目次
東武伊勢崎線・一ノ割駅から続く商店街は今やシャッター街になりつつある。以前の活気ある風景を覚えている人も減りつつあるなか、その当時を思い出させてくれる品々を揃えるアンティークショップが2021年に開店した。それがモトチャンプで過去に連載していた「変態さん、いらっしゃい」というコーナーに登場した鉄スクーターの伝道師、神津雄介さんのお店というわけ。昭和の時代に作られた家具や食器、おもちゃや看板などが店内に所狭しと並んでいる。好きな人にはたまらない場所になりそうだが、古いバイクが好きな人が思わず立ち止まってしまうような店でもある。店先には昭和40年代くらいまでのバイクが置かれているからだ。そこで今回はビンゴストアが在庫している古いバイクたちを見てみよう。
ホンダCB250T
ホンダは1960年に250ccクラスのスーパースポーツとしてドリームCB72を発売。クラスを代表する高性能車としてヒットすると1968年に実用車のようなスタイルのドリームCB250へモデルチェンジ。海外仕様と同じカラフルなタンクを装備するエクスポートもラインナップされ、71年にはフロントディスクブレーキを装備するセニアを追加。セニアにはエクスポートと同じ外観が与えられるが、73年には両車を統合してCB250Tになる。この青いCB250Tがそれでホンダ市販車初の6速ミッションを装備していた。
現状でエンジン始動を確認していないレストアベースの状態。フロントのディスクブレーキも固着しているため、ひと通りのメンテナンスが必要だろう。だがメーター内の走行距離は3000km台を示しているから、エンジンはキャブレターのオーバーホール程度で甦るかも? このままの状態で25万円ということだ。
ホンダ・ポートカブ
1958年に発売を開始したホンダ・スーパーカブC100は、従来の概念を覆すような新機構を盛り込み世界中で大ヒット。国内でも大きな話題となり一躍ホンダの主力車種になる。そのC100よりさらに安価で簡易な構造とした廉価版とも呼べるのがポートカブだ。2速ミッションや15インチホイールなどC100とは異なる設計を採用し、当時未装備でもよかったためウインカーやテールランプがなくリフレクターだけを装備。その分新車価格は安価だったが、思ったように販売台数は伸びず、わずか2年弱しか生産されたかった希少車だ。
こちらもCB250T同様にエンジン始動を確認していないレストアベース車。だが、これだけ原型を留めている個体は貴重で、樹脂製の部品がすべて揃っているから持っているだけで価値がありそうだ。ただしマフラーは別のカブ系車種のものを流用している。この手の希少車は欠品パーツの有無で価値が決まるから、マフラーを揃えれば完璧だろう。外装もキレイな部類なので、このまま残して味わいを楽しみたい。価格は40万円とのことだ。
富士重工業ラビットジュニアS301
国産鉄スクーターの代表選手と呼べるのが富士重工業のラビットスクーター。なかでもS301系は残存数が多く特徴的なスタイルから今でも根強い人気があるモデル。発売は1961年からで64年までのものをS301A、それ以降をS301B、さらにはB2からB4まで進化を続けた。年式相応に残存数は後期モデルが多いわけだが、初期のS301Aはマニアに人気が高いモデルといえそうだ。
S301の初期型Aは中古車として流通している台数が少なく、初期モデルの味わいが楽しめるスタイル。外装に傷はあるものの致命的なサビや腐食はなく、欠品パーツも少ないから現状のままで乗り続けたい状態と言える。エンジンの始動は未確認だが、壊れて放置されたわけでもなさそうなのでキャブレターや燃料系の見直して復活しそうだ。ミッションは3速なので後のトルコンのように苦労することもない。価格は16万円だ。
富士重工業ラビットS601
ラビットスクーターの最大排気量モデルがS601と型式名で呼ばれることの多いラビット・スーパーフローS601。1959年に発売された初期型がS601Aで、1960年から62年まで作られたのが中期型がS601B、62年から68年まで作られたのが後期型のS601C。製造期間が短いため初期や中期は数が少なく、そもそもの残存数も少ないため大変な人気がある。エンジンは200ccの2ストローク空冷単気筒で、リヤサスペンションは国産2輪車初のエアサスペンションだった。
このS601はつい最近にエンジンをフルオーバーホールしてあり、クランクシャフトには独自の加工を施してある。そのため今でも十分実用に使えるほどの性能を維持しているそうだ。トルコンによるミッションも問題なく、ある意味普通に乗ることができる貴重な個体と言えそうだ。ボディはサビをあえて生かすためオイルを塗り込んである。塗りたてだと服が汚れるが、乾いてしまえばベタベタすることもない。この風情を味わうなら定期的にオイルを塗布してあげたい。値段は応談とのことで、決して安くはないもののレストアベースを買ってここまで仕上げることを考えたら良い買い物になりそうだ。
富士重工業ラビットツーリング150
ラビットジュニアS301系にもスポーツモデルが存在する。それがラビットツーリングと呼ばれるモデル従来のハンドチェンジを3速から4速ミッションにしていた。エンジンは同じ2ストローク空冷単気筒ながら、排気量を150ccにアップしたモデルがラビットツーリング150、S402だ。シート後ろにトランクを装備するS301に対し2人乗りのロングシートやリヤキャリアまで装備されていた。
この個体は神津さんがアメリカから個人輸入したもので、インターネットのやりとりながら2年近くもかかって日本国内へ戻ってきたそうだ。こちらも現状でエンジンはかかり乗ることができる状態ながら、普通に走りたいなら一度はメンテナンスをしてからナンバーを取得すべきだろう。外装に痛みはあるものの新車時の塗装がまだまだ生きているので、全塗装してしまうよりこのまま乗りたくなる。貴重なロングシートやキャリアが装備されていることもポイントだ。価格は応談。
富士重工業ラビットツーリング125
先に紹介したラビットツーリング150が海外仕様であるのに対し、こちらは国内仕様の125ccモデルでS302と呼ばれる。S301と同じエンジンながら4速があるためツーリング時の疲労度軽減や省燃費に貢献してくれる。通常の3速モデルに対して1万円ほど高価だったためか販売台数自体少なく、売り物を探すのは困難を極める。
こちらは神津さんが個人的に所有していたもので、カラーリングは入手時からすでにこうなっていた。その姿を見た鉄スクーター仲間が「絶対似合う」と進呈してくれたカスタムシートを装着している。純正シートのベース部だけを使い、クッションや表皮などは作り直したもの。確かにカラーリングとよく合っているように見える。エンジンなども実働状態にあり、各部の点検をしてから走り出せるだろう。価格は応談だ。
新三菱重工業シルバーピジョン・ピーターC110
1950年代から富士重工業のラビットとともに鉄スクーターを生産してきたのが当時の新三菱重工業。こちらにはシルバーピジョンという名前が用いられ、長くライバル関係にあった。ピーターC110は1960年に発売された175ccモデルで、200cc未満のヒラノポップやヤマハスクーターとシノギを削った。
ラビットに比べて残存数が少なく、個体が残っているだけでも奇跡的と呼んでいいC110。こちらはほとんど欠品がない状態ながら、現状はエンジンがかからない。不具合の原因は大体判明しているのだが、修理するために部品を壊してしまっては元も子もないということで未整備のまま。修理をするには一般の整備工場ですら躊躇するくらい希少車なので、自ら直せる経験豊富なマニアか、この手のモデルに精通したプロショップを知っている人にしかオススメできない。価格は60万円なので、同じくらいの整備費用がかけられるならお買い得かも?
新三菱重工業シルバーピジョン・ピーターC93
C110より古いピーターがこちらのC93で、そもそもは戦後間もない1956年に発売されたC90から続くモデル。C90の192cc4ストローク空冷単気筒エンジンの排気量を引き上げ210ccとした上級車種で現在のスクーターと同じVベルトによる自動変速だった。また前後のサスペンションに油圧ダンパーが装備されたことも特徴だった。
こちらのC93は神津さんが入手時からヘッドライトやシートがなかったため、ライトは車種不明のものを、シートは花柄の家具用を代用している。またエンジンも始動しなかったので、現在は別の車種のものを載せている。走行は可能だがエンジンが異なるためそれなりに知識が必要とのことで、意欲のある人は神津さんと相談してほしい。外装は当時のままを維持しているものの車高を下げているため大迫力になっている。価格は40万円とのことだ。