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CBR600RRは「いわくつき」のバイク
筆者にとって、CBR600RRは、ちょっといわくつきのバイクだ。現在の愛車は、2020年1月に購入した初期型CBR650Rだが、当時、CBR600RRは新車ラインアップから外れていた(先代モデルは2016年に販売終了)。それが、CBR650R購入直後の2020年9月に、2021年型が登場し販売を再開。もし、復活が8か月ほど早かったら、どちらを買うか相当に迷っていたと思うからだ。
そもそも、筆者が、ミドルクラスのスポーツバイクを買いたいと思ったのは、50歳も半ばになってから。以前は、2008年型の2代目ハヤブサ(GSX1300ハヤブサ)を12年間所有していたが、重い車体に体力の限界を感じ、より軽いバイクが欲しくなったからだ。しかも、根っからのスポーツバイク好きだから、運動性能もある程度高いモデルがいい。
そこで、目に付けたのが600cc〜800ccあたりのミドルクラス。特に、筆者は、若い頃に、1988年型「CBR400RR」や、1998年型「CBR900RRファイヤブレード」を所有した経験があり、フルカウルで、4気筒エンジンを搭載するCBRシリーズには、かなり愛着があった。
そこで、2019年に発表されたCBR650Rに注目。かつて乗ったレプリカモデル、今でいうスーパースポーツとは異なるが、フルカウルのスポーティなフォルムを持ちつつ、扱いやすさにも定評がある。オジサンが安全・快適に楽しむには、かなりいいバイクだと思い購入。今では、ツーリングはもちろん、年甲斐もなく、筑波サーキットなどでスポーツ走行も始め、その軽快な走りや扱いやすさには、かなり満足している。
ところが、前述の通り、CBR650Rを買った直後にCBR600RRが復活。もともと、MotoGPなどレース好きの筆者としては、サーキット直系モデルであるこのバイクが、以前からとっても気になっていたから、かなり驚いた。
もちろん、車両本体価格(税込)は、筆者が買った初期型CBR650Rの車体色グランプリレッドが、2020年1月当時で108万9000円(現行モデルは107万8000円〜111万1000円)。一方、復活した2021年型CBR600RRは160万6000円(2024年モデルはブラック157万3000円、グランプリレッド160万6000円)だ。
購入費用も考えると、CBR650Rで正解だと思う一方、約60万円の差額が、性能などにどういった違いを生むのかも気になった。今回の試乗で、筆者のそうした疑問や迷いに、どんな答えが出るのだろうか? 前置きがやや長くなったが、両モデルを乗り比べた感想などをご紹介しよう。
CBR600RRとCBR650Rのエンジン比較
試乗したのは、CBR600RRの最新モデルで、車体色は人気のグランプリレッド。筆者の愛車も、カラー名は同じグランプリレッドだが、CBR600RRの方が、よりサーキットに映えるレーシーな印象だ。特に、フロントカウル左右に装備されたウイングレットが、MotoGPマシン直系であることを想起させてくれる。
一方、CBR650Rも、フロントカウルにツインラムエアダクトを採用するなどで、顔付きは比較的シャープだ。だが、CBR600RRと比較すると、スポーティではあるものの、ややマイルドで落ち着いた感じ。その分、より街中にもマッチする大人の雰囲気を持つ気がする。
ちなみに、2024年モデルのCBR600RRは、599cc・水冷4ストローク直列4気筒エンジンなど、基本装備はそのままに、最新の平成32年(令和2年)排出ガス規制に適合させるため、排気系などを若干変更。最高出力89kW(121PS)/14250rpm、最大トルク63N・m(6.4kgf-m)/11500rpmといったスペックに変更はない。
また、車体色は、従来あるグランプリレッドのグラフィックを変更したほか、マットバリスティックブラックメタリックも追加している。さらに、以前はオプション設定だったクイックシフターを標準装備。クラッチレバーやアクセルの操作をせずに、シフトのアップとダウンの両方が可能なほか、アップのみ、ダウンのみ、機能オフといった選択も可能としている。
対するCBR650Rでは、エンジン形式は同じ水冷4ストローク直列4気筒だが、排気量は648ccとCBR600RRより大きい。最高出力は70kW(95PS)/12000rpmで、最大トルク63N・m(6.4kgf-m)/9500rpm。パワーは26PSほど少なく、最大トルクは同じだ。ただし、排気量が大きい分、出力やトルクがCBR600RRより低い回転数で発生することで、直4らしいスムーズな吹け上がりを持ちつつ、扱いやすさも両立していることが特徴だ。
CBR600RRの方がやや前傾がきつい印象
両モデルのボディサイズは、CBR600RRが全長2030mm×全幅685mm×全高1140mm、ホイールベース1370mm。CBR650Rは全長2120mm×全幅750mm×全高1150mm、ホイールベース1450mm。全体的にCBR600RRの方がコンパクトだ。
いずれもセパレート式ハンドルを採用する両モデルだが、またがった印象は、リヤ上がり気味の車体姿勢であるためもあるのか、CBR600RRの方がやや前傾がきつくなる感じ。だが、思っていたほどではなく、この程度なら、筆者の場合、街中の渋滞路などでも、あまり苦痛を感じるほどではなかった。
シート高は、CBR600RRが820mmで、CBR650Rは810mm。足着き性は、両足を出した場合、CBR600RRの方がツマ先の角度が多少きつくなる。だが、つま先ツンツンでバランスを崩すほどではないし、片足なら、どちらのモデルもかかとまでベッタリと地面に着く。
特に、CBR600RRの車両重量は193kgと、208kgのCBR650Rより15kgも軽い。これにより、足着き性こそやや悪いものの、車体を支えきれないほどではない。また、駐車場での押し歩きなど、取り回しもCBR650R同等か、それ以上だ。特に、50歳代の筆者のように、若いときほど体力がないベテランライダーには、この軽さは有り難い。スーパースポーツというと、かなりハードルが高い印象だが、意外に日常の足としての使い勝手も良さそうだ。
発進時は回転をより上げる必要がある
街中を流してみた印象は、CBR600RRの場合、より高回転型のエンジン特性が顕著に現れた。CBR650Rよりも低回転域のトルクが少ないため、例えば、信号待ちからの発進などでは、より回転を上げないとスムーズに進まない。
昔の2ストローク250ccのレプリカマシンほどではないが、アクセルをあまり回さず、クラッチレバーをラフに繋ぐと、エンストしそうになるから注意が必要だ。もちろん、慣れれば問題ないレベルだが、この点に関しては、より排気量が大きく、低回転域のトルクも十分なCBR650Rの方が、スムーズなスタートが可能だ。
ただし、街乗りでも、CBR600RRのクイックな旋回力は魅力だ。細い路地などのタイトなコーナーでも、車体の倒し込みから車体がスーと向きを変えてくれる。CBR650Rも、素直なハンドリングのため、タイトコーナーなどでも軽快だが、クイックさでいえばCBR600RRの方が上だといえる。
特に、CBR600RRの倒立フロントフォークは、低速域でもちゃんと動く。サーキット走行にも対応する仕様とは思えないほど、フレキシブルだ。ただし、リンク式のリヤサスペンションは、低速域ではあまり沈み込まないため、減速してフロントフォークが沈み込むと、前傾がきつくなったような感じになる。上体を意識して立て気味にすれば、前方視界の確保も問題ないし、前のめりになりすぎることもない。だが、低い速度域でも前後サスが適度に沈み込むCBR650Rの方が、街乗りでも自然な感覚で乗れるといえるだろう。
高速道路では車速の伸びが段違い
高速道路を走ってみると、車体が軽く、よりパワーもあるCBR600RRの高性能ぶりを、かなり堪能できた。例えば、ICやPAなどから合流車線を走り本線に入る場合も、車速の伸びが段違いにいい。CBR650Rと比べると、法定速度に到達する時間がかなり短いのだ。
また、マフラーが奏でるサウンドも、CBR600RRの方がよりレーシーだ。低・中回転域では重低音、高回転域では乾いた高音に変化する。CBR650Rの純正マフラーも、重低音の直4サウンドを醸し出してくれて好きなのだが、高回転域での高揚感はCBR600RRに軍配が上がる。リヤシートカウル下に配置されたセンター出しマフラーという見た目も含め、かなり好印象だった。
なお、数多くの電子制御システムを採用するCBR600RRには、走行状況やライダーの好みに応じて、走行フィーリングの選択が可能なライディングモードも採用している。
CBR650Rにも、後輪への駆動力レベルを必要に応じて制御する「HSTC(ホンダ セレクタブル トルク コントロール)」、いわゆるトラクションコントロールは装備する。加速時やスリップしやすい路面などで、後輪のスリップ制御を行ってくれる機能だ。
だが、CBR650RのHSTCは、オン/オフの切り替えのみ。対する、CBR600RRの場合は、HSTCの制御介入度合い(T)を変更できるほか、出力特性を変えられるパワーセレクター(P)、前輪が浮き上がるウイリーの挙動を制御する機能(W)、エンジンブレーキの効き具合を変更できるセレクタブルエンジンブレーキ(EB)も搭載。
これら各制御のレベルを組み合わせることで、より細かな設定を可能とする。選択できるモードは、あらかじめ設定された3モードのほか、ユーザーが任意に組み合わせを設定できるユーザーモードも2タイプを用意する。
MotoGPなど、世界中のレースで培った最新技術を投入しているという点では、やはりCBR600RRの方が充実度が高いといえるだろう。
アップとダウンに対応するクイックシフターもかなり便利
加えて、最新モデルから標準装備となった、アップとダウンの両方に対応するクイックシフターもかなり便利だ。例えば、高速道路などの走行中に、ギアを6速から1〜2段落とし、追越しなどで加速する際も、素早くシフトチェンジができることで効果を発揮する。
また、いきなり前方へクルマが割り込んで来て、急減速をしなければならないとき。とっさにブレーキレバーと一緒にシフトペダルを踏み込むことができ、エンジンブレーキも併用した減速が可能だ。サーキットなどで、クイックなシフトチェンジができることはもちろんだが、公道での安全面にも貢献する機能だといえるだろう。
ちなみに、CBR600RRのクイックシフターは、1500rpm以上という低い回転域でもシフトアップが可能。筆者のCBR650Rにも、オプションのクイックシフターを装着しているが、対応するのはシフトアップのみ。しかも、購入時に販売店に確認したところ、6000rpm付近まで回転を上げてから使わないと、故障の恐れがあるとのこと。
そう考えると、実は、街中など、公道でも便利な機能を持つのはCBR600RRの方だ。実際に、渋滞路のノロノロ運転など、頻繁にアップやダウンのシフトチェンジを行うシーンでも、クラッチレバーを使わずに済むCBR600RRのクイックシフターは効果を発揮。ライディングの疲労軽減に貢献してくれたといえる。
なお、高速道路などでの高速コーナーでは、どちらのモデルも、安定感は抜群だ。100km/hまでの速度域であれば、どちらも快適で余裕ある乗り味を味わえる。ロングツーリングなどで、心地よく安心して走れるという点では、両モデルは互角といえるだろう。
どんなシーンでも高揚感を感じさせてくれるバイク
CBR600RRは、その高性能さだけでなく、意外に公道での実用性も高いことは驚きだった。もちろん、CBR650Rは、街乗りからワインディング、高速道路まで、幅広いシーンで、より扱いやすいマシンであることには間違いない。より気兼ねなく走りを楽しめるバイクだといえる。
一方のCBR600RRは、どんなシーンでも、高揚感を感じさせてくれるバイク。そして、実は、乗りやすさも両立している。サーキットでタイムを出すことに注目されがちのモデルだが、普段使いやツーリングにも十分に対応する。そして、いざクローズドコースに出れば、最新の電子制御やハイレベルな装備と相まって、高次元の乗り味が体験できることを予感させてくれる。
筆者としては、今回の試乗で、CBR600RRとCBR650Rのどちらがいいか、答えが出るどころか、余計に悩ましくなってしまった。今回は、ワインディングやサーキットなどで試乗しなかったが、そうしたCBR600RRがより本領を発揮するであろう場所でも、機会があればぜひそのポテンシャルの高さを体感してみたいものだ。筆者が探している答えは、そのときに、はじめて見いだせるのかもしれない。
ちなみに、ホンダは、2023年11月にイタリアで開催されたEICMA 2023(ミラノショー)で、2024年モデルのCBR650Rを発表。よりシャープな外観に変更したほか、新開発の「ホンダ E-クラッチ」を搭載するという。
これは、世界初の「2輪車用有段式マニュアルトランスミッションのクラッチコントロールを自動制御する」システム。アップとダウンの両方に対応するクイックシフター的な使い方ができるほか、発進時や停止時にもクラッチ操作は不要だという。
この新機構を採用した新型CBR650Rもかなり気になるところ。2024年は筆者にとって、悩み多き1年となりそうだ。
CBR600RR・ 主要諸元
車名・型式:ホンダ・8BL-PC40 全長×全幅×全高(mm):2,030×685×1,140 軸距(mm):1,370 最低地上高(mm)★:125 シート高(mm)★:820 車両重量(kg):193 乗車定員(人):2 燃料消費率(※2)(km/L): 国土交通省届出値 定地燃費値※3(km/h)…25.5(60)<2名乗車時> WMTCモード値★(クラス)(※4)…18.5(クラス3-2)<1名乗> 最小回転半径(m):3.2 エンジン型式・種類:PC40E・水冷 4ストローク DOHC 4バルブ 直列4気筒 総排気量(㎤):599 内径×行程(mm):67.0×42.5 圧縮比★:12.2 最高出力(kW[PS]/rpm):89[121]/14,250 最大トルク(N・m[kgf・m]/rpm):63[6.4]/11,500 燃料供給装置形式:電子式<電子制御燃料噴射装置(PGM-DSFI)> 使用燃料種類:無鉛プレミアムガソリン 始動方式★:セルフ式 点火装置形式★:フルトランジスタ式バッテリー点火 潤滑方式★:圧送飛沫併用式 燃料タンク容量(L):18 クラッチ形式★:湿式多板コイルスプリング式 変速機形式:常時噛合式6段リターン 変速比: 1速 2.615 2速 2.000 3速 1.666 4速 1.444 5速 1.304 6速 1.208 減速比(1次★/2次):2.111/2.625 キャスター角(度)★/トレール量(mm)★:24°6´/100 タイヤ:前 120/70ZR17M/C(58W)、後 180/55ZR17M/C(73W) ブレーキ形式:前 油圧式ダブルディスク、後 油圧式ディスク 懸架方式: 前 テレスコピック式(倒立サス ビッグ・ピストン・フロント・フォーク) 後 スイングアーム式(ユニットプロリンク) フレーム形式:ダイヤモンド ■道路運送車両法による型式指定申請書数値(★の項目はHonda公表諸元) ■製造事業者/本田技研工業株式会社 ※2燃料消費率は定められた試験条件のもとでの値です。お客様の使用環境(気象、渋滞など)や運転方法、車両状態(装備、仕様)や整備状態などの諸条件により異なります。 ※3定地燃費値は、車速一定で走行した実測にもとづいた燃料消費率です。 ※4WMTCモード値は、発進、加速、停止などを含んだ国際基準となっている走行モードで測定された排出ガス試験結果にもとづいた計算値です。走行モードのクラスは排気量と最高速度によって分類されます。