「MT-09 Y-AMT」の発売が決定! 次に期待されるのは「トレーサー9GT+」の可能性あり

ヤマハ発動機(ヤマハ)が新型のトランスミッション「Y-AMT」を開発し、年内に「MT-09」に搭載し9月30日に発売する。カラーは「ブルー」と「マットダークグレー」の2色を設定。価格は136万4000円(税込)。ヤマハは「Y-AMT」を他のモデルにも順次展開すると発表している。次に搭載されるモデルな何か。

「FJR1300」で培ったクラッチ操作レス機構が発展

ヤマハのクラッチ操作レス化の歴史は「FJR1300」から始まる。2006年に刷新された「FJR1300」に、世界初の自動クラッチ「YCC-S」が搭載された。

「YCC-S」は、クラッチ操作のみを自動化した機構である。変速自体は足元のペダルもしくは左手元のスイッチで随時行う必要がある。

しかし、スロットルの開度やエンジン回転数、速度を随時モニタリングしているため、クラッチの繋がりはスムーズに行う。例えば停止状態から一気にアクセルを開いても、その状態をバイクが把握し最適な半クラッチ操作をしてくれるため、気持ちの良い発進が可能だった。

今回発表された「Y-AMT」は、さらに変速も自動化した機構となる。「YCC-S」で培った自動クラッチ技術がベースにあるのはもちろんで、今度は変速もバイク任せとなる。

簡単に表現すれば「オートマチックトランスミッション(AT)」となるのだが、四輪のトルクコンバータ式のATとは異なる。それゆえ「AMT」という名称が使用されている。

トランスミッション自体は変わらず

従来のトランスミッションと異なる点は、自動化にあたってのアクチュエーターを2つ備えている点だ。ひとつはクラッチ、もうひとつは変速用となっている。ただ、トランスミッションの内部構造を大きく変えているわけではない。クラッチレバーの作動機構とシフトペダルの作動機構を代行する小型装置が新たに取り付けられていると考えれば良い。そのためAT化にあたっての重量増は、2.8kg(=ユニットの総重量)と軽微である。

そして新たに備わる装置としては各コントロールユニット(コンピュータ)である。「ECU(エンジンコントロールユニット)」に加えてアクチュエーターの制御を司るユニット「MCU(モーターコントロールユニット)」が備わっている。これらのユニットを統合制御し、シフトアップ時の点火・燃料噴射、シフトダウン時のスロットル開度、そして最適なクラッチ・シフト操作を統合制御する。また、シフトロッド内にスプリングを備えることで、素早いシフトチェンジを実現するとともに、その際のショックを低減する。

ATモードの他にMTモードも用意される。両車は左グリップ側のスイッチで簡単に切り替えることが可能。より思い通りにバイクを操りたいなら「MTモード」を選択すれば良い。シフトスイッチも左手の親指と人差し指で操作できるものなので力まずに変速することができる。

ただ、「YCC-S」のように左のフットペダルにもシフトスイッチを備えるかは未定だ。従来のMTユーザーから見れば寂しいようにも感じるが、操作系統が手元と足元に2系統あると、どちらを操作しようか迷う場面が必ずある。手元なら手元の1箇所に集約することでその迷いがなくなり集中力を保てると考えられる。従来のMT車を全て「Y-AMT」に置き換えて乗り換えを促すようなものではないので、従来の変速方式とは別のものと考えると良いだろう。

コーナリングで迷わない

以前の「YCC-S」が搭載されていたのは、グランドツアラーの「FJR1300」だった。しかし、「Y-AMT」が初搭載されるのはツアラーではなく「MT-09」となった。

このことから、スポーツ性を損なうことなく乗りやすさ・扱いやすさを向上させる点に「Y-AMT」の狙い所があると推測できる。トランスミッションの構造自体は従来から変わらないため、ATとはいえどもエンジンとのダイレクト感は損なわれない。さらにいえば、人間が行うよりもより確実かつスピーディに変速を行ってくれるのでスムーズで爽快な加速感を味わえるはずだ。

何より転倒のリスクも減らせるのではないだろうか。ワインディングを走るライダーなら経験があると思うが、コーナーに向けて減速する際にシフトダウンするかそのままいくか迷うことはないだろうか。その一瞬の迷いは致命的で、コンマ数秒のロスタイムが転倒事故につながることもある。このシフトダウンが自動になればその迷いがなくなり、より安全にコーナーを抜けれるようになるだろう。ヤマハは「スポーツ」と謳ってはいるが、裏の狙いは転倒リスクの低減にあるといえよう。

アダプティブクルーズコントロールの完全版が実現可能

「MT-09」に「Y-AMT」を搭載するとヤマハは公言したが、他のモデルにも展開予定があるという。具体的な車名は明かしていないが、「MT-09」に続いて「トレーサー9 GT+」に搭載される可能性は大きい。

「トレーサー9」はもともと「MT-09 トレーサー」という車名だっただけに、ベースは「MT-09」である。現行モデルのスペックを比較しても、エンジンはもちろんギア比も同一なので、「MT-09」向けのユニットをそのまま移植可能といえる。

「トレーサー9 GT+」としたのは、前走車追従に対応する「アダプティブクルーズコントロール」が搭載されているからだ。現状では前走車に追いついた場合、自動で減速はするがシフト操作はマニュアルだ。

自動の加減速に合わせてシフトも自動化できれば、完全なアダプティブクルーズコントロールになる。それらの同調用にコントロールユニットを統合する必要はあるが、実現困難というわけはないだろう。ロングツーリング時の快適性の向上は言うまでもない。「トレーサー9 GT+」の「GT」の価値をより高められるはずだ。

「MT-09 Y-AMT」の発売とともに、「Y-AMT」の展開と進化も期待したい。

キーワードで検索する

著者プロフィール

磐城蟻光 近影

磐城蟻光