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ヤマハ・MT-10 SP……1,998,000円(消費税込み)
ヤマハ・MT-10……1,674,000円(消費税込み)
のっけからこのバイクの感想を表現すると「凄過ぎ!」である。このフレーズを使うのは、今回で2回目。1回目はカワサキNinja ZX-10Rの記事で使用した。つまり今回のMT-10SPの尋常でないハイパフォーマンスぶりはそれに類似する驚きのレベルにあったということである。
ワイディングロード世界最速をターゲットに開発されているYZF-R1をベースにして開発された至高のネイキッドモデル。現時点ではヤマハ・ロードスポーツカテゴリーの頂点に君臨するフラッグシップモデルなのだ。
外観デザインこそMTシリーズ一連のものだが、みるからに筋肉質なフォルムは同シリーズの中でも特別な存在であることが伺える。なにしろアルミ製デルタボックスのダイヤモンド式フレームと同リヤアームや、ロッカーアームを介したバルブドライブメカを持つDOHC16バルブ水冷4気筒の997ccエンジン関係コンポーネントはまさにR1譲り。
もちろんハイパーネイキッドに相応しい専用のチューニングは施されるが、基本的にユニットは共通なのである。
MT-10が採用するYCC-T(ヤマハ電子制御スロットル)は、いわゆるスロットルバイワイヤーとも呼ばれ、実際のスロットルバルブはモーター駆動で電子制御される仕組み。TCS(トラクション・コントロール・システム)も3モード選択式を装備。後輪の駆動トルクは、点火時期、燃料噴射量、そしてスロットル開度が統合制御されるのである。ハイパワーエンジンには不可欠なとてもありがたい電子デバイスと言えるが、それが余計なお世話(介入)と思うなら任意にOFFすることも可能だ。
QSS(クイック・シフト・システム)や急減なシフトダウンでも後輪のグリップを失いにくいスリッパークラッチ。D-MODE(走行モード切替システム)も搭載。シャープでダイレクトなエンジンレスポンスの1モードを始め、オールマイティな2モード、穏やかで扱いやすい3モードが選択できる。
意外な装備としては、4速以上のギヤでセット可能なクルーズコントロールシステムが挙げられる。かなり過激な走行性能を秘めているので、のんびりしたクルージングとは対極にあると思っていたからだ。
アドレナリンを誘う強烈な加速感
車両を取り回しには、ガッチリとした手応えと重みを感じるものの、それなりに幅と高さのあるハンドルバーの関係か扱いに手強さはなく、押し引きも意外と軽く動かせた。シートに跨がるといくらか腰高な印象。マッシブでボリューム感のあるタンク回りの雰囲気とは対照的に、乗車姿勢がスマートに決まるライディングポジション。シートクッションは硬めだが、適度にグリップ感もあるスエード調表皮で座り心地もなかなか良い。
基本的にアップライトな姿勢で乗れるが、ステップ位置は後退ぎみでいかにもスポーティな感じ。走り始めた瞬間から腰をシートに預けるのではなく、下半身のクッションを生かしてステップを踏ん張る。自然と下肢の筋力を活用している自分に気付く。
“生半可な気持ちで乗るんじゃないぞ”!とバイクの方から語り掛けられているような気持ちになった。D-MODEはあえてフルパワーの「1」で試乗したが、右手をワイドオープンすると、それはもう凄まじい勢いで加速する。仮にTCSを切れば、ウイリー・バク転も必至の勢い。電子制御の無い世の中ならウィリーバーの装備が必然となるだろうと思える程の瞬発力である。
これほどのパワーを、いったいどこで発揮すれば良いのかと頭の中は疑問符で一杯になってしまう。実際高速道路のゲートで受け取った通行券をポケットにしまい、そこから100km/hまでのフル加速力を満喫してもほんの2~3秒の出来事に過ぎない。上体の起きた姿勢でモロに風を浴びる環境でのスピード感はレプリカ系の加速感より増幅されてまさに強烈。
冷やかに言うと、あり余るパワーが無駄に思えてくるのも事実。しかし、その一方で地上を走る乗り物の中でどれよりも凄い瞬発力を体感できるポテンシャルが魅力的であることも見逃せない。アドレナリンが出る感覚とでも表現できようか、そのパンチ力はやはり「凄過ぎる」の一言なのである。
電子制御サスペンションのフットワークも流石。フルバンクで攻めている時に遭遇した不意のギャップでも衝撃の吸収性が秀逸で安心感がある。鋭いブレーキ力も含めてサーキットでのスポーツ走行も何も不自由無く、かつ楽しく走れてしまうのも間違いない。
街にも溶け込むネイキッドスタイルで普段はあえて爪を隠して走る。ポテンシャルはだれにも負けないだけに、走る気持ちに余裕をもてる魅力に一人ほくそ笑むことができる点も気分の良い魅力点かもしれない。