ゆとりあるボディで高速走行も快適

1台3役の便利系スクーター、新型VESPA GTS Classic150|試乗記

スクーターの代名詞ともいえるベスパが登場したのは1946年。スチールモノコックボディや片持ちフロントサスペンション、ユニットスイングエンジンなど独自の機構を採用し、コミューターとして優れた性能を発揮しました。そんなベスパが創造した基本スタイルは現在にも受け継がれていて、主力モデルであるGTSシリーズにも伝統が息づいています。最新型のGTSクラシック150で都会の道を颯爽と走ってみました。

PHOTO:徳永 茂

VESPA GTS Classic150……649,000円

ロングセラーモデルには共通点があると思います。それは明確なコンセプトの下で構築されたデザインの基本を何十年も維持し続けているということです。日本が世界に誇るスーパーカブがそうです。そしてベスパもまた同じ道を歩んでいるモデルなのです。時代とともに細部の変更はもちろんありますし、エンジンや足回りなどの主要パーツも新しい技術を取り入れながら進化させています。このようにベスパGTSは伝統と革新を融合させたスクーターだといえるのです。

スムーズなエンジンと素直なハンドリング特性に親近感を抱く

GTSシリーズは現行ベスパを代表するモデルで、ラインナップも豊富です。その中から今回試乗したのは、標準モデルであるGTSのクラシックタイプで、150㏄の水冷単気筒i-getエンジンを搭載したモデルです。
ボディカラーはシックな色合いのグリーンとベージュが用意されていて、クラシックの名にふさわしい印象に仕上がっています。スタイリングもベスパの伝統を継承したエレガントでファッショナブルなデザイン。見飽きることがまったくない見事なフォルムは、ユーザーに大きな喜びをもたらしてくれます。モダンクラシックという呼び方がこれほど似合うモデルも少ないでしょう。
体格に関係なく正しいライディングフォームとなる
シート、ボディともにワイドな形状なので、足は開き気味となる。そのため足は着けにくい
フロアがじゃますることがないので足は出しやすい
シート高は790㎜となっているが、実際には車高があり足つき性は悪い。必要ならローシートに換装しよう
最近は日本製スクーターにも150ccクラスのモデルが増えていますが、それらと比較するとベスパGTSクラシック150のボディはやや大柄です。178cmと長身のボクがシートに跨っても、両足のつま先が着くという状態です。データ上は790㎜のシート高となっていますが、シートやボディの形状が足つきを悪くしているようです。でも専用のローシートが別売されているので、不安のある人は変更するといいでしょう。
独自のスチールモノコックボディを採用しているGTSクラシック150は、それなりに車重もあります。したがって、足つき性を含めて取り回しにはちょっと手こずるところがあります。こんなふうにいうと、なんか大変そうだなぁと思われてしまうかもしれないのですが、あくまでも日本製の同クラスのスクーターと比較した場合の印象で、今回も実際に狭いスペースで向きを変えたりしましたが、取り立てて面倒だとか重たくて大変だったなんていうことはありませんでした。ボディが大きいというのは事実ですが、取り回しがとくに悪いということはありません。
さて、ちょっと大柄のこのボディはネガなことばかりじゃありません。座面が広く座り心地の良いシートに腰を下ろし、広いフロアに足を載せ、そしてフルカバードされたハンドルに手を添えると、上体が直立するなんとも姿勢の正しいライディングフォームとなります。そんなポジションに窮屈さは皆無です。150ccクラスのスクーターの多くは原付二種の125㏄スクーターとボディを共用していることが多く、取り回しはいいけどゆったりと乗れる感覚はない!というのが一般的です。しかしGTSクラシック150は軽二輪クラスと同等の快適性を実現しています。コミューターとして都市部の移動に使うだけじゃなく、休日にツーリングを楽しむなんていう使い方にも見事に対応してくれるのです。しかも、軽二輪スクーターなので高速道路を利用して足を延ばしたツーリングだってできてしまうのですから、まさに1台3役の活躍ぶりです。
最新のGTSクラシック150ではキーレスエントリーシステムを採用しています。そのため専用のリモコンキーを携帯した状態で、メインキースイッチを操作すればイグニッションのオン、オフが行えます。スタイルはクラシカルでもしっかりと最新の技術が導入されているというわけです。
スタートスイッチで始動させると、150㏄のi-getエンジンは静かなエキゾーストサウンドを奏でながらアイドリングします。アイドリング状態での鼓動がなんとも心地よいと感じました。
アクセルを開けると非常にスムーズな加速を見せてくれます。オートマチックCVTなので回転フィーリングが滑らかということもありますが、エンジン特性そのものがフラットなのだと思います。16ps弱の最高出力は排気量に見合った性能で、市街地などの一般道を走っていて特に力不足を感じることはありません。実際、交差点などでの発進加速で他車を一歩リードできる実力があるので不安は感じませんでした。このモデルは軽二輪なので当然、高速道路を走ることもあるでしょう。ということで、首都高ですが1区間だけ走行してみました。加速車線を使って本線の流れに乗ることは問題なく可能です。今回はメーター読みで80km/hほどしか出しませんでしたが、100km/h巡航は問題なくできます。ただし、120km/h区間を走行する場合には前回に近い状態にしなくてはならず、ストレスになるかもしれません。なので、高速道路を使ってロングランもできると、付加価値的な気持ちで臨むほうが無難だと感じました。
乗り心地は悪くありません。大きめのシートはお尻にやさしいし、新しくなった片持ちシングルアーム式の独自のフロントサスペンション、リアのツインショックともに低速走行時にも衝撃をうまく吸収してくれていました。ただしストローク量は大きくないので、ハードライディング向きじゃないことはたしかです。前後シングルディスクブレーキの効きも安定しているし、ABSやトラクションコントロールであるASRも装備しているので、雨の日でも不安なく走れるはずです。
タイヤは前後12インチの小径なので、轍や段差などの影響は受けます。しかしながらホイールベースが長いので直進安定性は高く、フラフラした走りになることはありません。ハンドリングに関してもニュートラルな特性を実現していて、だれにでも違和感のないスムーズなコーナーワークが可能です。

インナーラックはそれほどスペースがありませんが、内部にはUSB端子が装備されていてデバイスの充電に便利だし、シート下のトランクには荷物がラクに収納できます。今回の試乗車にはアクセサリーパーツのウインドスクリーン、リアキャリア&リアボックスが装備してあったのですが、この仕様ならロングツーリングも快適にできます。
このように、長く乗り続けても飽きることのない伝統的なスタイルを継承しながらも、最新技術を随所に取り入れることで快適性をアップさせているのがGTSクラシック150です。価格面ではたしかに日本製スクーターより高価ですが、何年乗り続けて古さを感じさせないので、いつまでも大切にできると思います。良いものを長く所有する。いまの時代に合ったスクーターだと再認識しました。

ディテール解説

心臓部のエンジンには、ユーロ5に適合させた水冷単気筒i-getエンジン。最大出力15.6HP/ 8,250rpm、最大トルク15.0Nm / 6,500rpmを発揮する。スムーズな出力特性とCVTの滑らかなフィーリングが疲労感のない走りを実現してくれる。さらに従来のようなスターターモーターを廃し、クランクシャフトに直接モーターが取り付けられたRISS (Regulator Inverter Start & Stop System)により、静かな始動と高い信頼性を達成しているのも特徴
ベスパ伝統の片持ちシングルアーム式フロントサスペンションは、再設計によりさらに性能を高めている。ブレーキはABS装備のΦ220mmシングルディスク。
リアサスペンションには4段階のプリロード調整機構を持つツインショックを装備。ブレーキはABS装備のΦ220mmシングルディスクだ。さらにトラコンのASRも装備する
クラシカルなボディスタイルにマッチした丸型ヘッドライトは、現代風にLEDを採用している
テールランプ、ウインカーランプなどすべての灯火類がLEDとなっている
イグニッションはキーレスエントリーシステムによりオン。オフする。ステアリングロックもこのスイッチにより簡単に操作できる
リモコンキーを携帯していればイグニッションのオン、オフが可能。またシートロックの解錠もリモコンで操作できる
GTSクラシック150に装備されたメーターは、上部にアナログ式スピードメーター、下部に多機能デジタルメーターを備えた2段式。ビンテージ感と新技術が見事に融合したインパネとなっている
中央にあるMODEジョイスティックを使用して、多機能パネルに情報を表示させることができる。また、ジョイスティックを短押しまたは長押しし、さまざまな方向に押したり動かしたりすることで、「SETTING MENU」からさまざまなパラメーターを設定することができる
上部にあるスイッチは、シートロックを解錠するときに使用する。リモコンキーにも同様の機能が持たせてある
肉厚で座り心地の良い大型シート。タンデム走行にも余裕で対応する
シート下のトランクスペース。ヘルメットは収納しにくいが、荷物の積載性はいい。後部に給油口が位置している
インナーパネル中央には上下分割式フックが装備されていて、バッグなどを簡単に掛けておける
シート前方にはヘルメットホルダーが2ヶ所に装備されている
インナーパネルに装備されたグローブボックス。容量は大きくないが小物入れに重宝する
グローブボックス内にはUSB端子が装備してあり、スマホなどの充電に活用できる
広々としたフロアボードは快適な足置きを実現してくれる
リアステップは格納式で、見た目も良く機能性も高い
アクセサリーパーツが豊富に用意されていて、このウインドスクリーンもそのひとつ。高い防風効果で高速走行も快適
アクセサリー用品のリアボックスは、リアキャリアと同時に装備する。ツーリングユーザーには必須だ

主要諸元

エンジン:i-get 4ストローク水冷単気筒 SOHC 4バルブ スタート&ストップシステム
総排気量:155cc
最高出力:15,6 HP/ 8,250 rpm
最大トルク:15 Nm/ 6,500 rpm
燃料供給方式:電子制御燃料噴射システム
始動方式セルフ式
トランスミッション:オートマチック (CVT)
クラッチ:自動遠心クラッチ
フレーム:スチール製モノコックボディー
サスペンション(前):片持ちリンクアーム油圧式サスペンション
サスペンション(後):プリロードアジャスタブル ツインショックアブソーバー
ブレーキ(前):油圧式 220mm ディスクブレーキ ABS
ブレーキ(後):油圧式 220mm ディスクブレーキ ABS
タイヤ(前):120/70-12"
タイヤ(後):130/70-12"
全長/全幅:1,980mm / 765mm
ホイールベース:1,385mm
シート高:790mm
燃料タンク容量:7L
車両重量:150Kg

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著者プロフィール

栗栖国安 近影

栗栖国安

TV局や新聞社のプレスライダー、メーカー広告のモデルライダー経験を持つバイクジャーナリスト。およそ40…