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妄想しちゃうほど走りに没頭できる
すかさずマシンを寝かし込んだら、タイトにコーナーを旋回。そのまま強力なエンジンで素早く立ち上がり、ライバルを抜き、置き去りにする!!
うぉ〜、気持ちがいい! “気分だけ”はAMAスーパークロスやモトクロス選手権でチャンピオンに輝いたイーライ・トマック選手(Monster Energy Yamaha Star Racing)です!!
とまぁ、冒頭の一節はもちろん想像の中、アタマで思い描く理想的な走り。じつはこれ、2023年式の新型『YZ450F』を開発するのにあたって、プロジェクトリーダーの石埜敦史さん(ヤマハ発動機 OV開発部YZグループ)が具体的にイメージしたもので、技術説明会でそれを聞いた筆者(青木タカオ)はたちまち妄想の中へ突っ走ったのであります。想像といいましょうか、夢の中でイーライ・トマック選手になってしまったのでした。
でも、あまりにも次元の違うものの、スポーツってイメージトレーニングが重要で、こうした“なりきり”は意外と上達への近道だったりもするんですよね。少年野球をやっていた頃は、よくプロ野球選手のモノマネをして、ホームランが打てたりもしました。えっ、そんなハナシは聞いていないですって……!? 失礼いたしました。
ヤマハYZ450F……1,155,000円(消費税込み)
人間工学に基づいたボディワークによって軽快な操縦安定性を実現。車両全セクションにわたる軽量化により、ライダー操作に対して“素直な”旋回フィーリングを獲得しました。
フィット性に優れ、一体感が得られる
車体重量は2.3kgも減り、装備重量109kgという驚異的な軽さを実現。またがると、コンパクトかつスリムなことがよくわかり、特に左右幅が50mm狭くなったシュラウドによってフィット感に優れることが際立ち、ワンサイズ小さなバイクに乗っているかのようにも感じます。
マシンとの一体感がより強く得られ、コーナーアプローチではズバッとインに入っていけます。ロール慣性が約2%低減されたことで、ライダー操作への反力や立ち感が抑えられ、軽快かつ素直な倒しこみができ、狙ったラインを外しません。
また、レーンチェンジでの俊敏性も、タンクレールとヘッドパイプの連接部を15mm下げたことで向上しました。フレームのねじれる位置が下がり、曲がりやすくなっているのです。
余裕を生み出すパワフルなエンジン
腰下レイアウトから見直したニューエンジンは、部品点数削減も影響し、従来比400gの軽量化を果たしつつエンジン出力を5%向上。低速域から潤沢にトルクを発揮し、クランク大径化による慣性マスの確保も影響しているのでしょう。アクセルを戻した時もトラクションが抜けず、路面に食いつきます。
操りやすいから、夢中になったまま走り続けられる。気がつけば、持て余すばかりだった450ccモトクロッサーで、楽しみながら周回を重ねているではありませんか!!
YZ450Fの進化ポイント
バイラテラルビーム・フレームも完全な新設計で、手に取ると徹底したつくりこみであることが伝わってきます。内部のリブや剛性バランスの仕上げで開けられた孔など、緻密に計算され完成に至っているのでした。
10種以上のアルミ製構成部品を相互に溶接し、各部材の挙動を最適にバランス。エンジン前側懸架には貫通ボルトを追加し、ダウンチューブは断面積を増やし剛性を確保しています。
車両全セクションにおよぶ軽量化により、ライダー操作に対して素直な旋回フィーリングを実現。タンクレールとヘッドパイプの連接部を15mm引き下げ、ライダーの意思に遅れなく、俊敏な操舵特性を獲得しています。
ライダーファーストを貫いた細部造形は骨格の見直しからおこなわれました。バッテリーボックスの剛性を活用したリヤフレームだけでも200gの軽量化を達成しています。
新設計の鍛造ピストンを採用し、シリンダーヘッドは高さを低減。水冷DOHC4バルブエンジンは総幅を8.5mmコンパクト化するなど、細部にわたり全てを徹底的に見直しました。レブリミットを500rpm高め、パワーを5%向上しています。
チタン製のインテークバルブは従来モデルの37mm径から39mm径に拡大され、最大リフト時の吸入空気量を9%増加しています。
軸受構造変更により、カムシャフトアッセンブリも軽量化。拡大したチタン製バルブなども、技術説明会では見て触ることができました。
クランクケースも新作。磨き込まれて、表面処理もより美しい。
ウェブを大径化し、肉抜き孔加工、大端プレーンベアリングを採用したクランク。バランサーシャフトも構造変更による軽量化が図られ、振動も低減しています。
ウォーターポンプは高効率なシュラウドタイプで、パイプ位置変更により走行時のヒットを回避します。
ギヤ一体ハウジングを採用し、750グラムもの軽量・薄幅化したクラッチ。コニカルスプリングの導入で、操作性も向上しています。プレート勘合部の作動性が上がり、耐摩耗性でもより優れるものとなりました。
KYB製の倒立式フロントフォークは減衰特性を最適にセッティングし、トラクションとバンプ吸収性能を向上。工具不要で圧減衰調整できる手回し圧減衰アジャスタを新たに採用するとともに、インナーチューブの表面劣化を防ぐためにダストシールを強化しました。
前輪ブレーキはピストンサイズ25.4mmの2ポットキャリパーとウェーブディスクの組み合わせで、制動力、タッチ、コントロール性、申し分ありません。
ハンドル位置は22年モデルと比較し、パイプ1本分手前になりました。よりコンパクトで自然な乗車姿勢としています。
オフを含め3段階の介入度を選択できるトラクションコントロールシステムを搭載。ローンチコントロールにはレブリミット機能が追加されました。
徹底した軽量化で、電装ハーネスやスイッチだけでも200gを軽減。スロットルワイヤーでも60gを削っています。
脱着しやすい設計とし、整備性を高めたエレメント。新気導入経路を一新しつつ、吸気通路への水やホコリ、泥の侵入を軽減しています。エアクリーナーだけでも400gを軽量化しました。
6.2Lの容量を確保するフューエルタンクも懸架構造を変更した新作となり、200gを軽減しました。
シート前端より給油口へアクセスできます。リッドの開閉はもちろん工具不要です。
フットレストブラケットにアルミ材を用いて、ここでも22年モデル比で200gめの軽量化を達成。ストッパー部を構造変更し、路面ヒット時の噛み込みや泥詰まりの軽減を図っています。また従来モデルに比べ、ステップ位置は5mm下がり、ヒップ・フット間を10mm増やし下半身に余裕を持たせました。
フロントフォーク同様、リンク式のモノショックもまたトラクション性能と衝撃吸収力を向上しています。
剛性が最適化されたスイングアーム。リヤブレーキはホースの硬さを見直し、操作性を向上しています。ダンロップ製GEOMAX MX33はワイドレンジソフトモトクロスタイヤ。
張り出しを抑え、サイドカバー内に配置されたサイレンサー。
テスター:青木タカオ
バイク専門誌編集部員を経て、二輪ジャーナリストに転身。最新バイク情報をビギナーの目線に絶えず立ち返ってわかりやすく解説し、休日にバイクを楽しむ等身大のライダーそのものの感覚が幅広く支持されている。現在多数のバイク専門誌、一般総合誌、WEBメディアにて執筆中、バイク関連著書もある。モトクロス専門誌「DIRT COOL」(三栄書房、現在休刊中)では、元ワークスライダーに走りを学ぶライテクコーナー生徒役としてもお馴染みだった。