ツアラー=快適は当然!|BMWが誇るアドベンチャーBMW・R 1250 GSは、ライダーをいかなる時も穏やかに包んでくれる。

現在BMWのラインナップは、7つのカテゴリーに分類された全33機種が揃えられている。中でも同ブランドの伝統と人気を象徴する存在として、またアドベンチャー系モデルの最高峰としても高い評価を集めているのがこのR 1250 GSである。

REPORT●近田 茂(CHIKATA Shigeru)
PHOTO●山田俊輔(YAMADA Shunsuke)
取材協力●ビー・エム・ダブリュー 株式会社

BMW・R 1250 GS…….2,349,000円〜

ライト・ホワイト(※:試乗撮影車は先代カラー)

カラーバリエーションは4タイプ

ライトホワイト…….2,726,000円
ブラック・ストーム・メタリック/ブラック/アガット・グレー、スタイルトリプルブラック…….2,828,000円
ライト・ホワイト/レーシング・ブルー・メタリック/レーシング・レッド、スタイル・ラリー…….2,854,000円
ブラック・ストーム・メタリック、40周年記念限定車…….2,980,000円

 車名のRはBMW伝統のボクサーツインエンジン搭載を示し、GSはゲレンデ・シュポルトから由来したネーミング。1980年にR80G/Sとしてデビュー。冒険心が駆り立てられる象徴的モータースポーツイベントだったパリ・ダカールラリーで優勝等の、輝かしい戦績を誇り、ビッグ・オフロードモデルを代表するモデルとして、さらにはアドベンチャーカテゴリーの人気を担い続け、今も高い評価を獲得している。
 初代80は当時のロードスポーツモデルであったR 65をベースに改造されて、ボア・ストロークが84.8×70.6mmの797.5cc 空冷OHV エンジンを搭載。その後6世代にわたるモデルチェンジを重ね、エンジン排気量と車体サイズを拡大する中で2度のドラスティックな軽量化を実施して現在に至っている。
 トラス構造のスチールパイプフレームに搭載される最新エンジンは、水冷の1254ccへと拡大。ボア・ストロークは102.5 ×76mmと言うショートストロークタイプ。気筒当たり4バルブにセンタープラグのヘッドを持つDOHCが採用され、カムシャフトはカムチェーンとギヤを介して駆動される。12.5対1の高圧縮比を得て100kW (136HP )/7,750rpm の最高出力を発揮。最大トルクは143Nm/6,250rpmを発生している。
 見逃せないのは、ShiftCamと呼ばれる可変カムシャフト機構を採用。一般的に常用域となる中低速から、高速域までを幅広くカバーする柔軟な出力特性の発揮が追求された。その可変機構は吸気側のみに装備。エンジンはご存知の通り水平対向ツインを縦置き搭載され、シリンダーは車体の左右に張り出し、吸気側のカムシャフトは共にシリンーヘッドの上方に位置している。
 短めのカムチェーンがシリンダーの後方を通り、さらにギヤを介して吸排双方のカムシャフトを駆動する方式。カムのプロフィールがロッカーアームを介してそれぞれふたつのバルブを駆動する。吸気側のカムシャフトにはプロフィールの異なる二つのカムを持ち、必要に応じてカムシャフトごと横(前後)方向に移動させて、使用するカムプロフィールを切り換える事で、バルブの開閉タイミングとリフト量を可変する仕組みになっている。

 サスペンションはフロントにテレレバー、リアはモノレバーの技術を受け継いだ片支持のパラレバー方式を採用。左側スイングアームの中を後輪駆動用のシャフトが通るBMW独自の方式が印象深い。
 フロントのテレレバーは、フレームから前方に伸ばされたAアームでフロントフォークの中程が支持され、衝撃吸収と減衰は、中央に位置するモノショックユニットが受け持つ仕組みである。一般的なテレスコピックフォークと比較すると、トップブリッジとボトムブリッジ支持部の距離が長く取られ、剛性確保と動きのスムーズさに優位性がある。またボトムブリッジ直下には横方向にレイアウトされたステアリングダンパーも標準装備されている。
 同モデルには、30Lビッグタンクを標準装備し、車重が278kg あるAdventureがあるが今回の試乗車は、20Lタンクが採用されて車重は256kg。なによりフロント19、リア17インチサイズのホイールはスポークではなく、アルミキャストホイールを採用。舗装路での快適な走行性能を意識したブリヂストン製バトラックスADVENTURE 41タイヤが装着されていた。
 その他前後ブレーキにはIntegral ABS Proを装備。右手のフロントブレーキレバー操作で前後ブレーキが連動し、右足のペダル操作はリアブレーキのみの制動が働く方式。コーナリングABS も機能し、リヤに関しては、モード設定によって任意のABS解除も可能としている。

立派なフォルムと漂うプレミアム感

 受けとったスマートキーをポケットに入れて試乗車に股がると、やはり大きくて立派。タンク周辺のハンドルまわりからエンジンがおりなすボリューム感はハンパ無い。
 少々気合いを込めてバイクを起こして思い切り伸ばした爪先で地面を捉えてバイクを支えると、その堂々たる乗り味から、自然と誇らしい気分になれる。
 車重は250kgを超え、車庫からの出し入れは決して気軽ではないが、既報のR 1250 GSスタイルラリー/ エンデューロパッケージと比較すると、シートやハンドル位置が低く、いくらか親しみやすい。平坦な舗装路で慎重に扱う限り手に負えない大きさではない。むしろ走り始めると、何処からともなく漂ってくる落ち着きのある“安心感”が好印象なのである。
 メーター直前のメインスイッチを押してイグニッションをONにする。ハンドル右手の赤いスタータースイッチでエンジンを始動。ギヤをローに入れて左手のクラッチをそっとリリースすると、前述の通り印象は大きく一変する。大きく重いバイクであることを忘れさせる程、全てが軽く扱えるからだ。さらに付け加えると、極低速域のトルクが良い意味で穏やか。ソロッと優しく発進できる上に、その背景には充分に太いトルクを備えている感覚が実に頼もしいのである。
 タイヤの静粛性は高く、綺麗な転がり具合を披露。そして軽すぎない操舵感を始め、全体に好印象なバランスの良さに絶妙な心地よさが感じられる。大きなバイクを扱う緊張感は薄れ、むしろ自分の身を預けられる安心感の高い乗り味に馴染み、心底リラックスできる。どこまでも走って行ける相棒として実に頼もしい感覚に包まれるのである。

 ツアラーに相応しいその乗り味は、終始穏やかなレスポンスを発揮してくれるエンジンの出力特性にも起因しているだろう。フルパワーを発揮する必要性が感じられないズ太いトルクを持ちながら、スロットル操作には常に優しいレスポンスが伴う。
 以前にも使った表現だが、R 1250 GSの走りは、「豪快ではあるが、決して乱暴者ではない。」という感じなのである。どんな場面からでも、スロットルをひと開けした時の駆動力に頼り甲斐がある。荒々しいトルク変動が巧みに抑えられた、大人びた出力特性故、トラクションの掛かり具合が素晴らしく、どんな場面でも安心感のある走りを可能としてくれているのである。
 ましてや高速ロングクルージングも、ボクサーツイン独特のリズムと、それなりに太さを感じられる鼓動感にも、やはり落ち着きと頼り甲斐があり、疲れ知らずの快適性に魅力を覚える。さらにハンドルグリップヒーターと前後シートヒーターの装備は実にありがたい。左右シリンダーの張り出しが足の防寒に好都合な事も合わせて、冬場でも快適に走れ、パニアケース装備にも対応する、ツアラーとしての充実度は抜群。全体に漂うプレミアムな風格も素晴らしい。
 
 峠道を駆け抜けるシーンでも、スーパースポーツ系バイクに引けをとらない動力性能を発揮してくれる。もちろん左右への切り返し等の動作は決してクィックではないが、扱いは実に素直。前述の通り優しくも頼もしいエンジンは伸びも良く、コーナーを安定のパワーオンで抜けやすい上に、侮れないダッシュ力を発揮してくれる。
 ブレーキング操作も落ち着いてゆったりと扱えてしまう感覚があり、ライダーの気持ちにはいつも大きなユトリを持てる。そんなトータルな穏やかさが快適な乗り心地を提供してくれるのである。
 GS系と言えば、至高のアドベンチャー系モデルとしてオフロード車への憧れを抱くのも理解できるが、現実的に舗装路を走る事が多い日本で乗る限り、R 1250 GSは素直にお薦めできると思えたのが正直な感想である。

 今回は撮影等で約160kmの走行に過ぎず、燃費計測には走行条件が悪かったが、満タン法計測で17.9km/Lを記録。ツーリング利用なら間違いなく20km/Lオーバーは期待できる。
 またローギヤでエンジンを5,000rpm回した時のスピードは51km/h。6速トップギヤ100km/hクルージング時のエンジン回転数は3,600rpmだった。

足つき性チェック(身長168cm / 体重52kg)

ご覧の通り両足の踵は地面から大きく浮いてしまう。シート高はローポジション(撮影時)で850mm、ハイポジションは890mm。平地で扱う限り、意外と支えやすいが、250kgオーバーの車重を考えると、このまま日本的な狭い林道へ分入るには、それなりに勇気がいる。

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著者プロフィール

近田 茂 近影

近田 茂

1953年東京生まれ。1976年日本大学法学部卒業、株式会社三栄書房(現・三栄)に入社しモト・ライダー誌の…