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常時点灯の目的はバイク事故の低減
バイクのヘッドライトが常時点灯式になったのは、1998年(平成10年)4月1日に施行された改正「道路運送車両法の保安基準(以下、保安基準)」がきっかけだ。以降に生産されるバイクは、エンジン始動と同時にヘッドライトが点灯するような構造でないと、販売することができなくなった。
これにより、ヘッドライトのオン/オフスイッチを装備するバイクは、法改正以前に製造されたバイクのみとなり、法改正後に生産されたすべてのバイクが常時点灯式となったのだ。
その背景には、この法改正の前に多かったバイク事故が関係している。特に、クルマとの事故を低減するために、法律で義務化されたといえる。
例えば、直進するバイクが交差点に進入しようとしたところ、対向車線に右折待ちのクルマがいたとする。法改正前なので、ヘッドライトをオフにしていたが、当時は違反ではない。
バイクが走る車線の信号は青なので、ライダーはそのまま直進しようとする。すると、いきなり右折待ちのクルマが曲がってきて衝突! いわゆる右直事故が起こってしまった。
こんなケースで、よくクルマのドライバーは「バイクはかなり遠くを走っているように見えたので、間に合うと思って右折した」などといった証言をすることが多かった。クルマと比べ、車体が小さい対向車線のバイクは、クルマから見ると、実際よりも遠くに感じ、距離感を見誤りがちになるためだ。
そして、こうしたバイク対クルマの事故を減らすためにその昔推奨されたのが、「昼間もヘッドライトを点灯する」ことだ。車体が小さなバイクの存在感を、4輪ドライバーにアピールするためで、1998年(平成10年)には、自動車工業会がキャンペーンも実施。当時、バイクショップなどには、「バイクは、昼間もライトオン。」といったポスターが貼られたりもした。
ヘッドライトのオン/オフスイッチがなく、常時点灯式が当たり前となった現在のバイクにしか乗ったことがないライダーには想像もつかないだろうが、そんな時代もあったのだ。
その後、前述の通り、常時点灯式が法律で義務化。ライダーがうっかり点灯するのを忘れたり、自主的にライトをオフにするのを防ぐ効果も狙ったのだろう。20年以上経った今では、ヘッドライトのオン/オフスイッチ付きの古いバイクも経年劣化などでかなり数が減り、新車だけでなく、中古車でも常時点灯式のバイクが増えてきた。そうした時代の流れにより、すっかり「バイクのヘッドライトは昼間も点灯」ということが当たり前となったのだ。
改正前のオン/オフスイッチ付きバイクは?
では、ヘッドライトのオン/オフスイッチが付いてる、1998年4月1日以前に製造されたバイクの場合、昼間にスイッチをオフにして走ると違反になるのだろうか?
こうした法改正前のバイクについては、昼間の無灯火を処罰する法律はない。つまり、ヘッドライトをオフにして昼間に走行しても違反ではなく、ライダーが自由に決めていいことになる。
ただし、前述の通り、バイクはクルマから見ると小さな存在だ。例え、1000ccオーバーの大型バイクであっても、正面から見れば、クルマと比べるとかなり細めで小さく見えてしまう。そのため、オン/オフスイッチが付いてる古いバイクでも、できるだけ昼間もヘッドライトを点灯した方がいいだろう。自分が乗るバイクの存在を、対向車を走るクルマにきちんとアピールする方が、より安全だからだ。
ちなみに、法改正後に生産された常時点灯式のバイクに、ヘッドライトをオフにできるスイッチを後付けしたらどうだろう? こうした場合、バイクは保安基準に適合せず、車検が通らなくなるだけでなく、不正改造車とみなされるケースもあるので念のため。
もし、摘発されると、不正改造車の使用者には備命令が発令され、従わないと車両の使用停止命令や50万円以下の罰金に。また、不正改造の実施者は6ヶ月以下の懲役または30万円以下の罰金が科せられる。
また、純正の常時点灯式ヘッドライトのままであっても、ライトが球切れした状態で走行すると、「整備不良(尾灯等)」となる。もし、捕まると、違反点数1点、反則金は二輪車6000円、原付バイク5000円となるので、くれぐれも用心したい。
ヘッドライトを点灯しなくていい車種とは?
このように、現在、ヘッドライトの常時点灯は義務化されているが、最近は、昼間にヘッドライトを点灯しなくてもいいモデルも出てきた。それは、「DRL(デイタイム・ランニング・ランプ)」を装備しているバイクだ。
法規上「昼間走行灯(デイライト)」と呼ばれるDRLは、昼間の被視野性を高めるための装備で、クルマ(4輪車)では2016年から装着が認められていた。一方、バイクは、これまで対象外だったが、2020年(令和2年)9月に保安基準が改正され、DRLの装備が可能となった。
これにより、DRLを備えるバイクは、昼間にヘッドライトを点灯しなくてもいい、つまり常時点灯式でなくてもよくなったのだ。
元々、DRLは、欧州などでは以前から義務化されていた装備で、昼間の被視認性を向上させるだけでなく、バッテリーの消費量を常時点灯式より少なくできるメリットもある。また、フロントフェイスにインパクトを与えるなど、デザイン的な効果も期待できる。
採用車種には、例えば、ホンダの「X-ADV」や「CRF1100Lアフリカツイン」など、海外でも販売するモデルが多い。ちなみに、X-ADVの場合、昼間はDRLのみ点灯し、周囲が暗くなり夜間になると、自動でヘッドライトに切り替わる。法規上、ヘッドライトとDRLを同時に点灯させることはできないため、ヘッドライト点灯時、DRLはポジションライトの明るさまで減光する仕組みだ。
国産バイクでは、まだまだDRLを採用するモデルがさほど多くないようだが、海外モデルにはDRL装備車もかなりあるし、顔付きなどを個性的にできるメリットなどを考えると、今後は、さらに増えていくことが予想できる。
クルマでは、最近、かなり一般的になってきたDRL装着車だが、バイクでも近い将来トレンドのひとつになるかもしれない。