見た目はフツーのバイク用フロントフォーク、でも中身は特許取得の新構造。どんな仕組み&乗り心地?

「目から鱗」の革新的アイデア。基本的な自然現象に着眼し、優れたサスペンション機能を提供する進化系フロントフォークの新構造についてお伝えしましょう。

REPORT●近田 茂(CHIKATA Shigeru)
PHOTO●山田 俊輔(YAMADA Shunsuke)
取材協力●株式会社オリジナルボックス

Hydraulic pump system fork

スケルトンの試作品を前に構造を説明する「株式会社オリジナルボックス」代表の國政 久郎さん。

バイクのフロントフォークはステアリングの上下ブラケット(三ツ又)にクランプ(固定)されて、前輪のアクスル(車軸)を支持する棒状の部品。もちろん可動(伸び縮み)し、緩衝装置としての役割も果たしているのはご存知の通り。
路面の凹凸で発生する衝撃(エネルギー)をやんわり受け止めて吸収するスプリングと、その動き(含む反動)を減衰し、車体(バネ上)の揺れを落ち着かせる、いわゆるダンパー機能も備えたサスペンションである。
棒状の筒が伸び縮みする様子が、ちょうど単眼望遠鏡に似ていることから「テレスコピック式」と呼び親しまれている。その道のプロとして40年にもわたりサスペンションの開発やチューニングに関わってこられた専門家の國政さんによると、「2輪でも4輪でもアウターケースにインナーチューブが入っている構造のものをツインチューブ(タイプ)と呼びます」と言う。
なるほどフロントフォークやリアショック、また4輪用でも、エア圧併用やガス封入式など、いくつかの種類や工夫は見られてきたが一般的にその基本構造はどれも同様な仕組みで仕上げられている。それらの呼称についても改めて納得である。
バイクのフロントフォークも古くから現在のかたちが主流となっている。もちろん例外はあるが、ほとんどの2輪車にごく当たり前の装備として広く普及してきた。それだけにその内部構造についてまで頓着する人は希ではないだろうか。
古き歴史を振り返ってみても、作動ストロークによって減衰力を段階的に変化させたり、制動時のブレーキ油圧を利用して減衰力を切りかえる等の工夫を競った時代を経た事が思い出される。またフロント周りの高剛性化を狙い、太いアウターチューブ側をクランプする倒立式フォークが登場。近年ではダンパー機能を圧側と伸び側をそれぞれ専用構造として左右に分離搭載。今では電子制御式のプレミアムなタイプも登場してきている。 
ただ、一般バイクユーザーの多くは、目に見えぬ内部構造などは気にもとめず、せいぜいごく一部のライダーが定期的なメンテナンスとしてオイルやオイルシールの交換に配慮している程度が実状だろう。

そんな中、サスペンションの試験設備を持つ株式会社オリジナルボックスの國政さんは、フロントフォーク作動時に内部で生じる「キャビテーション」(気泡の発生)が気になっていたと言う。
キャビテーションとは液体(ここではフォークオイルの事)が内部を移動する時の圧力変化に伴い発生する自然現象。それは急激な減圧(圧縮からの開放や負圧)時に発生すると言う。

キャビテーションとは。

普段は見ることができないキャビテーション(気泡)の発生を、直視できる状態で実演してくれた。

注射筒(シリンジ)の中にフォークオイルを入れて。→へ続く
筒先を指で塞ぎ、ピストンを引くと負圧が掛かった内部にはご覧の様なキャビテーション(気泡の発生)が生じる。



ここでお気付きの方もいるだろう。例えばブレーキオイル(フルード)に空気が混入すると(フェードによるベーパーロック)ブレーキレバーを握る圧力が上手く伝わらず制動力は低下してしまう。右手のレバータッチにはスポンジーな手応えを覚えブレーキが思う様には効いてくれない。なぜなら液体(オイル)と違い、気体(空気)は簡単に縮んでしまう(圧縮される)からである。
逆に言うとエンジンに水を吸い込んでしまったら、空気と違って圧縮できない液体はヘッドガスケットを簡単に吹き抜け(破損し)てしまう。
つまり、オイルの特性を活用して小さな穴(オリフィス)を通す事で減衰機能を生み出す仕組みを持つフロントフォークの中で、キャビテーションは本来あるダンパー機能を阻害する要因として見逃せないものなのだ。

次に示すフロントフォーク内部の構造図を見てほしい。多く普及している一般的なカートリッジ式フロントフォークでは、ボトムに固定されたチェックバルブ(逆止弁)を通り減衰を発生させている。
フロントフォークが縮むとロッド下端にあるバルブが下がり、オレンジ色で示す部分の油圧が高まることで、固定バルブの穴が開き減衰をしながら筒内にある外側部分に油圧が逃げて行く。つまりサスペンションの作動に対して必要となる減衰力の発生に若干の遅れが生じるそう。
さらに内部の圧力変化によって生じるキャビテーションが、フロントフォークの作動に即応した減衰力の発生を阻害する傾向がある。結果としてゴツゴツと跳ねるような挙動の発生が見過ごされてしまっていると言う。國政さんは、そんな現状をなんと改善できないものかとフロントフォークの革新を考えたそう。
その結果生まれたのが次の図に示した「スルーロッド式加圧ピストン」(Hydraulic pump system fork)構造である。
長年の経験で培われたノウハウを基に、内部構造を見直し、オイル流路を一新することで、減衰機構は基本的に正圧側で作用させている。加えてオイルの流量をできるだけ少なくするように改善。また1本の通しロッドにメインと加圧ピストンの二つをセットして共に作動させているのが特徴。そのため、先ずは比較的長めのストロークとサイズを持つフロントフォークで開発し、デモ車両としてカワサキ・Dトラッカーへの装着に帰結したと言う。
実は多岐にわたるお話を伺っていると、内容はどんどんディープなところへ及び、ますます難解かつその解説には困難を極めることが見えてくるので、詳細についての技術論は割愛するが、國政さんが前述のキャビテーションを嫌い、それを排除しようとしたのは、フロントフォークの作動時に、減衰力をレスポンス良く適切に機能させたいと考えたこと。それにより現状のフロントフォークよりさらに快適な乗り心地と優れた操縦安定性の追求を目指したことは間違いないのである。
果たしてその乗り味はどうか?

内部構造の概略図

●一般的なフロントフォーク

●革新的なスルー(通し)ロッド式➕加圧ピストン式

「内部構造を入れ替えてあります」と試作品を添えて披露してれたのは、共同開発者の國政 九磨さん。久郎さんのご子息である。
左側に革新のフロントフォークが採用され、減衰効果を発揮する。右側はスプリングのみ。トータルで軽量化にも貢献するという。
フロントフォークのトップエンドには伸び側の減衰アジャスターが装備されていた。
難しい理論をわかりやすく丁寧に解説してくれた。サスペンション開発やチューニングに関する第一人者としても知られている。

試乗車はカワサキ・Dトラッカー

試乗は少しアップダウンのある郊外の細いワインディングロード。舗装路のみのコースだったが、路面には所々に荒れた部分も目立っていた。
試乗車のフロントフォークは外観を見る限りノーマルと同じ。左右共に内部構造のみに手が加えられ、注目の減衰機構は左側に装備。トップエンドには20ノッチあるアジャスターも備えられていた。スプリングは右側のみに入っており、標準の左右二本分に相当する仕様を採用。バネ1本分の重量としては重くなっているが、トータルではいくらか軽量化にも貢献しているそう。
スタートして先ず最初に気付いたの、視覚情報から捉える路面状況と、乗り味にあらわれるフットワークに微妙な違和感を覚えたことだ。体感的には綺麗な舗装路面を走っているようなフィーリング。
もう少しゴツゴツとピッチング挙動を感じるのが自然だと思える状況だが、いとも何気なくスムーズに走ってくれる。そこでフロントフォークのボトムケース上端とインナーチューブの擦動面を指で触ってみると、実に小気味よく、しかしそれでいてとても穏やかな動きに終始してくれていることがわかった。
本来はノーマルのDトラッカーと同じ時に比較試乗してみたいのが本音だが、そうでなくてもフロントフォークの作動特性が異なる進化ぶりは理解できたのである。
それを言葉で表現するのは非常に難しいが、ファインチューニング後に当たりも取れた最高のコンディションに乗っているような感覚とでも言えようか。
また顕著にその良さが感じられたのは、ブレーキング時の車体の挙動にある。フロントフォークに突っ張るような固さがなく、フワッと沈み込む。いくらか穏やかなブレーキ操作に徹しているような感覚。
ノーズダイブから再び伸びるまでの挙動がゆっくりと感じられるほどスムーズ。その結果減速で前輪のタイヤが地面に押しつけられグリップ力が増す様子まで的確に把握でき、コーナーへの減速から旋回、そして立ち上がりまで一連の操作(動作)に落ち着きがある。
ハイペースで走っても穏やかな感覚を覚え、ウェットな路面に遭遇しても乗り味には常に安心感を伴うのが好印象だった。
何だか少し意地悪してみたくなって、50cm程度の段差から飛び下りてみたが、フロントフォークがスッと伸びた時も、ストンと着地した時もまるで猫足のごとくショックの無いフットワークを披露してくれた。

ゴツゴツ感のない安定した走りは、確かに安心感のある快適な乗り味を産み出していた。國政さんが、理想のサスペンションはどうあるべきかを真摯に追及して開発した成果が、そこにしっかりと認められることは間違いない事実である。
ちなみにこの新技術を投入したフロントフォークは「フロントフォーク内蔵油圧緩衝器」として既に特許取得済み。
いちユーザーとしては、バイクメーカー、あるいはサプライ企業がバイクの商品力や魅力を向上する手段のひとつとして、侮れない要素技術を誇れるこのフロントフォークを正しく評価し、その導入と普及に積極的な姿勢を示してくれることに期待したいと思えた。

試走路は荒れ気味だったが、舗装の新しい綺麗な路面を走る様な印象。
目指すラインのトレースがスムーズ。また乗り味には落ち着きが伴う。

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「見た目はフツーのバイク用フロントフォーク、でも中身は特許取得の新構造。どんな仕組み&乗り心地?」の1枚めの画像

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著者プロフィール

近田 茂 近影

近田 茂

1953年東京生まれ。1976年日本大学法学部卒業、株式会社三栄書房(現・三栄)に入社しモト・ライダー誌の…