【Vストローム650XT ABS試乗】ミドル排気量と侮れない、アドベンチャーに対する要望のすべてを満たしてくれる超実力派だった!

スズキのVストロームシリーズは世界中で高い評価を得ている。その中でミドルクラスに位置する650は、アドベンチャーらしいタフさと頼もしさ、扱いやすいパワーフィーリング、サイズ感を見事にバランス。日本の道路事情にベストマッチしたモデルとも言われている。
REPORT●横田和彦(YOKOTA Kazuhiko)
PHOTO●山田 俊輔(YAMADA Shunsuke)


Vストローム650XT ABS … 100万1000円(税込)

欧州で大ヒットし、日本市場でも認められたミドル・アドベンチャー

アドベンチャーモデルというと「舗装、未舗装問わず自在に走破し、長時間、どこまでも走っていけるタフなバイク」というイメージがある。その元祖とも言われているのがBMWのGSシリーズ。水平対向エンジンによる重心の低さを活かし、悪路であっても安定した走破性を見せるバイクだ。日本でも人気が高いモデルだが、実車を見るとその巨大さに驚く。フルパニアだと小山のよう。不思議なことに乗るとそれほど大きさを感じないのだが、それでもボクのような小柄なライダーだとオフロードに入るのは少し勇気がいる。正直に言うと入りたくない。それでも売れているのは、最高に乗り心地が良くツーリングバイクとしての素質が高いから。舗装路が多い日本ではそれで十分なのだ。
ところが2013年に日本デビューしたVストローム650は少し違った。大型二輪免許区分のアドベンチャーモデルとしてはかなりコンパクト。軽量・スリムで何より威圧感がない。とてもフレンドリーな雰囲気に好感を持った。
2017年には上位モデルであるVストローム1000と共通のデザインを採用しシリーズとしてのまとまり感を高めた。
2020年に上位モデルはVストローム1050となってスタイルを変えてしまうが、650はスタイリングを維持。2022年に最新の国内排出ガス規制に対応させ形式が変わった。とはいえスペックで最大トルク発生時の回転数と燃費が若干下がったくらいでほぼ変化はない。

大排気量アドベンチャーモデルほどの迫力はないが、頼もしさを感じるサイズ感。一般的なバイクとして見ると足着き性は決して良くはないが、アドベンチャーというカテゴリーの中でみると支えやすい部類だ。また軽量なので支えているときの不安感も少ないが、轍など路面に凹凸があるところでは気を付けたい。ライディングフォームは上体が起きてリラックスできるものになっている。

ライダー身長:165cm/体重70kg

リズミカルな鼓動感とともに吹け上がるVツインエンジン

搭載されているDOHC90°Vツインエンジンは1999年にデビューしたSV650が元祖。長い時間をかけて熟成させ、アドベンチャー向けに専用セッティングを施している。セルボタンを押すとすぐに目覚め、規則正しいアイドリングを刻む。アクセルに対するツキは良好で、吹け上がりのスムーズさも増している印象だ。SV650の頃から好印象を持っていたパワーユニットだけに走りへの期待も高まる。
クラッチをつなぐとリズミカルなトルクフィールに押し出されるように走り始める。650ccとは思えない安定したパワー感で交通の流れにスッと乗り、神経質になることなくクルージング。どの回転域からでも自在に加速できるフレキシブルさからエンジンの完成度の高さを実感する。
またポジションがアップライトなのもリラックスしてライディングできる理由。アイポイントが高いので視界も広く、交通の流れも読みやすいため安全運転にも直結する。
市街地走行で秀逸だと感じたのはローRPMアシスト機能だ。ギヤポジション、スロットル開度、クラッチスイッチの情報を用いて、低回転時にクラッチをつないだときにエンジン回転の落ち込みを緩和するシステムである。それによって混雑時の発進やUターンなどが容易になる。実用性が高いシステムだといえる。

エンジンのポテンシャルが高いので高速道路でも余裕の走りを見せ、高速ツアラーとしての実力が感じられる。
カウルに装備されたウインドスクリーンは4本のボルトを外すと3段階の高さ調節が可能。ボクくらいの体格であれば一番低い位置でも十分に恩恵は受けられる。クルーズコントロールは装備されていない。Vストローム650がデビューしたころはそれほど電子制御システムが普及していなかったので仕方ないが、今となっては欲しい装備のひとつではある。とはいえ優しいエンジン特性と座り心地が良いシート、しなやかなサスペンションなどによって長時間走っていても疲れにくい。

等身大の身近なアドベンチャーモデル

ワインディングに入ると想像以上に軽快に走れることに感心する。前後タイヤからの接地感がハッキリ伝わってくるので安心してバンクさせることができるのだ。バンク角も思い通りに調整でき、ねらったラインを確実にトレース。ライダーの思い通りに走ってくれる感覚はストレスなく実に快適だ。鼻歌交じりで気分よくコーナーをクリアしていける。
しかしVストローム650のオモシロイところは、ライディングを変えると走りも変化すること。コーナーへの進入速度を高め、フルブレーキングしてもバランスを崩さない。ボディアクションを大きめに使ってアップハンドルをねじ伏せるようにすると素早く向きが変わる。コーナーの立ち上がりではアクセルを大きめに開けると、Vツインエンジン特有の蹴り出しによって一気にダッシュすることができる。
自然体で余裕を持ってコーナーリングすることもできるが、ライダーが積極的に操作するとアグレッシブな走りもできるということ。そして、それがミドル・アドベンチャーの良いところ。ハイパワーで大柄な大排気量アドベンチャーだとついバイクに乗せられている感じになってしまうが、ミドルクラスなら自ら操っている感覚が得られる。そこに魅了されるライダーも少なくないのだ。

日本におけるアドベンチャーバイクの最適解のひとつ

大きすぎない、しかし頼れる車体サイズで積載量も十分。トルクフルで扱いやすいエンジンフィーリングはリラックスして走るだけじゃなく、攻める走りにも対応。車体や足回りのポテンシャルも高いのでタンデムやペースを上げても十分についてくる。そんなアドベンチャーモデルの魅力をすべて備えたVストローム650は、ライダーが主人公になることができるバイクである。国内外で人気が高いことにも納得する。日本人の体型や日本の交通事情を考慮すると、ミドル・アドベンチャーという選択肢は大いにアリだ。

ディテール解説

クチバシと呼ばれる形状のカウルには上下2連ヘッドライトがセットされる。先代よりもスリムな印象。今となってはハロゲン球が少し古いイメージになってしまっている。
回転数が瞬時に読み取れる大径アナログ式タコメーターと、液晶とのコンビネーションメーターを採用。燃費やガソリン残量、航続可能距離などの情報は読み取りやすい。メーターパネル下に12VのDCソケットを標準装備。
アップハンドルによりアドベンチャーモデルらしいポジションとなる。スクリーンはボルトを外すことで高さを3段階に調整できる。ハンドガードも標準装備品だ。
Vストローム650XT ABSはスポークホイールを採用。パンクに強いチューブレスタイプで、ボディカラーにあわせてゴールドアルマイトとブルーアルマイトの2種類がある。兄弟モデルのVストローム650 ABSはキャストホイール(サイズは同じ)を装備。
熟成を重ねてきたVツインエンジンは低回転域で独特の鼓動感が味わえ、高回転まで伸びやかに吹け上がる特性。トルクフルながらコントロール性もよく、ライダーの意志に沿った走りをすることができる。
ガソリンタンク後端は絞り込まれ、大容量(20ℓ)ながらニーグリップしやすい形状になっている。
右出しのマフラーからはツインサウンドが響く。ダウンタイプとすることで重心を下げると同時にマスの集中化も実現。悪路に入ったときなどでの安定性を高めている。
リヤショックのプリロード調整はダイヤルを回すだけ。工具を使わずにできるので、タンデムや多くの荷物を積載したときなどもすぐに調整できる。
コンパクトなテールランプはLED。視認性は高い。ホワイトレンズのウインカーはハロゲンだ。
ダブルシートの座り心地は良好。タンデムシートも幅広でクッション性が高く、大型グラブバーも備えているので、タンデムでのロングツーリングも快適にこなせる。
キーロックを解除することでシートを外すことはできるが、シート下にはバッテリーやECUなどの補機類が詰まっているため車載工具以外の小物を入れるスペースはほぼない。
リヤシートと高さがほぼ同じ高さになるリヤキャリアを標準装備。この上にオプションで用意されているアルミ製のトップケースキャリアを装着すると55ℓのトップケースを装備することができる。
左のハンドルスイッチでトラクションコントロールの介入度を1(スポーツライディング向け)/2(ウェット路面用)/OFFの3段階から設定できる。
右のスイッチボックスにはキルスイッチとハザード、セルボタンをセット。セルにはワンプッシュで始動が可能な「スズキイージースタートシステム」を備えている。

SPECIFICATION

車名:Vストローム650XT ABS
型式:8BL-C733M
全長×全幅×全高:2,275mm×910mm ×1,405mm
軸間距離:1,560mm
最低地上高:170mm
シート高:835mm
装備重量:215kg
最小回転半径:2.7m
エンジン型式:水冷・4サイクル・90°Vツイン・DOHC・4バルブ
総排気量:645cm3
内径×行程:81.0mm × 62.6mm
圧縮比:11.2:1
最高出力:51kW〈69PS〉/ 8,800rpm
最大トルク:61N・m〈6.2kgf・m〉/ 6,300rpm
燃料タンク容量:20L
フレーム形式:ダイヤモンド
キャスター/トレール:26°/110mm
ブレーキ形式(前/後):油圧式ダブルディスク(ABS)/油圧式シングルディスク(ABS)
タイヤサイズ(前/後):110/80R19 M/C 59V/150/70R17 M/C 69V
舵取り角左右:40°
乗車定員2名

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著者プロフィール

横田 和彦 近影

横田 和彦

学生時代が80年代のバイクブーム全盛期だったことから16歳で原付免許を取得。そこからバイク人生が始まり…