【試乗記】ヤマハ製689ccエンジンを搭載したファンティックの大型スクランブラー、「CABALLERO Scrambler 700」

イタリアで誕生したFantic Motor(ファンティック・モーター)社と日本のヤマハ発動機は永きに渡って協力関係にあり、電動モビリティを視野に入れた現在も、その良好な関係が続いている。ここで紹介する「CABALLERO Scrambler 700/キャバレロ・スクランブラー700」も、両社の親密な関係から生まれたモデルである

REPORT:河野正士(Tadashi Kono)
PHOTO:Motor-Fan BIKE
衣装協力:クシタニ

ファンティックとヤマハのコラボによって誕生

イタリアのバイクブランドFantic Motor(ファンティックモーター社/以下ファンティック)の最新モデルであり最大排気量モデルが「CABALLERO Scrambler 700(キャバレロ・スクランブラー700)」だ。コンペティションモデルからトレールモデルまで、幅広い排気量とエンジン形式をラインナップするエンデューロ・シリーズ、そのエンデューロシリーズをベースにしたモタード・シリーズ、ダカールラリーなどに参戦するためのラリー・シリーズ、そしてキャバレロ・シリーズまで、ファンティックは多くのモデルをラインナップしているが、単気筒以外のエンジン形式を採用するのは、この「スクランブラー700」だけだ。

ユニークなことに、CP2と呼ばれる、この排気量689cc水冷DOHC4バルブ並列2気筒270度クランク・エンジンはヤマハ製である。基本性能が高く、またコンパクトなこのCP2エンジンは、「MT-07」「XSR700」「テネレ700」「トレーサー700/7」「YZF-R7」という、ヤマハ中間排気量の基幹モデルに搭載されている。この「スクランブラー700」は、ヤマハ以外のブランドに搭載された唯一のCP2エンジンなのだ。

このコラボレーションは、ファンティックとヤマハの永きに渡る協力関係によって実現した。大きなトリガーとなったのは、ヤマハの子会社であったイタリアのエンジンメーカー「Motori Minarelli(モトーリ・ミナレリ/以下ミナレリ)」を、ヤマハがファンティックに譲渡するとともに、両社の協力関係をより強化すると発表したこと。

ミナレリはかつてバイクも製造し、世界ロードレース選手権での優勝経験もあるイタリアのエンジンブランド。2002年にヤマハ傘下となってからは、ヤマハはもちろん、ヤマハ以外の二輪車メーカーにも小排気量エンジンを中心に、その開発と製造を行っていた。ファンティックとミナレリの関係は1970年代から続き、2016年のEICMAで発表された「CABALLERO」シリーズの125ccエンジンはミナレリ製だった。

その後、ヤマハとファンティックは互いの中長期的な経営戦略において、ミナレリというブランドを介して利害が一致。ミナレリのすべての株式がファンティックに譲渡されたのである。

また両社は、電動モビリティにおいても協業を進めている。2022年春にヤマハは「Switch On(スイッチ・オン)」と題して、ヤマハの次世代モビリティの中核をなす6台のEV二輪車およびE-Bike(電動アシスト自転車)、そしてE-モペッドを発表。そのなかにファンティックが開発し、すでに欧州で販売をスタートさせていたファンティック製品を元にしたE-BikeおよびE-モペットが含まれていた。今後は、EV領域でも両社の協力関係が続いていくと考えられる。

「スクランブラー700」に搭載されたCP2エンジンは、そんな両社の、ICE領域での協業の第一歩と言うわけだ。

CP2エンジンとオリジナルシャシーが生み出す個性

「スクランブラー700」は、同じCP2エンジンを搭載するヤマハの各モデルとは異なる走りの個性が与えられていた。それは他のCABALLEROシリーズと同じ、クロモロリ鋼管のメインフレームとアルミ削り出しのスイングアームピボットというフレームレイアウトを受け継ぎながら、並列2気筒のCP2エンジン用に特別に設計されたフレームによるところが大きい。

スクランブラーモデルらしくフロント19インチホイールを装着するが、テネレ700のようなアドベンチャーモデルに比べるとより軽快に走り、MT-07 に比べると落ち着いている。他のCABALLEROスクランブラー・シリーズがそうであるように、ワインディングを気持ち良く、そしてそこそこに速く走らせることができるが、スピード域が高くなるにつれてフロント19インチホイール特有の大らかさが出てくる。その足周りの反応を、ライダーがやや大きく体重移動したり、前後ともに150mmのホイールトラベルを活かして積極的に車体前後方向への重心移動を行ったりしながらスポーティに走るのはなかなかに楽しい。

そしてそんな走りの場面で、CP2エンジンの出力特性がライダーをサポートする。通常、大排気量の2気筒エンジンといえば、ハーレーダビッドソンに代表されるドコドコとした鼓動感と、それと連動した力強いトルク感を生み出す。しかしそのドコドコ感は、エンジンで回転数が落ち込んでから再加速を試みると、独特のギクシャク感が生み出す元となる。

しかしこのCP2エンジンは、ドコドコしない。そもそもCPとはクロスプレーンを意味し、エンジン内で上下運動または回転運動するパーツの慣性トルクを減少させ、シリンダー内の燃焼によって生まれるトルクだけを効率よく引き出す、ヤマハ独自のエンジン設計思想だ。それを実現することで、シリンダー内の爆発とリアタイヤが路面をつかむ感覚をクリアなものとし、アクセルを開けやすくすることでバイクを操る感覚を最大化しようというものだ。並列4気筒エンジンや並列3気筒エンジンと違い、理論上2気筒エンジンでは慣性トルクを打ち消すことはできないが、CP2エンジンでは270°クランクを採用することでクランク内圧の上昇も抑えるなどして、よりクリアなトルクを生み出している。

したがってアクセル開度に対する、エンジンの反応およびリアタイヤの反応、そしてリアタイヤが路面を掴む感覚が非常に分かりやすく、ワインディングはもちろん、ストップ&ゴーが連続する街中でも、車体挙動をコントロールしやすいのだ。

今回は筆者のスキル的問題で、オフロードは流す程度にしか走行することができなかったが、それでもリアタイヤが流れたときのコントロールのし易さは、このエンジン特性によることころが大きいと感じた。

125と500という、少しマニアックな排気量のエンジンを搭載することで“通好み”であったCABALLEROシリーズだったが、ヤマハ製700ccツインエンジンを搭載した「スクランブラー700」は、日本人ライダーにとっても親しみやすい存在だ。同時に、欧州で鍛えられた車体と、熟成が進んだエンジンが生み出すフィーリングは唯一無二。「スクランブラー700」を味わえば、多くのライダーがその魅力に心を奪われるだろう。

ライディングポジション&足つき性(170cm/65kg)

兄弟モデルのスクランブラー500よりも、わずかにシート高は高いが、シート形状やサイドカバーの形状により、スクランブラー700の方が足つき性が良い。また車体に跨がったときの感覚は、500とさほど変わらないコンパクトさを維持している

ディテール解説

ヤマハ製CP2エンジンをベースに、ファンティックおよびミナレリが出力特性を綿密に造り込んでいる。また車体の動きを正確に測定するIMU(慣性計測ユニット)を搭載。それによりコーナーリングABSやトラクションコントロールなど、高度な車体制御が可能になっているほか「ストリート」「オフロード」「カスタム」の3つのライディングモードを搭載
CABALLEROスクランブラー・シリーズのアイコン的ディテールであるアップタイプの2本出しサイレンサーも継承。エキゾーストパイプは、他のCABALLEROスクランブラー・モデルとは異なりエンジン下にレイアウト
クラシカルな丸型LEDヘッドライトの中央に、バータイプのデイタイムランニングライトをセット。個性的なデザインで、ひとめでスクランブラー700だと理解できる
小振りなテールライトやウインカーもLED製。高い視認性を確保しながらも、クラシカルなスタイルに貢献している。シートエンドに「FANTIC」のロゴをデザイン。グラブバーも標準装備
フロントフォークはマルゾッキ製φ45mm倒立フォークを採用。フロント19インチホイールにφ330mmのブレーキディスクをシングルでセットする。サスペンションストロークは150mm
リアブレーキシステムも、フロント同様ブレンボ製。リアホイールサイズは17インチである。前後タイヤは、ON&OFF共用のアドベンチャータイヤとして定評があるピレリ製スコーピオンラリーSTRをチョイスする
やや幅広のバーハンドルを採用。兄弟モデル/スクランブラー500に採用された、ハンドル剛性を高めるハンドルブレイス・タイプではない
ライダーが前後に動きやすい、フラットタイプのダブルシートを採用。肉厚のシートフォームを採用することで快適性を高めつつ、シート先端が細くデザインされていることから足つき性も向上させている
カラーディスプレイは、ギアポジションと速度計を中央に配置。その周りにエンジン回転計が配置されている。速度計の右側にイラストでライディングモードを表示する
このからディスプレイは走行フィールドの明るさを感知して、自動的に切り替わる。白ベースが日中用、黒ベースが夜間やトンネル用となる

「CABALLERO Scrambler 700」主要諸元

■ホイールベース 1,453mm
■シート高 830mm
■車両重量 175kg
■エンジン形式 水冷4ストロークDOHC4バルブ並列2気筒
■総排気量 689㏄
■ボア×ストローク 80×68.6mm
■燃料供給方式 FI
■最高出力 74ps@9400rpm
■最大トルク 70Nm@6500rpm
■燃料タンク容量 13.5L
■フレーム クロームモリブデン鋼 ダイヤモンド構造
■サスペンション(前・後) マルゾッキVRMシステムφ45mm倒立フォーク/150mmトラベル・マルゾッキVRMシステム、プリロード調整可能/150mmトラベル
■変速機形式 6速リターン
■ブレーキ形式(前・後)330mmシングルディスク×BREMBO製ラジアルマウント4ピストンキャリパー・245mmシングルディスク×BREMBO製キャリパー
■タイヤ ピレリ製スコーピオンラリーSTR
■タイヤサイズ(前・後)110/80-19・150/70-17
■価格 1,750,000円(消費税込)

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著者プロフィール

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河野 正士

河野 正士/コウノ タダシ
二輪専門誌の編集スタッフとして従事した後フリーランスに。その後は様々な二…