテールライトにもう少し存在感があっても良い気がするが、こういった部分を好みに合わせてカスタムしたいと思わせるのもこのモデルの魅力だろう。標準装備のグラブバーはタンデムにも荷物の積載にも便利なハズ。
丸型のヘッドライトは写真のDRL(デイタイムランニングライト)かヘッドライト点灯を自分で選択可能。ヘッドライトを点灯するとDRLは減光する。
XEではロケットスリーなどにも採用されている丸と四角を組み合わせたようなフルカラーTFTだが、Xではトライデントなどと共通イメージのTFT/LCDハイブリッド多機能メーターを採用。各種情報は直射日光でもトンネル内でもとても読みやすく好印象だ。

主要諸元

エンジン、トランスミッション

タイプ水冷SOHC並列2気筒 8バルブ270°クランク
排気量1200 cc
ボア97.6 mm
ストローク80 mm
圧縮比11:1
最高出力66.2kW /89bhp /90PS @ 7000 rpm
最大トルク110Nm @ 4250 rpm
システムライド・バイ・ワイヤー、マルチポイント シークエンシャル エレクトロニック ヒューエル インジェクション
エグゾーストシステム2-INTO-2 エグゾーストシステム(ブラシ仕上げ)
駆動方式Xリングチェーン
クラッチウエット・マルチプレートアシストクラッチ
トランスミッション6速

シャシー

フレーム鋼管、スチールクレードル
スイングアーム両面アルミニウム加工
フロントホイールチューブレス 36 スポーク 21 x 2.15 インチ、アルミニウム リム
リアホイールチューブレス 32 スポーク 17 x 4.25 インチ、アルミニウム リム
フロントタイヤ90/90-21
リアタイヤ150/70 R17
フロントサスペンションMarzocchi™ ノンアジャスタブルUSDフォーク
リアサスペンションMarzocchi ピギーバックリザーバー付きツイン RSU、プリロード調整可能
フロントブレーキツイン 310mm ディスク、2 ピストン Nissin アキシャル キャリパー、ABS
リアブレーキシングル255mmディスク、シングルピストンフローティングNissinキャリパー、ABS
インストルメントディスプレイとファンクションマルチファンクションメーター、TFTカラーディスプレイ

寸法、重量

ハンドルを含む横幅834 mm
全高(ミラーを含まない)1185 mm
シート高820 mm
ホイールベース1525 mm
キャスターアングル26.2 º
トレール125 mm
燃料タンク容量15 L
車体重量228 kg

価格

メーカー希望小売価格メーカー希望小売価格(税込) ¥1,862,000

サービス

サービス間隔16,000 km または 12 か月のいずれか早い方

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著者プロフィール

ノア セレン 近影

ノア セレン

実家のある北関東にUターンしたにもかかわらず、身軽に常磐道を行き来するバイクジャーナリスト。バイクな…