目次
2023年4月中旬、横浜港の湾奥で、ラピード3の試乗会が開催された。ラピード3は台湾ガイアス・オートモーティブの主に宅配に特化した3輪EVで、国内の小口配送を担う企業への売り込みを図っている。
ガイアスの社長、アンソニー氏は都市部での効率良い宅配車両を考えた。まずは、二酸化炭素の排出量を削減するため動力のEV化。そして適度の積載量や俊敏な機動力、さらに使い勝手……。それらすべてを考慮して像を結んだのが3輪EVのラピード3だった。
ラピード3の基本構造は、4輪よりも小回りができ、2輪よりも安定感があり荷物がつめるように、車体前部と後部をつなぎ合わせたスイング機構を採用している。車体前部が傾斜することでコーナリングやUターンを可能にしている。フロントタイヤは1輪で、左右35度傾斜するためバイク用のタイヤ、後輪は4輪用タイヤが左右に配置されている。後部フレームはリン酸鉄リチウムイオン電池(LFP)、モーター、デフ、そして後輪を支えるため大径のパイプで形成されている。後輪車軸は鍛造アルミのこれまたがっちりしたスイングアームで支持されている。1000Lの大容量のカーゴボックスはこの車体後部フレーム上に設置され、傾斜しない。
同社によれば、スクーター6台分の配送能力を有し、配送先のアクセスに最後は台車を使わなければならないトラックの4分の1の時間で同じだけの荷物を届けられる計算になるという。
ところで、実車は? ルーフ付きの運転スペース、リアに大容積のカーゴボックスを装備しているだけに、かなり巨大だ。軽自動車までの大きさは無いにしろ、リッターバイクなどと比べてもさらに大きく感じられる。車両重量もカーゴボックス抜きで420kgもある。バイクの倍の重量だ。果たして、うまく乗りこなせるのだろうか?
基本的な操作方法はスクーターと同じだ。ハンドルがあり、右手にアクセルグリップがあり、前後ブレーキは左右のレバーで操作する。バイクのリアブレーキに相当するブレーキペダルも装備しており、これを踏むと前後3輪にブレーキがかかる仕組みになっている。3輪ともABSを備えている。スターターボタンやクラッチレバー、シフトペダルは付いていない。
乗り始めてすぐ、心配が杞憂だったことが分かった。3輪初心者でもすぐにスムーズに走らせられるのだ。
パワーの出方が丁度いい。アクセル開度とスピードにリニアに反応する。複合交通の中で邪魔にならない加速力と、なおかつ極低速での取り扱いに優れている。動力がモーターだけに振動が無いのもいい。アイドリングなしの状態からスルスルスルと発進する。
後輪が2輪あるため極低速での安定感もあり、大型バイクにつきものの立ちゴケの不安が無い。運転席がリーンするため2輪車に乗っている感覚なのだが、安定感があり低速での8の字走行やUターンも不安を感じることがなかった。
『ウーム、この操縦性、いいかも』。馴染んできたところでスピードを上げた。スロットル開度に合わせピーク電力13kWのモーターが唸(うな)る。420kgの車体を力強く加速させる。『速い。やるな、ラピード3』。ブレーキングから上体をイン側に投げ出してリーン角度をこれまで以上に増やし、フロント荷重をかけながらUターン。さらにアクセルを開けながら立ち上がる。これが結構気持ちいい。ラピード3は実用車ではあるものの、ライダーが身体を使って重心位置を変化させ、これを利用して旋回する乗り物だ。バイクやスノボ、スキーに通じるスポーツ性を感じさせる乗り物にも仕上がっている。『このライディング感、病みつきになるかも…』。
走行中に「フットブレーキも使ってください!」と声をかけられた。これまでブレーキングはブレーキレバーで操作していたのだ。頷(うなず)いて、コース端に向けてスピードを上げた。折角フットブレーキを試すのならば、そこそこの速度で、それも急ブレーキで試してみたい。アクセルを戻し一気にペダルを踏んでみた。ギュギュギュ。『おおっ、効くー』。ABSが若干作動したようだ。巨体はバランスを失うことなく停止した。フロントのダブルディスク、リア2輪の各ホイールに取り付けられたディスクブレーキが同時に作動して強力なストッピングパワーが生み出されたのだ。ここまでの制動を2輪で得るには、かなりのテクニックが必要だ。
最高速はカタログデータでは90km/hとなっている。試乗場所の広さでは、ここまでのスピードと直進安定性を確認することはできなかったが、満載の200kgまでの荷物を積載したとしても、市街地での通常走行には支障をきたさないであろうトルクとパワーを秘めていることは間違いなさそうである。
停止していると、デモンストレーター氏が後方から走ってきた。走ってきた側のインジケーターが赤色に光る。カーゴボックスが大きいため、振り返ってもバイクと比べれば後方視界は悪い。それを見越して後側方の車両などを検知してライダーに知らせる警戒支援システムが搭載されていた。ラピード3は後進もできる。そのためのバックモニターも装備していた。
バッテリーの充電に必要な時間は100Vで8時間、200Vで4時間。満充電のバッテリーで50km/hで走行した場合、航続距離は150kmだそうだ。
ラピード3のもうひとつの特徴は、運航管理者が全車両のバッテリー残量など、各車の状態や位置情報を通信を使い常時一元管理できる点にある。必要なデータを抽出し、既存の集計ソフトで統計することも可能で、デリバリーの効率化に寄与できる点に重きが置かれている。そのためのセンサーやモニターなども車両に十二分に搭載している。3輪それぞれの空気圧はラピード3のモニターに表示されるが、これも安全安定走行に貢献するはずだ。
ガイアス・オートモーティブは国内企業への売り込みを進めつつ、販売代理店の整備も準備している。国内での販売価格は未定だが、台湾では日本円にして140万円〜150万円だそうだ。すでに台湾eコマース大手のMOMO社が使用を始め、諸外国の郵政でも採用検討が進んでいるそうだ。
日本での型式認定はこれからだが、車検、車庫証明不要、普通運転免許で乗れるカテゴリーに収まるようだ。近い将来、ネット通販で購入した商品がラピード3で玄関先まで運ばれてくるかもしれない。
アンソニー社長とガイアス・オートモーティブ社
Anthony Wei CEO。台湾生まれ。大のクルマ好きだったおじいさんの影響で物心ついた時からクルマ好き。『いつかはクルマメーカーを作るんだ』という夢を抱いて留学のため渡米した。大学の先輩から「レースをやるから手伝え」と命じられ、大学選手権に参戦するレーシングチームに参画。初年度は50位だったが、先輩からマネージャーを引き継いだ翌年には6位までチームを引き上げた。その後
2003年はフォーミュラールノー、ワールドシリーズチャンピオンを獲得 2004年はレッドブル US 選出プログラムに参加 2005年はフォーミュラBMW のUSAチャンピオンに 2006-2008年は国別対抗でカナダA1 GPチームを率いている
こんな経験とともにEV車の可能性も探り、モーターやバッテリーの制御を模索、カーボンフレームなども製作し実証実験を試みた。数々の企業に協力を仰ぎ、その中でBOSCHや東芝などとの関係も築き上げた。
2010年、ガイアス・オートモーティブ社を立ち上げるために台湾に帰国。さらに実証実験を続けた後、2014年から小口物流車両にターゲットを絞ったEVを製作し始めた。
ラピード3にも見られるエネルギーや車両管理方法、シャシーへのこだわり、そしてロータス7にヒントを得たというリアサス周りには、アンソニー社長がレースマネージャー時代に培った経験が反映されているように見受けられた。大口出資者はコンピュータ・マザーボード生産量世界1位の台湾企業ASUS(エイスース)。
(以下はラピード 3の英語版カタログから筆者が抽出し意訳したものです)
ガイアス・オートモーティブ株式会社
速やかに都市に最良の影響を与えます
ネット通販の急速な成長と宅配需要により、多くの小口物流車両が長時間にわたって走行するようになってきました。このため、物流車両を電動化することで都市の生活の質をすぐに改善できると考えました。
運送に係るお客様がビジネスと持続可能性の目標を達成できるように、ガイアスはeモビリティ、エネルギー管理、車両管理に重点を置いた革新的なソリューションを提供してまいります。 ガイアスは、お客様の運用効率を改善し、より迅速な配送を行い、二酸化炭素の排出量を削減することにより、お客様の成功に貢献します。
ビジネス向けEモビリティ「ラピード3」
ガイアスのイノベーションの精神は、ラピード 3のデザインに表れています。スタイリッシュな外観、広々としたカーゴ ボックス、強力なシャシー、およびサスペンションは、すべて過酷な条件での使用に耐えられるように設計されています。 豊富で瞬時の電力は、長距離の配送サイクルに対するお客様の要求を満たします。 大きなトルクにより、ラピード 3は多くの荷物を運ぶことができます。 一方、インテリジェントな車両管理システムは、管理者がラピード 3の運用効率を高めるのに役立ちます。
効率化を目指してパワフルかつファインチューニング
ラピード 3には、14.5 kWh の LFP (リン酸鉄リチウム) バッテリーが搭載されています。 AC充電(110Vまたは220V)とDC急速充電に対応。 バッテ システムは、UNECE Rl36、ISO 18243、および UN 38.3 規制に準拠しています。タイプ 2 充電アダプタも利用できます。
プラットフォーム
・全車両中央管理プラットフォーム ・エネルギーマネジメントプラットフォーム
豊富なパワーと十分な航続距離
13 kW のピーク電力を備えたラピード3は、1 回の充電で最大 210 km の航続距離を提供し、日常業務をカバーするのに最適な電気自動車です。 その強力な回生ブレーキシステムは航続距離を大幅に伸ばします。
・航続距離 (WMTC)*:210km ・最大電力:13キロワット ・最高速:時速90km *EU 134/2014 Annex Ⅶでの数値です(参考:満充電バッテリーで50km/hで走行した場合、航続距離150km)。
独自の35°傾斜システム、最適なトラクションと安定性
安全性を追求したラピード3は、高速でもコーナリングを楽に安定させる独自の35度傾斜システムを使用し、最大負荷でも最適な牽引力、操縦性、バランスで傾斜ターンします。
大型カーゴボックス、高積載
ラピード3は、大型で1000L または 200 kg の荷物を運ぶカーゴ ボックスを装備しており、迅速な配達に対する高まる需要を満たすように設計されています。
カーゴ ボックスは、デザイン (グラフィックとカラー)、およびカーゴ アクセス (ロールアップ ドア、両開きドア、片開きドア) を、運転席側を除く 3 面でカスタマイズできます。
・容積:1000L(最大オプション1150L) ・積載重量:200kg ・前後幅(外寸):975mm ・左右幅(外寸):975mm ・高さ(外寸):1200mm ・冷蔵・冷凍用カーゴボックス
4輪車と同等の安全装置システムを装備しています
安全性を次のレベルに引き上げるために、アンチロック ブレーキ システム (ABS) が標準装備され、既存のコンバインド ブレーキ システム (CBS) がアップグレードされます。 電動パーキングブレーキとチルトロックキャリパーも標準装備。 車両には、前後の DVR、ブラインド スポット警告システム、およびリバースカメラが装備されており、ライダーがあらゆる状況で安全を確保できるように支援します。
電動パーキングブレーキ
ラピード3は電動パーキングブレーキを採用、ブレーキ力を常に一貫して安定させています。 坂道での駐車も安心です。
ブレーキシステム
ラピード3にはアンチロック ブレーキシステム (ABS) が装備されており、制動中の車輪のロックによるスリップや制御不能を防止します。これにより、制動距離が短縮され、ライディングの安全性が向上します。また、前輪と後輪を同時に減速させ、反応時間と停止距離を効果的に短縮するペダル式複合ブレーキシステム (CBS) も装備されています。
安全装置
車両には、前後の DVR、ブラインド スポット警告システム、およびリバース カメラが装備されており、ライダーがあらゆる状況で安全を確保できるように支援します。
シャシー
頑丈なシャーシとサスペンションは、厳しい負荷サイクルでの使用に耐えるように設計されています。
常に十分な情報を得る
ライダーが前方の道路に集中できるようにすることがいかに重要かを私たちは知っています。 速度やバッテリー残量などの重要な情報が強調され、イベントベースのメッセージがここに表示されます。 大きなバックカメラ画像により、ライダーは後退中に交通や障害物を見ることができます。
より優れた視聴体験を得るために、ディスプレイは周囲の照明条件に基づいて自動的にダークモードに切り替わります。
安全でインテリジェント、充電管理システム
インテリジェントな充電スケジュールシステムを実装して、すべての車両が翌日に向けて完全に充電されるようにしました。 また、このシステムは、駐車サイトのエネルギー容量を監視し、充電中に異常が発生した場合もフリートマネージャーにアラートを送信します。壁の充電器と車両の状況送信システムによって、継続的な安全と充電の監視が提供されます。
全車スマート管理システム
デジタルトランスフォーメーションが企業の車両管理方法を変えたため、ガイアス社は包括的なフリート管理システムを開発しました。このシステムは、すべての車両情報を収集し、システムにフィードして、最新の場所、毎日のエネルギー消費、メンテナンスおよび修理情報を表示します。このシステムは、API を介して既存のシステムに統合することもできます。 個人レベルでは、個々の配送員はライダーアプリを使用し、配送員がすべてのシステムの重要な車両情報を手元に置いておくのに役立ちます。
緊急車両として重要な使命も担います
ラピード3の用途は荷物の配達に限定されません。 優れた性能、高い積載性、および完全にカスタマイズ可能な貨物システムを備えたこの車両は、消防車両として、白バイやパトカーとともに、緊急対応、メンテナンス、公共サービス、およびその他の特別な目的の分野で緊急車両として機能するように簡単に変更できます。
主要諸元
カテゴリ:L5 長さ:2500mm 幅(ミラー含まず):1000mm 全高(標準貨物含む):1900mm ショートウインドスクリーン:685x566 mm 車両重量(カーゴボックス含まず):420kg ホイールベース:1820mm フロントホイール:17インチ 3.0J フロントタイヤ:110/70-17 リアホイール:13インチ 5.0J リアタイヤ:145/60 R13 シート高:770mm カーゴデッキの高さ:664mm カーゴボックスサイズ(外寸):W975×L975×H1200mm カーゴボックスサイズ(内寸):W915×L915×H1197mm 耐荷重:200kg リヤカーゴボックス容量(冷蔵/冷凍庫を除く):1000L カーゴ ボックス ドレン:ドレンとプラグ カーゴ ドア アクセス:後方両開き扉 電源コンセント:5V USBx2、12V ソケット ピーク電力:13kW 最高速度:90km/h 航続距離 (WMTC):210km バッテリー容量:14.5kWh 電池の種類:リン酸鉄リチウム電池(LFP) フロントサスペンション:倒立フォーク リアサスペンション:アルミ鍛造スイングアーム/ワッツリンケージ フロントブレーキ:デュアルディスクφ280mm/ラジアル4ピストンキャリパー/ABS リアブレーキ:シングルディスクφ230mm/1ピストンフローティングキャリパー/EPB 傾斜角:±35° チルトロック:電動チルトロック アンチロックブレーキシステム(ABS):● コンバインドブレーキシステム:● 電動パーキングブレーキ(EPB):● タイヤ空気圧監視システム(TPMS):● 死角検知システム:● リアビューカメラ付リバースアシスト:● DVRユニット(フロント&リア):● 音響車両警報システム (AVAS):● NFCキーシステム:● バッテリー容量 6.5 kWh:○ 11 kWh:○ 14.5 kWh:● AC充電アダプター・J1772 & 110Vアダプター:○ 塗装・カスタマイズ:○ 特殊装備設置用装備収納ラック・警察 / 消防:○ LEDヘッドライト:● LEDシグナルポジションライト:● LEDリバースライト:● LEDリアライト:● DC急速充電:● AC充電:● 回生ブレーキシステム:● カーゴ重量センサー:● カーゴ温度センサー:○ 10.3インチダッシュディスプレイ:● アプリ Bluetooth ロック:● ライダーモニタリングアプリ:● スマート充電システム:● 全車両管理プラットフォーム:● カーゴボックス(温度) 常温:● 冷蔵庫 0~7℃:○ 冷凍庫 -15~20℃:○ プラットホーム:○ 貨物ドアアクセス 両開き扉:● 片開き扉:○ ロールアップドア:○ カーゴボックス内装 マルチレベルモジュール:○ 引き出しモジュール:○ カーゴネットモジュール:○ カーゴロック・電気制御ロック:○ カーゴエクステリア・外部カーゴボックス警告灯:○ カーゴラック・ルーフラック:○ ●標準/○オプション * カーゴボックスはカスタマイズ可能です。注文の最小数量と、必要なカスタムパーツが上記のリストにない場合はご相談ください。 * 正常な使用下での製造上または組み立て上に起因する新品の製品の欠陥は、3年間の保証の対象となります。詳細については保証小冊子をご参照ください。 * Gaius Automotive Inc. は、この仕様資料に含まれるすべての情報、表現、図、および仕様が発行時点で正確であるように努めていますが、情報は本質的に一般的なものにすぎません。製品の機能、仕様、モデル、価格は予告なく変更される場合があります。 * 寸法、重量、性能、テスト結果、距離に関するすべてのデータは参考用です。