モトグッツィのアドベンチャーってどうなの? |V85 TT試乗

実はエンジンが新設計、しかも馬力は25hpアップ! モトグッツィV85 TTにじっくり乗ってみた。

ステルビオ1200 4V以来、およそ10年ぶりにモトグッツィのラインナップにアドベンチャーモデルが復活した。1980年代にパリダカに参戦したV65TTをモチーフとするクラシカルなスタイリングが特徴で、伝統のクランク縦置きの空冷90度V型2気筒エンジンは完全新設計。TT(イタリア語でトゥット・テレーノ。英語ではオール・テレーン)の名に恥じない走りを見せてくれるのか、じっくり試乗してみた。

REPORT●大屋雄一(OYA Yuichi)
PHOTO●山田俊輔(YAMADA Shunsuke)

※2019年12月18日に掲載した記事を再編集したものです。
価格や諸元、カラーバリエーションが現在とは異なる場合があります。
モトグッツィ・V85 TT
純正アクセサリーのパニアケースを装着した状態で試乗を実施。

モトグッツィV85 TT(プレミアムグラフィック)……1,452,000円

モトグッツィV85 TT(スタンダードグラフィック)……1,424,500円

モトグッツィ・V85 TT
サハライエロー。プレミアムグラフィックはフレームの塗色がレッドとなる。

 アドベンチャーというジャンルの祖にして、およそ40年も頂点に君臨し続けている絶対的王者のBMW・R-GSシリーズ。世界中の二輪メーカーがあらゆる手を尽くしてこの牙城を崩さんと挑んできたが、販売台数において今なお2位以下との差が歴然としているのが現状だ。とはいえ、そうして各社が新たな価値、独自の走りを創造しようと切磋琢磨した結果、特に近年は魅力的なアドベンチャーモデルが次々とデビュー。もはやスーパースポーツやネイキッド以上にホットなジャンルとなっているのだ。

モトグッツィ・V85 TT
モトグッツィ・V85 TT

 そうした流れを汲んでか、イタリアの名門であるモトグッツィもおよそ10年ぶりにアドベンチャーモデルをラインナップに復帰させた。丸目2灯のユーモラスなフロントマスクに目を奪われがちなこのV85TTというニューモデル、全体の造型は同社のデュアルパーパス第1弾〝V65TT〟をベースに、パリダカ参戦用にカスタマイズしたレーサーをモチーフとしている。

モトグッツィ・V85 TT
モトグッツィ・V85 TT

 エンジンはV9ボバーと同じ853ccのクランク縦置きの空冷90度Vツインだが、完全な新設計だという。とはいえ、1967年に登場したV7 700以来続くモトグッツィの伝統的なエンジン形式であり、しかもシリンダーヘッドがOHVの2バルブのままとあれば、その特性が大きく変わることはないと高をくくっていた。ところが……。

 驚いたことにスムーズなのだ。モトグッツィは排気量の小さなV7シリーズでも、スタート時にまるで身震いでもしているかのような、左右方向への揺らぎを伴いながら加速するのだが、新しいV85TTにそうした挙動はほとんどない。そして、そこからの回転上昇も非常に滑らかであり、不快な振動を伴わないからこそ躊躇なくスロットルを開けられる。その結果、実に速いのだ。ちなみに最高出力はV9ボバーの55hpに対して25hp増(!)の80hpを公称。このスペックは伊達ではない。

 スロットル機構は最新のライド・バイ・ワイヤー方式だ。ライディングモードはロード、レイン、オフロードの3種類から選択でき、トラクションコントロールとABSの介入レベルもそれに連動して切り替わる仕組みだ。スロットルレスポンスはそれぞれで変化するが、どのモードにおいても右手の動きに対して忠実であり、レインモードだからといってダルすぎてむしろ扱いづらい、などといった不満がないのだ。

モトグッツィ・V85 TT
モトグッツィ・V85 TT
クランク縦置き空冷90度V型2気筒OHV2バルブという伝統的なエンジンは、φ84mm×77mmのボア×ストロークこそ現行のV9ボバーと共通だが、中身は完全な新設計だ。前後長が短くなったクランクケースはシャシーのストレスメンバーとしての役割も果たしており、これによりフレームのアンダークレードルを省略。新たに採用されたクランクとコンロッドは従来よりも約30%軽量であり、また新設計のシリンダーヘッドにはチタン製の吸気バルブが組み込まれている。潤滑方式はセミドライサンプだ。最高出力はV9ボバーの55hp
モトグッツィ・V85 TT

 ハンドリングもいい。この新型エンジンありきで設計された高張力鋼管フレームはアンダークレードルを省略しているが、それでも高速のコーナリング中にギャップを通過してもラインは乱されず、剛性不足は一切感じない。フロント19インチならではの落ち着いた舵角の入り方や接地感の高さ、前後170mmという長いホイールトラベル量から生まれる把握しやすいピッチングなど、アドベンチャーモデルとしての資質は非常に高い。

付け加えると、かつて同社がスイングアームに積極的に採用していたCARC(平行リンクによってベベルギアに発生する反トルクを解消する機構)を使っていないにもかかわらず、シャフトドライブ特有のテールの上下動があまり感じられなかったことも、好印象を底上げしている要因だ。

 ブレーキは、フロントにブレンボのラジアルマウントキャリパーをダブルで装備している。しかもディスク径はφ320mmと大きい。やや過剰な装備かと思われたが、むしろブレンボならではのコントロール性の高さが全面に出ており、印象は非常にいい。

 良くも悪くもモトグッツィならではの荒削りなフィーリングは薄まったが、高速道路を坦々と巡航している際に感じる縦置きクランクならではのグライド感とでも言おうか、外乱に強い走りはまだまだ健在で、クルーズコントロールを操作しながらヘルメットの中で思わずニヤリとした。激戦区のアドベンチャーカテゴリーにクラシックという新たな価値を生み出し、その一方で新技術を惜しみなく導入。イタリア本国ですらモトグッツィはニッチなメーカーという位置付けらしいが、このV85TTはそれを払拭するだけの可能性を十分に秘めている。

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著者プロフィール

大屋雄一 近影

大屋雄一

短大卒業と同時に二輪雑誌業界へ飛び込んで早30年以上。1996年にフリーランス宣言をしたモーターサイクル…