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ヤマハ・SR400ファイナルエディション……605,000円
空冷単気筒のスポーツ性を当時の技術で最大限に追求した秀作
ヤマハからSR400(と500)が誕生したのは1978年のこと。当時、エンジンの主流は2ストから4ストへ、そして多気筒化とハイパワー化の波が押し寄せており、その肥大化したビッグバイクへの強烈なカウンターパンチとして誕生したのがこの空冷単気筒モデルだ。パワーが少なくても車体が軽量であればハンドリングは軽快であり、タイヤの消耗や燃費の面でも有利。また、シングルなら並列4気筒よりも前面投影面積が小さいので空力特性でもメリットがある。実はこの年、SRのベースとなったXT500のエンジンをオリジナルのフレームに搭載したマシン〝ヤマハSY2〟が第1回鈴鹿8耐に出場し、空冷シングルの持ち味を生かして見事8位で完走している。ちなみに優勝したのはヨシムラのGS1000で、ライダーはウェス・クーリーとマイク・ボールドウインだ。
今でこそ「目覚めの儀式」などと呼ばれているキックスタートを採用したり、振動を低減するバランサーがないのは、あくまでも軽量化のためだ。また、車体ギリギリまで寄せられたマフラーは、バンク角を稼ぐためでもある。そして、初代から1984年モデルまで採用されていた左側のフロントブレーキディスクは、右側にあるそのサイレンサーとの重量バランスを取るため、という逸話もある。つまり、それほどロードスポーツとして真っ当に設計されたのだ。当時の空冷2気筒勢よりも20kg前後軽かったと聞けば、この時代のSRのパフォーマンスの高さがおおよそ想像できるだろう。
そんなSRが、中断を挟みつつ43年間も基本設計を変えずに生き長らえたのは、ファンの多さとそれに応えたヤマハの良心にほかならない。昨今、ネオクラシックと呼ばれるジャンルが大人気だが、SRは作り続けられた結果としてクラシックになったのであり、雰囲気は似ていても乗り比べると全く別物であることを痛感させられる。
今回、SR400ファイナルエディションの試乗と前後して、ポストSRとも言われるホンダのGB350に乗ることができた。どちらも空冷SOHC2バルブ単気筒で、最高出力はSRの24psに対してGBは20psだ。GBのために新設計されたエンジンは、一次バランサーのほかにメインシャフトにも同軸バランサーがあり、振動や雑味といったものがほぼ皆無だ。それでいて348cc分の単気筒らしい鼓動感と明瞭な排気音はしっかりと伝わってくる。
これに対してSR400は、回転数の上昇に比例して振動が増えていき、レッドゾーンの始まる7,000rpmまでしっかり回るものの、常用できる(=ライダーが我慢できる)のはせいぜい4,000rpmまで。トップ5速、100km/hでの回転数は約4,500rpmであり、この速度で30分も巡航すると手のひらに少なからずしびれが残る。加えてパワーカーブはフラットなので、積極的に回したくなるエンジン特性でもない。つまり味わいよりも実用性に徹しており、24psという扱いきれるパワーだからこそ飽きにくいと言えるかもしれない。
元号が令和になっても変わる必要がないことをSRは証明してみせた
車重はGB350より5kg軽い175kgを公称する。ハンドル幅が狭いため取り回しはやや重く感じるものの、データとしてはYZF-R25の170kgとほぼ同等だ。このSR400、動き出してしまえばハンドリングは軽快で、前後タイヤの細さもあって倒し込みや切り返しはスパスパと決まる。ホイールが前後18インチなのでクイックに舵が入るタイプではなく、またペースを上げすぎるとバンク角を含むシャシーの限界を簡単に超えてしまうが、それでも峠道でのスポーティな走りはこれが生まれた当時の志の高さを彷彿させるものだ。
2001年に再ディスク化されたフロントブレーキは、それ以前のドラムよりも明らかに制動力が高く、しかもコントローラブルだ。これに対して初代からドラムのリヤは、奥の方で制動力が立ち上がる傾向にあり、スリッピーな路面ではややロックさせやすい。とはいえ、すぐに慣れる範疇であり、仮にロックさせても滑り出しが穏やかなので恐くはないだろう。
ABS義務化に対し、〝らしさ〟を継続できないという理由から生産終了になったと言われているSR400。これを執筆している2021年9月上旬現在、SRの中古市場はかなり過熱しており、乗り出し価格で200万円を超えるものも。すでにオーナーとなられている方は今後も大切に乗っていただきたく、またこれから購入を考えている方は早めに手を打った方がいいだろう。