【BETA試乗記】RR2Tのフラッグシップにして王様! エンデューロ世界タイトルを獲るRR2T300のポテンシャルとは?

イタリア、BETA社のRR2Tシリーズの中でフラッグシップモデルと言われてるのがこのRR2T 300。ただ勝利を掴むために作られたこのマシンが国内外問わず人気があるのは乗り易さも兼ね備えているからだろう。その人気の秘訣を全日本ロードライダーにしてオフ&モタードも得意とする濱原 颯道(ソードー)がお試し!
取材協力:BETA motor Japan
PHOTO:山田俊輔

BETA・RR2T300 MY24……138万6000円

BETA motorcycleはエンデューロでも大活躍!

イタリアに本社を構えているBeta motorcycleは1905年創業の老舗メーカーです。1990年代は主にトライアルバイクで活躍し、多くの世界チャンピオンを輩出しました。その頃にもエンデューロバイクは作っていたのですが、他のメーカーとの業務提携などで全てを自社製作していたモデルは少なかったようです。

しかし、世界的にエンデューロが再び流行し始めた2010年以降は積極的に自社で作るようになり、2016年にはエンデューロ世界選手権の最大排気量クラスでワールドチャンピオンを獲得するまでに! その後も何度も世界タイトルを獲得しているBetaのRR2T 300はまさにキング。オフ界で世界的なBeta謹製のエンデューロマシンは以前からとても興味を持っていました。

日本人の体格にも合うサイズ感

早速、RR2T 300跨ってみると、シート高930mmとは思えないほど足つきが良い。シート上辺の幅がスリムで、数値だけでは判断できないな、という印象でした。基本的にシャーシやエンジンなどはRR2T 250と同じでチャンバーも同様。なのでパッと見はほとんど同じです。排気量に差があれば、多少は車重も変わるものだけど、RR2Tの250と300はともに103.5kgと、他の海外メーカーに比べても2〜3kg軽いです。

シートは前年度モデルに比べて座面が広くなったそうだ。幅が出たので若干足つきは悪くなったみたいだけど、お尻と接触する“面”が増えたので疲れは軽減されそう。

ホイールベースは1477mmで国産車よりはやや長め、海外メーカーよりは短く中庸なところを突いた感じですね。日本人は小柄な方が多いので、BETAの車格と車重がマッチする人も多いのでは?と思います(ちなみにボクの身長は191cmです)。

右手の操作にシンクロするエンジン特性

最近では2ストロークエンジンのバイクでもインジェクションに移行してきています。インジェクションと4ストロークエンジンは相性が良いのですが、2ストはまるで生き物のようなもので、アナログな要素も多いため電子制御(インジェクション)では中々にグッドフィーリングを生むことが難しい……。あと数年はデータとノウハウを集めていく必要があると思っています。

そしてRR2T 300はインジェクションではなく、キャブレター(ケイヒン製PWK36)を採用しています。低速域でのアイドリングが安定していて、スロットルを開けた分だけ進むのでちょっとした難所での操作も容易。クラッチもパワーがある割には軽いのが好印象でした! 69.9mmとかなりロングストロークで低回転域からトルクもあるから2速発進の方がスムーズに走り出せそうな気配! 高回転域の伸びは125クラスなどと比べるとやや劣りますが、スロットル開度40〜60%の域では他のRR2Tシリーズにはない余裕感があります。

世界を戦うライダーが以前2ストインジェクションを開発しているメーカーからBETAに移籍した際に「キャブは最高!」と言っていたのも納得です。

サイレンサーがかなり大きいため排気音は静か。変にゴテゴテしておらずなるべく軽く作ろうという意志が伝わってくる。ちなみにサイレンサーが重いとジャンプの着地などで余計にリヤショックのストロークを使ってしまうので、軽いほどマシンにも軽快さが出る。

トライアルバイクのようなマスの集中化

次は車体について。RR2Tシリーズの125や200に比べると300はホイールベースが5mm、そしてシートとステップの距離感が3mm長いです。という事はそれだけ膝の曲がる角度が緩くなるわけで、シッティングからスタンディングに移行する際にスムーズかつスピーディに移行できます。

さらに、コーナーリング中も外足でしっかりとステップを踏み込むことができたことから、これは「攻められるマシンだ!」と直感しました。エンジン自体の重量はそこそこ感じるのですが、エンジンを中心としたマスの集中化が図られていて、崖など登る時もフロントを浮かそうと思ったらリアタイヤがしっかり接地するかのように、エンジンを支点にして軽快に前後タイヤが動きます。

ザックス製サスペンションにNISSIN製ブレーキシステムを搭載。フロントタイヤはMAXXISのM7332を装着。根っこでは若干グリップの薄さを感じるけれど、サンドから黒土までしっかりとグリップしてくれる。リムは国産のTAKASAGO EXCELリム、フロントフォークのシール類はSKF製を使用している。ノーマルに比べローフリクションなため本来のサスペンションの動きを出すことができる。

フォークピッチが若干他メーカーの車両より狭いのか、フロント周りがすごく軽く感じました! フラットなコーナーよりは深いワダチとかの方がフィーリングが良く、そこからコーナーの出口に向けてアクセルを開けて行くとしっかりとタイヤが路面を捉えてくれて、とてもコントローラブルです。今まで多くの2stエンデューロマシンに乗ってきましたが、RR2T 300での感想は“シャープ”ということ。こればっかりは、カタログを読み込んでも、数値で比較しても体験しないとわからない部分ですね。

ディテール解説

チャンバーはこちらもイタリアのマフラーメーカーであるARROWとBETAのコラボ仕様。 リードバルブはV FORCEを装着している。ARROWもV FORCEもその筋の専門なので性能も高く、結果的にコスパにも優れる。

タンクを覆うシュラウド部分もゴルフボールのようなディンプル形状になっていてホールドしやすく、食い付き過ぎない。燃料タンクは9.5ℓ(リザーブは2.3ℓ)。カタログ上だと100km走るのに2.7ℓ使用と、RR2Tシリーズの中でも燃費がいい。

オーバル型のスリムメーターはちょっと見にくいかも……。基本的にオフロードマシンはタコメーターもないし、スピードメーターも常にフロントタイヤが浮いてることが多いから速度計もそこまで詳細にチェックする必要性を感じない。とくにコンペティションにおいては“メーターを確認する”という習慣がないのでこの辺りはご愛嬌。

RR2Tシリーズは全車種マップ切り替えスイッチが付いている。太陽マークはドライ用でよりパワフル、傘マークはウエット用で少しダルな特性に。中でもこの300はマップ切り替えは1番キャラが変わったように感じる。路面が乾いていてもアスファルトの上だとウエット用の方がキビキビしていなくて扱いやすい。

リヤホイールサイズは140/80-18。タイヤはMAXXIS製M7324でこのタイヤは僕も個人的にエンデューロレースで使用している。多くのバイクは新車装着時のタイヤの性能に違和感や不満を持つ場合もあるけど、私的にRR2T 300はそんな心配はいらなそうだ。

主要諸元

●エンジン
トランスミッション 6速
スターター セルスターター
排気量 292.3cc
ボア 73mm
ストローク 69.9mm
クラッチ 湿式 多板
イグニッション AC-CDI Kokusan
スパークプラグ NGK GR7CI8

●シャーシ
乾燥重量 103.5kg
燃料タンク容量 9.5(リザーブタンク2.3L)
フロントブレーキディスク径 260mm
リアブレーキディスク径 240mm
フロントブレーキ NISSIN 油圧式ディスクブレーキ
リアブレーキ NISSIN 油圧式ディスクブレーキ
ドライブチェーン 520シールチェーン
フロントサスペンション ザックス
リアサスペンション ザックス
フロントサスペンションストローク 295mm
リアサスペンションストローク 290mm
最低地上高 320mm
最高地上高 1270mm
全長 2172mm
ホイールベース 1482mm
ステップ高 407mm
シート高 930mm

ライダープロフィール

濱原颯道(はまはら そうどう)

1995年1月17日生まれ。身長191cm、体重約90kgとオートバイレーサーとしては規格外の体躯を持つ。2017年に全日本ロードレース選手権(JSB1000)デビュー、2021年にはランキング2位を獲得。鈴鹿8耐や全日本スーパーモト、エンデューロレースの参戦経験、ミニバイク誌のインプレ寄稿など豊富な経験を活かし、多方面で活躍する「モータースポーツ総合エンターテイナー」。

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