「ポルシェ 911 GT1」がアメリカの雪上イベントに登場

アイスレースでル・マン24時間ウイナー「ポルシェ 911 GT1」が見事な雪上ドリフトを披露

アイスレース・アスペンに登場した、1998年のル・マン優勝車「ポルシェ 911 GT1」。
コロラド州アスペンに設置された氷雪上コースを舞台に、1998年のル・マン優勝車「ポルシェ 911 GT1」が華麗なデモンストレーションランを披露した。
2月8日から10日にかけてアメリカ合衆国コロラド州アスペンを舞台に行われた「F.A.T. アイスレース・アスペン(F.A.T. Ice Race Aspen)」に、1998年のル・マン24時間レースで優勝車「ポルシェ 911 GT1」が登場。氷雪上コースを舞台に、エキサイティングなデモンストレーションランを披露した。

Porsche 911 GT1/98

アメリカ開催が決定した「アイスレース」

アイスレース・アスペンに登場した、1998年のル・マン優勝車「ポルシェ 911 GT1」。
オーストリアのツェル・アム・ゼーを舞台とする「アイスレース」が、大西洋を超えてアメリカでの開催が決定。コロラド州アスペンで2月8日から10日にかけて「F.A.T. アイスレース・アスペン」が行われた。

冬のコロラド州の山肌を背景に佇む「ポルシェ 911 GT1」を目の当たりにし、ベテランレーシングドライバーのステファン・オルテリは夢を見てると思ったに違いない。オルテリが、チームメイトのローレン・アイエロ、アラン・マクニッシュと共にこのマシンでル・マン24時間レースを制したのは1998年6月。茹だるような暑さのサルト・サーキットが舞台だったからだ。

過酷な耐久レース用に開発されたGT1レーシングカーが、なぜドイツ・ツッフェンハウゼンのポルシェ・ミュージアムを出て、大西洋を超えたアスペンの雪道へとやってきたのだろうか?

2024年、急成長を遂げてきた氷雪上イベント「GPアイスレース」に新たなイベントが加わった。フェリー・ポルシェの孫であるフェルディナンド・ポルシェの発案で、1974年までオーストリアのツェル湖で開催されていた歴史的イベントは5年前に復活。以来、ツェル・アム・ゼーを舞台に毎年開催される華やかなアイスレースには、多くのファンが集まるようになった。

生まれ変わったアイスレースは瞬く間に国際的な人気イベントに成長。これを受けて、2024年にはアメリカ合衆国コロラド州のスキーリゾート、アスペンでの開催が決定したのだ。

アスペンで育まれたモータースポーツへの愛

アイスレース・アスペンに登場した、1998年のル・マン優勝車「ポルシェ 911 GT1」。
アメリカ初開催のアイスレースの舞台として、コロラド州アスペンが選ばれたのは、最高のスノーコンディションだけでなく、かつてこの地を舞台に公道レースが開催されていたからだった。

アスペンが開催地に選ばれた理由は、ロッキー山脈の高台に位置するこの小さな街が、オーストリアン・アルプスに匹敵する絶好のスノーコンディションに恵まれていたことだけでなく、モータースポーツに関する深い歴史を持っていたからだったという。

1951年、アスペンのホテル・ジェロームを拠点に、周辺の未舗装ワインディングロードを使ったストリートレースが初開催された。1955年末、コロラド州により公道レースは非合法となったが、モータースポーツを愛する気持ちは、何世代にもわたってこの地で受け継がれてきた。

それから約70年後、「F.A.T. アイスレース・アスペン」の開催が決まり、アスペンから数km北にあるカーボンデールのツリーファームに設営された氷雪上コースに、近代的なレーシングカーからヒストリックカーまでが集結。今回、初開催のアイスレースで、間違いなく一番のハイライトになったのが、ドイツから持ち込まれた「ポルシェ 911 GT1」だった。

氷雪上コース走行に向けた911 GT1の改良

アイスレース・アスペンに登場した、1998年のル・マン優勝車「ポルシェ 911 GT1」。
サーキットではなく、氷雪コースを走行するため、911 GT1は車高が上げられ、専用のウィンタータイヤが装着された。

アスペンに持ち込まれたポルシェ 911 GT1は、1998年のル・マン24時間レース優勝車両。車重1000kg強、最高出力550PSの耐久レーシングカーが氷雪上コースを走行するために、ポルシェ・ミュージアムのエンジニアは、特別なウインタータイヤを装着した。

車高を上げ、ホイールハウス内に想定よりも厚いタイヤラバーが入るスペースも確保。さらに、919 ハイブリッド用のプレヒートシステムも追加され、複雑な操作手順を簡素化するたにソフトウェアもアップデートされている。911 GT1が初めて氷上に降ろされた時、オルテリは自分の目を疑ったという。

「雪の中、木々を背景にした 911 GT1を初めて見たとき、それはまるで美しい絵画のようでした。信じられないような光景です。そして、本当にここでこの素晴らしいレーシングカーをドライブできるなんて、夢のようでしたよ」と、オルテリは振り返る。

911 GT1でドリフトを披露したオルテリ

今回、911 GT1のステアリングを握ったのは、1998年にこのマシンでル・マン24時間レースを制したステファン・オルテリ。絶妙なドライビングテクニックで、華麗なドリフトを披露した。
今回、911 GT1のステアリングを握ったのは、1998年にこのマシンでル・マン24時間レースを制したステファン・オルテリ。絶妙なドライビングテクニックで、華麗なドリフトを披露した。

911 GT1は、もちろん雪上での走行は想定されていない。本来GT1が走行すべきなのは、グリップレベルの低いアスペンの氷雪上コースではなく、超高レベルのグリップとダウンフォースを発揮できるサルト・サーキットなのだ。

「このクルマの出自は忘れることにしました(笑)。まるでバレエを踊っているようでしたよ。タイヤは雪面でもよくグリップするし、すぐにクルマのポテンシャルを感じてレーシングラインを走ることができました」と、オルテリは走行後に笑顔を見せた。

「ドリフトで横向きにスライドさせるとき、クルマの角度を補正するためにステアリングを切る必要があります。ただ、911 GT1はステアリングの遊びが少ないので、そのコントロールがすごく難しいのです。すぐにフルロックしてしまうため、スライドを制限するためには、アクセルと左足ブレーキでコントロールする必要がありました。ホイールとペダルの操作がとにかく大変でした(笑)」

GT1レーシングカーが雪上でドリフトを披露する様子は、すぐにSNS上でセンセーションを巻き起こし、オルテリのチームメイトの目にも留まった。

「アラン(マクニッシュ)とローレン(アイエロ)は、僕がこのクルマに乗っていることを、すごく喜んでくれました。これこそがポルシェ・ミュージアムの素晴らしいところです。彼らはショーのためにクルマを準備するだけでなく、私たちが速く走らせられるように準備してくれるのです。ル・マンで優勝したクルマでさえ雪上で走れるんですよ! この経験は一生忘れないでしょう」

グループCの40周年でレジェンド達が明らかにしたポルシェ956、962の驚くべき開発秘話

2022年のヒストリックカー界最大のトピックといえば、グループCの40周年に尽きる。4月のグッドウッド・メンバーズ・ミーティングを皮切りに、ル・マン・クラシックなど様々なイベントで特集が組まれる中、その生みの親とも言えるポルシェがミュージアムの総力を結集したワークショップをドイツ・ライプツィヒのエクスペリエンス・センターで行った。

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ゲンロクWeb編集部 近影

ゲンロクWeb編集部

スーパーカー&ラグジュアリーマガジン『GENROQ』のウェブ版ということで、本誌の流れを汲みつつも、若干…