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ハスクバーナ・モーターサイクルズ ノーデン901……1,745,000円
スーパースポーツ顔負けの高圧縮比、なのに微速域からスムーズ
スウェーデンのハスクバーナは、金属加工会社として1689年(!)に創業。ハーレーと同じ1903年にモーターサイクルの製造をスタートしたという非常に歴史の長いブランドだ。1987年にモーターサイクル部門がイタリアのカジバ・MVアグスタグループに買収された際、開発チームが独立してスウェーデンでフサベルを創業。一方、カジバ傘下にあったハスクバーナ・モーターサイクルズは2007年にBMWグループに一時買収されたものの、2013年にKTMグループの傘下に。ここにかつて分かれたフサベルもあったことから、ブランドとして再統合されたのだ。
そんな複雑な経緯を辿ってきたハスクバーナ・モーターサイクルズ。1960~1970年代はオフロードモデルで世界的に名を馳せたが、近年はKTMのデュークシリーズをベースとしたスヴァルトピレンやヴィットピレンなどのストリートモデルで存在感を放っている。
今回試乗したのは、KTMの890アドベンチャーをベースとしたノーデン901だ。まずはエンジンから。889ccの水冷並列2気筒エンジンは、最高出力105ps/8,000rpmなど基本スペックは890アドベンチャーと共通だ。ライド・バイ・ワイヤーを採用し、ライドモードはストリート、レイン、オフロードの3種類。また、試乗車にはエクスプローラーパックというソフトウエアのオプション(26,906円)が組み込まれており、これはトラコンのスリップレベルを9段階から選べるほか、スロットルレスポンスもアジャストできるという有益なものだ。
プレス向けに配布された資料や公式サイトには一切記載がないものの、890アドベンチャーのLC8cエンジンと限りなく共通であれば、クランクの位相角は75度だ。最もスロットルレスポンスのいいストリートモードでは開け始めから快活に吹け上がり、ガソリンなしで204kgという軽量な車体を蹴り出すように加速させる。これだけ力強ければタンデム&3ケースというフル積載状態でもまずパワー不足は感じないだろう。
そうした元気の良さ以上に感心したのは、全域におけるマナーの素晴らしさだ。スーパースポーツ顔負けの13.5:1(!)という高圧縮比にもかかわらず、低回転域でガツガツとした症状は一切なし。また、エンブレも強めに発生してしまうはずなのに、MSR(モータースリップレギュレーション)が適切に働いているのか、滑りやすい不整地でスロットルを急に戻してもリヤタイヤの挙動が乱れにくい。慣性計測ユニットIMUによるバンク角を考慮したMTC(コーナリングモーターサイクルトラクションコントロール)は、レインモードにするとドライの舗装路面でもコーナリングの立ち上がりで介入を知らせるインジケーターが点滅するが、不自然な失速感はほとんどない。さらに、シフトアップとダウンの両方に対応したイージーシフトや、高速道路で重宝するクルーズコントロールの完成度も高く、ライダーエイドな電子制御の進化に感心しきりだ。
オンロードでの乗り心地とオフロードでの走破性を高次元で両立
ハンドリングは、フロント21インチ/リヤ18インチのワイヤースポークホイールを履くアドベンチャーモデルに共通するもので、そこにステアリングダンパーの作用も加わってか、バンキングからフロントの舵角が入るまでにややタイムラグがある。とはいえ、どこまでも倒れてしまうような不安がないのは、燃料タンクの分割レイアウトによる低重心化が功を奏しているようだ。ホイールトラベル量はフロント220/リヤ215mmと長めだが、加減速で発生するピッチングは過大ではなく、ギャップ通過時などの衝撃吸収性に重きを置いているようだ。
標準装着タイヤのピレリ・スコーピオンラリーSTRは、舗装路において十分以上のグリップ力を発揮してくれる。また、オフロードコースでは空気圧を前後とも1.8barまで下げて走ってみたが、泥濘地以外は見た目の印象以上にグリップしてくれ、各種電子制御のサポートもあって不安なく走ることができた。
890アドベンチャーと同Rのほぼ中間のホイールトラベル量やタイヤ銘柄で差別化を図ってきたノーデン901。890アドベンチャーよりも116,000円高くて……、などと書こうとしたが、同じハスクバーナのスヴァルトピレンやヴィットピレンがそうであったように、このスタイリングに惚れた人にとってはライバル車など眼中にないだろう。スマホ接続用のコネクティビティユニットやハードケースなど純正アクセサリーも充実しており、仮にルックスだけで選んでしまってもその後のバイクライフがはっきりと充実することは間違いない。