これはいいオートマチック。電子制御変速システムY-AMTはМT-09をどのように進化させたのか

近年、色々なメーカーからクラッチや変速の自動制御システムを採用したマシンが登場してきている。ライダーの負担を減らすだけでなく、新しいライディングの楽しさにつながると考えられていからである。今回はヤマハのY-AMTを採用したМT-09をストリートで試乗することにした。

ヤマハMT-09 Y-AMT ABS……1,364,000円

ヤマハ独自の電子制御変速システムを搭載

Y-AMTはヤマハが独自に開発した電子制御変速システムだ。クラッチと変速を自動で行うところはホンダのDCTと似ているが、DCTは4輪のスポーツカーなどて使われたシステムを二輪用に設計したもの。1速.3速.5速、発進用と2速、4速、6速を受け持つ2つのクラッチがあり、シフトのときはこのクラッチを交互に入れかえるから変速のロスが少ない。対してヤマハは既存のミッションを使用し、アクチュエーターでクラッチと変速を制御しているから機構はまったくの別物である。

ヤマハでは10年以上前からFJR1300ASに電子制御クラッチを装備してきた。当初はクラッチレバーが存在しないだけだったが、後年は車速に応じてシフトダウンする機能に進化した。そういった時代を経てクラッチと変速操作を電子制御で行うY-AMTが登場することになったわけだ。

Y-AMTが搭載されたMT- 09は、ヤマハのクロスプレーンコンセプトから生まれた3気筒エンジンを搭載。コントロールする楽しさを追求した車体と足回りが特徴のスポーツネイキッドだ。

Y-AMTが搭載されたことによる重量増加は2.8kg。アクチュエーターやコントロールユニットがどれだけ軽量コンパクトにできているかが良くわかる。価格は11万円アップとなっている。

外観を見てМT-09と大きく違うのはクラッチレバーとシフトペダルがないところ。クラッチカバーにはアクチュエーターの出っ張りがある。

その他スイッチボックスにはマニュアルで変速を行うボタンなどが追加されている。

完成された自動変速システム

Y-AMTにはクラッチレバーとシフトペダルがない。エンジンを始動したらオートマチックモードにするか、あるいはマニュアルモードにしてシフトを操作するボタンで1速にシフトする必要がある。まずはオートマチックモードでしばらく走ってみることにした。
試乗場所がストリートなので高回転を常用するような走り方はできなかったが、市街地やツーリング的な走りでは気持ちよくシフトアップ、シフトダウンしてくれる。変速するタイミングも的確なのでストレスは皆無。追い越しで急加速する時のキックダウンも俊敏に反応してくれるのでタイムラグがない。

マニュアルモードにしたときは左スイッチボックスにあるボタン操作でシフトアップ、シフトダウンを行うことになる。一般的なマニュアルミッションのバイクに比べれば楽なことは確かで、スポーツライディングをしているときは便利かもしれない。下半身で車体をホールドしたままで操作できるし、左に深くバンクして足がペダルの下に入りにくいような状態でもシフトすることができるからだ。
モードを頻繁に切り替えて走っていると、マニュアルなのについシフトダウンを忘れてしまうことがあるけれど心配はない。マニュアルモードでもシフトダウンせずに減速した場合、停車直前に1速に入る機能がサポートしてくれる。

Y-AMTで良いのはクラッチの制御が自然なところ。半クラッチの状態がスムーズなのである。Uターンするときもリアブレーキを少し使ってやれば、ハンドルをフルロックさせた状態での転回も違和感なく行うことができた。

静止状態から全開加速したときは1速から2速への変速のショックが大きめな印象を受けたが、これは他の自動変速のバイクなどと同時に比較してみないと差があるかどうかはハッキリとはしない。

3気筒エンジンの排気音とフィーリングは相変わらず素晴らしい。中速域の力強さはいつ乗っても楽しいと思う。高回転の伸びやかな感じもいい。
エンジンのモードを切り替えるとフィーリングがずいぶん変わって、スポーツモードにすると相当に元気になる。低いギアで全開加速するとフロント持ち上げ気味にして加速していく様子は迫力だ。中速域が非常に強力なエンジンなのでストリートでノンビリと走るのであれば、ドライであってもレインモードにしておいたほうが走りやすく感じた。

ストリートで楽しめるハンドリング

初期のМT-09は低速から荒々しく吹け上がるエンジンだったことに加え、ピッチングモーションが大きくて、ジャジャ馬感が強かったけれど、その後は随分調教されてきて、このモデルではとても乗りやすくなっている。ハンドリングは素直で交差点を曲がるよう低速のコーナーリングでも安心してバンクさせていくことができる。当初からのスポーティさを残したまま、とても完成してきている印象を受けた。

サスペンションのストロークは多めなのだけれど、ダンピングが適度に効いているので加減速での姿勢変化もそれほど大きくない。スタンダードの設定で走っていると大きめのバンプを通過するときに若干ショックを感じることはあるけれど、普通の路面であれば特に乗り心地も悪い方ではない。

自動変速システムに関しては、ホンダのDCTに加え、BМWからも登場しているのは御存知の通り。それらと比べてY-AMTが特に優れているとか、あるいは劣っているというような印象は受けなかった(同時に比較試乗してみたら色々と違いを感じるだろう)。

ただ、目指しているところは若干違うような感じは受ける。МT-09  Y-AMTのホームページに「スポーツライディングをもっと愉しむ」と謳われているように、ストリートでのイージーライディングだけではなく、スポーツライディングの幅を広げていこうとしているのだろう。
そうだとすれば、今後搭載してくるバイクで他メーカーとの差別化を図ってくるのかもしれない。

同じマシンでサーキットを走った知人からは、スポーツライディングの場合は自分で変速のタイミングを決められるマニュアルモードのほうが走りやすかったという意見も聞いたのだが、釈然としない部分もあるので今後機会があったらサーキットとワインディングを実際に走って検証してみたいものである。

ポジション&足つき(身長178cm 体重75kg)

スポーツネイキッドらしく低めのハンドルと後退気味のステップが特徴。特筆しておきたいのはステップが内側に絞られているところ。ヒールプレートが張り出しているとマシンをホールドしようとしたとき、踵が当たってしまうと下半身のフィット感が失われて膝も開くにくくなる(そういうマシンは少なくない)。その点МT-09のポジションは細かい部分までとても良く考えられているから、スポーツライディングでもマシンをコントロールしやすい。

シートの前方が絞られていて、足つきは悪くないが、クラッチカバーが出っ張っていて右膝に当たる。極端に邪魔というわけではないが、カバーの角の部分が当たるので、気になるかもしれない。

ディテール解説

ホイールはヤマハ独自の回転塑性加工で製造されている。薄肉化によって軽量に仕上げられている。
888cc水冷DOHC直列3気筒エンジン。Y-AMT(YAMAHA AUTOMATED MANUAL TRANSMISSION)がクラッチと変速を自動制御する。
リアショックはリンクを介してスイングアームに取りつけられている。
ステップ位置は前モデルよりも若干後退した。ヒールガードが内側に追い込まれているので下半身でマシンをホールドしやすい。Y-AMTではシフトペダルが存在しない。
フロントキャリバーは異径4ポットでラジアルマウントされている。
クラッチカバーの前上部についているのがクラッチアクチュエーターのカバー。
ステンレスのサイレンサーは車体下部にあって低重心化に貢献。3気筒エンジンの排気音が心地よく響く。
リアブレーキはスライドピンタイプの1ポッドキャリパー
絞り込まれたシートは足つき性を向上させている。
シート下には電装品が収められている。シートレールは足つき性を考えて取り付けボルトを低頭化。
左スイッチの上部にあるのはクルーズコントロール。中央のスイッチで情報の操作や各種設定を行うことができる。
右ハンドルスイッチにあるのはキルスイッチ、スターターボタンとモードの切り替えスイッチ。
フラットで幅が広いハンドルはマシンコントロールがやりやすい。前モデルよりも若干ハンドルが低くなっている。倒立フォークのマシンとしてはハンドリ切れ角が大きめ(32度)なので取り回しやUターンもやりやすい。
ディスプレイは大型の5インチTFT液晶を採用。
ヘッドライトには非常に小型で薄いレンズを採用。上部にあるのはポジションライト。ヘッドライトはその下、左右に別れて装備されている。
倒立フォークはイニシャルと減衰力の調整が可能だ。
左スイッチボックスを前から見たところ。+のボタンがシフトアップ。人差し指で操作する。オートマチックモードで走っているときもボタン操作が可能。
左スイッチボックス下側の−のボタンがシフトダウン。親指で操作する。

主要諸元

MT-09 Y-AMT
認定型式/原動機打刻型式 8BL-RN88J/N722E
全長/全幅/全高 2,090mm/820mm/1,145mm
シート高 825mm
軸間距離 1,430mm
最低地上高 140mm
車両重量 196kg
燃料消費率*1 国土交通省届出値
定地燃費値*2
31.6km/L(60km/h) 2名乗車時
WMTCモード値 *3 20.8km/L(クラス3, サブクラス3-2) 1名乗車時
原動機種類 水冷・4ストローク・DOHC・4バルブ
気筒数配列 直列, 3気筒
総排気量 888cm3
内径×行程 78.0mm×62.0mm
圧縮比 11.5 : 1
最高出力 88kW(120PS)/10,000r/min
最大トルク 93N・m(9.5kgf・m)/7,000r/min
始動方式 セルフ式
潤滑方式 ウェットサンプ
エンジンオイル容量 3.50L
燃料タンク容量 14L(無鉛プレミアムガソリン指定)
吸気・燃料装置/燃料供給方式 フューエルインジェクション
点火方式 TCI(トランジスタ式)
バッテリー容量/型式 12V, 8.6Ah(10HR)/YTZ10S
1次減速比/2次減速比 1.680/2.812 (79/47 X 45/16)
クラッチ形式 湿式, 多板
変速装置/変速方式 常時噛合式6速/リターン式
変速比 1速:2.571 2速:1.947 3速:1.619 4速:1.380 5速:1.190 6速:1.037
フレーム形式 ダイヤモンド
キャスター/トレール 24°40′/108mm
タイヤサイズ(前/後) 120/70ZR17M/C (58W)(チューブレス)/ 180/55ZR17M/C (73W)(チューブレス)
制動装置形式(前/後) 油圧式ダブルディスクブレーキ/油圧式シングルディスクブレーキ
懸架方式(前/後) テレスコピック/スイングアーム(リンク式)
ヘッドランプバルブ種類/ヘッドランプ LED/LED
乗車定員 2名

 

 

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