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600cc〜800ccのミドルクラスの「3つのちょうどいい」のお話
バイクでミドルクラスといえば、ひと昔前なら排気量が350ccや400ccのバイクだった。特に、400ccモデルは、1990年代頃まで、大型バイクへのエントリーモデルとして、初心者を中心に大きな人気を得ていた。
もちろん、当時から、高性能を誇る大型バイクに憧れる層は多かったが、ネックは免許制度。大型バイクまで乗れる自動二輪免許(いわゆる限定解除免許)は、運転免許試験場でしか取得できず、試験もかなりの難関。そのため、特に、若い世代の初心者ライダーなどは、まずは教習所でも取得できる中型限定自動二輪免許を取得し、乗ることができる最大排気量の400ccバイクを買って腕を磨いたのだ。
その後、1995年から大型自動二輪免許も教習所で取得できるようになると、大型バイクのブームが到来する。
しかも、人気の排気量は、それまで主力だった750ccモデルをさらに拡大した、1000ccオーバーのモデルに移っていく。筆者がかつて所有していたスズキのハヤブサも、1999年に「GSX1300Rハヤブサ」の名称で、輸出専用車として発売。当時は、各メーカー間における最高速競争が過熱していたこともあり、カワサキの「ZZ-R1100」やホンダの「CBR1100XXスーパーブラックバード」など、いずれも1000ccを超える大排気量と、最高速度300km/hを謳った海外専用モデルが絶大な人気を誇った。いわゆる逆輸入車ブームだ。
一方、フルカウルのスーパースポーツも、世界最高峰レースMotoGPに参戦するマシンが、4ストロークの1000ccマシンとなったことで、そのノウハウや技術を盛り込んだ1000ccモデルが数多く登場。さらに、世界的に年々厳しくなる排ガス規制の影響で、ツアラーなどのモデルも、それらの対策で排気量を拡大する傾向が顕著となる。こうした動向により、現在のように、「大型バイクといえばリッターオーバーモデル」という図式ができあがったといえる。
対して、600cc〜800ccのモデルは、かねてから欧米などでは人気だったが、国内にはあまりラインアップはなかった。それが、2016年に導入の「ユーロ4」、2020年導入の「ユーロ5」といったEUの排ガス規制が国際基準となり、国内規制も準拠したこともあり、国内各メーカーが、モデルのグローバル化を推進。
メーカーにとっては、世界で販売できる600cc〜800ccクラスは、日本での販売が主の400ccモデルなどと比べ、国内向けに作り替えたり、専用設計するなどの手間やコストもかからないなどのメリットがある。
そういった背景もあり、各メーカーは、日本市場などにもこれらクラスのモデルを積極的に投入。近年、400ccモデルのラインアップが減少傾向であることとは対象的となった。
加えて、最近のバイクブーム再来により、初めてバイク免許を取る初心者でも、普通二輪免許の取得後すぐ、もしくは、いきなり大型自動二輪免許を取得する若いライダーが増加。600cc〜800ccあたりのミドルクラスは、それら新規参入者に向けたエントリーモデルとしての意味合いも大きいといえる。
ハヤブサからCBR650Rに乗り換えたワケ
近年、600cc〜800ccクラスは、徐々に存在感を増し、ユーザーも増えているが、実は筆者もその1人だ。前述の通り、最近、大排気量1300ccのスズキ・ハヤブサから、650ccのホンダ・CBR650Rに乗り換えた。
ハヤブサは、2008年に出た2代目に約12年間乗っていた。排気量1339ccの並列4気筒エンジンは、最高出力197ps/9500prmを発揮(現行の3代目は188ps/9700rpm)。圧倒的な動力性能を持ちつつも、街乗りやワインディングなどでも扱いやすい特性を持つことで、ツーリングはもちろん、峠などでのスポーツ走行なども堪能。また、年に1〜2回はサーキット走行も楽しんだ。
CBR650Rに乗り換えたのは2020年。理由は、恥ずかしながら、ハヤブサで度重なる立ちゴケを経験するようになったからだ。
50歳も半ばを過ぎて、体力が衰えたせいだろうか、特にロングツーリングや、往復自走でサーキット走行に行った帰りに、自宅付近で疲れが出て、数度の立ちゴケ(停車中や低速走行時の転倒)。特に、ハヤブサは、乗ってしまえば意外に軽快なのだが、さすがに停車中の取り回しは重い。なにせ、2代目ハヤブサの装備重量は、266kgもあるのだから(現行の3代目でも264kg)。
狭い駐車場などでバイクを押したり、方向転換するときなどは、かなり力も必要。また、身長165cmの筆者には、ポジションが大柄なこともあり、渋滞路などでの低速走行やUターン時は、車体の重さもあり、コントロールには細心の注意をしなけばならなかった。それでも、疲れて集中力がなくなってくると、情けない立ちゴケに。
おまけに、1回転倒すると、カウルが傷付き、交換には片側で最低4万〜5万円は必要で、お財布にも優しくなかった。
車格や重さがちょうどいい
CBR650Rが納車され、跨がった瞬間に感じたのが、まるで400ccくらいのバイクに感じたことだ。理由は、まず、ハヤブサと比べると、車体がかなりコンパクトなこと。
2代目ハヤブサのボディサイズは、全長2190mm×全幅735mm×全高1165mm、ホイールベース1480mm(国内仕様の数値)。
対するCBR650Rは、全長2120mm×全幅750mm×全高1150mm、ホイールベース1450mmだ。
特に、CBR650Rは、ハヤブサと比べ、ポジションがコンパクトだし、車両重量も206kg。初心者や女性ライダーには、200kgの車体でも重く感じる人はいるだろうが、ハヤブサの266kgと比べると、成人男性の1人分は軽い。
2代目ハヤブサは、シート高805mmなので、足着き性は意外にいいが、とにかく重いので、停車中に支えるのは心理的にも辛い。
CBR650Rのシート高は810mmでハヤブサよりやや高いが、信号などで停車する時も、車体が軽いから楽。当然、駐車場などでの取り回しもかなり楽勝でやれている。
加えて、渋滞路での低速走行やUターン時も、CBR650Rはハヤブサより車体が小さく、軽いためにとても楽だ。
ハヤブサは、筆者の体格ではハンドルが遠いこともあり、前傾姿勢はややキツめ。特にスローな走りではバランスを取るのが大変だった。
一方、CBR650Rは、セパレートハンドルながら前傾はさほどきつくなく、バランスが取りやすいため、低速走行でもあまりふらつくことはない。また、ロングツーリング時も、ポジションがさほど窮屈でないため、疲れはあまり感じない。
バイクの初心者では、よく低速走行で立ちゴケするライダーも多い。特に、重くて大きい大型バイクは、慣れないと、渋滞路でノロノロと走る時など、バランスを取るのも大変だ。初バイク免許が大型自動二輪免許だという人でも、できればこうしたミドルクラスで慣れてから、リッターオーバーのバイクにステップアップした方がいいと思う。
ちなみに、ハヤブサに乗っていた時代、ツーリング先で、よく同年代か、年齢がさらに上のご同輩(ハヤブサ乗り)に出くわすことがあった。そんな時、度々話題に出たのがやはり立ちゴケ。特に、久々にバイクに乗るリターンライダーには、若い頃と同じ感覚で「乗れるだろう」と購入したはいいが、思いのほか重いなどで、立ちゴケを繰り返してしまう人も多かった。ハヤブサに限らず、大柄で重いバイクを扱いづらく感じるのは、筆者だけではないということだ。
1000ccスーパースポーツとの比較
一方、同じスポーツモデルでも、例えば、ホンダ「CBR1000RR-R」やヤマハ「YZF-R1」など、1000ccのスーパースポーツとCBR650Rを比べた場合はどうだろう。
1000ccスーパースポーツも、車両重量は200kgそこそこのモデルが多く、車体自体は軽い。だが、レーシーなポジションは前傾がきついため、低速走行はバランスが取りにくいし、窮屈なポジションはロングツーリングなどで疲れやすい。また、高速走行を考慮してかリヤサスが沈まないため、足着き性もあまりよくない。サーキットで走ることを重視しているからだ。
そう考えると、初心者はもちろん、年齢を重ねたベテランでも、普段使いやツーリングなどでもバイクに乗りたいのであれば、ポジションやサイズ、重さが「ちょうどいい」ミドルクラスのバイクがおすすめだといえる。
パワーもちょうどいい
CBR650Rは、最高出力95ps/12000rpm。2代目ハヤブサや最近の200psを優に超える1000ccスーパースポーツなどと比べると、100ps以上パワーは少ない。だが、筆者にとって、実は「ちょうどいい」パワーだと感じている。
まず、日本の公道では、200ps前後のパワーを使い切れる場所はあまりない。
高速道路での合流や追い越しなどでも、CBR650Rの95psで十分な加速を得られる。また、山道などの長い登り坂などでも必要十分だ。もちろん、トルクフルなハヤブサなどの大排気量バイクの方が、ロングツーリングなどで高速クルージングするときなどは楽だ。あまりギアチェンジせずに、6速トップをキープ、もしくは1段落として5速で走れることが多いし、回転数もあまり上がらないから、振動も少ない。
CBR650Rでは、追い越しなどの加速時に、4速まで落とす場合もある。だが、これも慣れの問題。制限速度内で走るのであれば、650ccのバイクでも十分楽に走れる。
ただし、サーキットの直線では違いが出る。
筆者は、ハヤブサとCBR650Rのいずれでも、筑波サーキット(茨城県)や富士スピードウェイ(静岡県)の本コースを走った経験があるが、例えば筑波の437mあるバックストレートでは、ハヤブサが(メーター読みで)200km/h近い速度が出るのに対し、CBR650Rはギリギリ180km/hに届かない。
また、富士スピードウェイの約1.5kmあるメインストレートでは、ハヤブサがコース真ん中あたりで(メーター読み)300km/h近く出るのに対し、CBR650Rはストレート後半で240km/hがやっと。そのため、1000ccのスーパースポーツには、あっという間に抜かれてしまう(もちろん、スキルの問題もあるが)。
だが、サーキットは、直線を速く走るだけでは面白くない。直線スピードはバイクの性能に寄与するところが大きいからだ。ハヤブサに乗っていたときは、車体が重いこともあり、ブレーキをコーナーのかなり手前でかけていたが、軽いCBR650Rに乗り換えて、ブレーキングポイントもかなり奧に取れるようになった。コーナーを曲がる時の軽快感も、CBR650Rの方が楽しいと思えた。
筆者は、一度、ヤマハの1000ccスーパースポーツ「YZF-R1」に、袖ヶ浦フォレストレースウェイ(千葉県)という1周2,436mのサーキットで試乗したことがある。
ヤマハMotoGPワークスマシン「YZR-M1」のテクノロジーが投入された憬れの1台。だが、正直にいえば、あまりの速さに目が追いつかなかった。まず、コーナー出口の加速が鋭すぎて、あっという間に次のコーナーが迫り、そこをクリアするとまたすぐに次のコーナー。その連続に、目や体が徐々に対応できなくなったのだ。
また、そのコースにある約400mのホームストレートでは、やはりあっという間に走りきり、速度も180km/hを軽くオーバーする。しかも、その後に来る第1コーナーは右の40R直角でかなり急なため、ブレーキングも相当ハードにやる必要がある。そんなこんなで、乗っている間はずっと冷や汗。一方、CBR650Rで同じコースを走ったときは、かなり楽しく乗れたので、やはり自分には95psでも「ちょうどいい」ことを実感した。
余談だが、同年齢のバイク店社長で、若い頃にレース経験がある知人も、同様に、「1000ccスーパースポーツは筑波サーキットなどでは目が追いつかない」といっていた。筆者も知人も、16歳で免許を取って、ずっとバイクに乗り続けているし、ましてや知人は元レーサー。サーキット経験豊富なライダーでも、年齢には勝てないようだ。
無理をして転倒し、バイクを破損させたり、怪我をするよりも、必要十分なパワーのバイクで楽しんだ方がいい。持てあます高性能よりも、自分のスキルや体力などの範囲内で、可能な限り使い切れる性能を持つバイクの方が、実は楽しいことが多い。
そして、これは、筆者のような長年バイクを乗り続けているライダーだけではない。バイクに乗ることの経験値が少ない初心者も、最初からあまり無理をせず、自分のスキルに応じて徐々にステップアップする方がいい。ミドルクラスのバイクは、そうした意味でもおすすめだ。
600ccでもトンガリ系はある
ちなみに、600ccクラスでは、例えば、ホンダ「CBR600RR」といったスーパースポーツもある。
だが、こうしたモデルも、1000ccクラスほどではないにしろ、やはりサーキット走行を重視した作り込みをしているだけに、初心者やサーキットを走り慣れない(筆者のような)オジさんライダーにはハードルが高いという。また、同コンセプトのヤマハ「YZF-R6」(国内販売はなし)やカワサキの「ニンジャZX-6R」などもはやり、かなりの熟練者ではないと性能を使い切れないといわれている。
ヤマハが2022年2月に国内販売を開始した「YZF-R7」は、1000ccの「YZF-R1」や600ccの「YZF-R6」といった、かなり尖った性能のモデルに対し、高いハードルを感じる初心者やベテランライダーをターゲットとしているという。
ネイキッドモデルの「MT-07」をベースに、700cc・2気筒エンジンを搭載するこのモデルは、車両重量188kgという軽量な車体と、最高出力73.4ps/8750rpmという適度なパワーで、幅広いライダーに扱いやすいのが特徴。また、A&S(アシスト&スリッパー)クラッチや、ブレーキレバーにブレンボ製ラジアルマスターシリンダーを採用するなど、本格的装備も魅力だ。
しかも、このモデルは、日本に先駆けて、欧米などで先行発売されているグローバルモデル。誰にでも扱いやすい600cc〜800ccミドルクラスのニーズは、日本だけでなく、海外でも高いことの証だ。
100万円程度で価格もちょうどいい!?
現在の1000ccスーパースポーツは、価格も200万円以上するモデルも多く、なかには300万円を越すモデルさえある。
また、筆者が乗っていたハヤブサも、2代目が国内販売された2014年当時で本体価格156万4500円(消費税5%込みの値段)だったが、現行モデルの3代目は215万6000円(消費税10%込みの値段)となっている。
もちろん、それらモデルには、トラクションコントロールやABSなど、最新の装備や電子制御システムが満載だから、必然的に価格が高くなることはしょうがない。また、安全性や走行性能も、昔のモデルと比べれば格段に向上しているといえる。
4輪車も、最近は価格が上がり、軽自動車でも200万円を超えるモデルも増えてきたが、趣味性が強いバイクの場合、大排気量モデルは誰もがおいそれと買える値段ではなくなってきている。
一方、ミドルサイズのバイクは、100万円程度で買えるモデルも多いため、お財布にはより優しいこともポイントだ。筆者が乗るCBR650Rは、2021年1月の一部改良でやや価格が上がったが、それでも税込で105万6000円〜108万9000円だ。
さらに、前出のYZF-R7の価格(税込)は99万9900円と、100万円を切っている。
ほかにも、フルカウルのスポーツモデルでは、カワサキ「ニンジャ650」の価格(税込)が91万3000円。
また、ネイキッドではホンダ「CB650R」の価格(税込)が97万9000円、ヤマハ「MT-07」が81万4000円。
アドベンチャーモデルでも、スズキ「Vストローム650/XT」の価格(税込)は95万7000円〜100万1000円だ。
いずれも、価格は100万円前後と、200万円以上のバイクに比べれば、かなり手が届きやすい。
もちろん、100万円でも安い買い物ではない。だが、筆者が所有する初期型CBR650Rの場合で、本体価格とクイックシフターなどのオプション、諸費用などの合計金額が約121万円。ハヤブサを売却したお金などを頭金に入れ、残高が約60万円。5年ローン(均等払い)を組んだところ、ローン代は月々1万円ちょっとだ。ほかにクルマのローンもあるが、なんとか毎月払える額ではある。
大型自動二輪免許を取ったばかりの初心者の中にも、すぐに高級な大型バイクを買いたいと思っている人もいるだろう。
もちろん、予算さえあればすぐにでも買える。だが、特に、学生や社会人になりたてなどの若い世代は、200万円を超える価格だと、なかなか手が出しにくい人も多い。
また、ベテランライダーでも、子育て費用や住宅ローンなどで、あまり大きな出費ができない人もいるはずだ。
もちろん、例えば250ccなどより排気量が小さいクラスの方が価格は安い。スクーターなどモデルによっては30万円台〜40万円台、スポーツモデルでは50万円台〜90万円台とやや高いが、車検がないから維持費は安い。だから、初心者など予算がない人であれば、まずはそうした250ccクラスのモデルを購入するのも手だ。
ただし、やはりミドルクラスのバイクの方が、走りなどに余裕があるのも確か。好みやスキル、体格や収入などには個人差があり、一概にはいえないため、あくまで私見だが、予算と走りのバランスが「ちょうどいい」クラスのひとつが、600cc〜800ccのモデル群ではないかと思う。
肩肘を貼らず、楽しいバイクライフを送れる
以上は、主にスポーツバイクや筆者の体験を中心に、600cc〜800ccミドルクラスのバイクについて、筆者が考える傾向や主なメリットなどを紹介した。
同クラスのモデルには、ここで挙げたほかにも、例えば、カワサキの「W800」シリーズや、ヤマハの「XSR700」といった、最近流行のネオクラシックモデルなどもあり、幅広い車種が揃っている。いずれも、初心者からベテランまで、肩肘を貼らず、楽しいバイクライフを送れるモデルばかりだ。
自分がどんなバイクに乗るかは、基本的に、免許さえあれば個人の自由ではある。だから、大型自動二輪免許を取ったばかりの初心者が、いきなり大排気量バイクに乗ってもいい。
一方、自分のスキルをはじめ、体格や体力にマッチしたバイクに乗ることは、安全にも繫がる。もちろん、1000ccを超える大排気量バイクが持つ高いハードルを乗り越えて、自在に乗りこなせるようテクニックを磨くこともバイクの醍醐味だ。
だが、それは、自分が怪我したり、周りに迷惑をかけない範囲でのこと。
これからバイクを選び、購入を考えている人は、参考にしてもらえれば幸いだ。