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Porsche GT4 e-Performanc
アイスエクスペリエンスの会場を使用
最高出力800kW(1103PS)を誇る、フル電動レーシングカーをフィンランドの人里離れた森林でドリフトさせるのは、誰もが思いつくアイデアではないだろう。2023年12月下旬、北極圏から170kmほど北に入ったフィンランドのレヴィに、ポルシェ GT4 eパフォーマンスが持ち込まれ、「ポルシェ GT4 eパフォーマンスツアー」が実施された。
この貴重なテストプログラムを指揮したのは、GT4 eパフォーマンスの開発を主導する、ポルシェのオリバー・シュワブとビョルン・フェルスターのふたり。ポルシェの将来的なカスタマープログラムの方向性をさぐるべく、寒冷地において様々なトライが行われた。
2022年夏のグッドウッド・フェスティバル・オブ・スピードを皮切りに、GT4 eパフォーマンスは、ヨーロッパ、アメリカ、アジアで「ポルシェ GT4 eパフォーマンスツアー」を実施。2024年3月、F1オーストラリアGPでの展示を前に、極寒のフィンランド北部において寒冷地テストが行われることになった。
今回の寒冷地テストは、ポルシェ・アイスエクスペリエンスのロケーションが使用された。アイスエクスペリエンスのために作られたドライビングエリアは、総面積42万2000㎡の広さを誇り、2つのトレーニングエリアには32種類のハンドリングコースが存在。ポルシェ・アイスエクスペリエンスは毎年1月に、全36回で開催され、2024年も世界中から1350名が参加している。
スノー用のスタッドタイヤを装着
氷雪路を走行するため、GT4 eパフォーマンスはスパイク付きスノータイヤを装着。足まわりは、ホイールアーチと車体下のクリアランスを確保するため、ロングトラベルのサスペンションに変更された。さらに氷点下に達する外気温に対応すべく、センターのエアインテークは塞がれ、シャシーにはアルミニウム製のアンダーボディプロテクションが装着された。
それ以外のコンポーネントは通常仕様となっており、搭載されるフル電動パワートレインは、予選スペックで800kW(1088PS)の最高出力を発揮する。
ジャーナリストがドライブする意味
フィンランドのレヴィで行われたテストでは、ル・マン24時間レースのウイナーであり、GT4 eパフォーマンスの開発にも参加するリヒャルト・リーツのレクチャーのもと、ジャーナリスト自身もステアリングを握り、氷上サーキットにおいて、フル電動レーシングカーのパフォーマンスを味わうことになった。
「ジャーナリストに実際ドライブしてもらうことで、フル電動レーシングカーに対する彼らの期待や感情的な反応を知ることができました。開発においてはパフォーマンスだけでなく、ビジネスにおける使い勝手も重視しています。このようなイベントは、より多くの情報や市場知識を得る貴重な機会となるのです」と、エンジニアのオリバー・シュワブは語る。
「例えば、ポルシェ・スプリント・チャレンジのような、ワンメイクシリーズでは、ジェントルマンドライバーやアマチュアドライバーなど、プロでないドライバーがステアリングを握る機会もあるでしょう。今回のようにジャーナリストたちが、どれくらいの時間で適応できるかを観察することで、多くの知見を得ることができました」
寒冷地でも問題なく充電を実施
今回の寒冷地テストは、ポルシェの技術者たちに、これまで経験してこなかった環境下でGT4 eパフォーマンスの実力を測る機会を与えることになった。ビョルン・フェルスターは次のように説明を加えた。
「レヴィの気象条件は、私たちエンジニアに非常に興味深い示唆を与えてくれました。電動テクノロジーに関しては、新たな発見の連続です。世界中を巡るツアーの全イベントで、何かしら新しい学びがあります。今回は、マイナス20度という極端に低い気温が全てでした。信じられないことに、GT4 eパフォーマンスはまったく問題なく作動してくれました。200kW以上の急速充電も凍結湖の上で行えたのですから」
20分間で充電を完了しただけでなく、独自のオイル冷却システムにより、ドライブトレインの温度を完璧に調整。可能な限り最高のパフォーマンスを発揮するため、最適な45℃を維持することができた。さらに、今回の雪上テストに向けて、ブレーキペダルとスロットルペダルの両方を同時に踏み込むと、すべてのパワーがリヤアクスルに送られるという、ドリフト機能が実験的に装着されている。