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BMW・G310R……623,000 円〜
ネイキッド・スポーツを体現した先鋭的なフォルムが特徴! 試乗車は2019モデルで、2020モデルは、「レーシング・レッド」、「コスミック・ブラック2」、「パール・ホワイト・メタリック(+6,000円)」の3カラーをラインナップ。
コスパとクオリティをバランスさせた一台!
2015年末のイタリア・ミラノショーでG310Rが発表された時は「おもしろいバイクがリリースされたなぁ!」とワクワクしたものだ。BMWのスーパーネイキッドモデル、S1000Rをイメージさせる車体に313ccのエンジンを積んだパッケージは、排気量こそ少ないがクラスを超えたスパルタンな走りを連想させたからだ。その後、日本での販売価格が約60万円とアナウンスされてから、ライダーの注目度がさらに上がったこともひしひしと感じられた。
このG310Rにはプラットフォームを共通とする兄弟車のG310GSも存在する。これらの開発と品質管理はドイツ本社だが、生産はインドのTVSモーターカンパニー社が行っている。要するにBMWの世界戦略車だ。小排気量車で実績のあるアジアの企業で生産を行い、販売は欧州だけでなく、アジアや南米まで販売網を広げている。コストダウンが見込め、技術的にもBMWブランドのクオリティを維持できるアジア企業での生産は必須条件だったのだ。この流れは国内メーカーも同様で、こういった小中排気量車がどんどん増えてくることだろう。
個性的なエンジンレイアウトで安定した車体に!
さて、次はG310Rの車体構成について。水冷313cc単気筒エンジンにスチールパイプフレームと聞いただけでは普通のミドルサイズバイクを思い描きがちだが、エンジンは通常の吸排気レイアウトを逆にして前方吸気・後方排気とし、シリンダーヘッドは後方へ傾斜させている。さらに、フロントには倒立フォークを採用するとなると、「一体どんな車体で、どんな乗り味なんだ!?」と興味を持たざるをえない。
この独特なエンジンレイアウトの狙いは、エンジンをなるべく前方に配置してスイングアームを長く設計すること。エンジン前と下にパイプのないチューブラースチールフレームにマウントし、1380mmのホイールベースに対して約650mmのロングスイングアームを採用することで直進安定性や旋回性などの整合性を取っている。
これに伴い、シリンダーヘッドを傾けることで重心を下げ、前後荷重なども整えて重量マスを適正化させている。他にも、吸気効率の向上、エアボックスのコンパクト化などのメリットも多数あり! 足周りも、倒立フォークやラジアルマウントキャリパー、アルミ製スイングアームといった、豪華な装備が奢られているのも注目点だ。
回すのが楽しい高回転型エンジン!
実車に触れてみると車体重量が159kgもあるわりに、取り回しが軽快♪ 低重心で重量バランスがよく、ハンドル位置が高めでしっかりとホールドできることがそう感じさせるのだろう。またがってみると、ゆったりとしたライディングポジションで足着き性も良好だ!
早速、セルを回して始動する。エンジン音は歯切れよく整音され、クラッチも軽い。ただ、発進時の極低回転でのトルクの薄さが気になった。3000rpm以上からでないとキビキビした走りができないのだ。これは後方排気でエキゾーストパイプの管長が短いことが影響していると思う。エキパイが短いから必然的に容積を稼ぐ必要があり、このクラスとしてはビッグなサイレンサーを採用して内部構造で低回転域のトルクを補うような工夫がされているはずではあるものの、パンチ力はやや足りない印象だ。まぁ、この乗り味に慣れれば、クラッチとアクセルワークで自然な走りができるレベルなので問題ないだろう。
その反面、単気筒エンジンとは思えないほど高回転域までスムーズに回る特性が見どころだ。これは、さすがDOHCエンジンといったところか。実用域は4000rpmから上で、7000rpmからレブリミッター効く1万rpm付近まで一気に駆け上がる伸び感が非常に気持ちいい! 街中からちょっとしたツーリングまで気軽に使える性能と、所有欲を満たす車体の質感は、BMW入門車として申し分ない。
攻めるなら足周りのセッティングを煮詰めよう!
ストリートでの使い勝手は問題ないけれど、スポーツライディングを楽しむにはちょっとしたコツがいる。コーナリングでの倒し込みは軽快なのだが、ハンドル位置が高いため普通に乗っているだけではフロントに荷重がかけにくい。フロントサスペンション自体は柔らかめなのだが、前に荷重をかけてコーナリングするという今風のライディングには合わないのだ。ノーマルのセッティングでは、コーナリング手前でしっかり速度を落とし、コーナリング中はリヤに荷重をかけて曲がる一昔前の乗り方がしっくりくる。
せっかく倒立フォークにグリップの良いラジアルタイヤが装着されているのだから、ハングオフのようなフロント重視のコーナリングをしたい、というライダーも多いだろう。その場合は、フロントサスの油面を上げたり、バネレートの変更などで硬めに、逆にリヤサスは硬めなので柔らかめにセットすると良いだろう。前後サスの変更で、ダイレクト感のあるラジアルマウントのブレーキも更に生きてくるはずだ。あと、ハンドル位置を下げるのも忘れずに!
リヤサスはタンデムを想定して硬めにしている可能性もあり、乗り心地重視ならこのままの設定でもいいのだが、やはりリヤサスはイニシャルを弱くするなど柔らかくしたほうが、長めのスイングアームの乗り心地の良さをもっと感じられると思う。
総合的には価格以上に所有欲を満たしてくれるし、走行性能も高い。あれこれイジってみたくなる気軽さも含めて、免許取り立てのビギナーから、サーキットに繰り出すようなエキスパートライダーまで楽しめるモデルであることは間違いない!
足つきチェック(ライダー身長182cm)
シート高は785mmと国産400ccとそう変わらない。シート後方に座っても、身長182cmの筆者なら両足がべったりと着く。ハンドルは少し幅広だが高さも無理はなく、平均的な日本人体型ならしっくりくるはず。見た目はコンパクトだが、ポジションは大柄なライダーが乗っても窮屈な印象はない。