目次
Jaguar F-Type R75 Coupe
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Land Rover Defender 110 V8
その系譜は1996年のAJ-V8エンジンに
2019年にデビューした新型ランドローバー・ディフェンダー。本国では2021年から5.0リッターV8スーパーチャージドユニットを搭載したハイパフォーマンスバージョンのディフェンダーV8 P525がラインナップされていたが、漸く日本市場にも2024年限定モデルとして投入された。しかし2024年限定モデルという但し書きからもお察しの通り、よほどのことが起きない限り5.0リッターV8モデルが販売されるのはこれが最後となる。
加えてジャガーブランドにおいても昨年12月、5.0リッターV8ユニットのみならず、Fタイプ、XE、XF、XFスポーツブレークといった内燃機関モデルの受注が終了し、2025年からバッテリーEV専門ブランドに生まれ変わることが改めて発表されたところだ。
さて、近年のジャガー・ランドローバーにおいて、トップモデル用のエンジンとしてお馴染みだった5.0リッターV8スーパーチャージドだが、その系譜を遡っていくと、1996年に開発されたAJ-V8エンジンに辿り着く。
1971年登場のV型12気筒SOHCユニット、1984年登場の直列6気筒DOHC、AJ6ユニットに代わる新世代フラッグシップ・エンジンとして開発されたAJ-V8は、2009年に新設計のシリンダーブロック、スプレー・ガイデッド・ダイレクト・インジェクション(SGDI)と呼ばれる直噴システム、可変カムシャフトなどを備えたジェネレーション3へと進化。その最強版として用意されたのが、ツインボルテックス・スーパーチャージャーを備えた5.0リッターV8 AJ133ユニットだった。
良い意味で男臭いFRらしさ全開のFタイプ
2012年にデビューしたXKR-Sに積まれたこのV8は、最高出力550PS、最大トルク680Nmを発生し、最高速度300km/h、0-100km/h加速4.4秒という圧倒的なパフォーマンスで話題を呼んだが、Fタイプのフィナーレを飾るモデル、そしてXK120誕生75周年を記念して用意されたFタイプ R75 P575クーペの5.0リッターV8スーパーチャージドユニットは、実に575PSの最高出力と700Nmの最大トルクを発生。XKR-Sのような、これ見よがしのエアロパーツが装着されていないもかかわらず、その最高速度は300km/h(リミッター作動)、0-100km/h加速は3.7秒とアナウンスされている。
にもかかわらず、どこかが極端に突出したり破綻することなく、見事に全体が調律されているのがFタイプの凄さ。その根幹をなすのが、ジャガーが先鞭をつけた軽量かつ高剛性な第4世代オールアルミ・アーキテクチャーによるモノコックシャシーだ。既にデビューから10年が過ぎたとはいえ、その強靭さは健在で、575PSのパワーにもビクともしない。
そこにさらに輪をかけて素晴らしいのがハンドリングである。最強バージョンであるRの駆動方式は電子制御クラッチを用いたオンデマンド式AWDで、リヤタイヤがグリップを失うと、最大で前後トルク配分を50対50にまで変化させることができるが、基本はリヤ駆動。その味付けがまた絶妙で、アクセルを踏んで積極的に曲がらせる昔ながらの、そして良い意味で男臭いFRらしさ全開の動きをしたがるのである!
高級SUVとしての才能に溢れたディフェンダー
よって、吹け上がりは鋭いものの、回転落ちは緩やかなので思いのほか扱いやすい。V8の芳醇なパワーとトルクをお尻で感じながら、ステアリングで捩じ伏せるように走るワインディングは滅法楽しく、クルマを御するという根源的な悦びに満ちている。これぞXK120、いや戦前のSS100から受け継がれている“ジャガーネス”なのだろう。
一方のディフェンダー110 V8もまた魅力的だ。エンジンは基本的に同じ5.0リッターV8スーパーチャージドだが、その最高出力は525PSで、最大トルクも2500〜5500rpmで625Nmを発生するようになっている。
もちろん、アクセルペダルを思いっきり踏み込んだ時の加速は、他のディフェンダーファミリーにはない過激さに溢れているが、それよりも印象的なのがアクセルペダルの踏み始めから文字通りモリモリと湧き上がってくるトルクで、街中でもタイトなワインディングでも、全長4945mm、全幅1995mm、全高1970mm、車重2450kgという巨体を、なんのストレスもなく走らせることができる。
しかも高速での伸びがよく、3020mmのロングホイールベースシャシーも相まって、上屋がブレることもなく見た目以上に安定して、速く、乗り心地もいい。
同じ5.0リッターV8スーパーチャージャーだが
その走りを支えているもうひとつの要素が、新型ディフェンダーで投入されたオールアルミモノコックのD7Xアーキテクチャーだ。クルマ全体の塊感、硬質感はこれまでのラダーフレームとは比較にならないほど高レベル。おかげで電子制御エアサスペンションと可変ダンパーを備えたフロント&リヤマルチリンクの足まわりがしっかりと機能し、先代の弱点であった静粛性は大幅に改善。数世代前のレンジローバーと肩を並べるほどの、高級SUVとしての資質を手に入れているのである。
それもあらゆる面で余裕のある、このV8があってこそのもの。個人的には先日試乗した3.0リッター直6ディーゼルターボを積むディフェンダー90 D300こそがベストと思っていたのだが、少なくとも110に関しては、このV8の方がマッチしているように感じられた。
いずれにしろパワー型のFタイプと、トルク型のディフェンダー。同じ5.0リッターV8スーパーチャージャーでありながら、それぞれのキャラクターにフィットした味付けの違いは改めて新鮮だった。時代の流れとはいえ、そんな稀代の千両役者が今年で大団円を迎えてしまうとは……なんとも惜しい話である。
REPORT/藤原よしお(Yoshio FUJIWARA)
PHOTO/神村 聖(Satoshi KAMIMURA)
MAGAZINE/GENROQ 2024年 4月号
SPECIFICATIONS
ジャガーFタイプ R75 P575クーペ
ボディサイズ:全長4470 全幅1925 全高1315mm
ホイールベース:2620mm
車両重量:1840kg
エンジンタイプ:V型8気筒DOHCスーパーチャージャー
総排気量:4999cc
最高出力:423kW(575PS)/6500rpm
最大トルク:700Nm(71.4kgm)/3500rpm
トランスミッション :8速AT
駆動方式:AWD
サスペンション:前後ダブルウィッシュボーン
ブレーキ:前後ベンチレーテッドディスク
タイヤサイズ:前265/35ZR20 後305/30ZR20
最高速度:300km/h
0-100km/h加速:3.7秒
車両本体価格:1833万円
ランドローバー・ディフェンダー110 V8 P525
ボディサイズ:全長4945 全幅1995 全高1970mm
ホイールベース:3020mm
車両重量:2450kg
エンジンタイプ:V型8気筒DOHCスーパーチャージャー
総排気量:4999cc
最高出力:386kW(525PS)/6500rpm
最大トルク:625Nm(63.8kgm)/2500~5500rpm
トランスミッション :8速AT
駆動方式:AWD
サスペンション:前ダブルウィッシュボーン 後マルチリンク
ブレーキ:前後ベンチレーテッドディスク
タイヤサイズ:前後255/60R20
最高速度:240km/h
0-100km/h加速:5.4秒
車両本体価格:1588万円
【問い合わせ】
ジャガーコール
TEL 0120-050-689
https://www.jaguar.co.jp/
ランドローバーコール
TEL 0120-18-5568
https://www.landrover.co.jp/