ハンドリングがシャキッ!!と良い。| スズキ・GSX-S1000GX海外試乗記|鈴木大五郎 in ポルトガル

スポーツネイキッドモデル、GSX-S1000をベースとしたスポーツアドベンチャーモデル。
GSX-S1000GXが登場。ポルトガル・リスボン近郊で行われたワールドプレスローンチに参加し、
様々なシチュエーションのもと、2日間に渡りテストを行った。

REPORT●鈴木大五郎(SUZUKI Daigoro)

世の中の流行りはアドベンチャーマシンである。アドベンチャー=冒険などと言うとちょっと仰々しい感じがするものの、実際は足回りの長めなツアラーであるといえよう。オフロードテイストがかなり強めのモデルも多いものの、そのライダーの殆どがオンロードしか走らないという事実を鑑みると、前後に17インチホイールを装着するという手法は理にかなっているといえるだろう。実際、カワサキのヴェルシスやBMWのS1000XR等、そのような手法によって登場したモデルも少なくなくクロスオーバーモデルなどと呼ばれている。

GSX-S1000に対しストロークが伸ばされた足回りによってシート高は当然高くなるものの、あえて低く設定するのではなく、マシンのキャラクターに合わせてさらに快適性の高いシートを装備していることからも、ツアラーとしての性能には疑いの余地はない。しかし乗り心地の良さは、シートに拘ったとともに、単純に長足だからということにとどまらない。スズキのモーターサイクルとして初めてとなる電子制御サスペンションを装備。

例えばプリロードをオートモードにしておけば、体重や積載量によって適切なプリロード量に自動的に設定される。これは走行中にも前後の車体姿勢をIMUで計測してアジャストされるとのこと。ここに1000分の1秒単位で計測される減衰力調整が組み合わされ、走行性能とともに上質な乗り心地が確保されているのだという。

アップライトなライディングポジションのマシンに跨り、ポルトガルのストリートに躍り出た。2005年式GSX-R1000。通称K5譲りのエンジンは最新のスーパースポーツマシンのようなトップエンドのパワーを強調したものではないものの、低回転域からコントローラブルで豊かなトルクを発生する。

3種類のライディングモードによってパワーデリバリーは異なり、シチュエーションや気分によって簡単にマシンのキャラクターを変えることが出来るのが嬉しい。
ワインディングでパリッと走りたいときにAモードを選択すれば、狙い通りのレスポンスを発揮するものの、市街地での走行やのんびり走りたい時には「ちょっとギクシャクするなぁ」と感じる。反面Cモードではシチュエーションとフィーリングがほぼ真逆の感想となったりするのが面白い。そのバランスが秀逸なのがBモードであるが、やはりこまめに変えて走ることがこの機能の正しい使い方だといえるだろう。

初期型のGSX-S1000はスロットルの開け始めや細かい調整時にややドン付く症状があり、それがマシンの評価にもつながっていたように思われる。
2021年型からフライ・バイ・ワイヤ式となり、それに伴ってライディングモードも装備するようになった経緯があるのだが、これによってギクシャク感が減り、幅広いキャラクターを備えるようになった。そして、これがGXの性格に相応しく感じられたのである。

今となってはさして驚かされる数値ではないものの、実際の走りでは市街地は当然のこと、ワインディングや高速道路でもパワー不足は全く感じることがなかった。世界有数のロングストレートを持つスズキの竜洋テストコースで徹底的にテストされたという車体はパニアケースを装着した状態でもピタリと安定している。それでいてマシン全体に硬い印象がないのはフレームだけでなく、先述した足回りの功績も大きいだろう。

ストロークの長い足回りはややもすると動きすぎたり不安定な挙動を示すこともあるのだけれど、動きの良さは確保しつつ、そのような心配事とも無縁なのもポイントだ。
また、著しいサスペンションの作動を感知した際にはソフトやハードといった減衰力設定とは関係なく、動きを抑える制御が入るというのも新しい。
もちろん、ハードを選択すればスポーツバイクらしいシャキッとしたキレのあるハンドリングも披露してくれる懐の深さを披露してくれる。

ディテール解説

ブレンボ製ラジアルマウントキャリパーは兄弟モデルと共通だが、新たにコーナリングABSも装備。フロントフォークはスズキのモーターサイクルとして初採用となるセミアクティブ。SHOWA製EERAをベースに独自のセットアップを施す。ストローク量は150mmに設定。
リアキャリパーはニッシン製2ポット。スイングアームはGSX-R1000/L2のものを流用。リアショックはフロントフォーク同様、減衰力はセミアクティブ。プリロード設定はソロ、ソロ+積載、タンデムとボタン一つで変更可能なだけでなく、オートモードでは重量や荷重バランスを計測して、自動で最適なプリロード設定とされる。
2005年式GSX-R1000 通称K5のエンジンがベースではあるが、カムシャフトやスロットルボディ他、多くのパーツが異なる。フライバイワイヤー化され、3種のライディングモードを選択出来るほか、アップ&ダウン対応のオートシフターやクルーズコントロールを備える。ユニット自体はGSX-S1000およびGTと完全に共通であるが、トラコン等の設定はオリジナル。
GSX-S1000の縦2眼ヘッドライトを彷彿させるフロントフェアリング。ウィンドプロテクション効果と同時に、ダウンフォースも考慮されているという。ヘッドライトは当然LED製。
6.5インチのフルカラーTFTモニターはスマートフォンと連携が可能。スマホにSUZUKI mySPINをインストールすることで、ナビや音楽再生等へアクセスできる。スクリーンはボルト留めではあるが3段階の調整が可能。
GSX-S1000GTに対してハンドルポストは高められ、ハンドル幅は50mmワイド。さらにグリップ位置が55mm手前となったことで、よりアップライトなライディングポジション設定。
GSX-S1000GTと共通となるスイッチ類。TFTモニターと左スイッチボックスを利用して、様々な情報確認および設定変更が可能。多機能ではあるがシンプルな操作でアクセスしやすい。
シート高は845mmと高めだが、それは妥協することなく快適性の高いシートを採用したから。オプションのローシートはGTの純正品で(日本仕様はこちらがSTDとなる可能性あり)GXはさらに15mm高いが、サイドはスリムに形成され、数値のイメージよりも足つき性は良好。パニアケースはオプションだが、装着時にも運動性に影響がないようなバランスで設計されている。
GSX-S1000やGTと共通となるLED製テールライト。リアキャリアはグラブバーも兼ねたGX専用で耐荷重は6kg。

ライダー:鈴木大五郎

レース参戦をバックボーンに活動するモーターサイクルジャーナリスト。オンロードだけでなく、オフロードやトライアル等幅広く楽しむ。BKライディング&スライディングスクールを主宰するほか、様々なメーカーやイベントでもインストラクターを務める。BMWモトラッド公認インストラクター。

主要装備

●装備S.I.R.S.(スズキインテリジェントライドシステム)

SDMS-α(スズキドライブモードセレクターアルファ):
・出力特性(3段階)、
・トラクションコントロール(7段階+オフ)、
・電子制御サスペンション減衰量(4段階)を統合管理

SRAS(スズキロードアダプティブスタビライゼーション)
・路面状況を検知し、サスペンションの制御量を自動切替え

オートマチックリヤサスペンションモード:
・リヤサスペンションのプリロードを電子制御。
・オートと3つのマニュアルモードから選択可。
・オートを選択すればさらに減衰量も調整。

電子制御スロットル

・双方向クイックシフトシステム:
クラッチやスロットルを操作せずにシフトアップ/ダウンが可能

・スマートクルーズコントロール:スロットル操作不要で速度を維持したままシフトアップ/ダウンが可能

・モーショントラックブレーキシステム:
コーナーへの傾斜時にABSを作動させ、意図したラインのトレースを支援

・スロープディペンデントコントロール:
下り坂でのブレーキング時にリヤタイヤのリフトを抑制

・スズキイージースタートシステム:
クラッチレバーを引かずにワンプッシュでエンジン始動が可能

・ローRPMアシスト:発進時や低速走行時のスムーズな発進を補助
・サスペンション:スズキアドバンスドエレクトロニックサスペンション、サスペンションを

電子制御
・メーター:6.5インチフルカラーTFT
・マルチインフォメーションディスプレイ:
スマートフォン接続可。白黒反転自動/手動選択可
・ウインドスクリーン:3段階の高さ調整可
・その他:浮動式ハンドルバー/ミラー、ナックルカバー、リヤキャリア、昇温抑制機能付き用品シート等 

主要諸元

全長×全幅×全高(mm):2,150×925×1,350 
ホイールベース(mm):1,470
最低地上高(mm):155
シート高(mm):845
装備重量(kg):232
タイヤ(前):120/70ZR17M/C チューブレス
タイヤ(後):190/50ZR17M/C チューブレス
エンジン型式:999cm3水冷4サイクル直列4気筒DOHCエンジン
タンク容量(L):19
燃費(km/L、WMTC):16.1
CO2排出量(g/km、WMTC):144

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