ヤマハ・テネレ700、ローダウン仕様&ローシートを試してみた。適応身長は170cm?175cmから?|1000kmガチ試乗でアレコレ感じたこと。①

抜群の悪路走破性を備えているものの、乗り手の体格と技量をある程度問うバイク。7月から国内販売が始まったテネレ700は、そういうキャラクターである。ただし低車高仕様のローは、敷居を大幅に下げているようだ。

REPORT●中村友彦(NAKAMURA Tomohiko)
PHOTO●富樫秀明(TOGASHI Hideaki)

※2020年10月3日に掲載した記事を再編集したものです。
価格やカラーバリエーションが現在とは異なる場合があります。

ヤマハ・テネレ700ロー

ヤマハ・テネレ700ロー……126万5000円

ヤマハ・テネレ700ロー
テネレ700の価格は、ノーマルもローも同じ。なおローダウンリンクとローシートは純正アクセサリーという位置づけで、部品として購入する場合の価格は、1万1880+2万7500円=3万9380円。

アドベンチャーツアラーではない?

 今回の試乗では、あえて低車高仕様のローを選択した。その理由を説明するにあたって、まずは僕自身のノーマル=標準車高仕様に対する印象を記しておきたい。

ヤマハ・テネレ700ロー
フロントマスクは、近年のダカールラリーに参戦しているWR450Fを思わせる雰囲気。LEDヘッドライトは、上2灯がローで、ハイでは4灯すべてが点灯。

 世間ではアドベンチャーツアラーに分類されることが多いものの、僕にとってのテネレ700はオフロード車である。一般的なオフロード車と比べれば、高速巡航は格段に快適だし、まったり走行時の充実感や外装の質感の高さは、オフロード車の範疇に収まっていないけれど、ここぞという場面での反応、トータルでの印象は紛れもなくオフロード車。その特性をどう解釈するかは人それぞれだが、常日頃から県道や農道や林道をメインとしたツーリングを楽しんでいる身としては、テネレ700は“我が意を得たり!”と言いたくなる特性なのだ。

ヤマハ・テネレ700ロー
270度クランクの並列2気筒は、MT-07から転用。吸排気系や2次減速比は専用設計で、エンジン内部やECUの変更に関するアナウンスは特に行われていない。

 僕がテネレ700で特に感心したのは以下の3点。まず1つ目は、270度クランクの並列2気筒が発生するトラクションの濃厚さ。もっとも、同じエンジンを搭載する既存のMT-07やXSR700だって、トラクションはわかりやすかったのだけれど、車体と吸排気系を専用設計したテネレ700は、さらに3割増し?と言いたくなる印象で、舗装路ではリアのグリップ力、未舗装路ではリアのスライドを、自在にコントロールしている感触が味わえる。

 そして2つ目は、抜群の悪路走破性。21/18インチのホイールサイズと、F:210/R:200mmのサスストロークを考えれば、抜群で当然と言う人がいるかもしれないが、他の媒体の仕事で、ノーマルでモトクロスコースを走った僕は、一般的なアドベンチャーツアラーとは次元が異なる、車体の包容力に感激。中でもジャンプ後の車体の挙動、着地からすぐに加速に移行できる足まわりの安定性は、感激を通り越して驚きだった。

ヤマハ・テネレ700ロー

 3つ目はABSのみの電子制御と価格の安さだ。僕はべつにハイテク嫌いではないのだが、テネレ700を走らせていると、パワーがそこそこで車重が軽く、すべての挙動がつかみやすければ、トラクションコントロールやエンジンモード切り替え機構などは、必要ないんじゃないか……という気がして来る。いずれにしても、フロント21インチで多種多様な電子制御を装備する、他社製ミドルアドベンチャーの価格が、KTM 790アドベンチャー:156万3000円~、BMW F850GS:156万1000円~、トライアンフ・タイガー900ラリー:166万円~という事実を考えると、テネレ700の126万5000円は、オーソドックスな構成を採用したことの恩恵なのだろう。

業界内の評価は賛否両論

ヤマハ・テネレ700ロー

 そんなわけで、テネレ700が気に入った僕ではあるけれど、業界内の評価は賛否両論。大柄な人やオフロード好きは、十中八九以上の確率で絶賛するものの、そうではない人は、リッタースーパースポーツを語るときと同じような口調、“私の体格では無理”、“ここまで本格的じゃなくてもいいのに”という感じで否定する。その原因は、アドベンチャーツアラーの世界では相当に高い部類となる、875mmのシート高だ。

 もちろんオフロードの世界なら、875mmという数値は極端に高いわけではないし、海外で純正アクセサリーとして販売されるラリーシートが、ノーマル+約35mmという数値を公表することを考えれば、開発陣は875mmでも、ある程度は足着き性を考慮したのかもしれない。とはいえ、業界内のさまざまな意見を聞いた僕は、日本市場ではシート高が837mmのローが、ある程度の支持を集めそうな気がしたので、今回は2つの純正アクセサリーパーツ、リアサスのローダウンリンク:-18mmとローシート:-20mmを標準装備する低車高仕様で、じっくり走り込んでみることにした。

身長170cm前後で何とかイケそう

ヤマハ・テネレ700ロー

 ローの美点は言わずもがな、足着き性が良好になることである。もっとも身長182cmの僕では、どのくらい良好になったかが把握しづらいので、この件でも業界内のさまざまな人に意見を聞いてみたところ、身長170cm前後で何とかイケそうなことが判明。ただし同じ170cmのライダーでも、足の長さや足着き性に対する考え方は異なるので、誰もがOKというわけではないのだが、“要175cm以上”、あるいは、“要オフの腕前中級以上”の感があるノーマルと比較すれば、ローはかなりフレンドリーと言っていいだろう。

ヤマハ・テネレ700ロー

 ただし、得るモノがあれば失うモノもあるのが世の常で、ローはテネレ700本来の魅力の何割かを失っていた。まず最も大きな失ったモノは、冒頭で述べたオフロード車然とした感覚。着座位置が38mm低くなったローのハンドリングは、一般的なアドベンチャーツアラー的、あるいは、’70~80年代前半のビッグバイクを思わせるところがあって、ノーマルほどシャキシャキ&スパスパとは走れない。もっとも人によっては、ハンドリングが適度に穏やかなローのほうが好み、というケースがありそうなので、この件は必ずしもマイナス要素ではないと思う。

 それに続く失ったモノは、ライポジ関連パーツのフィット感。ニーグリップ時には、ガソリンタンクカバー/サイドカバー側面の面積に物足りなさを感じるし、右足の脛に接触するクラッチ部のガードや、シート座面の低下で相対的に高くなった(なりすぎた?)ハンドルも、ノーマルの絶妙なフィット感を知っていると、ちょっと残念に思えてしまう。さらに言うなら、フロントブレーキのわずかな違和感や(着座姿勢が変化したせいか、利き始めがやや唐突に思える)、乗り心地の微妙な悪化も(リアショックの伸圧ダンパーを5クリックずつ抜いたら、多少は改善された)、個人的には気になった要素だ。

仮想ミドルなら、テネレ率90%

 そして300kmほど走ってローの特徴を認識した僕は、続いて、リアサスのリンクはローのままで、シートだけをノーマルに変更して走ってみた。言ってみれば、シート高855mmの仮想ミドルである。そしたらなんと……。

ヤマハ・テネレ700ロー
上がローシートで、下がノーマルシート。ローの座面は前傾しているが、ノーマルはほぼフラット。
ヤマハ・テネレ700ロー

 問題点は大幅に緩和されたのだ。イメージ的には、ローをテネレ率80%とするなら、仮想ミドルはテネレ率90%という感じだろうか。もちろん、シート高はローより高くなるし、それでいて悪路走破性はノーマルに及ばないはずだが、本来のオフロード車感は何とか維持できている。そしてせっかくの機会なので、ノーマルリンク+ローシートを試してみると、こちらはテネレ率85%という印象で、何だか中途半端な特性になってしまった。

ヤマハ・テネレ700ロー
手で持っているのがノーマルリンク。ローダウンリンクと比べると、軸間距離が15mmほど短い。

 まあでも、ここまでに述べた3つの仕様とノーマルの中から、どれをベストと感じるかは乗り手次第である。中にはノーマルのシート高をマイナス要素と感じない、小柄なライダーもいるだろう。ただし個人的には、ローを購入したライダーには、慣れが進んだらノーマルシートを試して欲しいし、僕がテネレ700のオーナーになったら、基本はローダウンリンク+ノーマルシートで乗りそうな気がする。“身長182cmのヤツが何を言っているんだ”と思われそうだけれど、そもそも普段の僕は、オフロードを激走するタイプではないので。

ヤマハ・テネレ700ロー

 なお世の中には、ローの837mmでもまだ厳しい、と感じるライダーもいると思う。そこで、さらなる低車高仕様の可能性を探るべく、ローの標準状態からリアショックのプリロードアジャスターを最大限に弱くしてみたところ……。シート高は明らかに下がった。実測はしていないものの、おそらく825mm前後ではないだろうか。とはいえ、そこまでシート高を下げると、ハンドリングは露骨に悪くなる。車体を傾けると、セルフステアの領域を超えた切れ込みが発生するし、停止直前はフロントまわりがキョロキョロしてどうにも落ち着かない。逆に言うならローは、リアサスのリンク+シートのみで実現できる低車高仕様のほぼ限界で、現状以上の低さを求める場合は、フロントフォークやライポジ関連パーツの見直しが必要になるのだろう。

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著者プロフィール

中村友彦 近影

中村友彦

1996~2003年にバイカーズステーション誌に在籍し、以後はフリーランスとして活動中。1900年代初頭の旧車…