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ベータ・RR4T350 MY’23……1,408,000円(消費税10%を含む)
サイクルエンジンを搭載したベータのエンデューロマシンの中では、最小排気量となるRR4T350。他メーカーでは250クラスも用意されているが、ベータにはなぜか無い。それはベータ社が考えるエンデューロマシンには250ではならないという判断によるもの。そこまでの拘りがあるマシンなので、チャンピオンも取れたのであろう。
DOHC4バルブ、水冷、燃料噴射、セル始動のエンジンは88mm×57.4mmのボアストロークでかなりのショートストロークとなっている。フレームはセミダブルクレードルのスチール製で、サブフレームは軽量な樹脂製となる。
クラッチは湿式多板の一般的な形式だが、クラッチスプリングはコイルではくダイヤフラム式を採用している。
ZF製のフロントフォークは、オイル通路のオリフィスを改善してよいスムーズでプログレッシブな特性へ。リヤサスユニットもZF製で、前後共フルアジャスタブルとなっている。ちなみにストロークはフロント295mm、リヤ290mmと非常に長い。
シート高は940mmと2サイクルモデルより10mm高い。やはり足つきは良いとは言えないが、どのモデルでも同じだがスリムな車体なので真下に足を伸ばせから爪先で地面を捉えるのは容易い。それでも余程足の長いライダーで無い限りべったりとはいかないから、ちょっとでもグラッと横へ傾くと支えるのは大変だ。速度が乗って走っているなら何ら問題は無いけど、様々な路面を走るエンデューロでは気にしておく必要があるだろう。
車重は乾燥で107kg、装備で115kgくらいか。4サイクルの350でこの車重は十分軽い。しかし、2サイクルマシンに比べれば重心は高いから、低速でグラッと来た時は倒れこむ感じがあるからそれを旨く利用すると、クルッと曲がれる。
今回の路面は黒土のマディでグリップは決して良いとは言えないもの。しかし、この4サイクル350のエンジンはスピンしつつもグリップして(この感覚は乗れば分かると思う)前に前に進めてくれた。正確な事は分からないが、リヤサスペンションがトラクションがかかった時にうまい具合に反発するような動きとなり、リヤタイヤを路面に押し付けてくれてるのかもしれない。
レスポンスは勿論素晴らしく速いし、あくまでもフラットに伸びて行く。アクセル操作に対してあやふなな反応は皆無で、確実にそして忠実に回転が上がったり下がったりする。もしかするとビギナーレベルでは、それが返ってシビアに感じるかもしれない。しかしライダーの意思、操作をそのまま反映してくれるからやはり戦闘力は高いと言えるのだ。
2サイクルの300や4サイクル390の性能を発揮するには相当高いスキルが必要だけど、この350はそこまでのスキルが無くても自然と高性能を出して走れる感じだ。これは良い意味でその分の余裕をライン読みやら、体力の維持に向けられるということ。
クラッチはダイヤフラムスプリングだが何も違和感なく操作でき、切れも繋がりもスパッ気持ち良い。ブレーキも効き操作性も抜群であり、指先に路面との状態が伝わるから非常にコントローラブルであった。
今回ベータのマシン6台を試乗した中で、一番エンジンや車体など全てのバランスが良く感じ、走らせていて楽しく乗れたのが350。さすがは世界チャンピオンを取ったマシンであると思う。
ただちょっとだけ気になったのは、この350だけ始動性がいまいちだったこと。セルだし燃料噴射なので1発始動が当たり前かと思っていたが、少々始動しにくかったから。最もこの個体だけのことだと思うのだけれど。
このRR4T350、素晴らしいエンジン性能、素直な操縦性、スムーズにショックを吸収するサスペンション、剛性の高い車体など全てが高次元。そしてそれらがバランス良くまとめられたエンデューロマシンと言えるだろう。
足つき性チェック(ライダー身長172cm、体重85kg)
ベータ・RR4T350 MY’23/ディテール解説
ライダー紹介
村岡 力
1956年生まれ。
70年代スタントマンから雑誌業界へ入り、ずっとフリーランスのライター&カメラマン。2輪メインですが4輪もし時々航空関係も。モータースポーツは長年トライアル1本で元国際B級。
現在は172cm85kgの重量級。業界ではジッタのアダ名で通っています。