21インチ、200ccエンジン。インドにもいいアドベンチャーバイクがあるんですね。|HERO X-PULSE試乗記

かつて「HEROホンダ」という会社があったが、それから独立した形でインドのメーカーとして今とても大きくなっている「HERO」。ホンダの流れをくむモノづくりが受け継がれているのだろう。今回の試乗でもどこか「エンジンのホンダ」を感じさせてくれた。

Hero X-PULSE200 4V…‥359,000 円(消費税込み)

ワンランク上のクオリティ

アジバイと言っても国内メーカーがアジア市場で展開している、というモデルがほとんどな中で、このHEROはかつてホンダ系列ではあったものの、今は正しくホンモノの「アジバイ」である。インドのHERO社は今やアジアメーカーのトップランカーであり、逆にアジア地域においてこのブランドに馴染を感じていないのは日本市場ぐらいかもしれない。
そんなHEROのX-PULSE 4Vはオフロードテイストの車体を持つ200ccモデル。いわゆる「オフ車」的な成り立ちではなく、TLM220や少し前のBMWを思わせるようなちょっと長めのタンクや、小さいウインドシールドを備えるフロント周り、そして長距離やタンデムも想定したようなワイドなシートなどを備える構成だ。
それぞれのコンポーネントは上質で、スイッチ類やメーター類にはホンダの名残を感じさせてくれどこか安心感があるし、塗装の上質さ等からアジバイとしてはワンランク上のポジションに感じさせてくれた。

なんと言ってもエンジンが魅力!

実は同じ構成で2バルブ仕様もあるらしいが、今回試乗できたのは4バルブを採用したエンジンの方。シンプルな油冷シングルカムユニットながら、これがなかなか魅力的だった。始動直後はいくらか不安定なアイドリングもあったものの、エンジンが温まると安定し、スロットルに忠実に、元気に吹けていく。常用域でもトルクフルな特性を持っていて印象が良く、そしてやはり4バルブというだけあって高回転に繋がっていくにしたがってとても元気になっていく。特に4速、5速で高回転域まで回していった時の吹け切り感は気持ちが良く、フリクション感や振動が少なくパワーバンドを積極的に使いたくなる特性となっていた。
とはいえ200ccしかないのだからこの領域でも特別速いというわけではないのだが、実用車にとどまらずに確かなスポーツも感じさせてくれたエンジン特性はやはりどこかに「ホンダらしさ」のようなものを感じさせてくれるもので嬉しくなった。
こういったシンプルな空冷/油冷ユニットの多くは基本的にはトルクや常用域重視で、高回転域も回るには回るが特別気持ちがよいわけではなく、むしろ無理させてしまっている感覚が出るものも多い中、このX-PULSEの特性は他のアジバイと違う魅力だろう。

オフ車ではなくアドベンチャー

フロントに21インチ、リアに18インチのホイールを履くことで「オフ車」イメージを抱いてしまいそうだが、13L容量を誇るタンクや純正装着のキャリア、車体の下を通るエキパイなど、よく見れば本気の「オフ車」というよりは「アドベンチャー」に近い構成と言えるX-PULSE。スキッドプレートやエンジンガードも純正装着していることもあって、走り出してもオフ車にしてはいくらか車体が重く感じられ、積極的に未舗装路を走るにはちょっと注意も必要。タイヤの設定含めて、オフ車のつもりで突っ込んでいくとオットト、という場面にもなりかねない。 反対に車格の大きさや足つきの良さなど、アドベンチャー/ツアラーとしては優秀で、とっつきやすさはかなり魅力的。オフ車ベースのホンダCRFラリーなどよりもより多くの人にとってハードルは低いのではないかと思う。
またタンデムも考慮した車体構成もアピールしたいポイント。シートがしっかりしているだけでなく、タンデムステップにも防振ゴムが貼ってあったりと、軽量さ以上に快適性を重視しているのだ。

ちょっとイジッてより楽しくなる?

ツアラーテイストであることをよく理解し、特に未舗装路では無理せずスムーズなエンジンを楽しむことに集中すればとても楽しかったX-PULSE。しかし素性が良いだけに、場面によってはちょっと重たく感じる車体をカスタムで何とかしたくなる気もした。
まずはタイヤを実績のある国内ブランドに交換し、そしてスチールリムもアルミリムに交換するだけで車体がスッと軽くなりそうだ。エンジンが良いだけに、ツアラーとしておくのはもったいない! もっと積極的に乗りたい! なんてことを思ってしまうのだ。

HEROブランドを認知したい!

オフロードも入っていける構成だけれども、オフ車ではない。国内で言えばグラストラッカーや、少し古いがスーパーシェルパに近いような印象となったX-PULSE。しかもこのカテゴリーは国内では手薄とも言える分野だろう。そんな領域にHEROという大ブランドが展開しているのだから、これからはHEROブランド及びその製品群は無視できない存在になっていくのではないかと想像する。

足つき性(ライダー身長185cm/体重72kg)

フルサイズの足周りを持っているX-PULSEだが、車体全体の重心は低めでサスの初期作動性もソフトなため、ワイドなシートを持っているにもかかわらず足つきは安心できると感じた。大きなハンドル切れ角と相まって、取り回しに苦労はないだろう。

ディテール解説

フロント21インチホイールで本格的なオフ車テイスト。よく効くディスクブレーキにはABSもついて安心だ。タイヤはブロック形状とはいえロード向けのため、不整地を重視するなら交換しても良いだろう。フォークにはフォークブーツが装着され、フェンダーはアップタイプと、フォーク後方にはエンジン部への泥ハネを抑制してくれるダウンタイプも装着。ヤマハ・セローと同じ構成だ。

一見細めに見えるスイングアームに対して、しっかりとしたリアサスは好印象。プリロード調整機能も備え、ハードな走りにもタンデムや荷物を積載してのツーリング使用にも頼もしい。125ccクラスではなく、しっかりと250ccクラスの装備だと感じた部分だ。

18インチを採用したことでいかにもオフ車的な姿となっている。スイングアームは細く見えるが、角鉄のシンプルな構成であることなどからもホンダの流れを感じる。左側にサリーガードがつくのはインド定番。

油冷の200ccエンジンは19.1馬力を8500rpmで発生。シンプルな構成ながら、4バルブということもあって高回転域がかなり気持ちよく回っていく。また高回転域において振動が増大せず、その高回転域を積極的に楽しみたくなるのは「実用だけでなくこれは趣味のバイクとしても楽しんでください」というメーカーの心意気を見る思いだ。なおエンジンガード類も純正装着されるため多少の転倒だったら守ってくれる。

車体右側にはキックスターターも備えるためバッテリーが弱くなっても安心だ。

上面に平らな部分が広く設定されているため、オフ車の課題でもある長距離での尻の痛みはかなり少ないはず。またタンデム部もしっかりとクッションがあるのが好印象。元気なエンジンと相まってタンデムツーリングも楽しめそうだ。


小さなスクリーンを備えるあたり、かつてのTT250R Raid の姿も連想した。ハンドルガードも標準装備。やはり本気のオフ車というよりもアドベンチャー的位置づけなのだ。ヘッドライトはカブなどについているのと似たイメージの丸型LED。

ここでもどこかホンダを連想させる成り立ちとなっているメーター。ギアポジションや平均速度など充実の表示内容に加え、ブルートゥース接続も可能という。

主要諸元

排気量:200cc
タンク容量:13L
車体サイズ(全長/全幅/全高):2,222mm /850mm /1,258mm
シート高:825mm
タイヤサイズ:フロント 90 / 90 - 21・リヤ 120 / 80 - 18
馬力:14kW (19.1PS)/ 8500 rpm
重量:158kg
製造国:インド
保証内容:バイク館保証24か月

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著者プロフィール

ノア セレン 近影

ノア セレン

実家のある北関東にUターンしたにもかかわらず、身軽に常磐道を行き来するバイクジャーナリスト。バイクな…