目次
Porsche 718 Cayman Style Edition
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Renault Megane R.S. Ultime
対照的な4気筒スポーツ2台
今回の2台は「絶滅危惧種」というテーマで集められた4気筒エンジン車だが、クルマの電動化が進む中でも、最後まで生き残る可能性が高いエンジンは4気筒だと思う。今は2.0リッター4気筒でも470PS超、550Nmまで出せる時代だ。ハイブリッド前提なら、少なくとも絶対性能的には、スーパースポーツカーも4気筒で成立するからだ。
一方で、2.0リッター級4気筒を搭載する純エンジンスポーツモデルが、絶滅の危機に瀕していることも事実だ。そこで、ここでは「これに乗れるのも最後のチャンス?」な世界遺産級の、しかも対照的な4気筒スポーツを2台連れ出すことにした。
そんな4気筒世界遺産の1台は「ポルシェ 718ケイマン」。本誌読者ならご承知のように、先日の新型マカンの次にバッテリーEV(BEV)化されるのはケイマン/ボクスターといわれる。ポルシェはeフューエルなどで内燃機関の可能性を最後まで追求する姿勢だが、その主役は911。逆にエントリーモデルのBEVには積極的である。
もう1台は「メガーヌ・ルノー・スポール(RS)」である。これまで2.0リッター級4気筒の性能競争で主戦場となっていたのが、メガーヌRSも含めたCセグメントホットハッチだ。現在最強ホットハッチのメルセデスAMGのA45Sは420PS超、500Nmという怪力だ。そしてメガーヌRSも、これまでニュルブルクリンクでFF世界最速タイムを幾度となく更新してきた、CセグメントFFホットハッチの雄である。
ジャーマンスポーツ好きにも一目置かれるフランス車
しかし、RSがアルピーヌに統一/改称されるとほぼ同時に、メガーヌRSに直接的な後継機種が存在しないことも明らかとなった。今回の「ウルティム」は世界1976台限定の正式な最終生産モデルである。ちなみに、旧RSの組織は基本的にそのままアルピーヌカーズとなり、今はアルピーヌの新型BEVの開発に軸足を移しているという。
今回の取材では、まずメガーヌRSウルティムのステアリングを握った。一説には筋金入りジャーマンスポーツ好きの間でも一目置かれている数少ないフランス車が、アルピーヌA110とメガーヌRSと聞く。この最後のRSが積む4気筒が1.8リッター(先代までは2.0リッター)なのは、日産も含めたアライアンス全体のパワートレイン戦略によるところが大きい。M5Pと名付けられた同ユニットは、日産MRA型をベースにルノー開発の直噴ヘッドとツインスクロールターボを組み合わせたもので、A110にも積まれている。
ウルティムはまさに究極のホットハッチといっていい。その漲る剛性感、正確無比のステアリング、硬質なドライブフィールの内側に、そこはかとなく漂うしなやかさ……に、無意識に「FFのポルシェ」というキャッチフレーズが頭に浮かんだ。
固定減衰ダンパーにリヤトーションビームのアシはハイテクとはいえない。しかし、高速や山道で“らしい”走りをさせるほど生き生きとしたフットワークに変貌するのは、長年のノウハウに加えて、独自の後輪操舵機構のおかげで、アシを固めすぎる必要がないからでもある。
初期のA110では252PS/320Nmだった1.8リッターターボだが、このウルティム(のDCT車)では、300PS/420Nmを絞り出すに至っている。その数字は今や特筆すべきものでもないが、小さめの排気量ということもあり、トップエンドでの突き刺すようなレスポンスとカン高い咆哮は快感そのものだ。
ある意味牧歌的な2.0リッターフラット4とはいえ
先ほどメガーヌRSを「FFのポルシェ」と形容した筆者だが、直後にケイマンに乗ると、走り出した瞬間に、本物のポルシェの剛性感はやはり別格……とあらためて痛感した。ただ、これはメガーヌRSが悪いという意味ではない。ホットハッチはもともと、街にあふれる実用車そのままの形と使い勝手なのに「ポルシェにも勝てる?」と幻想を抱かせるのが最大の存在価値だからだ。
今回連れ出したスタイルエディションは2.0リッターフラット4ターボを積む“素ケイマン”がベース。その最高出力は300PS、最大トルクは380Nm。「ポルシェならもっとパワー出せるでしょ?」といいたくなる気持ちは分かるが、718ケイマン/ボクスターの場合、この上に2.5リッターのS、さらに6気筒のGTS4.0もあるヒエラルキーの中で、素の2.0リッターはあえて今の位置に落とし込まれているという側面もあろう。
実際、ケイマンの2.0リッターフラット4はある意味で牧歌的で、ポルシェとしては高回転レスポンスも控えめだ。ただ、すでにスバルも手を引いた伝統的な不等長エキゾーストをあえて採用することもあり、ドコドコという独特の鼓動、というかビート感は類例のない“濃厚味”である。これだけでも好事家はたまらない。
しかも、今回の試乗車は6速MTだった。重めのクラッチやゴリッしたシフトフィールには正直、古さも感じる。しかし、回転がピタリと合ったダウンシフト(スポーツモード以上なら回転合わせ機能が作動)が決まったときの、レバーが吸い込まれる感覚には思わず笑みがこぼれる。
いよいよ貴重な4気筒ピュアスポーツ
フットワークもまさに余裕しゃくしゃく。低速でも快適で、しかもほどよく荷重移動しながらピタリと路面を離さないロードホールディング性能は、シャシーとパワーの絶妙なバランスによるところが大きい。
今やトップエンドのポルシェスポーツカーは速すぎて、アマチュアドライバーが公道でじっくり味わえるような代物ではない。しかし、この4気筒の素ケイマンなら、アクセルを踏みぬくような走りをしても、エンジンフィールやシャシーの機微や滋味深さをかろうじて味わえる。そこが最大の美点だ。すべてが寸止めの調律なので、ポルシェ本来の剛性感が鮮明に伝わってくるのもいい。
冒頭のように、4気筒エンジン自体は今後もしばらく生き残るだろう。しかし、今回の2台のような、ピュアな4気筒スポーツはいよいよ貴重な存在になってきそうである。
REPORT/佐野弘宗(Hiromune SANO)
PHOTO/篠原晃一(Koichi SHINOHARA)
MAGAZINE/GENROQ 2024年 4月号
SPECIFICATIONS
ポルシェ718ケイマン・スタイルエディション
ボディサイズ:全長4379 全幅1801 全高1286mm
ホイールベース:2475mm
車両重量:1335kg
エンジンタイプ:水平対向4気筒DOHCターボ
総排気量:1988cc
最高出力:220kW(300PS)/6500rpm
最大トルク:380Nm(38.8kgm)/2150~4500rpm
トランスミッション:6速MT
駆動方式:RWD
サスペンション:前後ストラット
ブレーキ:前後ベンチレーテッドディスク
タイヤサイズ:前235/35ZR20 後265/35ZR20
最高速度:275km/h
0-100km/h加速:5.1秒
車両本体価格:952万円
ルノー・メガーヌR.S.ウルティム EDC
ボディサイズ:全長4410 全幅1875 全高1465mm
ホイールベース:2670mm
車両重量:1470kg
エンジンタイプ:直列4気筒DOHCターボ
総排気量:1798cc
最高出力:221kW(300PS)/6000rpm
最大トルク:420Nm(42.8kgm)/3200rpm
トランスミッション:6速DCT
駆動方式:FWD
サスペンション:前ストラット 後トーションビーム
ブレーキ:前ベンチレーテッドディスク 後ディスク
タイヤサイズ:前後245/35R19
最高速度:─
0-100km/h加速:5.7秒
車両本体価格:659万円
【問い合わせ】
ポルシェ コンタクト
TEL 0120-846-911
https://www.porsche.com/japan/
ルノーコール
TEL 0120-676-365
https://www.renault.jp