シグナスX→グリファスで何が変わった ? 話題の新型125ccスクーターに乗った。|ヤマハ

ヤマハ最新の原付二種スクーター、シグナス グリファスは2021年5月に本誌が1番乗りでレポート済み。既報の試乗記は台湾仕様の平行輸入車だったが、今回は2021年12月23日に新発売された正規国内仕様に試乗した。

REPORT●近田 茂(CHIKATA Shigeru)
PHOTO●山田俊輔(YAMADA Shunsuke)
取材協力●ヤマハ発動機株式会社

ヤマハ・シグナス グリファス…….357,500円

ブルーイッュグレーソリッド4

ホワイトメタリック1
ブラックメタリックX
ディープパープリッシュブルーメタリックC
WGP 60th Anniversary…….368,500円(2022年2月24日発売) シルキーホワイト   

 現在ヤマハの原付二種スクーターは、廉価なアクシスZからLMW3輪のトリシティまで全部で5機種がラインナップされている。その中で前後に12インチホイールを履く標準的なモデルとして人気を得ていたのがシグナスX。
 今回追加投入されたシグナス グリファスはシグナスXと同様、前後12インチホイールを採用。車体は少しサイズアップされ、BLUE COREの第二世代と言える新開発エンジンを搭載している。
 価格的には税別の車両本体で20,000円高い設定。現在はシグナスXも併売されているが、それに替わる存在と見て間違いないだろう。つまりグリファスは、シグナスの第6世代登場を意味しているのである。

 主要諸元表に現れたドラスティックな違いは、燃料消費率にある。シグナスXは定地燃費率で43.3km/L、モード値で37.3km/Lだったが、グリファスは同48.6km/L、44.5km/Lと共に大きく向上しているのが印象深い。
 車体サイズが少し大柄になり、ホイールベースは35mm長く、シート高は10mm高い。車両重量も6kg増えて125kgある。
 注目の新パワーユニットは、ロングストロークタイプの124ccに変わりはないが、ボア・ストロークも変更。水冷化された新開発エンジンには、可変バルブ機構であるVVAを搭載。つまり基本的には上級機種のトリシティやNMAXと同じエンジンなのである。
 頭上のカムシャフトは左サイドカムチェーンで駆動され、カムは左から順に排気バルブ用、吸気バルブ(高回転)用、吸気バルブ(中低速)用の3個が並ぶ。
 右側に搭載された電動ソレノイドの働きで横方向にピンが押し出されると、遊んでいた中央のロッカーアームが左側のロッカーアームと締結されて、中央のカムで駆動される仕組みである。
 6,000rpmを境に吸気バルブ用のカムが低速用と高速用に切り換わるシステムだ。4バルブヘッドを持つ燃焼室も一新され、11.2対1という高圧縮比を得て、Xとの比較で2割以上と言う驚きのパワーアップを果たしているのである。
 またエンジン始動用のセルモーターが廃止され、SMG(スマート・モーター・ジェネレーター)を搭載。これは発電機と始動用モーターを一体化した物で、発電機に通電することでダイレクトにクランキングする方式。
 
 スチールパイプ製のアンダーボーンフレームも新設計。サイズの拡大と共に高剛性化とバランスを見直し、落ち着きのある直進安定性と軽快な操縦性が高次元で両立されたと言う。
 また前後ディスクブレーキには、UBS(Unified Brake System)と呼ばれる前後連動ブレーキが採用され、左手のブレーキレバーで、前後同時にバランス良く制動効力が発揮される。

Blue Coreとしては第2世代となる新開発水冷VVA(Variable Valve Actuation)エンジン。
スチールパイプ製アンダーボーンフレームは、基本骨格こそ従来モデルを踏襲しているが、剛性バランスは細部まで熟成されている。

ゆとりを生み出す元気の良い走り。

 今回のインプレ用車両は、半年程前に試乗した台湾仕様と同じに見える。デカールデザインを含めたカラーリングの違いだけかと思えたが、細部に着目していくと、若干の違いがある事に気がついた。
 まず撮影車には赤いキャストホイールが採用されている。他のカラーリング3種には黒いホイールが選択される。WGP 60th記念モデルにはゴールドのホイールが奢られている。
 また、ハンドルグリップラバーの形状が太鼓状にふくらみがあるタイプになっていた。そしてレッグシールドの内(手前)側左方にある燃料給油口の蓋が、台湾仕様はイグニッションキーの操作でポンと開くタイプだったが、日本仕様では鍵を直接挿して開けるタイプになっていた。
 その他バックミラーの形状も異なり、国内仕様は厚みのあるタイプを装備。主要諸元表を比較すると、一部に些細な違いが見つけられるが、実質的には両車共通と思って良いだろう。
 
 試乗車を受け取り早速跨ってみると、シグナスXよりはあきらかに立派。ホイールベースも全長も確実にサイズアップしている。
 ただ全幅は690mmでXと共通。ハンドル幅は655mm(左右グリップエンド中央で計測)左右グリップの内側を実測すると410mm。前述の通り、太鼓状のグリップが採用されているので、人指し指と親指を輪にして握る両手は、きちんと内側に納まり、感覚的な乗り味として車体はスマートな印象を覚えた。
 ステップスルーのフラットなフロアを持つ乗車設備は、スクーターとして当然の機能である乗降性に優れている。フロアボードは前下がりの傾斜があり、そのサイドビューはなかなかスポーティでアグレッシブなイメージも併せ持つ。フロアの前後長は中央部こそ205mmに過ぎないが実際に足を置く左右部分の長さは380mmあり、フロアの左右幅は410~420mm。体格や好み、あるいは走行シーンに応じて足の置き場には自由度がある。
 さらに前方には長さ280mmのステップが斜めに立ち上げられており、そこに足を踏ん張ると激しい減速Gに耐えるのも容易。また置き場が狭くはなるが、後方両サイドに足を引っかけると、左右への積極的な体重移動も扱いやすい。
 つまり、あくまで標準的なスクータースタイルをベースにしながら、スポーツスクーター的な雰囲気も醸しだしている点がとても印象的であった。
 このタイプ(ステップスルー)の原付二種スクーターは他にホンダリード125があるが、スズキのアドレス125やスウィッシュは既に生産終了となっているだけに、シグナス グリファスは、改めて同クラスの標準的モデルとして幅広いユーザー層から注目を集める存在となるだろう。

 エンジンを始動するとアイドリングはメーター読みで1,500rpm。と言っても回転計のスケールは500rpm刻みなので、大雑把な目安でしかない。
 市街地でごく普通に発進すると1万回転スケールのタコメーターはだいたい5,500〜6,000rpmあたりを維持して無段変速により増速されていく。この時のスロットルレスポンスとキビキビ走れる動力性能は、原付二種スクーターとしてとても元気が良い。
 さらにスロットルを全開にすると回転計は7,000rpmに上昇し、侮れない加速力を発揮する。その豪華なフィーリングはまさに同カテゴリーのトップレベルにある。
 VVAに関しては、音の変化が感じられるものの、おそらく意識して探ろうとしない限り何も気付かないし違和感も皆無である。いずれにしても、強力なレスポンスを披露する走りは痛快なものであった。
 そのハイパフォーマンスは、実用上の走りにユトリを生み、いつもの移動を快適かつエコな走りに変えてくれる事は間違いないだろう。

 前後連動ブレーキの効きも鋭く、しかも安定して掛けられる点が好印象。前述のステップも大いに貢献してくれるが、前後連動式で急ブレーキ時でも、車体全体がグンと地面に押さえつけられるようなイメージで確実に効く。
 濡れた路面でも操作性に安心感がある。 エンジンブレーキも自然な効き味を発揮。スロットル全閉で減速していくと、メーター読み15km/hでクラッチが切れ、減速力が弱まるので、優しくハンドブレーキを足してやればそれで良い。
 直進安定性も良く、左右への切り返しやコーナリングも扱いは至って素直。小回りUターンや降車後の取り回し、スタンド掛けも含めて自由自在に扱え、なおかつ落ち着きのある乗り味を確保した総合的なバランスの良さに、絶妙の仕上がりと魅力が感じられた。
 価格はホンダPCXと同額。アンダーボーンのセンターに(高い位置にも)骨のあるやや大柄のスポーツスクーターにも真っ向勝負を仕掛ける存在となっているが、ステップスルーフロアを持つ標準的なスクーターにこだわりを持つユーザーにとって、シグナス グリファスは、まさに待望の1 台だと思えたのである。

足つき性チェック(身長168cm/体重52kg)

ご覧の通り両足の踵は地面まで届くが、股が開いて膝も少し曲がるので、僅かながら踵が浮いた感覚となる。シート高は785mm。高さも扱いやすさも標準的。着座位置によって足つき性が左右される。

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著者プロフィール

近田 茂 近影

近田 茂

1953年東京生まれ。1976年日本大学法学部卒業、株式会社三栄書房(現・三栄)に入社しモト・ライダー誌の…