ととのう : 感性品質とは何を指しているのか
いままでの記事では感性品質の具体的な手法や現場での応用について触れてきましたが、今回は感性品質が重要視されるその背景、そもそも感性品質とは何を指しているのかについて今一度考えてみます。
さて、「ととのうー整う」という言葉がサウナ愛好者たちを中心にこの近年よく使われるかと思いますが、これに限らず色々な方法でも気持ちを整える、乱れたものをポジティブにリセットする、混沌としたものを調整する、などの意味で耳にすることが多くあります。
何となく流行り言葉とされている向きもありますが、実は私たちはその感覚を生きていく上で必要とし、求めているのではないでしょうか。例えば生活空間や自分の身の周りが煩雑だったり片付いていない状況では(その程度に個人差はありつつも)あまり心地よいものではないし、何となく落ち着かない…
そんな気持ちになるのはある意味我々にとって本能的な感覚なのかと思います。調和のとれた場に身を置くことは安心感を得られ、心の平穏を生む。整えられた環境はそんな根源的な欲求を満たす効力があるのではないかと思えます。

いずれも自然の中にありながらその境内一帯は整然とされていることで、清めの場として心を落ち着ける「ととのい」のかたちが体現されている。
統一感
感性品質の核心的な概念として「統一感」が最も重んじられます。調和性とも解釈されるこの考え方は評価指標の中でも最高ランクに位置するものです。多くのクルマのデザインテーマには車種やターゲットにより各々の表現があり、デザイン要素(加飾パネル等の装飾的なものも含めて)の多い少ないもそのクルマのコンセプトに由来していますが、いずれにせよそれらが、スタイリングの中に高いまとまりを持って表現されているのかは大変重要であり、デザインの完成度を決定付けていると言っても過言ではないと思います。
では「具体的な統一感は」と思う時にまず浮かぶのは、エクステリアならフロントとリアの印象が合っている事や、外装と内装の印象が近い、などでしょう。ではなぜそう感じるのか…恐らくそのデザインは基本的に”韻を踏む”ように要素が”フラクタル的”にあしらわれている筈です(グリルの形と灯火器類のモチーフを揃える、ベンチグリルのノブとドアのインナーハンドルのテーマを合わせるなど)
※フラクタル的(理論)…。形の部分と全体が似ているあるいは同じ形=自己相似になる事を示す。
この手法は見る人にもデザインを解釈しやすく、面白味を伝えられる点では良い方法かと思います。ただ一部にはそのリピート(反復)が随所に存在し、くどい印象に感じられてしまうケースもあるかもしれません。
一貫性のあるデザインとは
ではそうではない調和の取れた一貫性のあるデザインとの違いはどこにあるのか…ですが、一つの考え方としてはそのテーマの掘り下げ、デザイン意図の「深さ」なのかも知れません。その形やモチーフの意味がクルマとして表現しようとするアイデンティティーとどう関連付けられるのか。ブランドストーリーを全体感としていかに表しているのか。
そしてそのデザインに人が対面したとき、まず”整いたい”という根源的欲求が視覚的に満たされ、それとほぼ同時にデザインの訴えたいコンセプトが勢いよく感性に浸透し、その人にとってそれが好ましいものであれば大いに心を動かされる。そんなフローのかたちが感性品質の本質なのではと考えています。(あくまで仮説ですが)
現場でもデザイナーはターゲットユーザーに響くテーマを幾遍も考えながら日々アイデアを練っていると思いますが、それは「ととのう」フォーマットの上にこそ効果を発揮するという考え方もあるのではないでしょうか。
そのフォーマットの存在をデザイナーのみならず全ての開発メンバーが認識していれば、おのずと魅力的な表現が具現化するのではないか。あくまで理想論かもしれませんが、そう思えてなりません。
