トルク不足の弱点をShift Camで解消しました。|BMW・R1250RT試乗レポート

BMWを代表するビッグツアラーの「RTシリーズ」。2019年にモデルチェンジして登場したR1250RTは、バルブ可変機構を採用してよりユーザビリティを重視! 生粋のBMWファンが試乗して新型の奥深さを徹底レポート!

REPORT●川越 憲(KAWAGOE Ken)
PHOTO&EDIT●佐藤恭央(SATO Yasuo)

※2020年7月24日に掲載した記事を再編集したものです。
価格やカラーバリエーションが現在とは異なる場合があります。

BMW・R 1250 RT……2,863,000 円〜

ボリューム感のあるボディが放つ存在感は圧倒的! 快適なロングランを約束するパフォーマンスを有し、“バイクで走る喜び”を与えてくれる一台だ。カラーは全5色展開で、試乗車はマーズ・レッド・メタリック(+77,000円)。

秘めたるスポーツマインド! 走っても楽しいのがRTの真骨頂!

 快適な乗り心地や威風堂々としたスタイリングで、長距離ツアラーの王者と呼ばれるRTシリーズはGSとともにBMWを代表するモデルだ。じっくり乗ってみればわかるが、ツーリングでの快適性はもちろん、そのスポーツ性能の高さに驚く車両でもある。

 筆者は、DOHCエンジンを搭載したR1100RT(’95~)に始まり、R1150RT(’99~)、R1200RT(‘05~)と試乗してきたが、モデルチェンジして排気量がアップするごとにスポーツ性能がアップしてきたことを実感している。実車を目の前にすると、その大柄な車体の威圧感からゆったりと高速道路を流して走るイメージが強い。しかし、またがってみると意外にライディングポジションはコンパクトでしっくりくる。
 走り出してみるとエンジンが良く回り、中速域からレッドゾーン付近までの加速感が心地よいのだ。直線が気持ちいいだけでなく、ホイールベースは短めなのでコーナーの切り替えしなどもキビキビとこなせるし、サーキットでスポーツ走行も楽しめる。ツアラー色の強いRTであっても、やはりBMWはスポーツバイクのメーカーなのだと実感させてくれた。

 ただ、そのスポーツ性を実感するのは走り出してある程度スピードが出てからのこと。大柄な車体は車重もあり、ビッグボア&ショートストロークの水平対向エンジンは基本的に高回転型の特性なので低速域のトルク不足は慢性的なネックとなっていた。もちろん、エンジンが進化していく毎にトルク不足は薄れていったのだが、リッターバイクとしては満足が得られたとはいえなかった。
 そんなウィークポイントを解消する画期的な機構がR1250RTから搭載されることに! 排気量アップと共に、バルブ可変機構「Shift Cam」が採用されたのだ。吸気バルブを制御するカムに低速側と中高速側のカム山をもたせ、スロットル操作や5000rpm付近でスライド可変させるという機構だ。これによって低速から高速まで十分なトルクを発生し、燃費も向上するという。そんな情報を耳にして期待しながら試乗を行った。

極低速から湧き出るトルク! Uターンもバシッと決まる!

 BMWのフラットツインは明らかに高回転型で、低速トルク不足を補うべく、オーナーなら早めに回転数を上げる操作が身についている。慣れれば気にならないのだが、他のバイクから乗り換えると発進時にエンストしそうになったものだ。
 そんなことを思い出しながらR1250RTのエンジンに火を入れると、以前までの少し乾いた排気音とは別人のように力強い重低音を響かせる。これはオプションのアクラポヴィッチ製サイレンサーが装着されていたこともあるが、このサウンドは間違いなくスポーツバイクの咆哮だ。カチカチとメカノイズが大きいカムチェーンからサイレントチェーンに変更され、サイレンサーからのサウンドがよりクリアに耳に届くようになったこともスポーティな印象をアップさせているようだ。

 少し緊張しながらアイドリング状態でクラッチを繋げると、あっけないほどR1250RTの巨体がスムーズに発進した。これは今までのRTシリーズにはなかった挙動だ。街中のストップ&ゴーが苦ではなく、一般的なリッタースポーツモデルと同じような感覚で走ることができる。フロント周辺にボリュームがあり、車体サイズに慣れるまでは慎重にならざるを得ないが、スロットル開度に忠実にトルクが湧き出る力強さを実感すると、徐々に大柄な車体が小さくなっていく錯覚を抱いてしまったほどだ。

 このスムーズな発進によるメリットは、街中などでUターンをするときに大きな恩恵がある。従来のR1200RTまではスロットルワークと半クラッチに気を遣いながら、あるいは一旦バイクから降りて押していたのだが、R1250RTは難なくUターンが決められる。
 スピードに乗った中速域は水冷DOHCエンジンとなったR1200RTでも、その力強さは十分と感じていたが、R1250RTはさらに力強さが増している印象だ。低速から高速までスムーズに加速していくので、正直なところシフトカムが切り替わるタイミングははっきりと分からなかった(笑)。むしろトルクの山がわからないので走ることに集中できたことが好印象だった。

最先端の装備が奢られて安心・安全にバイクライフが送れる!

 BMWは安全性や機能性において様々な先進技術を取り入れながら、それらをライダーに気づかせることなくライディングに集中できる環境を整えているのが特徴だ。
 そのコンセプトはR1250RTも同じで、前出の「Shift Cam」のほか、電子制御セミアクティブサスペンション「ダイナミックESA」や、急制動時に安全に停止距離を縮める「ダイナミックブレーキコントロール(DBC)」など、ライディングアシスト機能が満載。日常での使いやすさがアップし、ツーリングではよりスポーツができるようになったR1250RT。大幅な進化は旧モデルのライダーから垂涎の目で見られるだろう。

足つきチェック(ライダー身長182cm)

大柄な車体だがライディングポジションは意外にコンパクト。ライダー側のシートや車体も絞り込まれ、リッターモデルとしては足着き性は良い。標準シートは805mmに合わせていたので、身長182cmのテスターはヒザを軽く曲げる程度で両足がしっかり接地した。

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著者プロフィール

川越 憲 近影

川越 憲

1967年生まれ。有限会社遊文社・代表取締役にしてバイク誌を中心に活動するフリーライター・編集者。現在…