足着き性か、それとも悪路走破性か。CRF250LとCRF250L〈s〉、買うならどっち? 乗り比べて気づいたこと

国内4メーカーの軽二輪ラインナップにおいて、唯一の本格デュアルパーパスモデルがホンダのCRF250Lだ。2023年1月に令和2年排出ガス規制に対応したこのCRF250L、シート高が830mmのSTDモデルと、880mmの〈s〉の2種類が同一価格でタイプ設定されており、購入時に悩む可能性が非常に高い。そこで、両方を街乗りから林道まで乗り比べた筆者が、それぞれに合うシチュエーションを挙げてアドバイスしたい。

REPORT●大屋雄一(OYA Yuichi)
PHOTO●山田俊輔(YAMADA Shunsuke)

価格はどちらも62万1500円、シート高は50mm差。

STDモデルのCRF250L。カラーリングは2023年の新色であるスウィフトグレーのみ。シート高は830mmで、最低地上高は245mmを公称。
こちらはCRF250L〈s〉で、車体色は2021年モデルから継続のエクストリームレッドのみ。シート高は880mm、最低地上高は285mmだ。

両モデルとも2023年モデルでメーカー希望小売価格は2万2000円アップし、ナックルガードが標準装備に。車重は140kgから141kgへ。

足着き性の違いはこの程度だが、小柄なライダーには大問題か

左:CRF250L、右CRF250L〈s〉
左:CRF250L、右CRF250L〈s〉

乗車1Gでの前後サスの沈み込み量は〈s〉の方が大きく、シート高50mm差から想像するほど〈s〉の足着き性が極端に悪くなるわけではない。とはいえ、身長175cm/体重68kgの筆者の場合、STDモデルなら両かかとが楽に接地するので、特に街中や林道において安心感は大きかった。

シートの厚みが異なるので、ライディングポジションも微妙に違う

CRF250L
CRF250L〈s〉

STDモデルよりも〈s〉の方がシートのウレタンが厚く、その分だけ相対的にハンドルが低めとなる。ステップとの距離も開くので、より積極的にオフロードでコントロールしやすいライポジとなっているのだ。

街中や峠道など舗装路がメインなら間違いなくSTDモデルを推す

CRF250L

2012年にニューモデルとして登場したホンダ・CRF250L。2017年にはシート高を45mm下げた「タイプLD」がSTDモデルと同価格で追加されたが、それ以前は純正アクセサリーとして約8万円もするローダウンキットが用意されていたので、このモデルにおける低シート高化はユーザーにとって切実な問題だったと言えるだろう。

2021年、CRF250Lはフルモデルチェンジを実施し、呼称を若干変更した。STDモデルは車名の末尾に〈s〉を追加し、シート高は875mmから880mmへ。さらにホイールトラベル量はオフロード性能の強化のため、フロント250→260mm、リヤ240→260mmへとそれぞれ伸長した。一方、タイプLDの車名はシンプルに「CRF250L」のみとなり、こちらがSTDモデルという位置付けに。シート高は830mmのままだが、ホイールトラベル量はタイプLDのフロント200mm/リヤ180mmから235mm/230mmへと、こちらも大幅に伸長している。

以前のタイプLDは、見た目こそデュアルパーパスだがサスの動きが硬めで、足着き性を優先したことのネガが顕著に現れていた。ところが、新型は現セロー乗りの筆者から見ても車体のピッチングが自然で、林道を1~2速で走るようなペースであれば何ら不満を感じないレベルに仕立てられている。

そして、何より光るのが舗装路での走りだ。デュアルパーパスモデルは加減速で発生する車体のピッチングが大きめで、特に峠道ではややゆったりとした動きとなりがちだが、STDのCRF250Lは間髪を入れずに旋回へ移行できるというサスセッティングの絶妙さがある。加えて、倒立フォークを含むフロント周りの剛性バランスが優秀で、狙ったラインをトレースしやすいのだ。

足着き性の良さが注目されがちだが、現行のSTDモデルはタイプLD時代よりも悪路走破性は高く、しかも舗装路での走りは街乗りメインの使い方でも輝いている。たまに林道を走る程度の使い方であれば、STDモデルの方を強くおすすめする。


林道ではホイールトラベル量と最低地上高の差で〈s〉が輝く

CRF250L〈s〉

現行CRF250Lの基本設計は、シート高の高い〈s〉をベースに行われたという。ゆえに〈S〉のサスは、2ストエンジンが全盛だった時代のデュアルパーパスモデルを彷彿させるほどしなやかだ。筆者はかつて、カワサキのKDX200SRというエンデューロレーサーがベースの2スト車を所有していたが、林道ではあまりにもエンジンがスパルタンすぎて、早々に手放した経験がある。それと比べると、CRF250L〈s〉はエンジンも車体も圧倒的に扱いやすく、これぞ令和のデュアルパーパスという印象だ。

さて、〈s〉はSTDモデルよりもホイールトラベル量がフロントで25mm、リヤで30mm長いだけだが、ダートでは明らかにこちらの方が走りやすい。路面の凹凸に対する追従性が高いので、シッティングにおける視線の上下動が少なく、もちろん乗り心地もいい。そして、STDモデルもタイプLD時代より悪路走破性は高まったと思ったが、〈s〉はサスが大きく伸縮したときの減衰力が常に一定で、奥でグッと突っ張る感じがない。そのため、いつまでも接地感が途切れず、安心してスロットルを開けていけるのだ。

舗装路では、スロットルのオンオフやブレーキングで発生する車体のピッチングが大きいため、STDモデルよりもキビキビとした走りは望めない。とはいえ車体が軽いのと、ブロックタイヤながらグリップ力が高いこともあり、峠道での走りは楽しいの一言だ。

なお、新排ガス規制に適合したばかりの249cc水冷DOHC4バルブ単気筒エンジンは、STDモデルと〈s〉で仕様は共通だ。アイドリングのすぐ上、2,000rpm付近から粘り強く、スロットルを大きく開ければレッドゾーンの始まる10,500rpmまで気持ち良く伸び上がる。街乗りから林道まで全く不満がなく、アシストスリッパークラッチのおかげでレバーの操作力が軽いのも隠れた魅力だ。

2021年のフルモデルチェンジで、悪路走破性を底上げしたCRF250L。万人に勧められるのは足着き性のいいSTDモデルで、〈s〉はコアな林道ファン向けと言えるだろう。


ディテール比較

2011年に登場したロードスポーツCBR250Rに端を発する249cc水冷DOHC4バルブ単気筒。排気側に4mmオフセットしたシリンダーやローラー付きロッカーアーム、1次バランサー、6段ミッション、アシストスリッパークラッチなどを採用する。最高出力は24ps/9000rpm、最大トルクは2.3kgf・m/6500rpmを公称。
CRF250L
CRF250L〈s〉

φ43mm倒立式フロントフォークは、右側にスプリング、左側にダンパーを内蔵したショーワ製のセパレートファンクションタイプ。ストローク量はSTDモデルが235mm、〈s〉が260mmだ。フロントディスクはφ256mmウェーブタイプで、これにニッシン製のピンスライド片押し式2ピストンキャリパーを組み合わせるのは両タイプ共通。

CRF250L
CRF250L〈s〉

スイングアームはアルミ一体鋳造製で、シリンダー径φ40mmのショーワ製ショックユニットを組み合わせる。ホイールトラベル量はSTDモデルが230mm、〈s〉が260mmだ。ホイールリムはアルミ製で、ブラックアルマイト+ポリッシュ仕上げ。タイヤは前後ともチューブ入りだ。リヤのブレーキディスク径はφ220mm。

CRF250L
CRF250L〈s〉

シートは表皮の色が異なるだけでなく、ウレタンの厚みも異なる。付け加えると、派生モデルのCRF250ラリーは座面幅が20mm広く、ラバーマウントを採用している。

ホンダ・CRF250L(2023年モデル) 主要諸元

車名・型式 ホンダ・8BK-MD47
全長(mm) 2,210〔2,230〕
全幅(mm) 900〔900〕
全高(mm) 1,165〔1,205〕
軸距(mm) 1,440〔1,455〕
最低地上高(mm) 245〔285〕
シート高(mm) 830〔880〕
車両重量(kg) 141
乗車定員(人) 2
燃料消費率(km/L)
 国土交通省届出値:定地燃費値(km/h) 47.5(60)〈2名乗車時〉
 WMTCモード値(クラス) 33.7(クラス 2-2)〈1名乗車時〉
最小回転半径(m) 2.3
エンジン型式 MD47E
エンジン種類 水冷4ストロークDOHC4バルブ単気筒
総排気量(cm3) 249
内径×行程(mm) 76.0×55.0
圧縮比 10.7:1
最高出力(kW[PS]/rpm) 18[24]/9,000
最大トルク(N・m[kgf・m]/rpm) 23[2.3]/6,500
燃料供給装置形式 電子式〈電子制御燃料噴射装置(PGM-FI)〉
始動方式 セルフ式
点火装置形式 フルトランジスタ式バッテリー点火
潤滑方式 圧送飛沫併用式
燃料タンク容量(L) 7.8
クラッチ形式 湿式多板コイルスプリング式
変速機形式 常時噛合式6段リターン
変速比
 1速 3.538
 2速 2.250
 3速 1.650
 4速 1.346
 5速 1.115
 6速 0.925
減速比(1次/2次) 2.807/2.857
キャスター角(度) 27° 30′
トレール量(mm) 109
タイヤ
 前 80/100-21M/C 51P
 後 120/80-18M/C 62P
ブレーキ形式
 前 油圧式ディスク(ABS)
 後 油圧式ディスク(ABS リアキャンセル機能付き)
懸架方式
 前 テレスコピック式(倒立サス)
 後 スイングアーム式(プロリンク)
フレーム形式 セミダブルクレードル
製造国 タイ
※〔 〕内は〈s〉

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著者プロフィール

大屋雄一 近影

大屋雄一

短大卒業と同時に二輪雑誌業界へ飛び込んで早30年以上。1996年にフリーランス宣言をしたモーターサイクル…