レーサー色が強いドゥカティ・ハイパーモタード698モノのストリートユースは果たして現実的か?

ドゥカティ・ハイパーモタード698モノ……1,778,000円~

レース志向のスタイリングをさらにアップデート

ボディスタイリング全体の印象はやはりオフロードモデルに近い。ノーズからテールにかけてインテグレートされた流れるようなフォルムは、現代的で違和感がありません。特徴的なのは、従来からの水冷Lツインではなく水冷シングルエンジンを搭載していることです。同ジャンルのハイパーモタード950のほうは水冷Lツインをパワーユニットとしているのですが、この698モノに関しては新開発された水冷シングルを採用しているのです。モタード=シングルというイメージが僕にはありますので、名実ともにこれがドゥカティのモタードなのではないかと勝手に思ってしまいました。
外見で車高があるなぁとは思っていたのですが、いざ乗車するというときには「よっ!」と気合を入れてシートに跨ることになりました。なにしろシート高は864㎜もあるのです。身長178㎝の僕でさえそんな感じなのですから、平均的な170㎝程度の身長のライダーだとさらに気合を入れる必要がありそうです。とはいえ、ひとたび跨ってしまうと前後サスペンションが程よく沈みこんでくれるので、安心感を抱くほどじゃないにしろ、一応両足を着けることができます。また、サイドスタンドを払う際に車体を引き起こすのも容易です。車重は151㎏と軽量に抑えられているからです。これは250㏄クラスのロードスポーツモデルと大差ない数値です。
装着されたハンドルは高さ、幅ともにちょうど良く、自然でアップライトな乗車姿勢をもたらしてくれます。着座位置の前後の自由度も大きいので、ほとんどの体格のライダーに適切なポジションが取れると思います。ステップ位置と合わせた関係からも、ムリのない快適な走行ができると感じました。シート自体の座り心地は硬めですが、サスペンションの作動性がソフトなので、総体的には快適な乗り心地を実現しているところも、街中での普段使いからツーリングまでという一般的なストリートユースに合っていると思いました。
650の排気量からすればコンパクトなボディだ。しかしポジションにはゆとりがある
日本仕様でシート高は864㎜
車重が151㎏と軽いので、取り回し性は良好
前後サスペンションの沈み込みがあって両足が着く

新開発シングルエンジンはスパルタンだが、日常性の高いトルク特性も両立

ハイパーモタード698モノの名称から、心臓部のシングルエンジンは698㏄なのかな?と思うが、実際には659㏄となっています。なかなか紛らわしいですね。実はドゥカティの一般市販車用シングルエンジンは久々の登場なのです。1993年にレーシングマシンとしてスーパーモノ550というモデルを開発していますが、これは市販車ではありません。僕がいう久々というのは、60~70年代に発売されていた450デスモなどのシングルモデル以来という意味です。たしか250、350、450とあったのですが、これらを総称してシングルデスモなどと呼ばれていました。またスペインでライセンス生産された350ベントも空冷シングルエンジンでした。ドゥカティというとLツインを思い浮かべる人が多いと思いますが、かつてはシングルエンジンが主力だったのです。
前置きが長くなってしまいましたが、ハイパーモタード698モノに導入されたエンジンは、1299パニガーレの1285ccスーパークアドロエンジンから派生したもので、スーパークアドロ・モノと呼んでいます。このカテゴリーの市販車用エンジンとしてはもっともハイスペックで、シングルながら10250rpmをリミッターに設定した高出力高回転型エンジンとしています。バルブ駆動システムはデスモドロミックで、かつてのシングルデスモの伝統を継承しています。
いつもながら「バッテリーやセルモーターは大丈夫?」と不安に思ってしまう回り方のセルで始動します。左右に2本出しされたアップマフラーからはシングルらしい排気音が放たれます。アイドリング時の音量は思ったほど大きくはありませんが、アクセルを少し開けるとやはり、パンチのある音を響かせます。
現代のエンジンらしくライドバイワイヤを導入していて、4種のライディングモード(スポーツ、ロード、アーバン、ウェット)にコーナリングABS、トラクションコントロール、ローンチコントロールなどが装備されています。さらに スライド・バイ・ブレーキとウィリー・コントロールによって進入スライドやウィリーなどのモタード的な走りをサポートしてくれるようにもなっています。まあそんな過激な走り方をストリートで実行することはありませんが、最新の電子制御システムが高い安全性を実現しているのはたしかです。そして頻繁に使うのがライディングモードだと思います。
まずはロードモードでスタートしてみました。ハイパフォーマンスシングルらしくなかなかエキサイティングな吹け上がりで一気に加速していきます。はじめはそれほど高回転まで引っ張ることはしませんでしたが、いつものように加速させているつもりでアクセルを操作していくと、3速に入れるころにはすでにクルマの流れをリードしていました。高回転型エンジンですが低速トルクも十分に発生する特性で、市街地や一般道での制限速度で走る場合、4速、場合によっては5速まで使うことができました。
アーバンモードではわずかにマイルドな特性になりますが、ロードモードとそれほど大差はありませんでした。しかしレインモードではけっこう穏やかな特性になるので、文字どおりウエット状態でも安心してアクセル操作できそうです。このエンジンのパフォーマンスを体感するならやはりスポーツモードがおすすめです。モトGPで圧倒的な速さを見せつけているドゥカティが、もっともパワフルなシングルエンジンと自負するだけあって、実にエキサイティングなパワーフィールを体感できます。一般道での限られた条件の中でもそれは可能で、現実的に使いやすいというわけじゃありませんが、自制心を失わなければ瞬発力の魅力に浸れます。
今回は市街地と郊外の一般道という限られた中での試乗でしたが、レースパフォーマンスを有しながらもストリートで十分に楽しめるシングルエンジンだと思いました。同時に、シングルの可能性はまだまだあるということを実感しました。

軽量ボディがもたらす軽快なハンドリングはストリートでも生きる

151㎏の軽量ボディに77.5psの最高出力を発揮するエンジンの組み合わせは、高い機動性を実現するには十分なスペックです。なにしろ走り出した瞬間から軽快なフットワークを見せてくれ、狭い裏道もまったく苦になりませんでした。旋回性も高く、バンク中の安定感も高いので、交差点を曲がるのが楽しくなるほどでした。
コーナリングに際しても実にニュートラルに反応してくれ、スッと向きを変えてくれます。これはもちろん軽量ボディということもありますが、マルゾッキ製倒立フロントフォーク、ザックス製モノショック式リアサスペンションの作動性の良さも貢献しています。初期作動がソフトで、高過重ではしっかりと踏ん張りが効いてタイヤを路面に押し付けてくれる。サスペンションとして求められる性能を高いレベルで実現しているので、それもハンドリングの良さにつながっているんだと思います。
ブレーキは前後ともブレンボ製のシングルディスクを装備しています。コントロール性、制動力ともに十分で、一般道での使用であればノーマルでまったく問題ないと感じました。
いまや日本市場では希少なモタードモデルですが、だからこそその独特な走りの世界を楽しむには最適なモデルだと思いました。手ごろなバイクとしてカワサキKLX230SMを選択するのももちろんありですが、ハイパフォーマンスシングルのスパルタンな走りを堪能するならやはり、このドゥカティハイパーモタード698モノ一択になりますね。

ディテール解説

新開発のスーパークワトロモノ。水冷単気筒DOHC4バルブ659.3ccエンジンは最高出力77.5ps/9,750rpm、最大トルク63Nm/8,000 rpmのスペックを誇る
シングルエンジンながらアップタイプのツインマフラーを採用する
アップタイプのパイプハンドルに強固なハンドガードを装備
メーターは3.8インチと小型のLCDディスプレイを装備。黒バックに白文字表示で視認性が高い
フロントサスペンションはマルゾッキ製のΦ45㎜倒立フォークで、細かなセッティングが可能なフルアジャスタブルだ
リアサスペンションはボトムリンク式モノショックで、ザックス製のフルアジャスタブルを装備する
フロントブレーキはΦ330㎜ローターにラジアルマウント4ポットキャリパー装備のブレンボ製シングルディスクブレーキ。タイヤサイズは120/70ZR17
リアブレーキもブレンボ製ディスクで、Φ245㎜ローターに2ポットキャリパーを装備する。タイヤサイズは160/60ZR17
デイタイムランニングライトを採用したヘッドライトはフルLED
リアフェンダーにビルトインされたテールランプは、急ブレーキング時には点滅する仕組み
クイックシフターは市街地やツーリングでも便利で、ワインディングなどではスポーティな走りをサポートしてくれる
前後に自由度が大きくさまざまなライディングに対応してくれるダブルシート。やや硬質な座り心地だ

主要諸元

型式:スーパークアドロ・モノ、単気筒、気筒あたり4バルブ、デスモドロミック・バルブ駆動システム、2本のバランス・カウンターシャフト、水冷

排気量:659cc

ボアXストローク:116 x 62.4 mm

圧縮比:13.1:1

最高出力:77.5 ps (57 kW) @ 9,750 rpm

最大トルク:63 Nm (6.4 kgm) @ 8,000 rpm

燃料供給装置:電子制御燃料噴射、直径62mm径相当の楕円スロットルボディ、フル・ライド・バイ・ワイヤ・システム

エグゾースト:1-2エキゾーストシステム、アルミニウム製ツインマフラー、触媒コンバーター、O2センサー

ギアボックス:6速、ドゥカティ・クイックシフト・アップ/ダウン

1次減速比:ストレートカットギア、減速比 1.968:1

ギアレシオ:1速:2.769、2速:2.059、3速:1.600、4速:1.318、5速:1.143、6速:1.040

最終減速:チェーン 520:フロント・スプロケット15T、リア・スプロケット42T

クラッチ:湿式多板、油圧制御、セルフサーボ/スリッパー・クラッチ機構付

フレーム:スチールパイプ・トレリスフレーム

フロントサスペンション:マルゾッキ製45 mm径フルアジャスタブル・アルミニウム・フォーク

フロントホイール:軽合金 Y字5本スポーク 3.5″ x 17″

フロントタイヤ:ピレリ製ディアブロ・ロッソ4、120/70 ZR17

リアサスペンション:ザックス製フル・アジャスタブル・モノショック、プログレッシブ・リンケージアルミニウム製両持ち式スイングアーム

リアホイール:軽合金 Y字5本スポーク 5.0″ x 17″

リアタイヤ:ピレリ製ディアブロ・ロッソ4、160/60 ZR17

ホイールトラベル(フロント/リア):215 mm ~ 240 mm

フロントブレーキ:330 mm径アルミニウム製フランジディスク、ブレンボ製 M4.32 キャリパー、調節可能なレバー付きラジアルポンプ、ボッシュ製コーナリングABS

リアブレーキ:245 mm径ディスク、シングルピストン・フローティングキャリパー、ボッシュ製コーナリングABS

メーターパネル:改良型ブラック・ネマティック(IBN)テクノロジーを採用した3.8インチLCDディスプレイ

装備重量(燃料を除く):151 kg

シート高:864 mm

ホイールベース:1,443 mm

キャスター角:26.1°

トレール:108 mm

燃料タンク:12 ℓ

乗車定員数:2

安全装備:ライディングモード、ボッシュ製コーナリングABS、ドゥカティ・トラクション・コントロール(DTC)、ドゥカティ・ウィリー・コントロール(DWC)、エンジン・ブレーキ・コントロール(EBC)、ドゥカティ・ブレーキ・ライト(DBL)

標準装備:パワーモード、ドゥカティ・パワー・ローンチ(DPL)、ドゥカティ・クイックシフト(DQS)アップ/ダウン、フルLEDライティング・システム、デイタイム・ランニングライト(DRL)、アルミニウム製テーパード・ハンドルバー、リチウムイオン・バッテリー

同梱装備:パッセンジャー・フットペグ

オプション対応:盗難防止システム、グリップ・ヒーター、ドゥカティ・マルチメディア・システム(DMS)。

保証:24カ月距離無制限

メインテナンスサービス・インターバル:15,000 km / 24ヶ月

バルブクリアランス調整:30,000 km

規制:ユーロ5

CO2 Emissions:112 g/km

Consumption:4.8 ℓ/100 km

エミッションノート:ユーロ5規制対応国のみ

:モーターサイクルの仕様および装備は市場によって異なる場合があります。詳細は、地域のディーラーにお問い合わせください。

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著者プロフィール

栗栖国安 近影

栗栖国安

TV局や新聞社のプレスライダー、メーカー広告のモデルライダー経験を持つバイクジャーナリスト。およそ40…