【ホンダ開発者に聞く】令和のスクランブラー、CL250/500にかける想い。

今年5月にリリースされたホンダの新型スクランブラー、CL250のファーストインプレッションに続き、今回は当該車の開発者インタビューをお届けする。メインでお話しを伺ったお二方をはじめ、新CLシリーズの開発メンバーのほとんどがレブルシリーズにも関わっており、そのうち何名もがすでにCLを所有、もしくは購入予約を入れているという。ユーザーが楽しむシーンを第一に考えながら、自分たちも乗りたくなるようなバイク作り。CLシリーズは開発者の熱い想いであふれていた。

REPORT●大屋雄一(OYA Yuichi)
PHOTO●山田俊輔(YAMADA Shunsuke)、ホンダ

ホンダCL250……621,500円
ホンダCL500……863,500円

オレンジの方がCL250で5月18日に発売、青い方がCL500で5月25日にリリースされた。ぞれぞれレブル250/500がベースとなっており、250は249cc水冷DOHC4バルブ単気筒を、500は471cc水冷DOHC4バルブ並列2気筒エンジンを搭載している。全長×全高×全幅やホイールベース、シート高は全て共通で、車重は250の172kgに対し、500は20kg増の192kgを公称する。なお、CL250のファーストインプレッション記事はこちら
小数賀 巧さん
山崎翔大さん

今回、お話しを伺ったCLシリーズ開発者のお二方。左が小数賀 巧さん(本田技研工業 二輪・パワープロダクツ事業本部 ものづくり統括部 商品開発部 商品開発課 スタッフエンジニア)で、CL250/500ではLPL代行を務める。右が山崎翔大さん(本田技研工業 二輪・パワープロダクツ 開発生産統括部 商品開発部 商品開発課 アシスタントチーフエンジニア)で、CL250/500では開発部門リーダーを担当。

レブルはアメリカを、CLシリーズはヨーロッパを意識して開発

2017年に発売されたレブル250/500、そして今回のCL250/500とも、コンセプトにおいて共通しているのは若い世代に向けて開発されたということ。若者が自らを表現するツールとしてバイクを使ってほしい、そんな想いが込められているのだ。

小数賀「もともとレブルシリーズは、アメリカのデザインスタジオからスタートした企画なんです。初めてデザイン画を見たとき、直感的に『カッコいいな!』と思った反面、フレームはダブルクレードルではないし、エンジンは空冷でもVツインでもないしで、いわゆるクルーザーのセオリーから外れていたので、正直心配もしていました。ところが、そうした我々の心配をよそに、おかげさまで飛ぶように売れました」
山崎「今の若者はスマホを通じてさまざまな情報に触れていて、その過程で初めてバイクに興味を持った若い世代は“クルーザーはこうあるべき”という固定観念がなく、だからこそスタイリングの良さで選ばれたのでしょう。ちなみに、レブル250のオーナーは60%以上が30代以下で、しかも女性の比率が平均で5~6%という中、12%もいらっしゃるというのも特徴なんです」

CL250のベースとなったレブル250。基本骨格やエンジンを共有しつつ、CL250はホイール径を前後16インチからフロント19/リヤ17インチへ。シート高は690mmから790mmへと10cmも上がっているが、スクランブラースタイルで800mmを切っているのは立派だ。

小数賀「レブルを開発している当時から、バリエーションモデルを作るかもしれないというフワッとした考えはありました。その後、ネオクラシックやカフェレーサーなども検討したうえで、世の中のアウトドアやキャンプブーム、4輪のSUV人気などを踏まえ、未舗装路も走れるスクランブラースタイルに決まりました」
山崎「このモデルには“CL”というホンダ伝統の名前が付いていますが、CL72など昔のスタイリングを忠実に再現しようという気はさらさらなく、純粋に今の時代に合うスクランブラーを作りたかったんです。先のレブルと同様に、“スクランブラーはこうあるべき”という固定観念にとらわれないようにしました」

CLシリーズのデザインコンセプト。アップマフラーやセミブロックパターンのタイヤ、水平気筒のプロポーションなど、スクランブラースタイルをうまく構築している。

小数賀「例えば前後17インチホイールでダウンマフラーでも、スクランブラーやアドベンチャーを名乗れるでしょう。でも、我々が作りたかったのはちゃんとしたスクランブラーなんです。なので、ホイールトラベル量はフロント150mm、リヤ145mmを確保しました。そのうえでシート高を790mmに抑えるのはかなり大変でしたが(笑)」
山崎「レブルのホイールトラベル量はフロント140mm、リヤ95mmで、クルーザーとしてはけっこう頑張っている方なんです。CLでは、レブルのスランテッドアングルをやめて、フレームを1度前傾させてキャスター角を27度にしました。その結果、フロントフォークの作動性も上がっています。タイヤは前後ともラジアルで、少し前のBMW・R1100~1200GSと同サイズなんです。市場にはさまざまな銘柄が出回っているので、タイヤで走りやルックスを変えるという楽しみ方もできますね」

標準装着タイヤはダンロップのトレイルマックス・ミックスツアー(ラジアル、チューブレス)で、車両の特性に合わせて内部を小変更している。

さまざまな楽しみ方ができるように純正アクセサリーにも注力

ヘッドライトバイザー(2万6510円)やアップフェンダー(1万8480円)、リアサイドカバー(6829円)、フラットシート(1万2540円)などを装着してオフロード色を強めたカスタマイズ例。純正アクセサリーなので価格設定が安いのもうれしい。

小数賀「このCL250/500は、純正アクセサリーが豊富なのもポイントですね。実はスケッチの段階から、クロススタイルとツアースタイルという2種類のカスタマイズを想定していたぐらいですから。通常でしたら車両開発を進めていって、途中から足りない要素を純正アクセサリーで補うのですが、このCLはスタートから同時開発だったんです」
山崎「今回はCL250とCL500という2機種を同時に発売できたので、純正アクセサリーを共通化できたうえ、それによって価格が抑えられたのも特徴です。座面が30mmアップするフラットシートを1万2540円で販売できたのは、レブル時代からのサプライヤーさんのノウハウによるもので、これはぜひ試してほしいですね」

リアキャリア(2万9700円)、トップボックス(3万5200円)、サドルバッグサポート(2万1450円)、サドルバッグ(ラージ:2万2770円)、スポーツ・グリップヒーター(1万2430円、ほかにアタッチメント:1万2210円が必要)などを装着し、ツーリング仕様に。写真のベースモデルはCL500だが、これらの純正アクセサリーはCL250にも装着可能だ。

新しい趣味としてバイクを選んだ人に、思い切り楽しんでほしい

小数賀「CL250のエンジンは、レブル250をベースにカムシャフトをCRF250L用にして、あとは吸排気系を換えた程度なんですが、マフラーの管長を稼げたことも幸いして、低中回転域を元気良くすることができました。セッティングにはずいぶん時間をかけましたね」
山崎「フレームはシートレールをCL専用に作り替えています。溶接痕を見えないように工夫したり、アフターパーツを装着しやすいようにネジ穴を設けたりと、かなり頑張りました」

小数賀「新しい趣味としてバイクを選んだ人に、自分のライフスタイルの延長として楽しめるように開発しました。CLに乗ってみて、もしオフロードの楽しさに目覚めたらCRF250Lやトランザルプに乗り換えてもいいし、もっとシングルの鼓動感を味わいたいならGB350に乗り換えてもいい。いろんな遊び方を許容できるのがCLシリーズなんです」
山崎「純正アクセサリーやカスタマイズパーツが豊富にありますし、お客さんそれぞれのさらに自由な発想でイジってほしいですね」

ホンダ・CL250/500主要諸元 【 】内は500

車名・型式 ホンダ・8BK-MC57【ホンダ・8BL-PC68】
全長(mm) 2,175
全幅(mm) 830
全高(mm) 1,135
軸距(mm) 1,485
最低地上高(mm) 165【155】
シート高(mm) 790
車両重量(kg) 172【192】
乗車定員(人) 2
燃料消費率(km/L)
 国土交通省届出値:定地燃費値(km/h) 47.0【43.0】(60)〈2名乗車時〉
 WMTCモード値(クラス) 34.9【27.9】(クラス 2-2【3-2】)〈1名乗車時〉
最小回転半径(m) 2.6
エンジン型式 MC57E【PC68E】
エンジン種類 水冷4ストロークDOHC4バルブ単気筒【水冷4ストロークDOHC4バルブ並列2気筒】
総排気量(cm3) 249【471】
内径×行程(mm) 76.0×55.0【67.0×66.8】
圧縮比 10.7:1
最高出力(kW[PS]/rpm) 18[24]/8,500【34[46]/8,500】
最大トルク(N・m[kgf・m]/rpm) 23[2.3]/6,250【43[4.4]/6,250】
燃料供給装置形式 電子式〈電子制御燃料噴射装置(PGM-FI)〉
始動方式 セルフ式
点火装置形式 フルトランジスタ式バッテリー点火
潤滑方式 圧送飛沫併用式
燃料タンク容量(L) 12
クラッチ形式 湿式多板コイルスプリング式
変速機形式 常時噛合式6段リターン
変速比
 1速 3.416【3.285】
 2速 2.250【2.105】
 3速 1.650【1.600】
 4速 1.350【1.300】
 5速 1.166【1.150】
 6速 1.038【1.043】
減速比(1次/2次) 2.807/2.642【2.029/2.733】
キャスター角(度) 27° 00′
トレール量(mm) 108
タイヤ
 前 110/80R19M/C 59H
 後 150/70R17M/C 69H
ブレーキ形式
 前 油圧式ディスク(ABS)
 後 油圧式ディスク(ABS)
懸架方式
 前 テレスコピック式
 後 スイングアーム式
フレーム形式 ダイヤモンド
製造国 タイ【日本】

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著者プロフィール

大屋雄一 近影

大屋雄一

短大卒業と同時に二輪雑誌業界へ飛び込んで早30年以上。1996年にフリーランス宣言をしたモーターサイクル…