1980~1990年代のFを彷彿とさせる、いい意味で中途半端なキャラクター。 ホンダCBR650R E-Clutch 1000kmガチ試乗【2/3】

同じホンダのミドル並列4気筒車、スーパースポーツのCBR600RRが念頭にあったからか、正直言って当初の印象はあまり芳しくなかった。ところが距離が進むにつれて、筆者はCBR650Rの資質に大いに感心することになったのである。

REPORT●中村友彦(NAKAMURA Tomohiko)
PHOTO●富樫秀明(TOGASHI Hideaki)

ホンダCBR650R E-Clutch……1.188.000円

スチールフレームはツインチューブタイプで、ステアリングヘッドとスイングアームピボットを結ぶメインパイプは意外に細身。アルミ鋳造のスイングアームは左右非対称。

そこはかとない物足りなさ

2014~2018年に販売されたCBR650Fの後継機種として、2019年から発売が始まり、2024年型で仕様変更を受けたCBR650Rは、ホンダのミドルクラスの中核を担う存在にして(基本設計を共有する兄弟車のCB650Rを含めた累計だと、最近は年間約3万台を販売)、2輪メディア内での評判もすこぶる良好なモデルである。

現在のミドル市場で4気筒は貴重だし、それでいて価格はライバルの2/3気筒勢と大差がない、CBR650R:110~118万8000円、CB650R:103万4000~108万9000円なのだから、それはまあ当然のことだろう。

ただし今回の試乗の前半で、約600kmを走った段階での僕の印象は、あまり芳しくなかった。その理由は中途半端なキャラクターだ。具体的な話をするなら、ルックスはスーパースポーツ的で、ライディング中の上半身は適度に前傾するものの、だからと言って峠道での運動性が抜群なわけではないし、高速道路での安定感は盤石と言いたくなるレベルで、その気になれば200km/h前後での巡航ができそうなのだが、防風性能は万全とは言い難い。また、加速時に中回転域で発生するエンジンの振動や、常用域でいまひとつの乗り心地(高速域は至って良好)なども、個人的には気になった点である。

そしてそういった僕の不満の背景には、同じホンダの並列4気筒車、CBR600RRの出来がムチャクチャいい……という事情があると思う。もっとも価格が157万3000/160万6000円のCBR600RRを、CBR650Rの比較対象として見る人はいない気がするし、そもそも2台のホンダ製ミドル並列4気筒車は目指す世界が異なるのだが、過去の試乗でCBR600RRのウルトラスムーズなエンジンと超シャープな旋回性に感動した身としては、CBR650Rにはそこはかとない物足りなさを感じてしまうのだ。

環境の変化に強い柔軟な特性

ところが、試乗期間後半の約400kmで印象は大きく変化することとなった。カワサキW1SAに乗る友人Kの案内で、茨城県のさまざまなワインディングロードや秘境スポットを巡るツーリングをしたところ(ノートン・コマンド750に乗る友人Eも参加)、これはこれで大いにアリじゃないか……という気がして来たのである。

友人KとEの愛車は、いずれも1970年代生まれのパラレルツインで、いずれも機関は絶好調。

中でも僕が感心したのは、見通しと路面状況が悪いチマチマした峠道での扱いやすさ。試乗期間の前半に、見通しと路面状況が良好な峠道を快適に速くれることは把握してたけれど、このバイクは思い切ったアクセルワークや荷重移動が行いづらい状況でも、それはそれでという気持ちで、余裕を持って淡々と走って行ける。

もっとも、低中回転・低中速域が充実していることが普通の2気筒エンジンだったら、僕はそういった資質に特に感心しなかったのかもしれない。逆に言うなら、高回転域で本領を発揮するはずの4気筒エンジンなのに、環境の変化に強い柔軟な特性を実現し、車体も同様の資質を備えていることが、僕としては意外だったのだ。

なおエンジンに関しては、前述したようにホンダの4気筒にしては加速時の振動が多いものの、ここぞという場面では4気筒ならではの高回転域の咆哮、各気筒の爆発が徐々に整いながらレッドゾーンに向かってクァーッ‼と駆け上っていくフィーリングが堪能できた。僕はべつに4気筒至上主義ではないのだが、この特性を体感すると、刺激や高揚感という点において、やっぱり4気筒には唯一無二の魅力が備わっているように思う。

2台のミドルCBRはやっぱり別物

というわけで、試乗の後半になって印象は好転したのだが、僕がCBR650Rの本質を心から実感したのは、2人の友人と別れて自宅に向かう高速道路の途中だった。と言うのも、走行開始からすでに12時間以上が経過していたにも関わらず、その時点での僕は心身にあまり疲労を感じていなかったのである。そして第1回目に記した渋滞路におけるEクラッチの美点を思い出した僕は、ルックスがスーパースポーツでも、CBR650Rの本質はロングランが快適なスポーツツアラー、いろいろな状況を過不足なくこなせるオールラウンダーであることを理解し、当初は不満だった中途半端なキャラクターに対して、好意的な解釈ができるようになったのだ。

一方でKが設定したまあまあ過酷なルートを思い出すと、もし車両がサーキット指向が強くてスパルタンな特性のCBR600RRだったら、この日のツーリングは相当に厳しく、帰路では身も心も疲労困憊になっていたに違いない。いずれにしてもCBR650Rの話をするときに、CBRR600RRを比較対象として持ち出すのは野暮な話で、2台のミドルCBRはやっぱり別物なのである。

そしてその事実に気づいた時点で、僕の脳内に浮かんだのはCBR600RRのご先祖様、1987~1998年に販売されたスチールフレームのCBR600Fだった。改めて振り返るとF3以前のCBR600Fは、クラストップの運動性能を実現しつつも、スポーツツアラー/オールラウンダー的な資質を備えていたのだ。となるとCBR650Rは、ホンダのミドル4気筒が進化する途中で失った資質を取り戻して原点に回帰し、現代ならではの最新技術を随所に投入したモデル……と言えるのかもしれない。

装備重量209kg(Eクラッチ仕様は211kg)・軸間距離1450mmという数値は、2/3気筒を搭載するライバル勢と比較すると、やや重くてやや長い。エンジンが4気筒であることを考えれば当然……と言えなくはないのだが、CBR600RRは193kg・1370mm。

主要諸元

車名:CBR650R E-Clutch
型式:8BL-RH17
全長×全幅×全高:2120mm×750mm×1145mm
軸間距離:1450mm
最低地上高:130mm
シート高:810mm
キャスター/トレール:25°30′/101mm
エンジン形式:水冷4ストローク並列4気筒
弁形式:DOHC4バルブ
総排気量:648cc
内径×行程:57.0mm×46.0mm
圧縮比:11.6
最高出力:70kW(95ps)/12000rpm
最大トルク:63N・m(6.4kgf・m)/9500rpm
始動方式:セルフスターター
点火方式:フルトランジスタ
潤滑方式:ウェットサンプ
燃料供給方式:フューエルインジェクション
トランスミッション形式:常時噛合式6段リターン
クラッチ形式:湿式多板コイルスプリング
ギヤ・レシオ
 1速:3.071
 2速:2.352
 3速:1.888
 4速:1.560
 5速:1.370
 6速:1.214
1・2次減速比:1.690・2.800
フレーム形式:ダイヤモンド
懸架方式前:テレスコピック倒立式φ41mm
懸架方式後:直押し式モノショック
タイヤサイズ前:120/70ZR17
タイヤサイズ後:180/55R17
ブレーキ形式前:油圧式ダブルディスク
ブレーキ形式後:油圧式シングルディスク
車両重量:211kg
使用燃料:無鉛レギュラーガソリン
燃料タンク容量:15L
乗車定員:2名
燃料消費率国交省届出値・定地燃費:31.5km/L(2名乗車時)
燃料消費率WMTCモード値・クラス3-2:21.5km/L(1名乗車時)

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著者プロフィール

中村友彦 近影

中村友彦

1996~2003年にバイカーズステーション誌に在籍し、以後はフリーランスとして活動中。1900年代初頭の旧車…