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ホンダ・グロム…….385,000円
冒頭に記した通りエンジンと外観が一新されたグロム。コンパクトながらガッチリと逞しいフォルムはなかなかファッショナブル。色使いも新鮮である。
6Lに容量アップされた燃料タンク両脇のシュラウドとサイドカバーはデザインに生かされた丸い3点アクセントからもわかる通りボルトオンされていて、別色のカバーを入手すれば着せ替えが簡単にできる。
右出しのブラックマフラーもサイレンサーは分割構造で、ユーザーの好みに合わせたカスタマイズが楽しめるよう配慮。公式Webサイトのアクセサリー覧を見ると、SP武川やモリワキブランドのスペシャルマフラーが5種も揃えられている。
バックボーンフレームに吊り下げられた黒い新型エンジンは、空冷SOHC前傾単気筒。前モデルとはボア・ストロークも異なり、排気量は1cc減の123ccになっている。
ボアは2.4mm縮小。ストロークは5.2mm延長され、よりロングストロークタイプとなっているのが見逃せない。また目新しい技術ではないが、オフセットシリンダーやバルブ系にローラーロッカーアームを採用。低フリクション化も徹底されている。
圧縮比も9.3:1から10.0:1へアップ。ピークトルクデータは変わらず、最高出力は若干向上。トータルでより柔軟な出力特性の発揮を目指した模様である。
さらにもうひとつ、大きな変更点はリターン式の5速マニュアルトランスミッションを搭載。1次2次減速比も合わせて変更され、スポーティなシフトワークが楽しめる様にリファインされている。
各速の総減速比を比較すると、ローから4速までは低めのギア比で、トップギヤ(新型では5速)のみが高めに設定されている。
一般的に4~5速化と言うと、クロスレシオの採用をイメージしがちだが、各速間のギヤレシオギャップはそれぞれワイド化されているのも特徴。つまり従来の4速ミッションに対して新型の5速ミッションはローのギヤ比を一段と低く、トップは高く設定されている。
結果的に燃料消費率は定地データで63.5km/Lへ、実用を模してパターン化されたテストで計測されるWMTCモード値は68.5km/Lに、共に着実な性能向上を果たしているのである。
漲るハイパフォーマンスが気分良い。
試乗車を目前にすると、見るからに微笑ましいコンパクトな車体サイズが印象的。斬新な外観デザインにも愛嬌が感じられる。
シートは低く跨がるのも楽。膝でタンクを挟んで乗る基本的なライディングポジションと、エンジンから後輪へパワーを伝達する駆動方式。そしてその操作方法は本格的バイクと同じである。
この点にスクーターとは決定的に異なるバイクならではの雰囲気が感じられた。
車重は前モデル比で2kg軽量化された102kg。体感的にその差が感じられる事はなかったが、コンパクト軽量なバイクならではの気楽な乗り味には改めて魅力を覚えた。
ビギナーであれ、ベテランであれ、とても気楽に走り出せる。ちょっとコンビニまで、街に繰り出す様な使い方にも便利に、しかも楽しく乗れるのである。
ハンドル位置が少し高められゆったりと楽なライディングポジションも好印象。トコトコとあちこち散策するツーリングも快適な走りを提供してくれると思う。
エンジンを始動して軽く右手のスロットルを開け閉めしてみると、意外と軽いクランクマスが採用された様な印象。その相性は良く、スムーズかつ程よく軽快な吹き上がりフィーリングを誇る。
スロットルレスポンスはシャープと言う程ではないが、回転の伸びも良く、頼り甲斐のある柔軟性に富む出力特性が期待できそう。
早速ローギヤにシフトしてクラッチミートすると、良い意味で穏やかな雰囲気だった旧モデルと比較すると、明確に元気の良いスタートダッシュが決まる。ギヤ比が低い事もあって、エンジン回転の上昇速度が速い。
もちろんスピードの乗りも明らかに早い。感覚的に決して俊敏ではないが、回転の伸びを待つ感覚が減少し、一定速で一気に伸びていく様は生き生きとしている。
最も力強いのは4,000~7,500rpm。この回転域を駆使すればとても元気良く走れる。レッドゾーンは8,250rpmからだが、9,000rpm付近までは難なく伸び上がる。
もっとも回転の上昇スピードは緩慢になるので、あまり強引に引っ張るよりはレッドゾーン手前で少し早め早めにシフトアップした方が効率の良い加速性能が引き出せる。
一方低速域では、3,000rpmあたりから十分な粘り強さを発揮いてくれる。意地悪く5速トップギヤのまま30km/hまで速度を落としても、スロットルを丁寧に開けさえすれば、加速に転じる強かさもあるから驚きである。
ちなみにローギヤでエンジンを5,000rpm回した時のスピードは22km/h。5速トップギヤで50km/hクルージング時のエンジン回転数は3,250rpm、同じく4速なら4,000rpmだった。
同様に前モデルの場合は4速トップで約3,500rpmなので、5速トップの新型は燃費も節約しながらクルージング時の快適性も向上している事が理解できるだろう。
前後サスペンションはやや硬めな印象。12インチ小径ホイールもあって、荒れた路面ではその衝撃を拾うが、圧側のダンピング特性はなかなか優秀。
ニーグリップがしやすく人車一体感を保てるライディングポジションも奏功して、どこでも安心感のある走りが楽しめた。
バイクらしく、ライダーが積極的にコントロールしやすいし、かつそれを楽しめる生き生きとした走りが好印象。気軽な相棒感覚で付き合える乗り味は、バイク本来の楽しさや基本的操縦法を賢く学べるアイテムとしても相応しい一台と思えたのである。