エンデューロ、ほぼ競技車の本格ポテンシャル|ファンティック・XEF 250 Trail

2023年初頭のダカールラリー参戦を皮切りに、このところファンティック レーシングの活躍ぶりが話題に上っている。MOTO 2への参戦も見逃せないが、イタリア、欧州、世界選手権モトクロスやエンデューロなど、オフ系レースでの戦績がめざましい。今回はそんな競技車両を彷彿とさせるストリート用の本格派デュアルパーパスモデルに試乗した。

REPORT●近田 茂(CHIKATA Shigeru)
PHOTO●山田俊輔(YAMADA Shunsuke)
取材協力●モータリスト合同会社

ファンティック・XEF 250 Trail…….1,100,000円

レッド/ホワイト/ブラック

ブラック/イエロークラシック

ファンティックはもともとオフロード系マシンでの活躍が目立つブランドだったが、今回試乗したXEF250 Trailは、それを象徴するような本格派モデルである。
同カテゴリーに属す国産車を探すと、現在は唯一ホンダ・CRF250Lがあげられる。しかしキャラクターとしてより近いのは、むしろ2007年に登場し既に生産終了となっているヤマハ・WR250Rのような存在と言えるだろう。それは競技車(エンデューロマシン)レベルのハイパフォーマンスが追求されたマシンをベースに公道走行を可能とする保安部品を備え、さらに耐久性を高めることで、必要となるメンテナンス頻度を低く抑えられた傑作モデルとして知られている。
XEF250 Trailは、総合的なポテンシャルの追求具合がCRF250Lより競技車に近い仕上がりを誇っており、そのコンセプトの違いに対して“本格派”と表現したわけだ。

既報のXEF125の記事で記した通り、今回のXEF250 Trailはフレームを始めとする基本コンポーネンツを125と共用している。従って車体寸法などの諸元データはほぼ共通する。主要部分に角パイプのクロームモリブデン鋼を使用したスチール製フレームはペリメターと呼ばれるセミダブルクレードル式。ダウンチューブは角パイプで、シリンダー前方付近で左右2本の丸パイプに分岐。エンジンアンダーガードも標準装備。ボルトオンされるリアフレーム(シートレール)は丸パイプのアルミ製。ちなみに125はスチール製である。
この他、赤く派手なカラーが印象的な倒立式のフロントフォークはOLLE製のR16Vで、125より太いφ43mmサイズを装着。また前後ブレーキとタイヤサイズは共通だ。
ゴールドに輝くステアリングブラケットはコンピュータ制御で削り出されたアルミ製が奢られ、赤いカラーで統一されたテーパータイプφ28mmのハンドルバーもアルミ製。
リアに装着されたボトムリンク式モノショックサスペンションは十分なオイル容量を確保するリザーバータンクを背負うピギーバッグタイプを採用。長いスイングアームはアルミ製。前後ディスクブレーキも含め、同クラスの競技用マシンに準じるレベルのハイグレード・パーツが装着されている。
車重は乾燥重量で122kg。アルミフレームの競技用マシンと比較すると10~15kg程度重いが、コンセプトの異なるCRF250Lよりは軽く仕上がっているのが特徴である。

搭載エンジンはSOHC4バルブの水冷単気筒。ボア・ストロークは77×53.6mmと言うショートストロークタイプの249,6ccで、21.5ps/8,750rpmの最高出力と18.6Nm/6,750rpmの最大トルクを発揮する。
余談ながら、このボア・ストロークは、ヤマハWR250Rと共通。また9月に新発売されるスズキRM-Z250(競技用車両)も同じである。この2車はDOHCの4バルブだが、スポーティーなハイパフォーマンス(高回転高出力と扱いやすい出力特性)を追求すると、このぐらいのボア・ストローク比に程良さがあるのかもしれない。ついでに言うとRM-Z250の車体寸法は、XEF250 Trailとかなり似かよった仕上がりになっている点も興味深いのである。

総合性能の高さと操る楽しさは侮れない。

試乗車に跨がると、955mmあるシート高の割に足付き性が良い。詳細は足付き性チェックの写真を参照頂きたいが、両足共に爪先立ちながら、平坦な舗装路なら足元のグリップも捉えやすくしっかりと踏ん張れる。
右足をステップに乗せ、片足で支えるなら指の付け根も接地でき、さらに安心して楽に支えられる。車重が軽く車体がスマート故の安心感があり、腰高な目線位置の高い乗り味にも直ぐに慣れてしまえたのが印象的だった。
ただしこれは舗装された一般公道での話。サスペンションやロードクリアランスに十分な長さが確保されているメリットとその魅力は承知しているが、荒れた林道やウネリの大きな非舗装路を行く時には、身長180cmぐらいの体格が欲しいと思えたのも正直なところである。
足(地面を蹴る)も使ってトコトコと林道を進むようなバイクとして見ると、明らかにキャラクターが異なる。やはりランドスポーツとしてそれなりのライディングテクニックを上達させながら、クローズドのコースを舞台に、スロットルワイドオープンで走る。心地良い汗を流せるスポーツ道具として活用するのが似合っているわけだ。

XEF125では15mmローダウン化されたサスペンションも相まって、日本的な林道ツアラーとしても扱いやすい万能ぶりが印象的だった。しかも中低速域での粘り強い出力特性も特筆物でビギナーにもお薦めしやすいキャラクターに魅力を覚えたと記憶している。その点XEF250 Trailは明確にスパルタンなハイポテンシャルを実感する。低速域ではギクシャクとややスムーズさに欠ける挙動を発生するが、ひと度スロットルを開けると、強力なパフォーマンスを発揮。        
スポーティなハイスロットルが採用されているようで、簡単に全開にできる操作性も相まって、開けた時に感じられるパンチ力は躍動感に溢れている。
単気筒エンジンのピストンの鼓動に、弾けるような爆発力が実感でき、中速域から吹き上がる鋭いスロットルレスポンスには、常に豪快な加速(駆動)力が伴う。
滑りやすいマディーな路面で前輪を取られてしまうようなシーンでも、スロットルのひと開けで、後輪に確実な駆動力を与えられ、車体の安定性を回復してクリアできる扱いやすさも好印象。車体と前後サスペンションの剛性感が高く前後のバランスも良い。操舵フィーリングや路面情報のキックバックも分かりやすく、雨上がりの林道も、アベレージ速度が上がるような感覚だった。
サスペンションのストロークは十分。体重の軽い筆者にとっては、すこし硬めに感じられたが、不意の凸凹でも衝撃の吸収具合が優秀。恐らくダートコースにあるジャンプシーンでも難なくこなせる高いポテンシャルが備えられていることは容易に推察できる仕上がりだった。
オフロード系のツアラーと言うよりは、間違いなくスポーツ道具として高いポテンシャルを秘めている。
飛んだり跳ねたりに興味を持つライダーの体験走行も含め、モトクロスコースなどで不整地を思い切り走り込んでみたい人にはお薦め。特に専用のトランスポーターを所有することが叶わない人には魅力ある選択になるだろう。XEF250 Trailならナンバー付きで公道走行が可能。お目当てのクローズドコースまで自走で行き、スポーツ走行を軽くエンジョイして再び自走で帰る。
無事に帰還するには、当然ながらスポーツ走行でもそれなりに自制心のある賢い走りが求められる。無理はせず、オフロードのスポーツ走行を適度に楽しみたたいユーザーに相応しい1台になると思えた。

足つき性チェック(ライダー身長168cm / 体重52kg)

シート高はなんと915mm。爪先立ちながらもその割に支えやすく感じられたのは、車体がスマートで軽く仕上げられているから。ご覧の通り、両足着地点の左右幅は狭い。

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著者プロフィール

近田 茂 近影

近田 茂

1953年東京生まれ。1976年日本大学法学部卒業、株式会社三栄書房(現・三栄)に入社しモト・ライダー誌の…